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7 まとめと提言





 (提言)



   本報告書では、労働者のキャリア形成の現状と問題点を踏まえ、あるべきキャ

  リア支援策を展望してきた。

   個人のキャリア形成を柱とする労働市場や社会をつくるためには、労働者、教

  育界、企業、民間団体、地域及び国が、それぞれ期待される役割を果たしつつ、

  お互いに協力し合うことが必要である。

   最後に、それぞれの関係者に対する期待を次のようにまとめ、提言としたい。





    第一に、「すべての労働者、個人の主体的キャリア形成の支援とその実現」

   である。



    すべての労働者、個人は、現実の組織ないし社会の中で働くことを通して、

   それぞれに応じた夢を持ち、その実現を図る機会と支援が与えられなければな

   らない。

    他方、労働者は、変化の激しい社会の中で失敗・挫折と成功体験を繰り返し

   つつも、自らを知り、それぞれに応じた夢を持ち、その実現のため、自らのキ

   ャリアを財産として陶冶する姿勢を失ってはならない。年月を経た研さんの努

   力は、能力を磨き、個性を輝かすであろう。そして夢の実現は、同時に組織や

   社会への貢献につながるものでなければならない。





    第二に「教育における実践とキャリア支援のすすめ」である。



    複雑化し、職住分離した社会の中で、多くの学生や若者が将来の目標やその

   動機付けを得られず、自分探しに悩んでいる。中には、独りよがりな希望や現

   実味のない夢に走る者も少なくない。

    子供の勝手にさせることが個性を伸ばす教育ではない。能力や適性に合う人

   生の送り方を子どもの頃から考えさせ、その実現を適切に助けなければならな

   い。

    そのためには、学校教育段階から、職業や実社会と触れ合う機会を確保した

   り、キャリア・コンサルティング等を通じて、職業情報等を提供しつつ、自ら

   考え、自立する方向へ適切に誘導していくことが早急に求められる。





    第三に「長期雇用型キャリア支援企業のすすめ」である。



    商品や顧客ニーズの多様化、高付加価値化、急速な変化等に企業が対応して

   いくためには、人事管理面において、成果主義・能力主義の導入等に併せ、個

   人のキャリア形成や主体的取り組みを支援することが重要になっている。

    他方、こうした動きは、ややもすると、日本型の長期雇用慣行を否定し、労

   働力流動化を進めるものと受け取られかねない。

    しかしながら、両者は、相矛盾するものではなく、むしろ、個人の主体性尊

   重による社内流動化によって雇用の長期化が図られる面がある。

    長期的観点に立った雇用と人材育成や、それに伴う文化・風土の蓄積は、日

   本型企業のみならず、外国の企業においても貴重な競争力の源泉となっている

   例がある。

    人間尊重の理念に立ち、こうした利点を生かしつつ、個人のキャリア形成や

   主体的な取り組みの支援を中心とする能力主義を適切に組み合わせることによ

   り、グローバル競争を乗り切る新たな「長期雇用型キャリア支援企業」モデル

   が形成されることを待望したい。





    第四に、「生涯にわたる多様なキャリアを可能とする社会の実現」である。



    職業生活が長期化し、職業意識や生活形態が多様化するなかで、状況に応じ

   て柔軟に就業形態を選択できるような仕組みが求められる。そのためには、パ

   ートや派遣等の就業条件の整備のほか、雇用形態以外にも、自営に加え、SO

   HO、NPO就業等についても、就業形態として認知し、その形態に応じた就

   業条件を整えていく必要がある。

    後者については、SOHOの団体やNPOの団体・支援組織等の自主的取組

   みが重要である。

    また、生涯にわたるキャリアを考えると、地域社会の役割は大きい。地域や

   NPOを中心とする関係者の協力により、様々な活動を通じた、人のふれあい

   や子供や若者に対する地域コミュニティーの教育機能を復活させていくことが

   期待される。同時に、高齢者にも、人生の先輩として、地域で活躍できる場が

   与えられなければならない。





    第五に「能力の見える社会づくり」である。



    労働者個人が適切にキャリア形成を行うためには、本人の能力の棚卸しや能

   力評価を可能とする仕組みづくりが不可欠である。

    また、こうした制度の構築に併せ、企業内のポスト、キャリアルート、求人

   等の能力要件の明確化や様々な機関により行われる教育訓練の出来上がり像や

   訓練内容の明確化を図っていく必要がある。



    こうした仕組みの構築には、様々な能力を記述する共通言語の整備や評価の

   基準づくりが前提となるが、これらについては、技術の変化が生ずる企業現場

   に近い、民間の業界団体や職能団体が、知識社会における必須のインフラ作り

   として、積極的に取り組んでいかなければならない。国はこうした取組みを支

   援し、コーディネートしていく役割を担う。



    それぞれの機関において、人材に係る能力要件の共通言語による明確化と開

   示がなされ、これと能力評価制度が結びつけば、キャリアの持ち運びや「能

   力」を基準とする取引を可能とする社会、即ち、「能力の見える社会」が現実

   のものとなってこよう。

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