3.男女間の賃金格差を解消する賃金・処遇制度のあり方 (1)賃金制度に内在する問題と対応の方向 c 男女同一価値労働同一賃金の意義と賃金制度 上述したように、我が国では国際的に見ると大きな男女間賃金格差が存在 している。我が国企業の賃金制度そのものは、一般的にみて手当制度を除け ば特定の性に有利に働くものではなく性中立的とみられるが、例えば職務給 において職務価値の測定基準が女性の多く就いている職務に不利となるよう な制度設計もありうる。しかし、現実に存在する男女間の平均賃金の格差は、 多くの場合賃金制度そのものの問題というよりは、人事評価を含めた賃金制 度の運用の面や賃金制度以外の雇用管理において解決すべき何らかの問題が 存在することを強く示唆している。 国際的には、同一価値労働同一賃金原則を実現することが、男女間賃金格 差を縮小していく上で、有効な手段であるとされている。同一価値労働同一 賃金原則という場合、一般的には、職務給がこの原則を実現する賃金として 期待される。しかし、上述したように職務給といえども、人事管理の運用次 第では男女間賃金格差をもたらすこととなる。基本給の一部または全部に職 務給を利用する際には、職務価値の高い職務に、男女とも公平に就任可能と なる人事管理上の仕組みが併せて必要である。 一方、我が国では、採用後の担当職務を決めないで採用し、幅広く職務経 験を積ませることにより人材育成を図る慣行が広くみられる。そのような慣 行を採用している企業では、職務配置は企業の裁量に任されていることから、 担当職務は自己選択で決まることが望ましいとする職務給の前提条件が必ず しも満たされていない。 また、男女同一価値労働同一賃金原則は、ILO第100号条約(同一価値 の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約)に規定するよ うに、性差別のない賃金の実現を目指すものであり、職務給だけではなく我 が国で広く利用されている職能給中心の賃金体系の下でも、性差別のない賃 金でさえあればこの原則の趣旨に沿う。したがって、女性への業務の与え方 や能力開発、人事評価制度などの人事管理を適切に行うことにより、この原 則の実現は十分に可能である。 d 人事評価制度の重要性 どのような賃金制度においても、公正で透明な賃金決定システムが重要で ある。また、人事評価制度は個人別賃金の決定において重要な役割を演ずる。 現状では、評価基準等についての社員への公開や、評価結果の本人への通知 などが必ずしも十分に行われていない(図表21)。男女間賃金格差を解消し ていくには公正・透明な人事評価制度の整備と運用が極めて重要である。