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7 まとめと提言



   我が国は、経済の不振に見舞われているとはいえ、基本的には豊かな長寿社会

  を迎えており、働き方についても、個々の労働者が長い職業生涯を通じて、如何

  にすれば自己実現の働き方ができ、活き活きとした職業生活を送れるかを考える

  べき段階に来ている。



   しかしながら、現実には、グローバル経済の中での厳しい競争と長引く経済不

  況の中で、企業倒産やリストラ等による失業者が急増し、これまでの企業社会で

  当然とされていた雇用保障までも不確実となり、多くの労働者が働く意味や自己

  のアイデンティティーまで喪失しかねない状態となっている。

   また、企業社会と結びついていた教育システムも急激な変化に対応できず、家

  庭や地域の教育機能の崩壊と相俟って、学生や若年者のキャリア準備に深刻な影

  響を与えている。



   他方、経済社会環境が激変し、予測のつかない不透明な時代となり、労働者も

  キャリアのあり方を企業任せでは済まなくなり、自らキャリアを構想し実行しな

  ければならなくなってきた。企業も変化への適応や知識社会への対応を進めるた

  め、これを後押ししようとしている。

   こうした動きを、単に、時代の流れに対応させるための受動的なものと受け止

  めるのではなく、これを契機として個人主体のキャリア形成の動きを積極的に位

  置づけ、企業や社会の活性化を図る方向に向けていくことはできないであろうか。



   本報告書は、このような観点に立って、個人主体のキャリア形成を、個人が職

  業を通して自己表現を図っていくプロセスとして積極的に捉え、こうしたことを

  可能とする企業システムや教育及び労働にまたがる社会システムのあり方を検討

  してきた。

   このような新たなシステムのあり方を追求することは、戦後から続いてきた一

  律かつ集団的な教育・労働システムからの転換にもつながりうる。

   しかし、そのことは、これまでの日本型の企業システムや社会システムをすべ

  て否定するものではない。

   むしろ、個人の自立と責任による主体性や実力主義を旨としつつも、長期雇用

  慣行や協調を重んずる新たな日本型システムを模索すべきなのであろう。



   本来、社会の目標は、個人の幸福追求を支援することにある。基本的に豊かな

  長寿社会を迎えている我が国において、個人が社会の中で、それぞれに夢を持ち、

  長い職業生涯を通じて、失敗・挫折と成功体験を繰り返しながら、それを実現で

  きるような社会にすることが、キャリア形成支援の窮極の目的である。



   一人一人の労働者が、職業を通して、自己実現による社会貢献の意欲に燃える

  ことができれば、その個性は輝き、能力の発揮により、企業活動の活性化や社会

  の発展も可能となり、自ずと時代の閉塞状況を打開する道が開かれるのではある

  まいか。

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