4.格差解消への取組み 〜労使への提言と行政の課題〜 男女間賃金格差縮小のためには、男女同一価値労働同一賃金原則が目指す性によ って差別のない賃金を、我が国の賃金制度・雇用管理制度の実態に合わせて実現す ることが必要である。 その際、男女間賃金格差の水準は女性の能力発揮の程度を総合的に示すものとも いえ、男女間賃金格差が縮小すればするほど、職場において女性の能力発揮が進展 したことを示すこととなる。そこで男女間賃金格差をバロメーターの1つとして、 労使、行政は男女雇用機会均等施策を進めることが適切である。 また、男女間賃金格差は人材の配置、昇進、教育訓練、評価等の結果として現れ る問題であるため、男女間賃金格差の縮小や解消を図るには賃金制度に留まらない 包括的アプローチによる施策を展開する必要がある。労使双方も男女間賃金格差の 解消に向けた取組の必要性を認識していることから、こうした時機をとらえて積極 的に進めることが望ましい。 (1)労使への提言 企業において男女間賃金格差についての実態把握と要因分析を行うことが大切 であり、それを踏まえて労使の間で男女間賃金格差の解消に向けた対応策の議論 を行うべきである。問題の性質からして、女性労働者の参加等により女性の意見 が議論に反映できるようにするのが効果的である。また定期的にフォローアップ することにより、必要に応じて対応策をアップ・ツー・デートなものとすること を求めたい。 男女間賃金格差の問題は、上述してきたように、職場での女性の能力発揮の問 題でもある。企業及び労働組合においては、組織の中枢に女性を積極的に登用す ることを目指すべきである。組織中枢への登用は、組織内に女性の雇用管理の改 善に向けた女性労働者の意見を浸透させていく上でも効果的である。 a 賃金管理 賃金管理を改善していく上での具体的な内容として、企業は以下の点に留 意する必要がある。 イ 公正・透明な賃金制度の整備 個々の従業員の賃金決定が曖昧である賃金制度は男女賃金差別の温床と なり、男女間賃金格差をもたらしてきた。特に、賃金決定基準が不明確で あったり、賃金表が未整備であったりすることは問題であり、どの企業も 公正で明確で透明な賃金制度の整備を進めなければならない。また、従業 員から男女間の賃金格差について説明を求められたり、不満が寄せられた 場合には、十分な資料を示しつつ企業として誠意をもって説明する必要が ある。 ロ 公正・透明な人事評価制度の整備と運用 どのような賃金制度であれ、個人別の賃金決定において人事評価は決 定的に重要である。不透明で曖昧な人事評価制度は賃金、昇進・昇格にお ける男女差別の温床となり、その結果として男女間賃金格差が増幅される。 男女間賃金格差の解消を図るためには、公正で透明である人事評価制度の 整備を進めることが重要であり、喫緊の課題である。人事評価制度の整備 にあたっては、評価基準を明確で客観的なものにするとともに、公正かつ 透明性の高い運用を確保するための評価者訓練や評価結果のフィードバッ ク等も欠かせない。 ハ 生活手当の見直し 家族手当、住宅手当といった生活手当については、格差解消の観点から は、それが男女間賃金格差を生成するような支給要件で支払われている場 合には廃止することが望ましい。労使双方、特に労働組合側に引き続き維 持したいとの考えが根強いが、男女間賃金格差に影響しないよう、時間を かけてでも制度変更することが必要である。具体的には、家族手当のうち の子どもに対する手当や住宅手当を引き続き維持するとしても、配偶者に 対する手当は廃止する等、両手当を出来るだけ縮小することが望ましい。 この場合、生活手当の縮小・廃止に伴う影響を最小限に抑制するために、 福利厚生施策面での対応や、平均賃金の引き下げにつながらないような措 置を講ずる等により生活面への影響を緩和することが求められる。 b 雇用管理 イ.ポジティブ・アクションの実践 どの企業においても、女性が能力を最大限発揮できるようにするとい う姿勢で雇用管理を進めることが基本であり、影響力の大きい企業トッ プのこの点におけるイニシアティブはきわめて重要である。企業トップ が先頭に立ってポジティブ・アクションを推進することを求めたい。ま た、ポジティブ・アクションの実践においては、中間管理職の果たす役 割が大きいことから、中間管理職の意識改革を図ることも大切である。 ポジティブ・アクションにおいては、男女間賃金格差の生成に大きく 影響している男女間の職階格差や勤続年数格差の縮小や、以下、ロのよ うな職階格差の原因になっている業務の与え方や配置の改善に取り組む べきである。 ロ.女性に対する業務の与え方や女性の配置の改善 業務の与え方については、これまで、難易度や重要度の低い業務、定 型的な業務が主として女性に割り当てられたり、評価の低い職務に女性 を多く配置することがよく見られてきたのが実態である。このように偏 った業務配分や配置を改善するために、性にとらわれることなく個々の 労働者の意欲や適性、職務遂行能力を基準とした配置を進めることや管 理職研修に女性の能力発揮に配慮した業務運営方法を含めることの他、 次のような方策も考えられる。 すなわち、従業員が希望職務や保有能力等を申告できる自己申告制度 や、欠員ポストを補充する人材を広く社内で募集する社内公募制度、一 定の条件を満たした社員が希望部署への異動を申告できる社内フリーエ ージェント制度の導入など、従業員の意思や適性を重視する制度の整備 も、女性の配置改善に寄与するものとなる。 またライセンス制度(職務に必要なスキルを明確にし、その職務につ くためのスキルを持ったものに試験等でライセンスを与え、欠員が出た 場合にはそのライセンス保持者の中から配置する制度)や、女性登用を 念頭においた後継者計画(管理者が自分の後任候補者数名を所属部門長 や人事部門に登録する際に、最低1名は女性とすることのルール化)等 も参考とするに値する。 ハ.コース別雇用管理制度及びその運用の改善 コース別雇用管理制度について、男女間賃金格差の改善を図る観点か ら、コース区分決定方法など、制度そのものを点検することが大切であ る。 特に検討が求められるのは、コース区分の決定を採用後一定期間の職 務経験後に従業員の意欲・能力・適性等に基づき決定すること、コース 転換の円滑化のための措置の導入(一定の条件を満たす労働者の希望を 実現するコース転換制度の導入、コース転換希望者に対する教育訓練の 実施等)、転勤の有無によるコース設定がキャリア形成上真に必要であ るかどうかの再確認、である。 なお、コース別雇用管理制度の内容について、従業員に対して十分な 説明がなされることが望まれるが、併せて、総合職の男女労働者を含め、 企業は転勤を命ずるに際し、育児や介護の状況に配慮すべき責務がある ことにも十分留意する必要がある。 ニ.ファミリー・フレンドリーな職場形成の促進 企業は育児・介護休業制度を利用しやすくするなどの職場環境の改善 に努め、育児を担うことの多い女性の負担を軽減することが大切である。 特に、成果主義賃金が広がりつつある中では、これまで以上に育児・ 介護等家族的責任を有する労働者に配慮した仕組みが求められる。具体 的には、育児・介護休業取得期間中における復職に向けた企業情報の伝 達や、スキルの陳腐化を防ぐための通信研修の提供、在宅勤務制度など が考えられる。 また、依然として広くみられる恒常的残業を出来るだけ排除し、短時 間勤務制度、フレックスタイム制などの活用を通じて柔軟な労働時間制 度を採用するなど労働時間の面でも、家庭生活と職場生活が両立するよ うに努めることが必要である。 (2)行政の課題 a 当面の課題への対応理 イ 男女間賃金格差解消に向けた労使の取組みへの支援 本研究会の成果を踏まえ、男女間賃金格差解消のために労使が自主的に 取り組むための賃金管理及び雇用管理の改善方策に係るガイドラインを作 成し、労使に提示、周知して、その普及を図ることが必要である。 また、企業が雇用管理を適切に進めていく上で参考となる情報、たとえ ば好事例や女性に対する偏見を是正する教育訓練プログラムなどの情報の 収集、提供を行うことも重要である。さらにはポジティブ・アクションへ の企業の取組を一層促進するため、具体的な目標設定のための支援等を通 じて、企業が取り組みやすいように環境整備を図るべきである。この場合、 ポジティブ・アクションにおいては、特に配置、昇進や業務の与え方、勤 続年数格差の縮小についての改善が重要である。 コース別雇用管理制度については、その適正な運用がなされるよう、上 述した内容も踏まえながら重点的に指導を行うことが必要である。 育児期の就業継続促進のため、保育施設網の整備やファミリー・フレン ドリーな職場環境の形成に引き続き努めるべきである。 ロ 行政による事後救済制度の補完 男女間の賃金格差については、女性労働者が、労働基準法、男女雇用機 会均等法等に基づき、都道府県労働局に対し、救済を求めてくる場合があ る。それが性別を理由とする格差であるか否か、あるいはその格差が合理 的なものであるのか否かについて、行政としては、個々の企業の賃金・雇 用管理の制度やその運用の実態に即して判断することとなる。 特に我が国においては賃金決定要素が多様であり、格差の要因として配 置・昇進・昇格等が大きな比重を持っていることが多いと見られる。この ため、事後救済制度が効果的に機能するよう、男女賃金差別事案の事後救 済の過程においては企業から必要となる資料の提供を求めて、人事評価シ ステムを含め賃金・雇用管理の専門家による客観的分析が行えるようにす ることが必要である。 ハ 男女間賃金格差レポートの作成 男女間賃金格差の現状や男女間賃金格差縮小の進捗状況を継続的にフォ ローアップして、定期的に公表することにより、男女間賃金格差縮小に関 する労使の取組みを促進することが必要である。 b 中期的な課題への対応 先進諸国の中には、ポジティブ・アクションを推進するために、企業に対 して雇用状況の報告書の提出や、計画の作成、その実施状況の行政への報告 を求めている例がある。我が国においても、外国事例を参考にしつつ、国内 の取組状況を踏まえながら、ポジティブ・アクションを積極的かつ効果的な ものとするために、法制面の整備を含めた手法の検討を行うことが求められ る。 いわゆる間接差別(注)についても、我が国でどのようなケースが間接差 別となるのかについての十分な議論を進めることが必要である。その上で、 間接差別法理を賃金管理及び雇用管理に適用することの適否について、先進 諸国の制度も参考にしつつ、丁寧に検討することが求められる。 (注)間接差別とは、形式上は性に中立な制度や仕組みであっても、制度 や仕組みを運用した結果として大多数の女性にとって不利となるもの (例えば、身長175センチメートル以上であることを採用基準とした 場合で、その基準を置く合理的理由のないものなど)であれば、そう した制度や仕組みは女性差別であるとする考え方。