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4 キャリア形成に係る政策展開





 (2)教育・労働政策におけるキャリア準備支援



   職業生涯がますます長く変化に富んだものとなることが予想される中で、学校

  教育も、長いキャリアの準備期としての性格が求められる。また、労働者・個人

  の能力開発も生涯教育という観点で捉える必要がある。生涯の職業キャリアを展

  望すると、教育施策と能力開発施策は密接な関連をもってなされなければならな

  い。



  

  (学校教育におけるキャリア準備)



    キャリア準備としての学校教育においては、まず、社会人としての職業能力

   の基礎になる学力や規律、マナーといった社会生活上の最低限のルールを身に

   つけることが求められる。また、職住分離し、社会が複雑化する中で、早期か

   ら職業に関心を向け、職業意識を涵養することが益々重要になっている。特に、

   総合学習の時間等を活用した職業に触れる場の設定として、インターンシップ

   の効果的実施等の体験学習や職業人との直接コミュニケーション等が考えられ

   る。今後企業との連携によるこうした様々な取組みが模索されるよう行政は、

   積極的にバックアップしていく必要があろう。



    また、学校教育の近年の傾向として、大学進学者が急増(45%)する反面、

   高卒就職者が先細り傾向(18%)にある(前出資料1)。大学入学が容易とな

   り、大学で学ぶ意味が改めて問われる。むしろ、若年層のキャリア意識強化と

   いう点で、高校等で時代に合った実学を身につけ就職するルートの強化や大学

   において実践教育に力を入れる方策を探る必要があろう。

    さらに、複雑化した社会の中で、就業時期と就労時期を明確に区別すること

   自体困難になりつつあり、高卒者や大卒者で、就労後離職するものや無業者、

   フリーター等が増えている。これらの者に必要に応じ、追加的な教育や補習的

   な教育を簡易に受けられる仕組みを学校、民間教育訓練機関、能力開発機関等

   の協力により作り上げることを本格的に検討すべきである。



  

  (就職システム)



    経済環境等の変化に伴い、企業の求める人材像は大きく変化してきており、

   従来の学校と企業の間における慣行に基づく職業紹介システムは、ともすれば、

   学業成績等に偏った選考になりがちであり、今日のように新規高卒者の厳しい

   雇用情勢の中では様々な課題を生じてきている。また、大卒についても、次第

   に専門的な能力が問われるようになってきた。



    その意味では、指定校制、学内推薦、一人一社制等の従来の一律の紹介シス

   テムを改めるだけでなく、積極的に個々の学生に自立と職業意識の喚起を促す

   新たな仕組みが求められている。具体的には、就業情報を提供しつつコンサル

   ティングを行い、自立意識をもたせることや、常日頃から職業に関心を持ち、

   必要な専門能力を高められるサポート体制を築くことが重要である。とりわけ

   学校におけるキャリア・コンサルティング技法の開発とそれを担う人材の育成

   は急務である。さらに、大学において、OBやゼミ、サークル等の学生仲間の

   ネットワークを活かした学生による主体的な情報交換の場を設けて成果を上げ

   ている例もある。生の情報に接することの少ない学生にとって就職のための有

   効なツールとなりうる。



    就職に際しては、勿論、学生、学校にとって最も不足しているのは、企業が

   求める人材像や実際の職場に関する生の情報である。大学においてはこれまで

   の就職あっせんシステムが崩れ、企業側との個別的なマッチングが課題となっ

   てきただけに企業側も求める人材像を明示し、そのスペックを学生や学校に積

   極的に呈示していくことが求められる。

    また、そもそも、労働市場に出て働くということは、労働市場の一主体にな

   ることを意味するものであり、働く際に最低限知っておくべき基礎知識として、

   労働に関する法律関係(労働基準法、労働契約)や保険制度(雇用保険、社会

   保険)さらには、労働市場の状況等を心得ておかなければならない。就職に際

   して、講習等を通してこうした知識や心構えを身につけておくことは、自立の

   促進となるばかりでなく、企業選択のミスマッチやトラブル防止にも役立つで

   あろう。



    なお、人材スペックの提示に関連して、イギリスでは、後述のようにNVQ

   という国家の職業資格制度があり、このうちの基礎的なレベルの資格は、学校

   修了時の取得すべき職業能力の目安の資格として機能している。今後、企業の

   求める人材像についても、こうした評価制度の中に取り込み、学校や学生の目

   標としていくことも一つの方策である。



  

  (無業者、失業者、フリーター等への対応)



    無業者、失業者、フリーター等について、キャリア・コンサルティングや必

   要に応じた、能力開発や体験学習等を講じていくことが重要であることは言う

   までもない。失業者については、既にハローワーク(公共職業安定所)におけ

   る職業相談等を踏まえ、必要に応じ様々な教育訓練を受けられる仕組みができ

   ており、最近は、トライアル雇用や、事業主委託訓練などの手法も取り入れら

   れている。

    しかしながら、ハローワークに来ない無業者やフリーターについては、こう

   した機会が欠けている。お仕着せでなく、職業について仲間と話をする環境を

   つくることが大切であり、お互いに集まって、あるいは、ネット上で職業に関

   する情報交換をしたり、先輩や知人の話を聴いたり、簡単なカウンセリングを

   受けられるような場や仕組みを工夫していく必要がある。







 ○「ピア・カウンセリング」「ジョブ・クラブ」



   ピア・カウンセリングは、カウンセリングの専門家が求職者等に対して行うも

  のと異なり、境遇や環境を同じくする者同士が相互にカウンセリングを行うこと

  を意味するものである(ピア〔peer〕とは、英語で、仲間、同僚の意)。職

  場の同僚がお互いに自らのキャリアの悩みや希望について語らい、アドバイスし

  合う場合や、求職者同士が励まし合いや情報交換をする場合などは、キャリアに

  関するピア・カウンセリングの代表例であるといえる。

   「ジョブクラブ」とは、こうしたピア・カウンセリングの要素も取り入れた就

  職援助手法であり、求職者がグループで行う自主的な求職活動を、活動場所や活

  動資源(電話、文房具、新聞など)の提供、専門家によるアドバイス等により支

  援するものである。1970年代初期にアメリカで開発され、イギリスでは80年代半

  ば以降公共職業安定所の有力な支援メニューとなっている。我が国では、中高年

  齢求職者向けの「キャリア交流プラザ」事業(平成11年度より実施)においてジ

  ョブクラブの手法が採用されているが、若年者求職者等へのこうした手法の活用

  は今後の課題である。







    フリーター生活が、漫然と長期に及ぶことは、キャリア形成上問題であろう。

   しかし、フリーターになる若者は、働くこと自体ではなく、正社員としての拘

   束的な働き方を嫌っている面もある。SOHOや起業等も含め、多様な働き方

   を認知し、こうした方面でキャリアが積めるようにする工夫も必要であろう。

    フリーター現象の裏には、アルバイトがサービス業の不可欠な労働力となり、

   需要も多いという状況がある。フリーターをアルバイトとして使う使用者に対

   しては、キャリアアップとしての社員や店長へのキャリア開発の途を聞いたり、

   アルバイトが一定期間にわたる場合には、今後の職業生活のあり方を考える機

   会を与える等キャリアについての指針を設け、誘導することも考えられる。

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