トップページ





報告書の骨子

1 調査研究の背景と目的   建設業は我が国の基幹産業として大きな位置を占めているが、今後の様々な環境  変化に対応できる技能労働力の確保、生産性の向上など職業能力開発の面からみた  課題も多い。このため本研究会では、建設業における職業能力開発の現状と課題、  求められる技能労働者像、今後の方策等を検討することを目的として調査研究を実  施した。 2 調査研究の視点 (1)生産性の向上、施工方法の高度化等の課題への的確な対応、技能労働者の処遇   の向上等を図る上で、建設業界が一体となって職業能力開発に取り組むことが有   効な方法となる。また、その取り組みを進めるにあたっては、多能工と職長の育   成を中心的なテーマに据えることが効果的である。 (2)多能工の育成は、経営の多角化・事業範囲の拡大、合理的な工程管理による生   産性の向上、技能労働者の処遇の向上等に有益である。また、多能工を分類する   と、@ある程度独立した複数の職種の技能を修得、A密接に関した複数の職種の   技能を修得、B前後の工程など周辺の技能について補助的作業が行える程度に修   得の3つの形態があり、その育成方法も、当初の養成段階から必要となる技能全   般を並行して取得、単能工として出発し段階的に他の職種の技能を習得の2つの   形態がある。いずれにしても多能工の育成には、費用・時間面での負担が大きく、   体系的な訓練のためのノウハウや指導者が必要となるなど課題も多い。 (3)従来の職長とは、技能労働者のうち労働者の監督・指導、仕事の段取り、割り   付けなど現場管理の職務に従事しており職長、世話役、組長、班長等と呼ばれる   役付きの者を指しているが、今後は、元請けから請け負った工事に関して、責任   をもって自主的な管理・検査や技術者との施工方法等の調整などができる、新た   な職長育成の重要性が一層増してくると考えられる。また、職長が実際の作業現   場における技能労働者の育成に重要な役割を果たすことから、効果的な指導ので   きる職長の育成がひいては円滑な技能労働者の育成につながると考えられる。 3 建設業の人材育成に関する実態調査の結果 (1)OFF-JTを実施した職別工事業者は2割程度であり、計画的な教育訓練の実施に   あたっては人員、時間、費用面での障害がある。また、指導に直接あたる職長も   様々な工夫を行っているが、人員に余裕がなく、自分自身も多忙で指導に手が回   らないといった問題を抱えている。 (2)職別工事業者で多能工化の必要はないとする企業は1割強と少ないが、必要と   されている多能工育成のあり方は、上記2(2)のBに関するものが中心となっ   ている。総合工事業者ではこれと併せ、同Aの多能工の育成が必要であるとする   企業も少なくない(図表1)。また、多能工化を図る目的としては、生産性の向   上、経営の多角化・事業範囲の拡大、仕事の繁閑への対応力向上、技術革新・新   工法に対する適応力の向上が主なものであり、特に総合工事業者では生産性の向   上を目的として挙げる企業が6割強ときわめて多い(図表2)。また、多能工を   育成する上での障害としては、育成に期間がかかりすぎることが最も多くの企業   で挙げられており、職別工事業者では人手不足であることを、総合工事業者では   下請業者が育成する場合に教育訓練のための適切な指導者がいないことを挙げる   企業も少なくない(図表3)。 (3)職長になるために必要な知識・能力としては、効率的な仕事のための適切な部   下の配置、段取りの調整を行う能力と現場の状況に応じて施工方法等の提案、調   整を行う能力が重要とされている。特に、総合工事業者では後者の能力も強く求   められている(図表4)。また、職長の育成方法としては、1つの専門職種以外   にも関連する職種の経験も積ませながら、現場の仕事の中で管理能力等を身につ   けさせることを中心に進めるのが適当とする意見が、職別工事業者、職長自身と   もに多い。しかし、職長の育成については、時間がない、人員に余裕がないこと   が主な障害となっている。また、総合工事業者では、下請業者が育成を行う場合   に教育訓練に関するノウハウや教材がない、教育訓練を行える人(講師等)がい   ないことを障害として挙げる企業も少なくない(図表5)4 今後の方策 (1)認定職業訓練は、これまで技能労働者の育成・確保に重要な役割を果たしてき   たが、特に、計画的な職業訓練のためには一定以上の訓練生を確保しスケール・   メリットを活かすことが有効であり、職長、多能工の円滑かつ効果的な育成にも   資することから、認定職業訓練の共同化・大規模化を促進していくことが重要で   ある。その具体的な例としては、全国的な職別工事業団体等22団体により平成   9年から運営されている富士教育訓練センターを挙げることができる。また、多   能工養成訓練コースなど個別の職別工事業者では実施が難しい職業訓練を一層充   実させ、職長となる人材の育成をも視野に入れていくことが望まれるところであ   る。 (2)建設業における技能労働者の育成では、OJTによる訓練が大きな位置を占め   ており、施工方法の高度化への対応等のため一層計画的な実施が求められている。   しかし、実際の指導にあたる個々の職長の経験に依存している部分が多く、効率   的・効果的な方法が一般的に確保されているとは必ずしもいえない状況にある。   そのため、具体的な事例の収集・分析や職長の役割の明確化等を通じて、仕事の   与え方の順序など効果的・効率的な計画的OJTの方法を確立し、指導方法のマ   ニュアル等の提供により普及を図っていくことが重要である。 (3)建設業界が一体となった職業能力開発の推進に資するため、行政としても職業   能力開発の共同化や拠点的施設の展開、求められる技能労働者像や職長に関する   情報提供、広報等を行うとともに、教育訓練の場の提供、教育訓練内容・講師・   指導方法等についての情報・ノウハウの提供などに努めることが求められる。 (4)高度な職業能力開発への対応として、製造業と建設業を対象とし、産業界との   連携を重視した高度な実践的教育を行う私立大学として「国際技能工芸大学(仮   称)」の設立が準備されているが、建設業では、元請の事業所長や主任技術者、   あるいは施工管理のできる職長クラスの育成に大きな力となることが期待されて   いる。    また、職長となる人材の育成に関し、作業現場を担う基幹労働者として施工方   法や技術革新にも深く関与できる専門的・応用的な職業能力を有する人材の育成   を可能とするため、職業訓練の高度化を推進していくことが重要である。このた   め、公共職業訓練について、現行の専門課程に2年間のより高度な職業訓練を行   う建築施工システム技術科などの応用課程を加えた職業能力開発短期大学校の    「大学校化」及び先導的・中核的な高度職業訓練の実施等を担う「職業能力開発   総合大学校」の設置に向けて準備が進められている。今後、こうした公共職業能   力開発施設が、求められる職業能力を有した職長の育成についても、その機能を   十分に発揮していくことが望まれる。



                                  TOP

                                トップページ