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1 エンプロイアビリティをめぐる背景事情



  なぜ、今、「エンプロイアビリティ」という言葉に注目が集まっているのか。そ

 の背景として、企業内外の労働市場でどのような情勢変化が進んでいるのか。



   近年、産業構造の変化、技術革新の進展や労働者の就業意識・就業形態の多様

  化に伴い、労働移動が増大しつつある。今後とも、IT等の技術革新の絶えざる

  進展やそれに伴う、産業や企業のあり方の変化によって、労働移動のさらなる活

  発化が予想される中で労働者に求められる職業能力として企業内で通用する能力

  から、企業を超えて通用する能力が問われるようになってきた。

   また、企業内においても、IT化等の技術革新の進展に伴い、急激な需要構造

  の変化に対応するため、企業内の組織構造は柔軟でフラットなものに変化しつつ

  あり、年俸制や目標管理制度等、能力・成果重視の人事管理を進めようとする企

  業が増加しつつある。労働者の職業能力についても、特定の職務への習熟から、

  変化への適応能力や問題発見・解決能力、さらには創造的能力等が重視される傾

  向にある。

   このように、企業内外において職業能力のあり方に大きな変化が生じている。

  こうした状況は、企業のあり方の変化や労働移動の活発化に伴い、従来、比較的

  区分されていた外部労働市場と内部労働市場が相互の関連性を深め、次第に、労

  働市場としての一体性が生まれつつあることと相応していると考えられる。

   このため、今後は、職業能力のあり方についても、こうした一体性を強めつつ

  ある労働市場というものを念頭に置きつつ、そこで通用する職業能力、即ち、労

  働市場価値を含んだ就業能力(エンプロイアビリティ)というものを想定してい

  く必要がある。





(参考)諸外国の事情



  イ.アメリカ



   アメリカにおいては、1980年代における市場競争の激化により、多くの企

  業が競争に勝ち残るために、ダウンサイジングを推進したが、その結果、長期雇

  用という、従来、経営者と従業員が共有していた暗黙の了解事項である「社会的

  契約」を破棄せざるを得なくなり、従業員のモラールの減退による生産性の低下

  など、企業、従業員双方にとってマイナスの効果も見られた。

   その後、1990年代に入り、多くの経営者は、従業員との対立的な関係を終

  わらせ、良好な労使関係の構築を模索しはじめ、その過程で、従来の雇用保障に

  代わる労使間の新しい契約目的として、「エンプロイアビリティ」という概念が

  注目されてきた。

   端的に言えば、「経営者は自社における永続的な雇用を保障しない代償として、

  従業員に対して他社でも通用する高い技術や能力を身につけるだけの教育・訓練

  の機会を提供する」というものである。

   なお、このようなエンプロイアビリティ形成のための教育訓練等は、企業に経

  営負担をかけることになるが、企業にとっては、より高い生産性、より良い品質

  の製品、モラールの向上、優れた人材の確保等の効果をもたらし、従業員にとっ

  ては、将来の不安の解消というメリットが見込まれるため、現在、多くのアメリ

  カの企業がエンプロイアビリティの向上を従業員の教育訓練の目標としている。



  ロ.ヨーロッパ



   欧州においては、情報技術を始めとする高度先端技術の急速な進歩に対し、日

  米に比べて乗り遅れたという強い危機感から、1990年代に入り、共同体・連

  合として、いくつかの共同の教育訓練政策を模索し始めた。

   これらの政策は、国境を超えた域内レベルでの労働移動を可能にする、高い能

  力を持った労働力の育成という点で、また、基本的な教育水準や職業上の技能に

  ついて域内で共通の基準を定めることにより、能力水準の平準化を図るという点

  で共通しており、EUが域内の統合を一層促進する中で、これらの施策を明示的

  に表現するための用語として、次第に「エンプロイアビリティ」という概念が使

  用されるようになってきた。

   なお、1998年には、欧州委員会において、雇用政策をさらに発展させるた

  めの具体的手段と目的が提言されているが、その中で、「若年失業者、長期失業

  者対策としての職業訓練、就労体験の実施」、「税制や職業訓練システムを改め、

  エンプロイアビリティを高め、失業者に勤労意欲を与える」等の労働市場政策が

  示されている。



  ハ.ILO



   2000年6月に開催された第88回ILO総会において、エンプロイアビリ

  ティに関する討論が行われたが、そこでは、エンプロイアビリティについて、質

  の高い教育・訓練及びその他の多様な政策の主要な成果とし、また、転職又は離

  職に際して、他の職を確保し、労働市場へ容易に参入できる労働者の能力を高め

  る技能、知識及びコンピテンシーを含めたものと位置付けている。また、一定水

  準の職業を確保し、維持するために欠くことができない複合的な技能を含むもの

  ともされている。なお、討議においては、「態度」を「コンピテンシー」という

  言葉で置き換えている。







2 エンプロイアビリティの意義と内容



 (1)エンプロイアビリティの意義



  エンプロイアビリティとは、そもそもどのようなものなのか。



   我が国において、「エンプロイアビリティ」という概念は未だ十分に膾炙(か

  いしゃ)していないが、一部において「エンプロイアビリティ」は、企業内の人

  材囲い込み戦略や、外部労働市場への流動化志向の際に用いられる場合が多い。

  特に、今後、企業・業界などの垣根を超えて流動化する労働市場において、各労

  働者が適切な処遇を得るなど、円滑な再就職を図るためには、労働者の雇用に際

  しての客観的な尺度を設定するとともに、労働者が自らの能力を客観的に知り得

  る仕組みを整備し、能力開発を図る指標を構築する必要がある。こうした点を踏

  まえ、エンプロイアビリティは、労働市場価値を含んだ就業能力、即ち、労働市

  場における能力評価、能力開発目標の基準となる実践的な就業能力と捉えること

  ができるであろう。

   また、このような観点では、エンプロイアビリティを外部労働市場における転

  職を可能とする能力と捉えることができるが、こうした指標は企業内においても

  有効に活用できると考えられるため、外部労働市場のみならず、企業内労働市場

  も含めた、内外の労働市場全体を視野に入れて捉えることが適当である。





 (2)エンプロイアビリティの構造と内容



  エンプロイアビリティを考える前提として、実際の労働市場の直接の当事者であ

 る労働者個人の能力、企業の求める能力の性格・内容はどのようになっているのか。



  イ.労働者個人の能力



   (i)労働者個人の職業能力については、まず、その能力構造をどう捉えるか

     が問題となる。この点について、労働者個人の能力としては、概ね、



     A 職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの

     B 協調性、積極性等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特

       性や行動特性に係るもの。

     C 動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するも

       の



     から成るものと考えることができよう。

      これを図示すると下図のとおりであり、Aは顕在的、他方、Cは個人的

     属性として潜在的なものである。Bは態度として現れる点で「見える部

     分」に属するが、潜在的な個人的属性とのつながりが強い。





      





   (ii)ただし、このような分類は、人間の能力についての定性的分析が容易

      でない中での一応のものに過ぎない。さらに細かく言及すれば、Aの単

      なる知識・技能とBの思考特性、行動特性の中間に、知識・技能を生か

      した、その根底にある判断力や洞察力等経験によって裏打ちされた能力

      を想定し得る。こうした能力は、知的熟練とも言われるが、定義次第に

      よっては、技能やスキルの内容をなすものとも言えよう。



   (iii)このように、職業能力の構造に基づく分類を行うことは、職業能力

       開発の手法や評価方法を考えるうえでの手掛かりになると考えられる。

        例えば、(i)Aの知識・技能に関して言えば、その修得は、主と

       してOff−JTやOJT等の職業訓練や教育訓練によりなされ、技

       能検定や試験等の手法より一応の評価は可能である。

        しかしながら、(ii)の経験に裏打ちされた判断力、洞察力、さ

       らには、(i)Bの思考特性や行動特性といったものは、単なる職業

       訓練等によって容易に身につくものではない。むしろ、職業上のキャ

       リアを積むことによって自律的に修得していくものと考えることがで

       きよう。また、こうした能力の評価は、技能検定や試験によって捉え

       ることは困難な面があり、実績評価手法やコンサルティング手法の応

       用あるいは、シミュレーションゲームのような新たな評価方法の開発

       が必要となろう。

        さらに、Cについては、そもそも、本人の持って生まれた特性、性

       格に起因する部分や子供の頃からの実生活や教育によって育まれる性

       格のものであり、そもそも特定の能力開発や能力評価になじむかとい

       う問題がある。



  ロ.企業の求める変化に対応する能力



   最近のIT等の技術革新の急激な進展により、産業経済は絶えざる変化にさら

  され、職業生活は不確実で表面的なスキルについても、ドッグイヤーと言われる

  ほど陳腐化の早いものとなってきている。このため、職業能力についても、変化

  に対応する能力が、とりわけ求められるようになってきている。

   もっとも、表面的なスキルの陳腐化が早くなったとしても、仕事に精通するこ

  とによって培った判断力、洞察力、対人折衝能力等の実践的能力は、多少の変化

  にも対応できるし、職場が少し変わったとしても通用することが多いと言われる。

  その意味では、変化の激しい時代において、職業能力開発のターゲットをイ.

  (i)Aの知識・技能に置くだけではなく、同時にイ.(i)Bの行動特性、思

  考特性や(ii)の判断力や洞察力を養うことにも焦点を当てていくことが必要

  である。その点で、労働者が、仕事に興味を持ち勉強する中で自律的にこうした

  能力を修得できるように仕事に取り組むことを促進したり、また、自らこのよう

  にキャリア形成を図れるようにすること、いわば自己開発できる人材を養成して

  いくことが変化に対応していくためには重要である。



  ハ.横断的な市場価値を含んだ職業能力



   エンプロイアビリティは、企業を超えた横断的な市場価値を含んだ職業能力で

  ある。しかしながら、市場価値とは何かということが職種別労働市場の確立して

  いない我が国においては明確ではない。

   端的に、実際に雇用される際の労働力の価格であるとするれば、実際に企業が

  採用するに当たって、どのような点を重視しているかを整理する必要がある。

   この点について、人材ニーズ調査(平成11年度通商産業省)によれば、達成

  行動、誠実性、新規顧客開拓、企画・発想、チャレンジ精神、思考判断等が上位

  を占める。

   一般的には、スキル以外に加え、態度、考え方、性格等やこれまでの経験や評

  判、面接等で把握して採用しているものと考えられる。また、採用に踏み切るに

  は、その企業の社風、風土と合致するかも重視されており、当然ながら、業種特

  性、企業特性が現れてくる。

   さらに、具体的なマッチングに至るには、職業能力そのものだけでなく、本人

  の希望就業条件との摺り合わせや、実際には、年齢、性別、雇用形態、勤務場所

  等の諸条件によって影響を受ける。

   このように、個別企業での採用条件まで具体化すると、各企業により区々とな

  り、一般的な市場価値の判断基準という想定とは乖離してくる。他方、労働市場

  がようやく形成途上にあり、しかも、職種(Job)概念の希薄な我が国におい

  ては、未だ横断的労働市場における労働力の市場価値についての判断基準は自律

  的に形成されていない段階にある。

   したがって、現時点で、エンプロイアビリティの内容・判断基準を考えるに当

  たっては、形成途上における労働市場において、指標となりうるものを抽出して

  いくことが必要であり、少なくとも、雇用形態の違いや、賃金、就業時間等の希

  望等の具体的就業条件は除き、労働者の職業能力そのものを対象として、その指

  標を考えていくことが必要であろう。





  エンプロイアビリティとは、どのような内容のものなのか。また、「コンピテン

 シー」という概念があるが、エンプロイアビリティとの関係はどのようなものか。



  ニ.エンプロイアビリティの内容



   (i)年齢・性別について

      労働者のエンプロイアビリティを考える場合、就業条件や雇用形態等の

     諸条件を含めることが適当でないことは、上記の通りであるが、他方、年

     齢、性別等の本人の属性に含まれるものはどう解すべきであろうか。

      これについては従来、年齢・性別による差別の実態が指摘され、現在で

     は、男女雇用機会均等法や雇用対策法により、こうした差別は否定され、

     市場判断を許さないとの法規制がなされている。

      また、これらの属性は、労働者の就業意識そのものではなく、人として

     の属性であり、能力評価の対象となるものではない。こうした点を考える

     と、エンプロイアビリティは、職業能力そのものを対象とすべきであって、

     年齢や性別は除外して考えることが適当と思われる。



   (ii)職業能力について

      エンプロイアビリティの内容として、職業能力そのものを捉えるとして

     も、その市場価値判断の対象として、どこまで含めるべきだろうか。

      この点について、イ.の労働者の職業能力の構造や企業側の採用する場

     合の労働者の評価に係る判断ポイント、さらには、上記ロ.で述べたよう

     な、変化への対応等を考えると、エンプロイアビリティ評価の対象として

     は、単なるスキルだけでなく、幅広く、思考特性や行動特性のような、主

     として態度に係るものも幅広く含めて考えることが適当であろう。他方、

     性格・人柄、動機・使命感、信念・価値観等の個人属性に関するものにつ

     いては、職業能力に関係し、影響を与えるものではあるが、潜在的なもの

     であるため、職業能力そのものとして捉えることは、その性格に照らし適

     当でないと考えられる。



  ホ.コンピテンシーとエンプロイアビリティの関係



   一般に「コンピテンシー」という概念については、アメリカにおいて、概ね

  「高業績者の成果達成の行動特性」として捉えられているが、その内容は、未だ

  確定したものとして定まっていない。

   他方、エンプロイアビリティは、前述したように、スキルのみならず、幅広く、

  態度に関するものや性格等の個人属性に関するものを含むとすれば、基本的に、

  コンピテンシーの要素も包含しうるものと考えることができる。

   ただし、「コンピテンシー」は、「高業績者の行動特性」を意味するとすれば、

  特殊な概念であり、これをエンプロイアビリティの構成要素とするためには、

  「労働市場において評価される行動特性」のように一般化して考えていくことが

  必要ではないかと思われる。





(参考)



  イ.アメリカにおけるコンピテンシー



   コンピテンシーは、もともと心理学において、「高業績者の成果達成の行動特

  性」と定義されていた概念が人材管理の場に導入されたものである。人材管理の

  場合では、コンピテンシーとは、ある状況又は職務において高い業績をもたらす

  類型化された行動様式(性向、態度、知識・技能などを効果的に活用して実際に

  成果を達成する行動様式)として理解されている。なお、コンピテンシーの構成

  要素の中には、教育訓練等によって改善可能な部分と性向のように本人固有の属

  性の部分が存在する。



  ロ.イギリスにおけるコンピテンシー



   イギリスにおいてもコンピテンシーが人材管理に取り入れられているが、イギ

  リスでは「コンピテンス」と「コンピテンシー」が使い分けられており、両者の

  二階建て方式となっている。

   人材管理の場において「コンピテンス」とは、「職務における諸活動を期待さ

  れる標準程度にはできる能力」を意味し、具体的には、NVQ(National

  Vocational Qualification)制度で求める能力を指すのに対し、「コンピテンシ

  ー」はアメリカと同様、高業績者の行動特性を指す。





3 エンプロイアビリティの評価基準について



 (1)評価基準の内容



  エンプロイアビリティの評価基準にはどのような項目を盛り込むことが可能で、

 かつ、適切であろうか。



   前記2(1)で検討したように、エンプロイアビリティの具体的な内容のうち、

  労働者個人の基本的能力としては、



     A 職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの

     B 協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特

       性や行動特性に係るもの

     C 動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するも

       の



  が考えられる。

   このうち、Cについては、個人的かつ潜在的なものであり、これを具体的・客

  観的に評価することは困難と考えられるため、エンプロイアビリティの評価基準

  として盛り込むことは適切ではなく、A、Bを対象に評価基準をつくることが適

  当である。

   ただし、Cについても、特に中高年齢者の雇用(就業)に当たっての重要な指

  標となっている面もあり、統一的、汎用的な評価基準に盛り込むことは困難であ

  るとしても、キャリア・コンサルティング等により、これらのプロフィールを把

  握し、明らかにすることは可能と考えられる。



 (2)絶対評価か相対評価か



  エンプロイアビリティの評価基準を導入するに当たり、労働市場との関係をどの

 ようにとらえるべきか。



   エンプロイアビリティは、市場評価を含んだ職業能力であるとすれば、その評

  価は、市場動向によって左右され得る相対的なものと考えられる。したがって、

  スキル基準等を設けるに当たっては、市場のニーズ動向を踏まえて行われること

  が必要である。

   また、スキル評価については、市場で求められる能力と本人の持っている能力

  との違いが、比較的同一の基準で評価しやすいが、行動特性や思考特性について

  は、市場で求められる能力と本人の能力は、質的に異なる場合も多いものと考え

  られ、同一の評価基準で比較することは困難な面があろう。

   むしろ、こうした点については、求められる行動特性と本人の行動特性をそれ

  ぞれ明らかにして、その異同を比較するような手法が必要になろう。



 (3)評価基準の設定の仕方について



  エンプロイアビリティの評価基準をどのような括りで策定することが適切か。



   評価基準の設定単位は、2(2)ハ.で述べたように、基本的に職種を単位と

  せざるをえないであろう。また、評価基準を策定する括りについては、労働市場

  全体に通ずるような一般的な基準を設定したとしても、特に、技術職や技能職に

  ついては、現実に、企業の採用・処遇や労働者個人の能力開発の指標になりうる

  か疑問がある。また、企業別の括りとすることは現実的ではない。こうした事情

  を考えると、評価基準の策定に当たっては、業種別程度の括りで職種ごとに策定

  し、個別企業等のより狭い領域特有の評価制度は、こうした評価制度を補充ない

  し修正して実施できるよう技術的援助ができるようなシステムを考えていくこと

  が適当であろう。

   次に、エンプロイアビリティの評価基準について、雇用形態別、年代別に設け

  るべきか否か、また、スキルの陳腐化が激しい中で、一時的な評価とならないた

  めには、どのような点に留意すべきか問題となる。

   このうち、雇用形態別(例えば、パートタイム、派遣等)の評価基準を設ける

  ことは、雇用形態ごとの差別を助長することにつながりかねず適当ではないと思

  われる。年代別に見ると、エンプロイアビリティが問題となるのは、一定の職務

  経験を積んだことにより、習得した職業能力の評価という点で、主として、中高

  年齢者である。若年者については、現在の職業能力そのものより、将来性に評価

  の重点が置かれる傾向があり、特段、エンプロイアビリティについて、別基準を

  設ける必要はないものと考えられる。

   次に、スキルの陳腐化のスピード化が進む中で、労働市場の評価指標となるよ

  うな制度の安定性を保てるかという問題がある。この点については、現在、何が

  できるかというスキル評価に加え、スキルと結びつけて、それを機能させるノウ

  ハウとなっている安定性のある能力要素として行動特性や思考特性について客観

  的に評価できるような仕組みをつくることが益々必要になってこよう。

   企業においても、近年、即戦力主義が高まりつつあるものの、反面、中枢とな

  る人材については、スキル以外に安定性のある能力要素であるコンピテンシーに

  注目し、重視する傾向が見られるところである。





4.エンプロイアビリティの評価の活用について



 (1)労働者個人のキャリア形成との関係



  労働者個人のキャリア形成に当たり、エンプロイアビリティの評価基準は、どの

 ような観点から必要になるのか。



   労働者個人がキャリア形成を行うに当たっては、概ね、



     A 自らが何をするかの動機づけを発見し、その動機づけの基軸と合った

       職業像を見つける。

     B 職業像に見合った、あるいは、達するために必要な仕事を見つけ、そ

       のために必要な能力と、思考特性、行動特性及びスキルとの違いを確

       認し、必要な行動特性やスキルを習得する。

     C 自らの考える職業像をベースに仕事の幅の拡大や仕掛けを行っていく。



  という段階に分けて考えることができる。

   このうち、Aは、自己発見のプロセスであり、Cは自己発見に基づき自立的に

  キャリア形成を行っていくプロセスである。こうしたプロセスに係る支援は主と

  して、キャリア・コンサルティングの役割であろう。他方、Bは、AやCと一体

  となり、キャリア形成に欠くことのできないプロセスであり、能力評価と能力開

  発及び実務経験のプロセスである。

   Bのプロセスのスタートとなるのが能力評価による自己のスキルと行動特性や

  思考特性の確認である。特に、近年、需要動向の変化が激しいため、スキルにつ

  いて、ドッグイヤーといわれるほど陳腐化が進む中で、実践的職業能力の中核と

  してコンピテンシーの習得が注目されるようになっている。こうした行動特性等

  の習得は、主として実務経験を通じてなされるものであり、短期に習得できるも

  のではない。したがって、キャリア形成を考える場合には、これら行動特性等を

  中核となる能力要素として捉える必要があり、その基盤となる能力評価制度とし

  ても、この点を明らかにしていくことが求められるであろう。



 (2)企業内の評価制度との関係について



  エンプロイアビリティの評価基準を導入するに当たり、企業内での評価制度との

 関係はどのようになっているのか。



   我が国の人事処遇制度、特に賃金制度の動向を振り返ってみると、概ね、大企

  業を中心として年功主義から能力主義へ、特に90年代に入ってから、職能給か

  ら成果主義を加味するものへと変わりつつある。

   具体的には、1975年以降、職能資格制度が各社に導入され、同時に昇格と

  昇進は分離され、昇進は実力主義・加点主義的なものに変わってきている。さら

  に賃金についても、職業生涯の前半は、能力主義賃金としての職能給を中心に据

  え、後半は、成果主義賃金中心にシフトしていくタイプの賃金システムがとられ

  る傾向にあり、日本の人事賃金制度は、全体として能力主義、実力主義、成果主

  義等の各理念を導入しつつ、調和を保ちながら再編を進めつつあると言われてい

  る。





      





   ただし、この場合の能力主義における能力とは、既に蓄えた習得・習熟といっ

  た能力の水の量の高さを意味し、年功に比例する傾向がある。他方、実力とは、

  現にある仕事をどれだけパフォーマンス、達成していくことができるかという能

  力を意味する。能力と実力の違いは、「実力」が新しい技術への適応や現場への

  能力の活かし方など、いわば、思考特性、行動特性や体力、気力などを含む点に

  ある。また、成果主義は、職業としての仕事の評価をベースに、目標面接を出発

  点とし、そこで設定された役割の達成度という形で業績評価が行われ、それに企

  業業績や部門業績に基づく成果として還元される分を加味して最終評価となる。

   エンプロイアビリティを、実践的職業能力として捉えるとすれば、その基準が、

  企業内の実力評価を行う際の何らかの指標になるものでなければならない。その

  意味で、エンプロイアビリティの評価基準には、新しい技術等に対応するスキル

  評価はもちろん、思考特性、行動特性についての評価も含めて考える必要があろ

  う。

   また、成果主義との関係で、エンプロイアビリティ評価にこうした要素を含め

  るべきかの問題がある。イギリスのNVQでは、証拠集めを行って、業績を評価

  しようとする試みを行っている。我が国では、キャリアシートへの業績記入やキ

  ャリア・コンサルティングを通じて、部分的にこうした対応を可能とする余地は

  あり、検討に値する。しかしながら、企業の行う業績評価は、目標設定との関係

  での達成度評価という性格であり、エンプロイアビリティ評価は、本人の基本的

  能力を評価する目安であって、直接、企業内の業績評価につながるものではない

  と考えられる。





(参考)



   労働者個人のキャリア形成プロセスにおける企業・公共の支援のあり方
  企業の支援のあり方 公共の支援のあり方
A 自らが何をするのか動機
  付けを発見し、その動機
  付けの基軸と合った職業
  像を見つける。(自己発見)
研修等の実施 キャリアシートの作成、
普及モデル的なキャリア
形成事例の提示
B 職業像に見合った、あるい
  は、達するために必要な仕
  事を見つける。
情報提供
(主に仕事の内容に
係るもの)
情報提供(主に市場全体の
動向、業界の動向に係るもの)
C 自らのスキルやコンピテン
  シーと、その仕事が求める
  スキルやコンピテンシーの
  違いを確認する。
求めるスキル、コンピ
テンシーに係る項目・
レベルの開示
企業ごとのエンプロ
イアビリティの判断基
準の策定・公表
能力評価、能力開発目標の
基準となる指標の提示→
エンプロイアビリティの
判断基準の導入
(4) 必要となるスキルやコン
  ピテンシーを習得する。
教育訓練の実施
時間面の配慮 等
公共職業訓練の実施、各種
助成金の支給等
(5) 自らの考える職業像をベ
  ースに仕事の幅の拡大や仕
  掛けを行っていく。
社内公募、配置等の配
慮、個別のマッチング
情報の提供 等
労働力需給調整、情報提供
(主に労働要件に係るもの)

*)全体としてキャリア・コンサルティングの支援が必要





5 その他



 (1)既存の各種資格制度等



  既存の各種資格制度等は、エンプロイアビリティを判断する際の指標として活用

 できる可能性があると考えられるが、活用に当たって留意すべき点があるとすれば、

 それはいかなるものか。



  イ.生涯職業能力開発体系



   生涯職業能力開発体系は、以下のような「職業能力体系」と「職業能力開発体

  系」の2つから構成されている。



     A 職業能力体系

       産業・業種ごとの各職業・職務において求められる職業能力を仕事の

      種類と仕事のレベル(難易度)に応じて体系的に整理したもの(「職業

      能力のものさし」として活用)



     B 職業能力開発体系

       上記職業能力体系の各職業能力を習得するのに必要な能力開発コース

      を段階的・体系的に整理したもの(「能力開発の道しるべ」として活

      用)



  生涯職業能力開発体系においては、産業・業種ごとに、以下のような要素から構

 成されている。



   ・職務…企業組織として果たすべき業務機能を同一の種類、系統等で括ったも

       の。複数の仕事の集まり。



   ・仕事…企業の経営活動に資する一定の目的を持って遂行するものであり、分

       業又は分担が可能なまとまり。仕事を遂行する能力を「能力要素」と

       している。



   ・作業…仕事を構成する要素であり、これ以上分割又は人に分担できないもの。

       逆に、複数の作業を業務の達成目標に向け、順序化又はグループ化し

       たものが仕事。作業を遂行する能力を「能力要素の細目」とし、作業

       を行うために必要な能力を知識及び技能・技術に分け明確にしたもの

       を「能力要素の細目の内容」としている。



   生涯職業能力開発体系が産業界の実態に合致するためには、不断の見直しと拡

  充が必要であり、平成11年度から、雇用・能力開発機構と全国の事業主団体等

  とが共同で、生涯職業能力開発体系の構成要素である職務、仕事、作業、作業に

  必要な知識及び技能・技術を、業種ごとに分析・抽出する職務分析作業を行って

  いる。

   今後、業種別の特徴を踏まえたエンプロイアビリティの判断基準を策定してい

  くに当たっては、知識や技能等のスキルについては、本体系図をベースにして作

  業を進めることが効果的と考えられる。

   なお、実際のエンプロイアビリティの判断基準においては、本体系図でカバー

  されていない、協調性、積極性等の職務遂行に当たっての思考特性や行動特性も

  重要な判断項目と考えられるため、キャリアシートやキャリア・コンサルティン

  グ等の活用により、それを補完した体系的な基準策定を進めていくことが必要で

  あろう。



  ロ.ビジネス・キャリア制度



   本制度は、ホワイトカラー労働者の職務遂行に必要な専門的知識の段階的かつ

  体系的な習得を支援するものであり、具体的な制度の仕組みは以下の通りである。



     A 専門的知識の体系化(能力評価、能力開発目標の指標提示)

       ホワイトカラー労働者の業種横断的な10の職務分野ごとに、その職

      務遂行に必要な専門的知識を領域とレベル(初級と中級)により体系化



     B 教育訓練の認定(能力開発手段の提供)

       民間教育訓練機関が行う教育訓練のうち、上記の体系化された基準に

      適合するものを厚生労働大臣が認定



     C 習得した専門的知識の確認(能力評価の実施)

       認定された教育訓練の受講修了者等に対し、習得した専門的知識を確

      認するための修了認定試験を実施。



   エンプロイアビリティの判断基準については、労働者個人にとって、能力評価

  や能力開発目標の設定に係る指標としての活用が期待されるが、特にホワイトカ

  ラー労働者については、実践的な職業能力が求められており、その特性を踏まえ

  た能力評価システムの整備が重要である。

   このような中、現行の本制度は、ホワイトカラー労働者の業種横断的な10の

  職務分野に係る能力評価指標としての機能を有する専門的知識の体系を提示して

  いるが、



    ・ 対象層のレベルがやや不明確である

    ・ 基準改正に時間を要する等、現実の労働市場で求められている能力ニー

      ズを踏まえた弾力的な運営がなされていない



  等の問題点もある。

   このため、今後は、適宜、民間教育訓練機関、企業との連携を強化するなどし

  て、こうした点を補完することにより、生涯職業能力開発体系図と相まって、特

  にホワイトカラー労働者のスキル(特に知識)に係る評価指標として一層機能し

  ていくことが期待される。

   また、本制度の修了認定試験に加えて、民間教育訓練機関や企業等が実施して

  いる多様な試験制度等を効果的に活用することにより、ホワイトカラー労働者が

  自己のスキルに係る市場性を測定でき、自らの職業生活設計に沿って、自己の能

  力を向上させることが一層促進されるであろう。



  ハ.技能検定制度



   本制度は、全国的に企業間で共通性のある技能であって、対象労働者が多い職

  種を対象として、職種ごとに、等級に区分して(単一等級もあり)、学科試験及

  び実技試験により、当該技能に係る能力を評価し、国が公証しているものである。

   また、本制度は、現在でも、技能労働者の能力を評価する指標として社会的に

  機能しているところであるが、対象職種が限定されているため、今後、エンプロ

  イアビリティの判断基準として活用するに当たっては、民間団体の活用を促進す

  るとともに、経済社会情勢の変化を踏まえた対象職種の見直し等がより一層必要

  となるであろう。



 (2)諸外国における先進的な取組事例



  我が国におけるエンプロイアビリティの評価基準の導入に当たっては、諸外国に

 おける先進的な取組事例が参考になるのではないか。



  イ.NVQ制度(イギリス)



  (制度の概要)



   NVQ(National Vocational Qualification)は、国際競争が激化し、技術

  が急速に進歩していく中で、若者の基礎的な技能の向上、及び、国民全体の職業

  能力の向上の必要性が認識されはじめたことから、各業界で乱立していた独自の

  資格を整理するとともに、スキルを持つ中間管理職の不足を解消するため、19

  86年、全国統一の職業資格制度として導入されたものである。

   各NVQ資格は、基礎技能から高度専門的又は管理能力まで、レベル1〜5の

  5段階のレベルが設定されており、教育雇用省の下に設立されているQCAが資

  格制度全般に係る基本事項を設定し、その基本事項に基づき、産業別の労使の代

  表によって構成される「Lead Body」が、個別の技能ごとに具体化(基準設定)

  している。なお、レベル1〜3は職場での実務的な技能を認定しているが、レベ

  ル4と5は高度専門的又は管理能力を認定している。

   現在、11種類の産業分野において、約760のNVQ資格が存在し、約32

  9万人(2001年3月時点の累計)がNVQ資格を取得している。

   各NVQの試験の実施・合否の判定は、政府から認定されたAwarding 

  Bodies(認定機関)が実施しているが、認定機関には、EdExcelやシティ・アン

  ド・ギルド等、従来より独自の資格認定を行っていた民間の資格認定機関も存在

  する。





  (評価項目)



   NVQ資格は、複数のエレメントからなるユニットを一定数取得することによ

  って与えられ、このエレメントが評価の基準となる。なお、各エレメントには、

  知識、技能の他に、協調性やチームワーク等を評価する項目も含まれている。

   実際の評価は、評価者が実際の職場において、資格取得候補者がエレメントの

  内容をどれだけできるかを評価するアウトプット主義を採用している。なお、具

  体的な評価基準の例は、以下のとおり。





   【知識・技能に係るもの】

     ・人材を募集するに当たり、募集するための条件を明記でき、かつ簡潔で、

      法的要求に応じたものであること(経営管理)

     ・博物館及びその収集品、展示品の安全と保存のために、指示されたとお

      りに単純な修理や保守を行うこと(美術館・博物館の案内)



   【コンピテンシーに係るもの】

     ・関連資料から顧客の要望書について明確かつ正確で十分な情報を得る

      (製造エンジニアリング)

     ・ 電話に応答し、適切に人につなぐ(美術館・博物館の案内)





  (制度の特徴)



   職業能力が低く、将来の目標が曖昧になっている新規学卒者層などにおいては、

  教育・訓練制度の一環としてうまく機能しており、若年者の基礎的な知識・技能

  の向上に一定の成果を挙げている。

   複数の評価者が、通常業務や模擬的な仕事の観察、上司等の証言、成果の提出

  などにより、数ヶ月間かけて評価を行うため、多額のコストがかかる。

   実際の利用状況は、ロースキルの部分が多く、マネジメントなどのハイスキル

  の分野では、十分普及しておらず、民間企業による独自認定の資格が普及してい

  る。また、製造業や伝統産業など、もともと資格制度が導入されていた産業では

  普及しているものの、小売業やサービス業、IT産業など比較的新しい分野では

  活用が進んでいない。

   評価に係る明確な達成基準を設けているが、特にコンピテンシーに係る部分の

  評価については、評価者の質に頼るものが多く、質・量ともに評価者の育成が課

  題である。

   Work Basedによる評価のため、産業を超えての知識・技能等の評価には適さな

  い。



  ロ.全国技能基準システム(アメリカ)



  (制度の概要)



   「全国技能基準システム」は、労働力の国際競争力を高めるとともに、適切な

  職業能力の習得、教育訓練の提供、求職・採用活動の円滑化を目的として、州単

  位で運営されていた職業能力評価制度、資格制度について、連邦として全国的な

  職業資格制度を構築するため、1994年、全国技能基準法に基づき創設された

  もの。

   本システムは、産業ごとの各職種において「何を知っていなければならない

  か」、「何ができなければならないか」を明確にした技能標準を設定しており、

  「全国技能基準委員会(NSSB)」によって産業が15に分類されており、2

  000年12月現在、4つの産業において技能標準が設定済みである。(他の産

  業においても技能標準を現在策定中である。)





  (評価の項目)



   技能標準の設定については、産業界、労働界、教育界、市民団体の代表、政府

  等からなる各産業の自主パートナーが、当該産業の各職種において求められる業

  務内容の定義を明確にした上で、技能標準の枠組みを「義務と職務」、「基礎技

  能」、「個人的素養」の3種類に分けて策定し、今後、評価に関するガイドを作

  成していくこととしている。

   「義務と職務」は、当該職種に必要となる職業能力の要素を設定したものであ

  り、当該職種において基本となるべき、必須となる能力を表している。

   「基礎技能」は、当該職種に必要となる学術的な知識・技能(読み、書き、そ

  ろばん等)を設定したもので、重要度の水準を数字で表しており、自己の有する

  能力水準と比較することが可能となっている。

   「個人的素養」は、当該職種において必要となる積極性や柔軟性など、いわゆ

  るコンピテンシーの要素を設定したものである。





  (制度の特徴)



   市場ニーズを踏まえた弾力的な運営を可能にするという観点から、資格の基準

  を国が作らず、産業界が策定していることから、基準の改正等を弾力的に行うこ

  とができる。

   職種に求められる知識・技能のみならず、抽象的ではあるが、コンピテンシー

  の部分も評価しようとする試みがなされている。



  

6.評価基準の策定について



  今後、エンプロイアビリティの評価基準の設計に当たっては、どのような点に留

 意する必要があるか。



   労働者の職業能力評価制度としては、厚生労働省所管のものとして、技能系職

  種を中心とする技能検定制度、技能審査認定制度のほか、ホワイトカラー系職種

  については、ビジネス・キャリア制度がある。また、各省においても、その所掌

  に応じて様々な職業能力評価制度を所管している。

   しかしながら、これらの職業能力評価制度については、全体として、Aニーズ

  の高い分野を中心に評価制度が設けられているものの、包括的な評価制度となっ

  ていないこと、B特に、ホワイトカラーについては、評価制度が未成熟であるこ

  と、C技術・技能及び知識のような主として形あるスキルに関する評価制度であ

  り、行動特性や思考特性のような能力面を評価する仕組みとはなっていないこと、

  等の問題があり、労働力流動化が進む中で、労働者のエンプロイアビリティを評

  価する仕組みとしては、極めて不十分であることは否めない。

   今後、技術革新の一層の進展や産業構造の変化に伴い、労働力の流動化や職業

  能力の変化に対応して、労働者のエンプロイアビリティを何らかの形で評価する

  仕組みを形成することが求められるが、その設計に当たっては、次のような点に

  留意する必要がある。



    (1) 評価制度の対象の基礎となるものは、スキルであり、スキルについて

      の包括的な評価制度の確立が、まず土台となる。成長分野や雇用量の一

      定以上の分野を手始めに、各種評価制度の見直し、新たな評価制度の設

      定を通して、包括的かつ体系的なスキルに係る評価制度を確立すること

      が求められる。



    (2) 職場で通用する実践的な職業能力を評価する観点から、(i)実務経

      験や実績をどう評価するかという点、また、(ii)単なる表面的なス

      キルだけでなく、知識、技能を生かすための判断力や洞察力等の経験に

      よって裏打ちされた能力や長年のキャリアによって培われた職業に係る

      思考特性や行動特性をどう評価するかという点がポイントとなる。

      (i)については、キャリアシートへの的確な記入と専門コンサルティ

      ングによる把握、関係者への照会等による確認等による評価等が考えら

      れる。

      (ii)に係る評価技法の開発は極めて困難な面がある。コンサルティ

      ング技法のバージョン・アップ、ロール・プレイング、シミュレーショ

      ン等の手法もあるが、労働者のタイプに応じた手探りの開発となろう。

      特に、ホワイトカラーについては、形にはまったスキルというよりも、

      判断力、分析力や思考特性、行動特性の評価が重要である。



    C こうした評価制度は、業種別労使等が中心に業種内の職種について、自

      主的に設定することが望ましいが、現状では、国が技能検定制度の設

      定・運営を通じて蓄積したノウハウや、前述の生涯職業能力体系等によ

      る支援を通じて評価制度の策定を進めることが必要である。また、評価

      制度は、技術革新等に即応して更新される必要があり、業界が自らの競

      争力を高める観点から、絶えず、職業や職業能力に関する情報の収集・

      分析、評価基準の見直しをできる体制を整えることが不可欠である。



    (4) 職業能力評価制度がエンプロイアビリティの指標としての意味を持つ

      ためには、労働市場に即したものでなければならない。我が国において

      職種別労働市場は形成されていないが、今後、労働力の流動化に応じて、

      企業の職務、キャリア、教育訓練等の能力開発情報の開示、労働契約関

      係の明確化、契約主体としての労働者の自立を進めるとともに、職業能

      力評価制度の確立と相俟って職種別労働市場の形成を促進することによ

      り、円滑な再就職の促進を図ることが重要である。また、職業能力評価

      制度自体、こうした企業内システムや社会システムとの連動に配慮しつ

      つ、設定、更新を図っていくことが求められる。




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