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5 労働市場の構築





 (1)労働市場の枠組みの官民による形成



  イ 職業能力開発の受皿としての教育訓練システム



    我が国の労働者に対する教育訓練についての実態を各国と比較すると、むし

   ろ不活発な状況にあると考えられる。



    まず、企業内での研修について見ると、正確な比較は困難な面があるが、訓

   練受講率は他国に比べ必ずしも高くはなく、例えば、従業員一人あたりの研修

   費用をみると、日本はアメリカやヨーロッパの約半分となっており(産能大学

   調査(2000年)、資料24)、全体として、数値を見る限り、我が国の企業の

   教育投資は国際的に高いものとは言えない。

    また、各国の政策としての職業訓練投資に関し、99年時点におけるGDPに

   占める割合の比較(OECD)を見ると、比較数値の整合性の問題は考慮しな

   ければならないにしても、日本は0.03であり、大陸系のドイツ(0.34)、フラ

   ンス(0.28)の1割程度であり、アメリカ(0.04)、イギリス(0.05)に比し

   ても低く、先進国では最低の比率となっている(資料25)。



    他方、民間教育訓練機関の教育訓練については、直接、国際的なデータが乏

   しく、比較することは困難である。国内の民間教育訓練機関としては、企業系

   教育訓練機関のほか、専修・各種学校、大学・大学院がある。これを、教育訓

   練給付の指定講座(H14.10現在20,727)の割合で見ると、企業系等が16,962

   講座、割合にして82%、専修・各種学校、3,462講座、17%、大学・大学院、

   303講座、1.5%となっている。



    こうした実態から見て、大学・大学院の社会人受入れが極めて限られている

   ことは否めない。また、専修・各種学校についても、生徒数に占める在職者の

   割合は低く、専修学校についてみると、生徒数75.6万人中、在職者は4.8万人

   (6%)に過ぎない。

    なお、公共職業訓練においては、平成12年度において、離職者訓練約24万

   人、在職者訓練約27万人の実績となっている。離職者約24万人のうち、専修・

   各種学校への委託は17万人となっており、専修・各種学校の社会人向け訓練の

   多くが、こうした公共職業訓練機関からの委託による離職者訓練で占められて

   いる。



    このように、我が国における社会人向け訓練の受皿の状況は、少なくとも国

   際的に高い水準にあるとは言えず、特に、大学・大学院レベルの高度なレベル

   の教育訓練機会は、かなり限られているものと言えよう。今後、知識社会の到

   来が予測される中で、高度な内容の教育訓練機会の創出をはじめ、民間を中心

   に社会人向けの教育訓練機会をどのようにつくり出していくかは大きな課題で

   ある。

   なお、近年、民間の教育訓練機関や企業内の教育訓練において、インターネ

   ット上で教育訓練ソフトを提供し、学習から検定による職業能力評価までを一

   連のものとして行うeラーニングシステムの活用が増加している。



    こうした教育訓練システムは、コスト・時間や能力に合わせた学習が可能で

   ある、到達度の管理等の点で有効である等の利点があり、短期的かつ多様な教

   育訓練の提供という観点から、今後、民間を中心に広く普及を図っていく必要

   がある。







  ○社会人大学院



    本格的な知識社会を迎え、生涯教育の重要性が強調される中で、リカレント

   教育の受け皿として社会人大学院が注目されている。

    1998年の大学審議会答申で、高度専門職業人の養成、社会人の再教育を目指

   して、ロースクールやビジネススクールなどの「専門大学院」と呼ばれる大学

   院修士課程の設置等が認められた。これにあわせ、社会人特別選抜入試(試験

   の替わりに研究計画書等で選抜)、科目等履修制度、昼夜開講制大学院や夜間

   大学院等社会人向けのシステムも導入されている。



    社会人を対象とした、大学院の多くのプログラムは、経営管理、国際企業戦

   略、企業法学、総合政策、臨床心理等実践的なものが中心である。

    また、タイプとしては、ケースメソッド(事例研究)を中心としたビジネス

   スクールタイプ、経営学的センスと理工学的センスを融合させるタイプ、講義

   とプロジェクト方式を併用するタイプ等がある。

    今後、社会人大学院がリカレント教育の柱として普及していくためには、欧

   米のMBAのように、大学院の社会的評価を高めていくことや、社会人の側の

   学費の捻出や時間の確保、企業内の処遇との結びつき、大学院側のカリキュラ

   ムの質の確保や教育体制の整備等課題は多い。



    なお、アメリカにおいては、ロースクール、メディカルスクール等プロフェ

   ッショナルを育成する大学院レベルの教育を実施する高等教育訓練機関(プロ

   フェッショナルスクール)が存在し、社会的にも評価が確立している。これら

   大学院のカリキュラムはAACSB(American AssBbly of Collegiate 

   Schools of Business)という認証機関が、大学ごと学部ごとに内容をチェッ

   クし認証している。



    AACSBは大学が相互に認証しあうピア・レビューの組織であり、今後の

   我が国の社会人大学院の質の確保、市場性を考える場合の参考となろう。

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