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            パート労働の課題と対応の方向性

          (パートタイム労働研究会の最終報告)



               平成14年7月

I パート労働の現状と問題点



 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)(以下「パ

ート労働法」)にいうパートタイム労働者とは、「1週間の所定労働時間が同一の事

業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」となっ

ており、以下においても基本的にはこの概念をもってパート労働者と呼ぶ。ただ、も

う一つ統計的な概念として、「勤め先の呼称がパートである者」というとらえ方があ

る。これらの中には短時間労働者でない者も相当数含まれている。一般的に「パート」

という概念が短時間労働者という意味だけでなく、「正社員でない者」という意味で

用いられている実態があることを示している。パート労働問題を考える上で、この現

実も無視することはできないので、以下ではこうしたとらえ方についても視野に入れ

て検討することとする。

 ここで、「短時間労働者(ここでは週35時間未満雇用者)」と「勤め先の呼称がパ

ートである者」の関係を整理すると、数的にはどちらも1,100万人前後であるが、前

者のうち2割は正社員や派遣等、後者のうち3割は35時間以上であり、800万人弱は両

者が重なっている部分となっている(図表1)。



   なお、本文でもみるようにいわゆる「正社員」と「非正社員」が同種の仕事に

  つくことが増え、「正社員」と「非正社員」の区分が曖昧になってきている中で、

  また、パート等の働き方がすでに重要な役割を担っている中で、「非正社員」と

  いう社内の身分差を印象づけるような言葉を使うことは本来適切でないと考えら

  れる。しかし、まだ多くの企業で実際に使われている現実があり、また、その意

  識の原因に迫ることが本問題を考える上で非常に重要であることから、以下では

  あえて「正社員」と「非正社員」という呼称を使用することとする。



   

1 パート労働者等の増加とその背景

  

1)増加の実態



 総務省「労働力調査」によれば、平成13年の週35時間未満非農林雇用者は1,205万

人(うち女性829万人)で、非農林雇用者中に占める割合も2割(女性では39.3%)に

達し、20年前の昭和55年の約1割(390万人)から大きく上昇している(図表2)。ま

た、「呼称パート」は1,129万人で非正社員の8割強を占めているが、景気後退期にお

ける正社員と非正社員の増減のパターンをみると、従来は景気後退期でも正社員の増

加は続いており、非正社員の増加が抑えられるという形で調整がなされてきたが、今

回ははじめて正社員が大幅に減少する一方で、非正社員は大幅に増加しており、明ら

かにパターンに変化がみられる(図表3)。なお、呼称パートには、短時間労働者で

ない者も含まれているが、ここ数年、週40時間以上の長時間労働者が大幅に増えてい

る(図表4)。



 産業別にみると、「卸売・小売業、飲食店」(386万人)、「サービス業」(397万

人)、「製造業」(200万人)の3業種に8割以上が集中している(図表5)。最近の変

化を各業種におけるパート比率でみると、特に卸売・小売業、飲食店で上昇が著しい

(図表6)。既存の業態におけるパート比率の引上げに加え、外食産業やコンビニエ

ンスストアなどパート・アルバイトを多用する新しい業態の登場・成長も反映してい

ると考えられる。



 企業規模別にみると、約4割が1〜29人規模で働いているが、ついで多いのは500人

以上規模で約2割となっている(図表5)。最近の変化を各規模に占めるパート比率

の推移でみると、特に1,000人以上の大企業で上昇が著しく、11年前は7%弱だった

パート比率が約3倍の2割弱にまで上昇している(図表7)。



 職業別にみると、サービス、販売、事務で7割弱を占めているが(図表5)、最近

の変化を各職業におけるパート比率でみると、特に労務作業、サービス職業などでの

上昇が著しい(図表8)。

  

2)増加の背景

  

 (1)需要側の要因



   企業がパートを雇用する理由には、主に「人件費の節約のため」、「景気変動

  に応じて雇用量を調節するため」などコスト要因に基づくもの、「1日、週の中

  の仕事の繁閑に対応するため」、「長い営業(操業)時間に対応するため」など

  業務内容の特性や変化に基づくものが考えられるが、最近の状況をみるとコスト

  要因によりパートを雇用する企業が増えている(図表9)。



  (イ)コスト要因



   1)でみたように正社員と非正社員の増減パターンに変化がみられるが、これは

  国際競争激化の下でのコスト削減の必要性、経済の先行きに対する不透明感やデ

  フレの進行などの下で、できるだけ賃金コストが安く、雇用調整も容易な労働者

  のウェイトを拡大したいという企業側のニーズがかつてなく強まっていることが、

  パート労働者等非正社員の増加に結びついていると考えられる。



   さらに電機業界などでは、パートも含めた「直傭形態」ではなく、いわゆる

  「構内下請け」の活用を広げることにより、人件費コストの柔軟化を進める動き

  もみられる。パートのみならず、直傭でないさまざまな形態にまで雇用形態が広

  がっていることも認識しておく必要がある。



  (ロ)業務変化要因



   一方、サービス経済化の進展も、繁閑業務の拡大とともに、繁忙期だけの対応

  をするパート労働者の需要拡大の大きな要因となっている。特に、流通業や外食

  産業などではパートが重要な戦力となっている。近年、流通業などでは営業時間

  の延長に対応してシフト制を組むためにパート化が一層進んでいる面があり、短

  時間でも店長やマネージャー等責任のある仕事を担える人材も必要になってきて

  おり、こうしたパート比率の高い業種では、パートの基幹化も進んでいる。

   また、近年急速に進んでいるIT化は基幹的業務と定型的業務の二極分化をも

  たらす面があり、定型的業務については、正社員から非正社員パートにシフトす

  る動きもみられる(図表10)。

  

 (2) 供給側の要因



   短時間パートに現在の就業形態を選択した理由を聞くと、「自分の都合のよい

  時間に働けるから」、「家計の補助、学費等を得るため」、「勤務時間や労働日

  数が短いから」、「家庭生活や他の活動と両立しやすいから」など、時間的な自

  由度を積極的に評価する者が多く、「正社員として働ける会社がなかったから」

  という者は割合としては1割弱となっている(図表11)。



   パートの7割強は女性である。ここ10年でみても女性パートは280万人増加し

  ており、これはパート全体の増加の3分の2を占める。

   日本労働研究機構の「高学歴女性と仕事に関するアンケート」により、女性が

  理想とする就業パターンをみると、「子供ができたら職業をやめ大きくなったら

  再び職業を持つ方がよい」(再就職型)が依然として継続就業型より多いが、子

  育て後の入職の場合、その多くはパート入職であり、例えば女性の30歳代の未就

  業からの入職の7割強がパート入職となっている。ライフスタイルに合わせ、家

  庭生活との両立が可能な短時間就業を選んでいる姿が窺われる。ただ、30歳代の

  再就職を希望する高学歴女性に希望就業形態を聞くと、当面はパート就業が多い

  が、長期的にはパートとして経験を積んだ後や子供の進学後に正社員に移行した

  いと考える層が多い(図表12)。ライフステージに応じて柔軟に働き方を変えた

  いと望んでいることがわかる。



   最近の年齢別パート比率の変化をみると、男女とも若年層において上昇が著し

  い(図表13)。また、新規学卒でも女性の20%、男性の16.3%はパートで入職して

  おり、その割合はここ数年で大幅に上昇している(図表14)。いわゆる「フリー

  ター」の増加現象であるが、これには若年者の意識変化もさることながら、近年、

  正社員としての就職機会が大きく制約されていることも影響していると考えられ

  る。



   60歳以上の高齢層は特にパート比率が高い(図表13)。11年前に比べ高齢者パ

  ートは男性が63万人、女性が43万人増加している。60歳時点の平均余命が20年と

  なっていることから、高齢期になっても無理のない範囲でこれまでの経験を生か

  して働きたいと考える層も増えてきている。



   

2 環境の変化(柔軟で多様な働き方へのニーズの高まり)



 1でみたように、パート労働者の増加は需要供給両面のニーズによってもたらされ

ているものであるが、ここでパートも含めた労働者の働き方に対して、今後も含めて

どのような環境変化要因が働いているのか、整理してみよう。



 需要面では、サービス経済化の一層の進展の下で業務の繁閑への柔軟な対応が求め

られている。最近はこれに加えて厳しい国際経済環境の下でコスト削減要請が強まっ

ており、雇用コストの効率化、雇用の柔軟性を確保することが、企業経営上、重要な

課題となっている。今後の企業の雇用への考え方を聞いてみても、正社員は減らし、

パート等の非正社員を増やしていくとする企業が多い。

 さらに、今後は、少子化により若年者の確保が難しくなる。本年1月に発表された

「将来人口推計」(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、わが国の少子・高齢

化は今後さらに加速する見込みであり、短時間の働き方を希望する層の多い女性や高

齢者などを企業の中で有効に活用しうる柔軟なシステムを作っていく必要性が一層高

まると考えられる。



 一方、供給面では、それぞれのライフステージの中で、短時間での働き方を選択す

る層が増加している。

 一つは高学歴化の進んでいる女性である。結婚出産等で退職した層の多くはその後

も就業希望を持っており、そのうちかなりの者が、自らの専門知識や経験を生かせ、

自己実現の可能な仕事を求めている(図表15)。また、子育て後の当分の間はパート

就業希望が多いが、経験を積んだ後や子供の進学後には正社員に移行したいと考える

などライフステージに応じた働き方を求めている。

 もう一つは高齢者である。平均余命も伸びており、彼らは第一線を退いた後も、短

時間で無理なく、しかしこれまで培った経験、能力を生かせる仕事をしたいと考えて

いる(図表16)。

 こうした供給側の短時間での働き方へのニーズは今後の少子化の下で、上記のよう

な企業側のニーズともあいまって実現されていく可能性がある。

 さらに、フルタイムで働く層の中にも、仕事一辺倒ではない生き方を志向する層が

若年層を中心に広がりつつある。

 一つの方向性として、主に男性が若年、壮年の時期に集中的に働くことで産業社会

や家計を支えた時代から、女性や高齢者も含め、幅広い社会構成員がそれぞれのライ

フスタイルにあわせてゆとりをもって働くことで、社会や家計を支える時代に大きく

変化しつつあるということであろう。こうした変化の中で、供給側においても、その

ライフステージに応じた多様で柔軟な働き方が選択できることが大きな課題になって

いると考えられる。



 このようなことから、「働き方についての柔軟性、多様性を確保していくこと」が、

企業にとっても、個人にとっても今後の基本コンセプトになるといえよう。

 こうした中で、パート等の働き方も正社員の単なるバッファーとしてではなく、確

固とした働き方として確立されつつある。



   

3 問題点と課題



 しかし、柔軟で多様な働き方はそれなりの雇用の安定性や処遇が確保されていなけ

れば、それを本当に選びとれる形では広がっていかない。そのような条件は整ってい

るだろうか。

  

1)パートの基幹的役割の増大



 1でみたようなパートのウェイトの増大に伴って、従来正社員が行っていた役割の

一部をパートが担うということが起きてきている。

 「自分と同じ仕事をしているパート等の非正社員がいるかどうか」を正社員に聞く

と、「多数いる」とする者は1割強、「少しいる」が3割を占めており、さらに3年前

に比べてそれが「増えている」事業所が「減っている」事業所を大幅に上回っている

(図表17)。責任の重さ等役割の違いはあるにしても、従来正社員がやってきた仕事

にパート等が組み込まれ、基幹的な役割を持つ層が増大していることが類推される。

 特に、パートを多く活用している業種では基幹的役割をしているパートが多い。東

京都の外食産業に関する調査によると、他のパート従業員の勤務スケジュールを調整

したり、新人に対して業務内容を教えるトレーナー役をしているいわゆるリーダーパ

ートが4割弱を占めており、そのうち2割弱は店全体の時間帯責任者か店長に就いてい

る(図表18)。またこうした企業では、今後の方向性としても、パートに対して、サー

ビス・顧客対応全般の統括などの重要な役割を果たすことを期待している(図表19)。

 「パートは補助的仕事」という従来の認識は、必ずしもあてはまらなくなってき

ている。

  

2)処遇の実態



 このようなパートの基幹的な役割の増大の下で、パートの処遇の実態はどうなって

いるか。

  

 (1)賃金格差の実態



   パートの所定内給与を時間換算で正社員と比較すると男性で5割強、女性で7割

  弱の水準であり、その格差の推移をみると拡大傾向がみられる(図表20)。また、

  欧米諸国と比較するとわが国は、アメリカ、イギリスと並んで格差が大きい

  (図表21)。



   こうした格差拡大にはいくつかの要因が考えられる。

   第一は職種構成の変化である。職種別にみるとパートは販売店員(百貨店店員

  を除く)、スーパー店チェッカーなど賃金水準の低い職種でそのウェイトを増し

  ており、これが全体の賃金格差拡大に影響していると考えられる。そこでパート

  の職種構成を正社員にそろえ、いわば同じ職種における正社員との賃金格差を女

  性について推計すると、正社員の約8割の水準となり、職種構成の違いを加味し

  ない場合に比べて10%以上格差は縮小する(図表22)。



   第二は就業調整の影響である。パートの中には、本人の収入が一定額を超える

  と所得税や社会保険料がかかる、配偶者が得ていた配偶者手当がもらえなくなる

  等の理由から、収入が一定額を超えないよう就業調整を行う層が約4割程度存在

  する。こうした就業調整行動は基本的には労働時間の調整によって行われるが、

  時間当り賃金の伸びも就業調整パートは非就業調整パートより低くなっており、

  少し古いが、平成7年でみて、パート全体の賃金が就業調整要因により9%押し

  下げられているとの分析もある(参考1)。これを元に就業調整の影響がなかっ

  た場合のパートの正社員との賃金格差を推計すると平成2年から7年にかけて、賃

  金格差はむしろ縮小している。



   第三は時短の影響である。正社員の場合、月給制が多いため、月給一定の下で

  時短を実施した場合、時給換算した賃金は上昇するため、自動的に時給制の多い

  パートとの賃金格差が拡大する。平成元年以降の時短による正社員の時給上昇効

  果により、女性の正社員とパートの賃金格差は5%程度拡大していると推計され

  る(図表23)。



   以上、賃金格差の拡大については、上記のようないくつかの要因が絡み合って

  いると考えられる。

   さらに、賃金(所定内給与)以外の労働条件についても、賞与・退職金制度の

  適用を受ける正社員は9割を超えるのに対してパートはそれぞれ4割強、1割弱等、

  正社員とパートの状況には大きな差がある(図表24)。

  

 (2)契約期間



   欧米諸国の状況と比べると、我が国においては契約形式でみたいわゆる常用パ

  ートタイム労働者(臨時や有期労働でないパート)の割合が少ないのが特徴であ

  る。オランダ、フランスの女性では常用パートがそれぞれ8割強、8割弱と多数派

  であるのに対し、日本の女性では4割にすぎない。このような差異は、我が国に

  おいては、これらの国に比べ、有期労働契約に対する規制が少ないため、有期労

  働契約の下で更新を繰り返し、実質的に長期にわたって雇用することが可能であ

  ることも理由の1つであると考えられる。

  

 (3)組合組織率



   パートの労働組合への組織率は3%弱と労働者全体の組織率(2割弱)を大きく

  下回っている。労使交渉は処遇決定の重要なプロセスであるが、そこにパートの

  声が十分反映されていないことが正社員とパートの処遇格差を大きくしている側

  面もあると考えられる。

  

 (4)背景となる構造と問題点(内部労働市場と外部労働市場)



   こうした処遇格差の背景には、正社員とパートが属する労働市場の違いが大き

  く横たわっている。



   図表25は正社員とパートの勤続年数別の賃金の動きである。二つを比べると、

  採用時の賃金差もさることながら、勤続を重ねた時の賃金の上がり方の違いが顕

  著であるが、これには次のような構造が背景にあると考えられる。

   いわゆる内部労働市場に属するフルタイム正社員の賃金体系は、一般的に長期

  的視点に立ったキャリア形成を前提としており、能力向上に応じて賃金が上がる

  仕組みとなっている。そこには家計の支え手を想定した生計費的な要素もある程

  度内包されている。

   一方、パートの賃金は、一般的に補助的で代替可能な仕事を想定しているため、

  採用賃金も地域の相場に応じたいわゆる市場賃金の色彩が強く、また、職務で賃

  金が決まることが多いため、その後勤続を重ねても傾向として賃金がフラットな

  仕組みとなっている。この仕組みは家計の支え手を想定していないため生計費的

  な要素も基本的には内包されていない。



   これらのシステムはパートの役割が補完的なものに留まっていた時代には、企

  業に属する人々に一定の理解を得てきた。企業は正社員の高いモラールによって

  活力と発展を、正社員は高い処遇と雇用保障によって生活の安定を、パートは都

  合のいい時間帯に税・社会保険のかからない範囲で配偶者の安定した所得に少し

  補てんしうる収入を、それぞれ得てきた。



   しかし、こうした基本的な構造による問題点が表面化しつつある。



   第一に、上記のような構造は、パートが補助的仕事に留まっているうちは、あ

  る種の安定性を持っていたが、パートがそれなりにスキル、経験を蓄積し、基幹

  的な役割を担う働き方をするようになると、正社員とパートの間の処遇格差の存

  在は、当然コスト削減が求められている企業にとって、正社員を極力絞りパート

  等非正社員で対応するという動きを強めることとなる。前述のように新規学卒で

  もパートで入職する割合が増えているが、この傾向は大都市圏の高卒者で顕著で

  あり、特に男子では非正社員での入職が、89〜92年卒では2割弱だったものが97

  〜00年卒では5割弱へと激増している(図表26)。正社員の雇用機会が不足する

  中で、正社員を希望しながらやむなくパート就労を選ぶ「非自発パート」も趨勢

  的に増加している(図表27)。

   求人倍率をみても、パートは求人超過であるのに対して、正社員は大幅な求人

  不足である(図表28)。現状の処遇格差が続くと、こうしたアンバランスがさら

  に拡大する懸念がある。

   一方、企業にとって、こうしたパートへのシフトは短期的にはコスト削減をも

  たらすが、中長期的には顧客に対するサービスや業務運営能率の面でのマイナス

  となったり、また、責任範囲の増大等により正社員が多忙となり、部下の育成に

  時間が割けないため長期的な人材育成に障害が生じるとの実証分析もある(注)。

   また、パートにとっても、基幹化により一時的労働にとどまらず職場での就労

  期間が長くなるにつれて賃金格差への不満は高まる傾向にある(図表29)。



   第二に、家族のあり方が多様化する中で、パートが上記のような構図で想定し

  たような標準形(夫が稼ぎ手で、妻が専業主婦かパート)ではとらえきれなくな

  ってきていることである。

   離婚や未婚の母の増加とともに母子世帯が増加しており、これらの就業者のう

  ち約4割はパートとして就労している。こうした世帯のみならず、増加している

  単身世帯、夫が失業している世帯でも女性のパート就労は決して家計補助ではな

  く、家計を支える役割を求められる(図表30)。第一であげたような非自発パー

  トも然りである。

   このようにパートの属性も多様化している。家計を支える役割を持つパートが

  企業の中である程度基幹的な役割を担っているとすれば、当然、処遇格差の存在

  は、企業の中で不公平感を増大させると考えられる。



   第三に、正社員についても、多様な働き方が求められてきていることである。

   これまで企業は相対的な高賃金と雇用保障の見返りに、残業や配転等の強い拘

  束性を正社員に対して求め、これによって生産性の高さを追求してきた。しかし、

  仕事一辺倒ではない生き方を志向する層にとってそれは必ずしも魅力のある働き

  方ではない。実際にフリーターとなっている若年層の多くが「正社員としての仕

  事に就く気がなかった」と答えているのには、こうした事情も影響していると考

  えられる(図表31)。

   また、現実に家族的責任を負うことが多い女性が家事育児と両立させて仕事を

  続けようと考えても、強い拘束性を求められる現在の正社員の働き方の中では就

  業継続が難しくなるのが実態である。しかし、いったん退職して、育児等が一段

  落したところでまた復帰しようとしても、内部労働市場には再参入できず、パー

  ト等の非正社員になるしかないのが現実である。特に、短時間であっても責任あ

  る仕事をしたいと望む女性にとって、それを実現することは難しい状況である。

   今後、少子化の下で若年層の希少性がますます高まり、女性の有効活用が必要

  になるとすれば、正社員の働き方にももっと多様性を持たせることが企業の人的

  資源の活用という観点からも重要になると考えられる。



   (注)佐藤博樹「雇用システムの変化から見た人事管理の課題」

           日本労働研究雑誌 1999.special issue



      佐野嘉秀「パート労働の職域と労使関係」日本労働研究雑誌 2000.8

  

3)今後の課題



 1、2でみたように、パート等の多様な働き方の拡大は不可逆的な流れである。ただ、

これが現在の雇用システムの中で無秩序に拡大すれば、労働市場全体の不安定化や処

遇の低下、ひいては能力発揮への阻害につながるおそれがあり、それは企業の人的資

源の活用という中長期的観点からも望ましいことではない。そのような状況をもたら

さずにこのような働き方が広がっていくためにはどうすればよいのか、新たな雇用シ

ステムの構築も含め、多様な働き方がより望ましい形で広がるような方途を考える必

要がある。



 パート等の多様な働き方の拡大は、フルタイム正社員のウェイト低下とともに進行

しており、パート労働をめぐる諸問題は、ますます正社員を含めた労働市場全体に波

及する問題となりつつある。フルタイム正社員とパート非正社員という二者択一の中

では、短時間でも意欲と能力を持って働きたいと感じている層や就業意識の変化の中

で従来型の「会社人間」とは違った働き方を求める層など、ニーズの多様化した人材

の能力の十分な発揮は難しい。こうした意味で、フルタイム正社員の働き方の中にも

多様な選択肢を組み込むことが必要である。正社員も含めた雇用システムについての

新たな構想が求められている。

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