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3 企業側から見た労働者のキャリア形成のあり方



 (2)企業内のキャリアのあり方の変化





  イ 大企業を中心とする企業内の動向

  

 (個人主体のキャリア形成)



   技術革新の急激な進展や需要・顧客ニーズの変化、知識経済の進展等に伴い、

  労働者に求められている職業能力の内容やキャリアのあり方自体が急速に変わり

  つつあり、あらかじめ割り当てられた職務への習熟から変化への対応や問題発

  見・解決能力が重視されるようになってきた。



   加えて、上記のように企業組織について、ピラミッドが崩れ、フラット型や自

  立した柔軟な分散化した組織が求められるようになり、これまでのように企業が

  需要動向の見通しを持ち、労働者のキャリアを的確にコントロールすることが困

  難になりつつある。こうして、求められる職業能力の面からも、組織面からも、

  労働者のキャリア形成については、全体として、企業主導のものから、次第に個

  人の主体性を重視する方向に向かいつつある。



   企業としても、上記のような経営環境もとで、労働者の主体性を尊重したキャ

  リア形成の促進を図ることが労働者のモチベーションを高め能力の発揮による業

  務の効率化につながるという面がある。



  

 (キャリア支援)



   キャリア面で、近年、企業が特に力を入れているのが経営幹部候補層のキャリ

  ア形成である。経営が維持から変革に替わってきたことやスピードが要求される

  ことに伴い、自己選択の教育プログラム等の導入を積極的に図っているところが

  多い。



   他方、企業から外に出ていくキャリア支援として早期退職制度も、近年、多く

  の大企業で取り入れられている。定年前に早期退職を選択する場合に、(1)退職

  金割増、(2)能力開発休暇、(3)情報提供、研修、カウンセリング等を提供する仕

  組みであり、中堅層の人事多様化という面と、人員削減という面も少なからず持

  っている。

   また、こうした早期退職制度等の導入に併せ、40代、あるいは50前後から、第

  二の人生へ向けての意識づけを図ったり、人事の複線化を図ることにより、退職

  形態の選択がモラールダウンを起こさず、自然になされるよう工夫を行っている

  ところもある。



  

 (社内公募制)



   さらに、最近は、こうした特定の層に限らず、需要構造の急激な変化に伴う社

   内の技術技能のミスマッチ対応や人材の活性化や潜在能力強化するために社内

   公募制を導入するところが、徐々に増えてきている。







  ○「社内公募制」「FA制」



    成果主義の導入等を背景として、社員の自主性を引き出し、潜在能力を発揮

   させる手段として、「社内公募制」や「FA制」が注目されている。「社内公

   募制」とは、会社が必要とするポストや職種の要件をあらかじめ社内に公開し、

   応募してきた者の中から必要な人材を選抜する仕組みである。他方、「FA

   制」とは、社員が自らの過去の経歴や能力、希望する職種や職務を登録し売り

   込むものであり、その情報をみて、受入れを希望する部門がその社員と面接し、

   選抜する仕組みである。



    会社側からみた場合、社員の意志を踏まえつつ配置・異動を行えば、社員の

   モラールの向上が期待できる。他方、社員側からみた場合、右肩上がりの成長

   が望み難く、「会社人間」的な生き方が困難になっている今日、自分のキャリ

   アを思い描けるようにすることが重要になってきている。「社内公募制」や

   「FA制」は、こうした会社側・社員側双方のニーズに応える仕組みであると

   いえる。







   社内公募制度や社内FA制度が機能するためには、職場における理解、意識改

  革や、ポストに必要な能力要件の明示、権限委譲、研修制度との組み合わせ、カ

  ウンセリング制度や人事の適切な調整等が重要となっている。

   また、社内公募制度等の重要なインパクトとして、従業員が納得感のもてるポ

  ストにつけること、さらには、従業員は、希望するポストについた以上、新しい

  職場で成果を上げることが迫られる一方、上司も、部下による評価がかんばしく

  なければ逃げられてしまう等の緊張感にさらされることにある。



   このような意味で、成果主義と公募制度等が有効に組み合わされるとこれまで

  の日本的経営に風穴をあけ、労働者の主体性尊重、実力主義の新たな風を吹き込

  む可能性を持っている。

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