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自発的な職業能力開発を行う労働者に対する費用面における支援制度について


1 自発的な職業能力開発の重要性と支援の必要性
(1)自発的な職業能力開発の重要性
 我が国の産業構造の変化、経済のグローバル化の進展の中で、今後とも、我が国経済社会が安定した成長を遂げていくためには、製品等の高付加価値化や新分野への展開を担う労働者の職業能力の開発・向上が不可欠となっている。
 ここで必要となってくる職業能力は、企画・開発能力や応用能力等を含んだ多様なものであり、こうした職業能力の開発は、画一的な教育訓練では行いえないものであり、労働者個々人が、自発的な努力により行うことにより、はじめてなしうるものと考えられる。
 また、企業における実力重視の傾向が強まるとともに、労働移動が増加するなどにより、雇用慣行が変化していくことが考えられ、個々の労働者にとっては、これに対応し、従来以上に、自己責任の下、自発的な職業能力の開発に取り組んでいくことがますます重要となってくると考えられ、このことが、労働者本人の雇用の安定に資することにもつながることとなる。

(2)自発的な職業能力開発を支援する必要性
 労働者の自発的な職業能力開発は、自己責任の下で行われることが基本ではあるが、こうした努力は個々人の職業能力を開発・向上させ、雇用の安定に資するものであることにとどまらず、(1)で述べたように、近年の経済社会をとりまく状況の下で、我が国の企業活動の生産性向上や事業の拡大をもたらし、我が国の経済社会の安定した成長につながるものであり、個々人の高められた職業能力は、社会全体の財産となるものである。
 このため、政策として、労働者の自発的な職業能力開発の取組を効果的かつ合理的な方法で支援することが必要となってきている。

2 自発的な職業能力開発の現状と問題点
 労働者が自発的な職業能力開発を行う場合の障害として最も多いのは、時間面での制約であり、次いで費用面での制約、情報面での制約となっている。
 時間面及び情報面については、平成9年度から、長期教育訓練休暇制度の導入や労働時間面での配慮と労働者に対する情報提供を行う事業主に対する奨励措置として、自主的能力開発環境整備助成金を新たに設け、支援を進めているところである(平成9年7月)。また、費用面についても、労働者個人に対する直接の支援としての、一定の教育訓練の費用を自己負担した労働者に対して支給する中高年齢労働者等受講奨励金について、平成9年度にその対象者の範囲を一部拡大したところである(平成9年4月)。しかしながら、この中高年齢労働者等受講奨励金は、その主たる趣旨が定年退職や事業主都合の退職後の再就職に備えた職業能力開発を支援するというものであるため、対象者の年齢が40歳以上(平成9年4月から一部30歳以上を含む。)であること、対象となる教育訓練が資格の取得を目的としたものを中心としているなど、制度の目的や内容が制限されたものとなっている。
 このように、現状では、労働者がその生涯にわたって自発的な職業能力開発を行うことに対して費用面での直接の支援が十分でない状況にあり、近年の我が国経済社会をとりまく状況の下では、生涯にわたる職業能力開発について労働者個人に対して支援する新しい仕組みが必要であると考えられる。

3 今後の自発的な職業能力開発の支援等の性格
 1(1)で述べたとおり、近年の我が国の経済社会を取り巻く状況の下では、労働者個々人が、それぞれのキャリア設計も視野に入れた多様な職業能力の開発が必要であり、かつ、この職業能力の開発・向上が、個々の労働者の職業生活の生涯にわたって必要である。このことを踏まえると、新しい支援制度としては、それぞれの労働者が職業生活の全期間を通じて、自らの選択により職業能力の開発や向上に取り組めるような費用面における支援策を講ずることが必要であり、その内容として、2で述べたとおり、現状では不十分である個々の労働者の生涯にわたる職業生活における自発的な職業能力の開発・向上に対して、直接の誘因となるものを充実していく必要がある。
 なお、この新たな支援制度は、労働者に対する情報提供、相談援助等による施策や、既に実施している労働者の自発的な職業能力開発に関して事業主の行う環境整備への奨励制度などとも有機的に連携していく必要がある。

4 新たな支援制度の内容
 新たな支援制度は、労働者の生涯の職業生活を通じた自発的な職業能力開発を支援するものとして、労働者が自ら教育訓練を受ける場合にその直接必要となる費用についてその一部を支援するものとすることが適当であり、その内容は次のようなものとする必要がある。
 対象となる者については、できるだけ幅広い年齢を対象とするとともに、在職者のほか、求職者もその対象とする必要がある。
 支援の対象となる教育訓練については、労働者の職業能力の開発・向上につながる必要があり、1)現在の職務に役立つもの、あるいは、中長期的なキャリア形成の中での職務に役立つ職業能力開発、2)出向や再就職等のための職業能力開発、に重点をおくことを基本とすべきである。なお、職業能力の開発・向上につながらない単なる趣味のためのものや、一般教養を高めるためのものは対象外とすべきである。また、この教育訓練の範囲は、生涯にわたる職業能力の開発・向上のために必要な範囲を包含する必要があり、例えば資格の取得のためのものなど、狭い範囲に限定することは適当でない。
 支援の水準(程度、上限、回数等)については、労働者の自発性を重視し、自発的な職業能力の開発・向上の誘因となるよう、また、生涯にわたる職業能力開発を促進するようなものにすることが適当である。

5 新たな支援制度の枠組み等
 このような新しい支援制度については、労働者の自発的な職業能力開発の誘因となり、労働者に対して、その費用面において、直接的かつ効果的な支援方法である必要があり、また、こうした支援を行うことによって労働者の職業能力が高められ、その雇用の安定にも資するものであることなどから、労働者個人に対して直接給付を行う新たな枠組みを雇用保険制度の中で構築することが適当であると考える。



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