イ 若年層のキャリア (企業の役割) 教育における職業意識涵養や体験学習等のキャリア準備についても、企業の果 たしうる役割は大きい。 具体的には、日常生活の中で生の職業に触れることの少ない学生に対するイン ターンシップの実施や企業人を大学、高校等に派遣する等企業現場と学生の接触 の場をつくるほか、教育機関との協同で教育に携わること等も考えられる。 特に、後者の点に関しては、アメリカにおいて、次世代リーダー育成と従業員 の能力向上を主たる目的としたコーポレート・ユニバーシティー(CU)が、多 くの企業によって設立されている。こうしたCUは、高等教育機関や専門家の協 力・連携により社会の人材育成を支える一つのプラットフォームを形成しており、 我が国においても一部の企業においてこうした取組みが見られる。近年、企業の 一部には、即戦力志向に走り、若年者の育成をおろそかにする傾向も見られるが、 長期的にはこうした人材育成を重視する企業が魅力ある企業として優秀な人材を 集め、企業の創造性と活力を高めることで生き残っていくことにつながると思わ れる。 ○コーポレート・ユニバーシティー アメリカにおいて、企業内教育の一形態としてコーポレート・ユニバーシテ ィ(日本語で「企業大学」。以下「CU」。)が普及している。 例えば、フォーチュン500(米Fortune誌が毎年発表する米国上位500社のリ スト)の企業のうち、約40%の企業がCUを持ち、全体でその数は2000校とも 言われている。有名なものとしては、ネスレやモトローラによって設立された ものなどがある。 もともとは、企業内の各部門に分離していた教育部門を統合し、コストダウ ンとレベルアップを図ろうという動機で生まれたものであるが、リーダーシッ プ開発の必要性や人材採用の強化と定着率の向上などを目的として一気に拡大 した。 また、グローバル・ワイヤレス企業連合という多国籍にわたる無線通信業界 の企業が共同で作ったCUもあり、世界66校の大学と連携しながら、無線に関 する様々な知識・技術を提供し、業界として人材不足を補おうという試みも出 てきている。 日本企業の中にもCUを立ち上げているところもあり、今後多くの企業で検 討が進むことが期待される。 このほか、企業環境の急激な変化に応じて求められる人材ニーズも変わってき ており、こうした情報を学校や学生に発信していく役割も重要である。最近では、 顧客ニーズの急速な変化、事業の高度化・高付加価値化に伴い、新卒者に対して も、専門性や問題発見・解決能力等の主体的に考える能力が重視されるようにな っている。 このため、大卒の採用に当たっても、求める人材要件のスペックをあらかじめ 提示したり、インターンシップを通して適性を見たり、専門性の高い学卒者を優 遇条件付きの別枠で取るなどの取組みも見られる。後述する新たな学卒就職シス テムについては、こうした取組みと併せて検討していくことが必要である。