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IV「採用試験の実施」について

(1)基本的な考え方

 「採用試験」には、筆記試験のほか面接や適性検査などが含まれます。これらの試

験を実施するに当たって、(1)その対象から女性を排除すること、(2)試験の実施方法

や内容等を男女で異なる取扱いとすること、(3)その対象を女性のみとすることは、

均等法に違反します。


 <均等法に違反する採用試験の事例>

 (エントリーシート)

 ○ 男性には会社案内送付時にエントリーシートを同封するが、女性には来社しな

  いと渡さない


 ○ エントリーシートを男性又は女性の一方だけに提出させる


 ○ 男性と女性で異なる内容のエントリーシートを提出させる


 ○ エントリーシートを、女性は第一次選考に利用するが、男性は参考資料にとど

  める


 ○ 女性にだけエントリー時に成績表を添付させる

 (筆記試験)

 ○ 採用試験の受験を男性に限る


 ○ 総合職の採用試験を女性には受験させない


 ○ 女性には、浪人していない者、自宅通勤可能な者に限り受験資格を与える


 ○ 男性の採用試験が終了した後に女性の採用試験を行う


 ○ 男性に対してのみ、先行して非公式な採用試験を行う


 ○ 女性は、採用試験の受験資格を一定の大学の在学者又は卒業者、縁故者に限る


 ○ 筆記試験を女性にのみ実施する


 ○ 筆記試験の後、女性にだけ適性検査を行う

 (面接)

 ○ 男性は二次面接まで、女性は三次面接まで行う


 ○ 集団面接を男女別に行う


 ○ 男性の面接が終わってから女性の面接を行う


 ○ 女性のみに結婚後及び出産後も働き続ける意思があるかどうかを尋ねる


 ○ 女性のみに恋人の有無や結婚の予定など職業に直接関係のない事項について尋

  ねる


 ○ 女性のみに育児や親の介護をしてくれる者がいるかどうか尋ねる


 ○ 女性のみに残業や休日出勤、転居を伴う転勤に応じられるか否かを尋ねる


 ○ 集団面接で男性にばかり質問をする


 ○ 営業職を志望する女性に、なぜ女性なのに営業職を希望するのかと尋ねる


 ○ 営業職を志望する女性に、残業や出張が多いことを強調し、事務職としてなら

  採用すると説明する


 ○ 総合職に応募した女性のみに、全国転勤を強調し、一般職としてなら採用する

  と説明する


 ○ 技術職を志望する女性に、きつい現場作業で汚れる仕事なので、事務職として

  なら採用すると説明する


 ○ セクシュアルハラスメントに当たるような質問や発言をする


 ○ 「女性は使えない」、「女性には期待していない」、「女性は職場の花」とい

  った発言をする


 ○ 男性が能力を十分に発揮して仕事ができるよう、女性には細やかな心遣いが求

  められていると説明する


 ○ 「女性は結婚、出産したら家庭に入るべき」といった性別役割分担意識からの

  発言をする




(2)チェックポイント

◆1◆
 エントリーシートの受付や筆記試験の受付が男性に限られていたり、一部の女性に

しか受験させないことになっていませんか

  エントリーシートの受付や筆記試験の受付を男性に限定することは、採用試験の

 対象から女性を排除することになります。また、自宅通勤可能な者や縁故者など一

 部の女性にしか採用試験を受験させないことは、女性のみ採用試験の受験資格を一

 定範囲の者に限定することになります。いずれも採用試験において男女異なる取扱

 いが行われているので、改善が求められます。
  応募条件や受験資格は、客観的にみて男女同一なものとする必要があります。



◆2◆
 採用試験の実施時期、応募方法が男女で異なっていませんか

  同一の雇用管理区分の採用試験であるにもかかわらず、男女で採用試験の実施時

 期をずらし、女性の採用試験を男性の採用試験の後に実施することは、男性の選考

 後に女性の選考が行われ、男女別の採用予定人数が明示されてはいないものの、実

 質的に男女別に採用人数が設定されていることになります。また、応募用紙の形式

 を男女で異なるものとすること、女性にだけ追加的な資料を添付させることは、男

 女異なる基準で選考が行われることになります。いずれも女性に対する差別的取扱

 いとして、改善が求められます。
  採用試験の実施時期や応募方法は、客観的に見て男女同一なものとする必要があ

 ります。


◆3◆
 採用試験の実施に当たって、女性のみに追加的な試験を実施する等、男女異なる取

扱いが行われていませんか

  採用試験の実施に当たって、女性のエントリーシートは第一次選考に利用するが、

 男性は参考資料にとどめる、男性の面接は全員二次までで終了するのに対し、女性

 については全員三次面接まで行う、男性には実施しない適性検査を女性にだけ実施

 する等、筆記試験や面接等を実施する際に、試験内容や実施方法において男女異な

 る取扱いをすることは、男女異なる基準で選考が行われることになり、改善が求め

 られます。
  採用試験のいずれの過程においても、男女均等な取扱いが行われるよう、担当者

 に徹底させる必要があります。



◆4◆
 面接において、女性にだけ結婚後の就業意思を質問したり、「女性は職場の花」、

「女性は結婚、出産したら家庭に入るべきである」といった発言が行われていません

か

  面接において、女性にだけ結婚後の就業継続意思を質問すること、営業職や技術

 職など従来男性が就業していた職種を希望する女性に事務職としてなら採用すると

 説明すること、「女性は職場の花」、「女性は結婚、出産したら家庭に入るべきで

 ある」と発言する等、女性にだけ男性には質問しない一定の事項について尋ねるこ

 とや女性に対する差別的な発言を行うことは、根底に男女差別的な意識や固定的な

 男女役割分担意識があると考えられ、改善が求められます。
  また、男性にも同じ質問をすれば均等法違反にならないのかというと、必ずしも

 そうではありません。面接時に、男女に同じ内容の質問をしていても、男性につい

 ては採用・不採用の判断に影響なく単に形式的に質問しているにすぎないのに対し

 て、女性についてはその返答が採用・不採用の判断要素となるような場合には、選

 考が男女異なる基準で行われることになるからです。





(3)改善の方向

● 入社希望者の選考に当たり、エントリーシートを提出させるところが増えていま

 す。このエントリーシートは、様式や項目がそれぞれの企業で定められており、こ

 れを第一次選考に利用するところや、選考過程における参考資料として使うところ

 等、その内容や利用目的も様々です。エントリーシートを第一次選考に利用する場

 合はもとより、選考時の参考資料として利用するにとどめるケースについても、エ

 ントリーシートの提出が募集及び採用行為の一環として求められるものである以上、

 エントリーシートの受付や評価方法などで男女異なる取扱いをしないようにしてく

 ださい。

● 採用試験の応募受付時に男性又は女性の一方を排除したり、実施時期や応募方法、

 試験の内容で男女異なる取扱いをすることは、均等法に違反します。応募条件や応

 募方法は、客観的にみて男女同一になっている必要があります。

● 採用試験の中で最も重要なウエイトを占めるのが面接です。
  面接担当者は企業の代表であるという認識と責任を持ち、固定的な男女役割分担

 意識に基づく発言や、女性に差別的な質問を行わないよう、十分に注意する必要が

 あります。面接担当者が女性を排除することを意図していなくても、客観的に見て

 女性を排除することになったり、面接担当者一人の差別的な発言が企業全体の意思

 として解釈され、結果的に企業の社会的評価を低下させたり、優秀な女性の採用機

 会を逃すなど、企業にとってマイナスの結果をもたらすこともあります。
  面接担当者には、面接技術や観察力、感情に左右されないこと等が求められます。

 面接には客観的な判断が必要なため、複数の人で行ったり、担当者に女性を含める

 ことも効果的です。また、男女均等な採用方針、選考基準の徹底を図るために、面

 接担当者に対し研修等を行ったり、面接マニュアルや質問事項等を作成して配付す

 ることも有意義です。
  特に、採用面接でのセクシュアルハラスメントについては、どのような事柄が問

 題となるのか、個々人で認識の差があるので、企業としてガイドラインを示すなど

 して、問題が起こらないよう徹底させてください。


 <面接時に問題となる質問・発言>

 (1) 女性にだけ男性には質問しない事項を尋ねる


    ・女性には恋人の有無を尋ねる


    ・女性にはお茶くみをどう思うか尋ねる


    ・女性には既婚か未婚かを尋ねる


    ・女性には子の有無を尋ねる


    ・女性には何歳くらいで結婚したいか尋ねる


    ・女性には子を持つ予定があるかどうか尋ねる


    ・女性には結婚後も勤め続けるかどうかを尋ねる


    ・女性には出産後も勤め続けるかどうかを尋ねる


    ・女性には、将来、夫の転勤があっても働き続けるつもりがあるかどうかを

     尋ねる


    ・女性には定年まで勤めるつもりかどうかを尋ねる


    ・女性には転居を伴う配置転換に応じられるかどうかを尋ねる


    ・女性には時間外労働や休日労働、深夜勤務に応じられるかどうかを尋ねる


    ・女性にはスリーサイズを尋ねる


 (2) 女性に対する差別的発言を行う


    ・女性は職場の花である


    ・女性は結婚、出産したら家庭に入るべきである


    ・女性は扶養してもらえばよい


    ・女性は男性が働きやすいように気配りをするべきである


 (3) 本人に責任のない事項(出身地や家族に関すること、住宅状況や家庭環境に関

  することなど)、本来自由であるべき事項(宗教や生活信条に関すること、尊敬

  する人物や愛読書に関することなど)にかかわる事項を尋ねる


問題事例 男性に対してはグループ面接を実施し、女性に対しては個別に別室で面接

     を行い、面接担当者が恋人の有無やスリーサイズを質問した。

     セクシュアルハラスメントは、その対象となった女性に精神的、身体的に

    大きな影響を及ぼし、個人の名誉やプライバシーを傷つけ、女性の人権とい

    う観点から見逃せない問題です。
     採用面接においてセクシュアルハラスメントが起こると、優秀な人材の採

    用ができないばかりか、人権意識の乏しい会社として企業のイメージダウン

    は避けられず、企業の社会的評価にも影響しかねません。
     均等法では、職場におけるセクシュアルハラスメントの防止について、事

    業主の配慮義務を規定し、採用面接においても同様の配慮が必要です。
     人事担当者は、事前に面接時の質問事項についてのガイドライン等を示し、

    セクシュアルハラスメントに該当するような発言や質問を行わないよう、面

    接担当者に周知徹底を図る必要があります。

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