4 キャリア形成に係る政策展開 (4)企業に対する支援 (長期雇用型キャリア支援企業) こうした新たな経営人事管理のあり方が模索される中で、個人のキャリア形 成の主体性を尊重し、その自己実現を支援することにより、個々人が能力を発 揮することで組織の活性化を図る企業(キャリア支援企業)モデルを考えるこ とができないであろうか。 具体的な姿やその問題点は、今後の検討に委ねるとしても、その幾つかのポ イントとして、次のような点をあげることができよう。 (1)まず、経営理念として、「人を大切にする」、「学習する組織を目指 す」、「事業経営を通して社会貢献を果たす」等、個人や企業のあり方 について明確な社会的位置づけをし、哲学を持っていることが重要であ る。 (2)次に、こうした理念を実現するための制度的な面として、次のような 点がポイントとして考えられる。 イ 経営・人事管理の目標・方針、ポストに求められる人材要件、キャ リアルート、能力開発の内容を明確にし、従業員等に情報開示をし ていること。 ロ 人材の能力評価方法・基準を明らかにしていること。例えば、目標 管理や成果主義の基準を明確にしていること。但し、こうしたシス テムを有効に機能させるためには、実際上、目標の設定方法や設定 プロセスについての配慮や成果の計り方について、結果だけでなく、 チームプレイやプロセスも加える等バランスのとれたものとするこ と等様々な配慮が必要であろう。 ハ 個人の主体的なキャリア形成を支援するツールを用意していること、 例えば イ キャリア・コンサルティング制度等キャリア設計を支援するため の制度を設けていること。また、管理職や上司等のキャリア・コ ーチ的な役割も重要である。 ロ 教育訓練休暇制度や自己啓発の仕組み、能力開発についての主体 性の尊重などが取り入れられていること。 ハ 自己啓発としての教育訓練が可能となるよう、金銭的支援や休暇 制度も含め時間的配慮がなされていること。 ニ 年金、退職金、住宅等に係る社内制度について、個人の生活設計 を考慮していること。 ニ キャリアルートを多様化、複線化し、個別労働者のキャリア形成に 配慮した配置を行っていること。例えば、社内公募制を採用してい ること。 ホ 募集・採用に当たって、具体的人材要件やキャリアルートを明示し ていること。また、退職に当たっても定年制だけでなく、様々な選 択的コースを用意していること。特に早い時期からの人生を考える 時間を与える等、個人の選択・設計ができやすいシステムとしてい ること。 ヘ 成果主義・能力主義によりながらも、失敗を許容するキャリアシス テムを設けることや、パートや契約社員等についても正規社員との 互換性等キャリアについての配慮を行っていること。 (3)さらに、こうした制度的な面だけでなく、キャリア・コンサルティン グの提供状況、社内公募の応募状況等実績ベースでモデルを考えていく 視点も重要である。加えて、こうした制度の運用に携わる人材やキャリ ア・コーチのできる人材等適切な指導者や管理職の存在も大きな役割を 果たす。 このような「キャリア支援企業」のあり方やそのモデルを考えていくことは、 単に時代の流れに即するということだけではなく、次のような点で重要である。 第一に、個人の主体性を尊重することにより個人の自己実現が図られ、働く モチベーションが高まる。また、企業にとって、経営の活性化や事業の高度 化・高付加価値化が容易となり、社会全体としても知識社会への適応を進める ことにつながる。 現実にも、成果主義や実力主義がうまく機能している企業においては、キャ リア形成について、個人の主体性を尊重しているところが多い。 第二に、環境変化の激しい時代にあっては、社内公募制等の個人の主体性を 尊重した配置転換は、社内のミスマッチを解消し、流動性を高め、雇用の安定 に資するものであり、日本の長期雇用慣行にも合致する。 第三に、上記を踏まえると、「キャリア支援企業」のあり方を考える場合、 長期雇用によるゆとりと企業風土・文化の蓄積、長期的観点からの人材育成と 評価という利点は生かしつつ、個人のキャリア支援による実力主義との組み合 わせが長期の競争に勝ち抜く企業像のポイントとして浮かび上がってくるので はないか。こうした意味において、人材を大切にし、永続する「キャリア支援 企業」モデルとして、「長期雇用型キャリア支援企業」を考えていく必要があ る。