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4 キャリア形成に係る政策展開





 (3)労働者個人の支援



  (能力開発等に係る援助)



    能力開発等の受皿づくりは、後述するとおりであるが、労働者が自己啓発と

   して教育訓練を受ける場合に障害となっているのが、主として情報、時間及び

   金銭的な面である。





   (1)情報面の問題



     このうち、情報面の問題としては、雇用労働者の場合、企業の経営方針や

    ポストの能力要件、教育訓練方針等の情報開示や配置、昇進、昇格等の基準

    さらには、能力開発後の処遇等を明確にすることも重要である。

     また、より根本的には、後述のように、労働市場における職業情報インフ

    ラや共通言語による能力評価制度の整備による「能力の見える」労働市場づ

    くりが求められる。





   (2)時間面の問題



     次に、時間面の問題として、教育訓練休暇制度の普及はかなり限られてお

    り、現状では、既存の年休等の休暇制度を活用して能力開発を行っている。

     こうした実態をみると、現実的なアプローチとして、失効した年休等を能

    力開発やキャリア形成に活用することが考えられてよい。

     またキャリアデザインという点からは、例えば5年に一度、休暇をとり、

    キャリアの棚おろしをし、今後のキャリアを考え、教育訓練給付等を活用し

    て、能力開発を行えるような企業内の仕組みづくりも重要である。

     さらに、勤務時間終了後、能力開発ができるように、企業内において、教

    育訓練を時間外に受けている日については、優先的に時間外労働が免除され

    るような仕組みづくり等を推進する必要がある。その際、労働時間短縮を制

    度的に進めるための助成金(労働時間制度改善助成金)等を活用すると効果

    的である。

     なお、労働基準法施行規則第12条の6では、変形労働時間制の導入に際し

    て、使用者は、「職業訓練又は教育を受ける者」については、これらの者が

    訓練等に「必要な時間を確保できるように配慮しなければならない」と規定

    していることが注目される。





   (3)金銭面の問題



     金銭的援助については、その方法として、



      イ 本人に対する直接の金銭的支援



      ロ 教育訓練融資



      ハ 能力開発促進税制



     が考えられる。今後、個人の能力開発を支援するに当たっては、これらの

    政策をどのように組み合わせるべきかが課題である。

     イについては、雇用保険勘定を財源とする教育訓練給付制度が存在する。

    14年4月から教育訓練給付の対象講座について、趣味的なものを排除する

    とともに、教育訓練内容、出来上がり像等を明示し情報開示させること等を

    内容とする制度改革を実施している。今後、政策評価の徹底が課題である。







  ○「教育訓練給付」とは



    教育訓練給付制度とは、働く人の主体的な能力開発の取組みを支援するこ

   とを目的とした雇用保険の給付制度である。

    一定の条件(一般被保険者であった期間が原則5年以上等)を満たす雇用保

   険の一般被保険者(在職者)又は一般被保険者であった人(離職者)が、厚生

   労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合その受講のために受講者本

   人が教育訓練施設に対して支払った教育訓練経費の80%に相当する額(上限30

   万円)がハローワーク(公共職業安定所)から本人へ支給される。



    対象となる職業訓練は、雇用の安定及び就職の促進を図るために必要な職業

   に関する教育訓練として厚生労働大臣が指定したものに限られる。情報処理技

   術者資格、社会保険労務士資格、簿記検定などを目指す講座など、働く人の職

   業能力アップを支援する講座が指定されており、指定講座については講座内容

   や受講料などの情報開示がインターネット等を通じてなされている。







     ロについては、低利融資として国民生活金融公庫の融資制度や民間金融機

    関における融資制度が存在しているが、現実には、これらの融資制度の活用

    のほとんどが、子女の教育費に充てられており、本人の教育費に活用してい

    るものは限られている。我が国においてアメリカのMBAのような社会的な

    格付けや処遇アップにつながるような教育資格制度や長期休暇制度、転職市

    場を欠く状況で、融資を受けて、長期の勉強をする層は、現状では限られて

    いるが、今後、後述の社会人大学院等の普及に併せ、奨学金制度や利子補給

    等の制度のあり方を検討していく必要がある。



     ハについては、能力開発経費を所得控除する制度や政策減税として税額控

    除する制度が考えられる。

     税制上の基本的論点として、能力開発は、再就職のための能力開発のよう

    に将来投資的な性格をもっているが、税制は年度主義であるために、当該年

    度の職務に必要なものとして事業主の認めたものに限定されてしまう。こう

    した年度主義は、変化が激しく労働移動が活発化している実態にそぐわない

    ものであり、少なくとも数年度間分を単位としてみるような幅広い考え方が

    必要であろう。



     なお、控除の具体的な方法としては、次のような仕組みが考えられる。a

    は、いくつかの先進国において、既に活用されている。また、bは、投資促

    進のための政策税制として注目される。



     a 現在の給与所得控除を実額控除との選択制にした上、必要経費の範囲

       を労働者の自己啓発経費にまで拡大すること



     b 現行の税制とは別個に、人的投資促進等の観点から、新たに自発的な

       能力開発促進のための政策的な税額控除制度を設けること

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