3 企業側から見た労働者のキャリア形成のあり方の変化 (1)経営人事管理の新たな動向 ○グローバル経済の中での企業間競争の激化や、IT化等の技術革新による需 要や顧客ニーズの急激な変化が進む中で、企業は、事業の収益性、成長性、 知識や技術の活用の観点から事業の見直しを進めており、「事業の選択と集 中」がキーワードとなっている。 ○また、こうした経営動向と併せ、市場変化に対応するための新たな企業組織 として、プロジェクト方式等のフラット型組織への移行やカンパニー制の採 用、分社化等の自立した組織への変革が模索されており、労働者のキャリア の在り方にも影響を与えている。 (2)大企業を中心とする企業内の動向 ○技術革新の急激な進展や需要・顧客ニーズの変化、知識経済の進展等に伴い、 労働者の求められる能力は、あらかじめ割り当てられた職務への習熟から変 化への対応や問題発見・解決能力が重視される傾向。企業組織のフラット化 や自立化の動きと併せ、労働者のキャリア形成については、全体として、企 業主導から、次第に個人の主体性を重視する方向。 ○キャリア支援という点で、企業が力を入れているのは、経営幹部層と早期退 職層であるが、最近はこうした特定の層に限らず、社内の流動化促進や人材 の活用のために社内公募制を導入するところが徐々に増えている。こうした 社内公募制が機能するためには、職場の理解に加え、ポストの能力要件の明 示、キャリア・コンサルティング制度、研修制度等との適切な組み合わせが 不可欠。 ○能力開発については、企業主導の職階的な訓練から、個人の選択による訓練 に重点が移っている。今後の能力開発の動向については、人材育成に力を入 れる企業がある一方、外部の即戦力志向の企業も存在。中長期的には、人材 育成に力を入れる企業がさらに強くなる等、人材投資の姿勢により二極分化 の可能性。 (3)中小企業におけるキャリアの動向 ○中小企業労働者の職業能力の発展やキャリア形成のあり方は、総じて様々な 仕事の経験を通した実践力の蓄積であり、あらかじめ明確なキャリア意識に 基づくものではない。 ○また、中小企業の分野においては、職人のように企業を渡り歩きながら、能 力形成を行い、独立開業する例に見られるように、自営と労働者のキャリア の区別は明確でなく、むしろ、混然一体。 ○中小企業労働者のキャリア支援については、能力開発や能力評価面での支援 や企業を渡り歩くタイプのキャリア・アップについては、その道筋を見せる 等の支援が必要であり、こうした点を中心に同業組合や中小企業団体による サポートや社会的サポートを進めていく必要。 (4)企業内のキャリア支援の実態 ○約8割の企業が、従業員に、「従業員に求める能力」を知らせている。約7 割の従業員が「会社・上司が個人に求める能力」を知らされている。こうし た「能力」は、多くが「人事評価制度」を通じて知らされている。 ○キャリア形成を従業員が主体的に考えているか否かについては、大半の企業 が半分から1/4程度の従業員が主体的にキャリア形成を考えているとして いるが、内容的には明確な形でキャリア意識抱く者は少ない。 ○キャリア相談を「十分」ないし「ある程度」受けることのできる労働者の割 合は、34.3%。相談相手は、ほとんど上司、先輩、同僚。 ○自己啓発については、平成10年度は56.4%の労働者が実施 ○社内公募制度を実施している企業は、10.0%、今後、実施を予定してい る18.5%と上昇。 ○能力開発のための休暇制度の活用については、半数強の企業が「既存の休暇 を利用するように指導している」。特別な休暇を用意している企業は3.1 %に止まる。