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5 労働市場の構築





 (2)労働市場形成促進のための方策



  (横断的市場の可能性)



    労働市場を機能させていくためには、とりわけ、その枠組みとして、能力評

   価制度が重要であり、能力評価制度が企業内外を通じて、労働者の能力を計る

   基準として、通用するようになると、本格的な横断市場の形成につながる。

    これまで我が国においては、企業の内部労働市場が発達し、企業内において、

   配置転換により、様々な職務を経験し昇進していくシステムとなっていたため、

   職種横断的労働市場が形成されにくくなっていた。

    派遣労働者や一部の専門的職種の労働者については、例外的に、こうした、

   職種横断的労働市場形成の可能性が認められるが、多数を占める企業内の長期

   雇用層については、依然として上記のようなキャリアシステムが通用しており、

   職種概念の形成すら困難である。

    しかしながら、労働移動の活発化や中途採用の動きが広まるにつれ、こうし

   た、長期雇用層の能力についても、次第に市場を意識した能力評価と処遇の必

   要性が高まってこよう。さらに、企業活動のグローバル化や市場即応型の経営

   志向の動きは、こうした動きに拍車をかける。



  

  (能力の見える社会へ向けて)



    このように、外部の労働市場と企業の内部市場の接点が増えつつあるが、こ

   うした動きを、職業のくくりや職業能力評価基準の統合化へつなげていくため

   には、まず、内外の労働市場において、共通用語で、能力を表現し、それを開

   示し合っていくことが必要である。

    現在、内外の労働市場を通じて職業能力を分析・表現できる統一的な共通用

   語は存在しないが、それぞれの官民の関係機関で、部分的な開発がなされてお

   り、早急にその統一を図っていかなければならない。







  ○体系図(生涯職業能力開発体系)



    雇用・能力開発機構においては、職業訓練の蓄積されたノウハウを活用し、

   全国の事業主団体等と共同で、職務、仕事、作業、作業に必要な知識及び技

   能・技術を、業種ごとに分析・抽出する職務分析作業を行っており、現在、約

   500の職務の分析を終えている。これに基づき構築した生涯職業能力開発体系

   は、「職業能力体系」と「職業能力開発体系」の2つから構成される。

    職業能力体系とは、産業・業種ごとの各職業・職務において求められる職業

   能力を仕事の種類と仕事のレベル(難易度)に応じて体系的に整理したもので

   ある。(「職業能力のものさし」として活用)



    職業能力開発体系は、上記職業能力体系の各職業能力を習得するのに必要な

   能力開発コースを段階的・体系的に整理したものである。(「能力開発の道し

   るべ」として活用)



    生涯職業能力開発体系は、産業・業種ごとに、以下のような要素から構成さ

   れており、職業能力や仕事内容の明確化のための「共通用語」として労働市場

   における重要なツールとしての普及が期待される。



     ・職務… 企業組織として果たすべき業務機能を同一の種類、系統等でく

          くったもの。複数の仕事の集まり。



     ・仕事… 企業の経営活動に資する一定の目的を持って遂行するものであ

          り、分業又は分担が可能なまとまり。仕事を遂行する能力を

          「能力要素」としている。



     ・作業… 仕事を構成する要素であり、これ以上分割又は人に分担できな

          いもの。







    また、こうした共通用語ができればそれをもとに(1)企業内において、ポス

   トの能力要件、求人の能力要件、能力開発目標やキャリアルートを明確にし、

   開示する。(2)需給調整機関において、この共通言語を用いた求人・求職の能

   力要件の明確化が可能になる。(3)能力開発機関において、能力開発の出来上

   がり像や教育訓練内容を明らかにし、開示する等、それぞれの関係者において

   能力要件明確化・開示運動を徹底していくことが望まれる。

    加えて、労働者側についても。キャリア・コンサルティングや職業相談を行

   う際に、キャリアシート等をもとに、個人の職務経歴、実績や能力開発内容等

   を共通言語記録することができれば、それが、能力パスポートとして、企業内

   外の相談、処遇、キャリア形成の基礎とすることができる。

    こうした活動と、前記のような内外労働市場の連動の動きが相俟ってくると、

   次第に職業能力のありようが社会的に明確になり、前記の能力評価制度と結び

   つけば、横断的市場の形成に資することとなろう。

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