3 企業側から見た労働者のキャリア形成のあり方 (2)企業内のキャリアのあり方の変化 イ 大企業を中心とする企業内の動向 (社内流動化) これまで、大企業では、ローテーションで人事異動を行い、スキルチェンジを こなし、キャリア形成、社内流動化を進めてきた。 しかしながら、近年、業務内容の変化やそれに応じた事業構造改革により、事 業内の配転は、より頻繁かつスピードが増す一方、社内流動化について、限界も 生じつつある。 例えば、会社内の配転について、人材の高度化、専門化が求められる中で、人 材の専門性が高まれば高まるほど配転が困難である。さらに、分社化されている 場合には、ベーシックな人事制度は共通としても、業績評価等を中心に、次第に、 独自の人事システムが採り入れられ、本社と関連会社間の流動化に困難な面が生 じている。 また、業務の自立性が高まる中で、個人の要望を無視して、一方的な配転を行 えばモチベーションが下がり、効率的な業務の遂行に支障をきたす等の問題があ り、配転に当たっても自己選択の余地を入れる等の工夫が重要となっている。そ の意味で、上述の公募制等は、自発的な社内流動化を促進する手法として有効で あり、また、社内流動化を通じて雇用の安定につながっているとの報告もある。 (能力開発・人的投資のあり方の変化) 能力開発については、近年、企業の投資が減少していたが、最近、再び力を入 れるようになってきている。内容的には、企業主導の職階的な訓練から、個人の 選択による訓練に重点が移っている。 しかしながら、今後の職業能力開発のあり方については、人材の流動化が進む 中で、企業により意見が分かれるところであり、人材育成に力を入れる企業があ る一方で、人材育成より外部の即戦力志向を強める企業もある。 もっとも、中長期的に見ると、外部の即戦力に頼る企業は、人材を惹きつける 魅力づけ(Bployment-ability)が乏しくなり、かえって高い賃金の支払いを余 儀なくされ、次第に衰退していく反面、人材育成を強化する企業は、部分的に外 部流出があるとしても、結果的に優れた人材を惹き寄せ、さらに強くなる等、人 材投資に対する対応により、二極分化が進む可能性がある。 (企業のコミットメントとキャリアの二極分化) 企業は、収益性、成長性、技術力等を基準として選択と集中を進めつつあり、 全体として、中核的な業務や暗黙知や企業固有の知識に依存する分野については 内部化を強める反面、非中核的業務や標準化される業務については、外部化を進 める傾向にある。 その結果、後者については、企業間のコラボレーションやアウトソーシング、 下請け業者の活用、フランチャイズ化など外部化が進展している。 こうした業務の二極分化に応じて、中核的業務に携わる知識労働者については 早期に選抜し、能力開発投資やストックオプション等コミットメントを強める反 面、アウトソーシング等外部化した分野に携わる者については、配置転換でやり くりするほか分社方式や共同会社方式、出向の形態による人員移籍方式などを実 施する企業も増えている。 これらの結果、非中核的労働者や標準化された知識に携わる労働者については、 個別企業による教育訓練投資がなされなくなる可能性があり、こうした標準化さ れた知識や業界共通の知識については、企業同士の協力や業界による能力開発の 仕組みを考えていく必要があろう。 (分社化と人事管理の変化) 分社化や事態に応じた現場への権限委譲により、関連会社や現場組織は、本社 のコントロールから離れ、自立した経営方針を立て、実行していくことが求めら れる方向にある。 したがって、各事業ごとに、それぞれの分野における市場との競争関係のもと、 成長過程に応じた昇進昇格のあり方や人事労務管理システムの修正が求められる ようになっている。 このような状況のもと、本社を中心とした単一の横並び人事制度に限界がきて おり、今後、業種業態に応じた人材要件の違いに応じ、採用業務や業績評価等に ついても各カンパニーや組織に委せていく方向にある。