3.男女間の賃金格差を解消する賃金・処遇制度のあり方 (1)賃金制度に内在する問題と対応の方向 a 基本給決定システムとその変化 <年功賃金> 我が国の多くの企業の基本給は、長期にわたって年齢や勤続年数を重視 して決める年功賃金の様相が強かった。ただし、多くの企業の賃金制度に おいては、年齢や勤続年数が増加しただけでは賃金は大きくは増加しない。 年齢や勤続年数が増加したときに職階や社内資格が高まるという年功昇進 があってはじめて、賃金は大きく増加することになる。 年功賃金の様相がこれまで特に強かったのは、学歴別にみると高学歴者 であり(図表17)、男女別にみると男性であり、生産労働者と管理・事 務・技術労働者の別にみると後者である(図表18)。これは高学歴者、男 性そして管理・事務・技術労働者において年功昇進の傾向が強くみられた からである。 女性の平均勤続年数は男性と比べて短かいことから、年功賃金の下では 男女間賃金格差は大きくなる傾向がある。 現在、多くの企業で年功賃金の見直しを進めつつあり、職能給のウェイ トを高めたり、職務給や成果主義賃金を取り入れる方向にある。こうした 動きは、勤続年数の男女差からくる男女間賃金格差をある程度縮小させる 効果をもつと考えられる。 <職能給> 1970年前後から、従業員の職務遂行能力の水準に応じた賃金である職能 給を基本給の核に据える動きが大企業を中心として広がり始めた。この職 能給は、今日でも多くの企業で用いられている。 職能給は職能資格制度に基づいて決定される。すなわち、職務遂行能力 の水準に応じて各従業員の職能資格を定め、職能資格に応じて職能給を決 めるという仕組みである。以上からも明らかなように、職能給は性に中立 的な賃金制度であり、それ自体男女間賃金格差を拡大するものでも縮小す るものでもない。 男女間賃金格差の観点からすると、職能給においては、職務遂行能力の 水準の判定が男女問わず公正に実施されているかどうかが極めて重要とな る。また個々の職場において、職務遂行能力を高めるように女性に業務を 与えているかどうか、教育訓練しているかどうかが重要となる。 <職務給> 1990年代に入って以降今日まで、仕事の内容に応じた賃金である職務給 が広がり始めている。 職務給は同一労働同一賃金及び同一価値労働同一賃金を目指している賃 金である。同一価値労働同一賃金とは、労働者間で職務内容が異なってい ても、職務の価値を何らかの基準で測定したときに、職務の価値が同一で あれば同一賃金とする考え方である。現実の運用の場面では、同一職務ま たは同一価値職務で職務等級が同一であっても賃金に幅があり、個人実績 等、職務以外の評価に基づいて昇給額に差をつけることから、職務給に差 がつくこととなる。 男女双方が同一職務あるいは同一価値職務に従事している限り、職務給 は男女間賃金格差を理屈の上では発生させない。しかし職務価値の高い職 務に昇進させるときに男女間で格差があるとすれば、職務給といえども男 女間賃金格差を発生させることになる。また職務価値の測定方法において、 職務価値の測定基準があいまいであったり、女性が多く就いている職務に 不利となる測定方法であったり、人事評価が女性に不利に行われるならば 男女間賃金格差を発生させることとなる。 女性が職務価値の高い職務に昇進できるか否かは、職務遂行能力の水準 及び職務上の実績に依存するが、職務遂行能力の水準及び職務上の実績の 判定は人事評価に大きく依存する。先述したように、職務遂行能力の水準 は、職務遂行能力を高めるように業務を与えているか、教育訓練している かどうかに影響されることになる。 <成果主義賃金> 1990年代に入ってから今日まで、個人実績を賃金に強く反映させる成果 主義賃金が広がる傾向にあり、年俸制は成果主義賃金の代表的な例である。 成果主義賃金の場合、個人実績の評価が賃金決定に大きな影響をもつこ とから、公正な人事評価の実施が何よりも重要となる。したがって公正な 人事評価が実施されている限り、成果主義に基づく賃金制度そのものは性 に中立的であるから、男女間の賃金格差を拡大するものでも縮小するもの でもない。 男女間賃金格差の観点からすると、成果主義賃金においては、女性がそ の有する職務遂行能力を十分に発揮できる職務に配置されるかどうかが重 要である。また育児負担が女性にかかることが多い現状においては、仕事 と子育ての両立支援策が整備されていないと、結果的に女性は実績を出し にくいこともあり、成果主義賃金に不安を抱きかねない。したがって、企 業は業務を行う上での時間、場所の柔軟化を進める等業務運営方法を工夫 することによって、育児・介護等家族的責任を有する労働者も個人実績を 出しやすいように努めることが重要である。