(別添) 平成10年1月30日 労働大臣 伊吹 文明 殿 中小企業退職金共済審議会 会長 山口 浩一郎 中小企業退職金共済制度の改正について 本審議会は、中小企業退職金共済法第98条の定めるところにより、掛金及び退職金 等の額に関する検討を行うとともに、制度運営の現状及び問題点について検討を行っ た結果、本制度の改正に関する考え方について別紙のとおりの結論に達したので、同 法第96条の規定に基づき、建議する。 なお、本建議に至る検討の中で、一部の委員から、現状にかんがみれば予定運用利 回りの見直しはやむを得ないものであるが、中小企業退職金共済制度は加入企業労働 者にとっては労働条件の一部であり、見直しによる影響が大きいものであることを強 く認識すべきであるとの意見が出された。 国においては、このような意見が出されたことにも留意し、本制度の充実に引き続 き努力されたい。
(別紙) T 改正に当たっての基本的な考え方 退職金制度については、現在、一部大企業において見直しを行う動きも見られるが 、高齢化の一層の進展の中で老後生活を支えるための一つの柱としても、労使双方に とってその果たす役割はさらに大きいものとなっている。 特に、独力で退職金制度を持つことが困難な中小企業においては、退職金制度の普 及率等について大企業との格差が大きい中で、今後とも、事業主の相互共済の仕組み と国の援助からなる中小企業退職金共済制度(以下「中退制度」という。)の果たす べき役割は大きい。 こうした中で、中退制度を取り巻く状況を見ると、金融を含む経済情勢が大きく変 化し、金利は本審議会が前回の予定運用利回りの見直しを建議した平成7年1月当時 には想定できなかった低い水準で推移しており、予定運用利回りと運用実績との乖離 が拡大している。 また、現行制度では、運用実績が予定運用利回りを大きく下回り、責任準備金の積 立不足が生じた場合の財政安定化の方法がなく、近年の低金利の影響を受け、8年度 末時点で 1,100億円を超す責任準備金の積立不足が生じている。 このため、前回予定運用利回りの見直しの建議を行ってから3年を経過したばかり であるが、今後とも中退制度を安定的に運営することの重要性にかんがみて、関係事 業主、労働者への影響に留意しつつも、基本退職金について予定運用利回りの見直し を行うとともに、付加退職金制度についても運用を一部見直して金利の変動に対応で きるようにし、制度の財政の安定化を図ることが重要である。 さらに、高齢化が進展する中、労働移動が比較的多い中小企業の労働者についても 、職業生活からの引退時にまとまった額の退職金を得ることができるようにするとと もに、老後の資金ニーズの多様化等に対応した制度とすることにより、退職金の老後 所得確保機能を充実させることが重要となっている。 これらを踏まえ、中退制度を見直して充実を図るとともに、制度の一層の普及を図 ることが必要となっている。 U 具体的な改正の内容 1 予定運用利回りの見直し 基本退職金の予定運用利回りについては、制度の財政の安定化を図る観点から 3.0 %とすることが適当である。 なお、責任準備金の積立不足があることは、制度運営に対する信頼を損ね加入者の 減少を招くこと、積立不足から新たな積立不足が生じ制度の財政の健全性を大きく損 なうこと等制度に大きな影響を及ぼすことから、その解消を図るべきである。 このため、予定運用利回りを上回る運用実績を上げ利益が生じた場合、責任準備金 の積立不足があるときは、その利益の全部を付加退職金として支給するのではなく、 一部を責任準備金の積立不足の解消に充てることとするべきである。 2 通算制度の創設 高齢化の進展に伴い、退職金の有する老後所得確保機能の充実が重要な課題となっ ている。しかしながら、中小企業においては、大企業に比して離転職が多く、転職の 度に退職金を受け取り、職業生活からの引退時に受け取る退職金額は十分なものとは なっていない。 このため、離転職をした者であっても希望する場合には職業生活からの引退時にま とまった額の退職金を受け取ることができるよう、中退制度と特定退職金共済制度と の通算制度を設けるべきである。 3 分割支給制度の改善 退職直後にある程度の資金ニーズがある者についても分割退職金制度を活用し、安 定的に老後所得を確保できるよう、分割支給制度を改善し、一部を一時金で受給し、 残余の額を分割退職金により受給できる制度を設けるべきである。 4 加入手続の簡素化 中退制度がより簡便で活用しやすい制度となり、加入が促進されるよう、加入申込 時の申込金を廃止して加入手続の簡素化を図るべきである。 5 その他 (1) 地方公共団体、事業主団体等との連携の強化 中退制度を普及させるため、事業主にとって身近であり、事業主との接触の機会 が多い地方公共団体、事業主団体等との連携を一層強化して制度の周知を進めるな どにより制度の一層の普及を図るべきである。 (2) 制度運営の一層の透明化 共済契約者及び被共済者の理解と協力を得つつ健全な制度運営が行われるよう、 資産運用等に関する情報公開をさらに進め、制度運営の一層の透明化を図るべきで ある。 (3) 資産運用の一層の効率化 資産運用を巡る環境の変化が見込まれる中、安全性に留意しつつ、資産運用の一 層の効率化が図られるよう、的確な資産運用が実施できる体制の整備を進めるべき である。 (4) 退職金額の水準の向上 今後、中長期的に退職金額の水準を向上させていくためには、通算制度を活用し て加入期間の長期化を促すことなどが重要である。