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                              平成11年2月

                              労働省労働基準局



          平成11年度労働基準行政の運営について





第1 労働基準行政を取り巻く情勢と課題

 1 経済情勢

   平成10年度の我が国経済は、金融機関の経営に対する信頼の低下、雇用不安

  などが重なって、家計や企業の消費や投資への意欲が冷え込み、消費、設備投資、

  住宅投資といった最終需要が減少するなど、極めて厳しい状況にある。最近の動

  向においても、個人消費は全体として低調で、設備投資が大幅に減少するなど、

  景気の低迷状態が長引いている。雇用情勢についても、完全失業率は4%を超え、

  有効求人倍率は0.5倍を下回るなどいずれも過去最悪の水準で推移しており、

  極めて厳しい状況にある。

   こうした中で、政府は、経済の回復基盤を固め、景気回復の動きを中長期的な

  安定成長につなげていくために、短期的に十分な需要喚起を行うとともに、供給

  サイドの体質強化を図るための構造改革も進めるなど、機動的弾力的な経済運営

  を行うこととしている。



 2 労働基準行政を取り巻く情勢

   現下の厳しい経済情勢を反映して企業倒産の件数及び負債額が戦後最悪に迫る

  水準となり、大型の企業倒産も続発する中で、解雇や賃金不払事案が数多く発生

  しており、また、企業の倒産によって賃金の支払を受けられない労働者に対して

  国が一定の範囲の未払賃金について立替払した額も、過去最高であった平成9年

  度の額を上回るものとなっている。

   さらに、企業倒産に至らない場合であっても、賃金不払等の事案の発生は予断

  を許さない状況にあり、賃金や労働時間等の労働条件の引き下げの問題も生じて

  いるところである。

   このような状況下、労働基準監督署においては、労働基準関係法令の違反に関

  する申告や、労働条件に関する相談が数多く寄せられており、それらの事案への

  対応を始め、労働基準関係法令の違反を防止、是正するための監督指導等が以前

  にも増して重要となっている。

   平成10年における年間総実労働時間は1,879時間、所定内労働時間は

  1,742時間と前年に比べそれぞれ21時間、8時間減少し、いずれも過去最

  低となった。週40時間労働制については、特例措置対象事業場を除き、平成9

  年度から全面的に適用されており、1年余りを経過した平成10年4月から5月

  に行った調査によると、8割を超える事業場で実施されている。

   さらに、労働災害による被災者数は、長期的に減少してきており、平成10年

  の死亡災害についても、前年と比較して大幅な減少が見込まれる状況にある。し

  かしながら、今なお被災労働者数は年間約60万人を数え、また、年間

  2,000人近い労働者が労働災害により尊い命を奪われており、加えて、橋梁

  架設工事における架設桁落下災害等、一度に多数の労働者が被災する重大な災害

  が依然として多く発生している。

   一方、労働者の健康を取り巻く状況をみると、職業性疾病の発生は、着実に減

  少しているものの、じん肺、腰痛、有機溶剤中毒等の疾病が依然として後を絶た

  ず、また、高齢化の進展、産業構造の変化等に伴い、脳や心臓の疾患につながる

  所見を有する労働者が増加しているとともに、現下の厳しい経済情勢の中で、職

  場生活において強い不安やストレスを感じている労働者の割合が増加している。

  さらに、最近では、ダイオキシン類や内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン

  )等の化学物質に対する関心が社会的に高まっている。

   また、最近の労災請求事案をみると、リストラ等厳しい雇用環境の下、「過労

  死」事案もさることながら、精神障害や自殺に係る事案も増加傾向にあり、社会

  的にも大きな関心を集めており、今後も当該事案の労災請求が一層増加すること

  が見込まれる。



 3 労働基準行政の課題

(1)現下の厳しい経済情勢下での労働条件の確保・改善

   長引く景気の低迷状態に加え、産業、就業構造等が大きく変化する中で、解雇

  や労働条件の引き下げ等の問題が生じている状況に対応するため、問題のある事

  案に関する情報を早期に把握することによる迅速な対応や申告・相談への的確な

  対応を図る必要がある。

   また、労働条件の明確化等による基本的な労働条件の枠組みの確立、労働時間

  管理の適正化等による法定労働条件の履行確保を図るとともに、労働条件に関す

  る紛争について、その自主的解決を促進するための必要な情報提供や紛争解決援

  助制度の積極的な運用等を行い、労働基準行政の社会的役割を果たすことが求め

  られている。

(2)改正労働基準法の円滑な施行

   平成10年9月30日に公布された労働基準法の一部を改正する法律の大部分

  が平成11年4月1日から施行されるため、その周知徹底及び円滑な施行を図る

  ことが重要である。

   また、改正労働基準法のうち平成12年4月1日施行部分について、関係省令

  等の整備等施行準備を進める必要がある。

(3)年間総実労働時間1,800時間の達成等労働時間に関する課題

   週40時間労働制の定着には一定の成果が得られたことを踏まえ、さらに年間

  総実労働時間1,800時間の達成に向けて、週40時間労働制の遵守の徹底に

  努めるとともに、業種、規模ごとの実情に応じた労働時間短縮の促進等労働時間

  対策の推進を図る必要がある。

(4)産業保健活動の推進等労働者の安全と健康の確保に関する課題

   依然として発生する労働災害の状況等を踏まえ、平成10年度からスタートし

  た第9次の労働災害防止計画に基づき、死亡災害が多発している建設業対策を始

  めとする労働災害の大幅な減少を図るための施策を展開するとともに、労働者の

  健康管理の充実や産業保健活動の推進、ダイオキシン類や内分泌かく乱物質等新

  種有害物質への対応の充実等労働者の健康を確保するための施策、さらには、安

  全衛生管理活動の促進等事業場における安全衛生水準の一層の向上を図るための

  施策を推進していく必要がある。

(5)複雑・困難な労災請求事案への対応等労災補償に関する課題

   複雑・困難な「過労死」や精神障害事案等については、被災労働者及びその遺

  族の早期救済という労働者災害補償保険法の基本理念に基づき、より一層、迅速

  ・適正な労災補償の実施に努める必要がある。

   また、重度被災労働者に対する介護施策については、近年の核家族化の進展や

  重度被災労働者及びその介護に当たる者の高齢化等により、家族の介護負担が大

  きくなっていることにかんがみ、体系的に施策を推進していく必要がある。







第2 平成11年度労働基準行政の重点対策

   平成11年度の労働基準行政の運営に当たっては、上記第1のような情勢と行

  政に与えられた課題を踏まえ、現下の厳しい経済情勢等を反映した労働条件に係

  る問題の増加の中での労働条件の確保・改善対策の推進を始めとして、より質の

  高い労働条件、労働環境の実現を図ることを目指し、労働者が健康で安心して働

  くことができるよう、以下に示す対策を重点として行政を推進していく必要があ

  る。

 1 労働条件の確保・改善対策

(1)現下の厳しい経済情勢下での一般労働条件の確保・改善対策

   現下の厳しい経済情勢等により、労働条件の内容に大きな変化が見られ、賃金

  等の労働条件の引き下げや解雇等の事案が生じている。また、労働条件の管理に

  ついては、一部に不適切な労働条件管理を行い、労働基準法を逸脱するなどの問

  題が見受けられるところであるが、厳しい経済情勢の下において、このような問

  題の増加が懸念される。

   いかなる経済情勢下においても、法定労働条件は適切に守られるべきものであ

  り、そのための的確な対応が求められており、労働基準関係法令に規定された労

  働条件の明示、労働時間の管理、就業規則の作成・届出、健康管理等の法定労働

  条件の確保を図るため、一般労働条件の確保・改善対策を積極的に推進すること

  とする。

(2)解雇、賃金不払事案等に対する的確な対応

 イ 管内の経済状況の把握、倒産に係る情報の早期把握及び問題事案の発生の未然

  防止

   企業倒産が引き続き増加していることから、管内の経済情勢を注視し、企業の

  動向を的確に把握するよう努める。

   また、企業倒産、事業場閉鎖等の情報を把握した場合には、賃金・退職金の支

  払状況、社内預金の保全状況等を早期かつ的確に把握し、賃金不払等労働基準関

  係法令違反の発生の防止及びその早期解決に努める。

 ロ 解雇、賃金不払事案等の申告・相談に対する的確な対応

 (イ)労働基準関係法令違反事案等への対応

    解雇、賃金不払等の労働条件に関する申告・相談がなされ、労働基準関係法

   令上の問題が認められる場合には、その解決のための迅速・的確な処理を行う

   とともに、労働基準関係法令上の問題が認められない場合であっても、関連す

   る裁判例等の申告・相談者が必要とする情報を提供するなど懇切丁寧な対応に

   努める。

    また、労働条件をめぐる相談体制の強化のため、主要都市に開設した「労働

   条件相談センター」については、平成10年4月に策定された「総合経済対策

   」及び平成10年11月に策定された「緊急経済対策」の一環として実施され

   ている「緊急雇用開発プログラム」に盛り込まれていること等も踏まえ、その

   効果的な運用に努める。

 (ロ)紛争解決援助制度の積極的な運用

    個別の労使間の解雇、配置転換等に係る労働条件に関する紛争を内容とする

   申告・相談が増加傾向にあることから、労使の自主的な紛争解決を促進するた

   め、これらの紛争の当事者の求めに応じて労働基準法第105条の3に基づく

   紛争解決援助制度を積極的に運用し、紛争の早期解決のための適切な助言又は

   指導を実施する。

(3)未払賃金立替払制度の迅速かつ適正な運営

   厳しい経済情勢等に対応し、企業倒産により賃金の支払が受けられない労働者

  に対する未払賃金立替払制度については、前述の「緊急雇用開発プログラム」に

  おいても未払賃金立替払の迅速化が盛り込まれているところであり、今後も制度

  の周知を図るとともに、その迅速かつ適正な事務処理に努める。

(4)新規起業事業場の労働条件整備サポート事業の実施

   新たに事業を開始する事業場の適正な労働条件の整備を促進するため、雇用促

  進センターとの連携を図りつつ、多種多様な業務、業態や複雑な就労、賃金等の

  形態等個々の事業場の状況に応じて、労働条件の整備及び適正な管理のための指

  導・援助を行う「新規起業事業場の労働条件整備サポート事業」を実施する。

(5)最低賃金制度の適正な運営

   地域別最低賃金については、地域の実情に応じた適正な改正を行う。

  産業別最低賃金については、地域別最低賃金との関係にも配慮しつつ、平成10

  年12月10日に取りまとめられた中央最低賃金審議会産業別最低賃金に関する

  全員協議会報告を踏まえ、各産業における企業経営や賃金の実態等に応じた円滑

  な改正等を行う。

   また、経済情勢の悪化に伴い、最低賃金違反が増加することのないよう、最低

  賃金制度のより一層の周知徹底に努めるとともに、問題のある地域、業種を的確

  に把握しつつ、その遵守を徹底する。

(6)賃金・退職金制度改善の推進

   平成11年度より全都道府県で実施することとなる「中小企業賃金制度支援事

  業」を効果的に推進するとともに、企業に対する的確な情報提供等により、賃金

  制度の整備・改善を図る。

   また、大蔵省及び厚生省との共同による企業年金に関する包括的な基本法の制

  定についての検討状況も踏まえつつ、今後の企業年金制度の在り方に関する総合

  的な検討を行う。

(7)その他

 イ 障害者である労働者の労働条件確保対策の推進

   障害者である労働者の労働環境の整備が強く求められる状況の中で、引き続き

  その法定労働条件の履行確保を図るため、関係機関との連携の下、これら労働者

  を使用する事業主に対する啓発・指導に努めるとともに、的確な情報の把握を行

  い、問題事案の発生の防止及び早期是正に努める。

 ロ 短時間労働者の労働条件確保対策の推進

   短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律及び平成11年4月1日から適

  用される「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関

  する指針」(平成11年2月8日労働省告示第6号により改正)の趣旨及び内容

  についての周知・啓発に引き続き努めるとともに、事業主による自主的な取組を

  促進する。

   また、「パートタイム労働者の労働災害防止事業」の円滑な推進を図る。

 ハ 外国人労働者対策の推進

   外国人労働者にも労働基準関係法令が適用されることを周知徹底するとともに、

  「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」に基づく啓発・指導等により、

  引き続き外国人労働者の適正な労働条件及び安全衛生の確保対策を推進する。

   また、技能実習生については、労働契約の締結、賃金の支払等法定労働条件の

  履行確保について、その徹底を図る。

 ニ 出稼労働者の労働条件確保対策の推進

   「出稼労働者対策要綱」等に基づき、適正な賃金の支払の確保、有給休暇制度

  の普及促進、労働災害の防止、健康管理の充実等を重点に対策を引き続き推進す

  る。



 2 改正労働基準法の円滑な施行

(1)改正労働基準法等の周知等

   平成11年4月1日から施行される労働基準法の一部を改正する法律及びその

  関係省令等について、周知計画に基づき、関係行政機関等に対する協力依頼、広

  報活動等を実施し、また、集団指導、説明会、監督指導時及び窓口での対応時等

  あらゆる機会をとらえて周知を図るとともに、今回の法改正の趣旨を十分に踏ま

  えた厳正かつ的確な監督指導の実施を通じ、その円滑な施行を図る。

(2)改正労働基準法関係省令等の整備

   改正労働基準法のうち平成12年4月1日施行部分について、関係省令等の整

  備等施行準備に万全を期する。



 3 労働時間対策

(1)業種、規模ごとの実情に応じた労働時間短縮の促進等労働時間対策の推進

 イ 小規模事業場を中心とした労働時間の短縮対策

   週40時間労働制について、2年間の指導期間中のきめ細かな指導、援助等に

  より8割以上の事業場で実施されているという実績を踏まえ、引き続き、その遵

  守の徹底に努める。

   特例措置については、その水準及び実施時期を中央労働基準審議会において検

  討しており、その結果を踏まえ、特例措置対象事業場における労働時間短縮のた

  めの適切な対応を行う。

 ロ 労働時間短縮支援センターの活用等による指導・援助

   労働時間短縮支援センターの実施する「中小企業時短促進援助事業」等を活用

  し、年間総実労働時間1,800時間の達成に向けた指導・援助を効果的に実施

  する。

   また、引き続き、「労働時間短縮実施計画」の承認制度を活用するとともに、

  労働時間短縮のための自主的な取組を行う事業主団体に対する助成制度の活用を

  図る。

 ハ 自動車運転者の労働時間等の改善対策

   「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の遵守の徹底等により、自

  動車運転者の労働時間等の労働条件の改善を図る。

(2)所定外労働の削減対策の推進

 イ 時間外労働の適正化の推進

   長時間の時間外労働の実効ある抑制を図るため、改正労働基準法第36条第2

  項に基づく「時間外労働の限度基準」等が労使当事者に遵守されるよう指導を行

  う。

 ロ 「所定外労働削減要綱」に基づく広報・啓発

   「所定外労働削減要綱」に基づき、各種集団指導、説明会等の機会を利用して

  所定外労働削減のための広報・啓発を行う。

(3)年次有給休暇の取得促進

   「ゆとり休暇推進要綱」に基づき、年次有給休暇の取得促進のため、広報・啓

  発及び労使の自主的取組に対する指導・援助を行う。また、業種や地域の事業主

  団体が業界、地域の特性に即した年次有給休暇の積極的かつ有効な活用を促進す

  るための必要かつ効果的な条件、体制を検討し、その実現のための手法を開発す

  る「活力とゆとりをめざす休暇推進モデル事業」等を推進する。

(4)深夜業に関する労使の自主的な取組の促進

   深夜業については、関係労使による業種、職種、勤務形態等に応じた取組によ

  り就業環境等の整備が進むよう「労使による深夜業に関する自主的ガイドライン

  作成支援事業」を実施し、主要業種ごとの自主的ガイドラインを作成するための

  関係労使の話し合いを促進する。

(5)フレックスタイム制や裁量労働制の普及促進及び指導・援助

   フレックスタイム制及び裁量労働制の普及促進を図るとともに、これらの制度

  の適用を受ける労働者について適正な労働条件が確保されるよう事業主に対する

  指導援助を行う。

   また、改正労働基準法に基づく新たな裁量労働制については、労使委員会が決

  議する事項に関する指針ほか施行関係の省令、告示を制定する等の準備を行うと

  ともに、制度の適正な運用を確保するため、周知・広報を精力的に実施する。



 4 労働者の安全と健康確保対策

(1)労働災害を大幅に減少させるための施策の展開

 イ 建設業における労働災害防止対策の推進

   平成5年3月31日付け基発第214号「建設業における総合的労働災害防止

  対策の推進について」に基づいた対策を引き続き的確に実施する。特に、元方事

  業者に対しては、「元方事業者による建設現場安全管理指針」の周知徹底を引き

  続き図るとともに、「中小総合工事業者指導力向上事業」の円滑な実施等により

  中小総合工事業者の安全水準の向上を図る。併せて、「専門工事業者安全管理活

  動等促進事業」の円滑な実施等により、専門工事業者の安全管理能力の向上を図

  る。

   木造家屋等低層住宅建築工事については、「足場先行工法に関するガイドライ

  ン」の周知徹底、「木造家屋等低層住宅建築工事安全対策推進モデル事業」の円

  滑な実施等により足場先行工法の普及定着を図り、墜落災害の防止を徹底する。

   砂防工事等土石流による労働災害が発生するおそれのある建設工事については、

  改正労働安全衛生規則(土石流関係)及び「土石流による労働災害防止のための

  ガイドライン」の周知徹底を図るとともに、「土石流労働災害防止モデル事業」

  の円滑な実施等により当該対策の普及促進を図る。

   また、橋梁架設工事等における重量物のつり上げ、つり降ろし作業における労

  働災害防止対策を徹底する。

 ロ 交通労働災害防止対策の推進

   交通労働災害を防止するため、「交通労働災害防止のためのガイドライン」の

  周知を図るとともに、「交通労働災害防止対策推進事業」を実施する。

   また、交通労働災害防止担当管理者教育及び自動車運転業務従事者に対する教

  育の推進を図る。

   さらに、「交通労働災害防止関係機関連絡協議会」の実効ある開催等により警

  察・陸運局等の関係行政機関及び関係団体との連携を強化する。

 ハ 第三次産業における労働災害防止対策の推進

   「映画、テレビ番組等の撮影現場における労働災害防止のためのガイドライン

  」を始めとする業種別の労働災害防止対策ガイドラインの周知徹底を図るととも

  に、業界団体の自主的な活動の促進のための支援を行う。

 ニ 機械設備による労働災害防止対策の推進

   木材加工用機械、プレス機械による労働災害を防止するため、当該機械の一層

  の安全化、作業の安全化等を総合的に推進する。

   機械設備による災害を防止するため、すべての機械設備に適用される包括的な

  安全基準の検討を行う。併せて、メーカーからユーザーに対して機械設備の危険

  情報の開示を行わせるための検討を行う。

   また、クレーン等による災害の中で玉掛けに関する災害の占める割合が高いこ

  とから、「玉掛けの安全作業に係るガイドライン(仮称)」の徹底を図る。

 ホ 爆発・火災災害防止対策の推進

   引き続き化学工業における爆発・火災災害防止対策の徹底を図るとともに、新

  たに策定する「廃棄物処理業等における爆発・火災防止のためのガイドライン

  (仮称)」の周知を図る。

   また、「化学プラントに係るセーフティ・アセスメントに関する指針」を改正

  し、その周知を図る。

 ヘ 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進

   従来、若年労働者が中心であった職場にも高年齢労働者が増加しつつあること

  を踏まえ、高年齢者と若年者が共に働く職場における労働災害防止対策について

  引き続き検討を行う。

 ト 中小企業における労働災害防止対策の推進

   「中小企業安全衛生活動促進事業助成制度」における認定集団の安全衛生活動

  の一層の活性化及び当該助成期間終了後の集団(登録集団)に対する安全衛生活

  動の継続的実施を図るための指導・援助を行う。

   また、新たに「小規模事業場等団体安全衛生活動援助事業(仮称)」を実施す

  ることにより、小規模事業場団体及びその構成事業場の安全衛生活動の活性化を

  図るとともに、引き続き労働安全衛生融資及び産業安全衛生施設等融資(いわゆ

  る単品融資)の積極的な活用の促進を図る。

   さらに、引き続き「労働災害防止特別安全衛生診断事業」を実施する。

(2)労働者の健康を確保するための施策の展開

 イ 産業保健活動の推進

   事業場における労働者の健康管理を促進するため、産業医、衛生管理者による

  職場巡視等の産業保健活動の推進を図る。

   特に、小規模事業場における労働者の健康管理を促進するため、地域のニーズ

  に即した地域産業保健センターの活性化及び機能の充実を図るとともに、「小規

  模事業場産業保健活動支援促進事業」の一層の推進を図る。

   また、産業保健推進センターの整備を進めるとともに、地域産業保健センター

  の支援等の事業活動の強化を図る。

 ロ 勤労者医療の推進

   職場に起因するメンタルヘルス、産業中毒、脳・心臓疾患、勤労女性の健康等

  の問題に適切に対応するため、労災病院においては、職場に起因する疾病に関す

  る医療全体の水準の向上に貢献するとともに、そうした疾病に対して予防から治

  療及びリハビリテーションに至るまでの一貫した勤労者医療を提供することによ

  り、その専門性を十分発揮していく。

   また、労災病院に蓄積された職業と疾病に関する臨床的研究成果その他の勤労

  者医療に関する専門的知見を産業医、都道府県産業保健推進センター、労災指定

  医療機関等に提供すること等により、労災病院のセンター的機能を強化し、勤労

  者医療に関するネットワーク化を図る。

 ハ 事業場における健康保持増進対策の推進

   職場における心身両面にわたる健康保持増進対策(トータル・ヘルスプロモー

  ション・プラン:THP)の一層の普及を図るため、中小規模事業場への導入・

  定着方策の検討を行う。

 ニ 職場における精神的ストレス等への積極的対応

   ストレス等による健康障害予防のための総合的調査研究を引き続き行う。また、

  職場における精神的ストレス等への具体的対応方法について検討委員会を設置し、

  その結果を踏まえ、職場におけるメンタルヘルスに関する支援体制の整備等を図

  る。

 ホ 職業性疾病予防対策等の推進

   じん肺の発生及び進行の防止を図るため、平成10年度から実施している第5

  次粉じん障害防止総合対策に基づく中長期的観点に立脚した適正な作業環境管理、

  作業管理及び健康管理の推進を図る。

   また、屋外等における有害業務について、「屋外作業等における有害物へのば

  く露低減化のための濃度測定等に関するガイドライン(仮称)」を策定し、その

  周知を図る。

   さらに、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の取入れ等に伴う電離放射線

  障害防止規則等の見直しを行う。

   一方、職場におけるパソコンの普及、VDT関連機器の変化等のVDT作業を

  取り巻く状況の変化等を踏まえ、VDT作業における労働衛生管理対策の推進を

  図る。

 ヘ 化学物質に係る健康障害予防対策の推進

   ダイオキシン類対策について、ごみ焼却施設におけるダイオキシン類対策の徹

  底を図るとともに、今後も調査研究を継続し、適宜必要な対策を行う。

   他方、内分泌かく乱作用が疑われる物質を取り扱う事業場における労働者のば

  く露状況を把握するための調査を実施する。

 ト 改正労働安全衛生法の施行に向けての準備及び周知

   深夜業従事者の健康管理の充実及び事業場における自主的な化学物質管理の促

  進を図るための化学物質の有害性等の情報提供の義務化等に係る労働安全衛生法

  の改正等に関し、その施行に向けての準備及び周知の徹底を図る。

(3)事業場における安全衛生水準の一層の向上を図るための施策の展開

 イ 事業場における安全衛生管理活動の活性化の推進

   事業場において、「計画−実施−評価−改善」という一連の過程を明確化した

  継続的な安全衛生管理の仕組みを確立し、労働災害発生の潜在的危険性を低減さ

  せるため、「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(仮称)」の周知

  を図るとともに、「労働安全衛生マネジメントシステムの普及促進事業(仮称)

  」によりその効果的な普及を図る。

 ロ 労働者の安全衛生意識の高揚等

   労働災害防止の鍵を握る職長クラスの安全管理に対する意欲を高めるため、安

  全優良職長に対する顕彰制度を的確に実施するとともに、「安全優良職長ネット

  ワーク事業」の円滑な実施等により、安全優良職長を核とした労働者の安全衛生

  意識の高揚を図る。

 ハ 安全衛生情報センターにおける情報提供等の実施

   事業者の安全衛生管理水準の向上を図る上で必要な労働災害に関する統計資料

  や災害事例、改善事例、技術情報、調査研究情報、化学物質情報等の収集・加工

  ・提供を行う。

 ニ 職場環境の快適化の推進

   女性の就業分野の拡大等に対応した快適化の措置に関する普及啓発を行うとと

  もに、高年齢者に配慮した快適化の措置の事例の収集を行う。

   また、労働者の意見の把握等に基づく継続的・組織的な快適化の取組のための

  管理手法を策定する。

   さらに、改正された「快適職場推進計画認定要綱」に基づく円滑な認定を行う。

(4)国際化に対応した安全衛生対策の推進

   海外派遣労働者の安全衛生を確保するため、国際安全衛生センターにおいて、

  海外進出企業等に対する安全衛生情報の提供及び開発途上国の安全衛生指導者に

  対する教育等を実施するとともに、安全衛生専門家の派遣等を行う。

(5)規制緩和への対応

   「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31日 閣議決定)に規定され

  た事項について適切な対応を図る。

(6)安全衛生分野における科学技術研究等の推進

   産業安全研究所及び産業医学総合研究所について研究評価体制の充実等を図る

  とともに、労働災害の減少を図るための研究、職業性疾病予防のための研究、技

  術革新の進展等に伴う安全衛生問題に関する研究等を総合的に推進する。



5 労災補償対策

(1)労災保険給付の迅速・適正な処理

   労災保険給付の処理に当たっては、基本的業務の徹底を図ることはもとより、

  業務上疾病の複雑・困難事案等については、その事務処理に長期間を要している

  ものも見られることから、その解消及び発生を防止するため的確な調査計画の策

  定、管理者等の適切な進行管理、地方労災医員等の効果的な活用等により、迅速

  ・適正な事務処理を推進する。

   なお、近年、精神障害に係る自殺等の労災請求事案の急増や業務上疾病に係る

  医学的知見が示される等により、新たな対応が必要となってきていることから、

  精神障害等に関する判断のよりどころとなるものの策定等について検討する。

   また、障害等級認定基準等については、最近の医学的知見の動向等を踏まえ、

  現行の障害等級認定基準等の問題点を把握・分析することによりこれらの見直し

  に向け検討を行う。

  労災診療費の審査については、財労災保険情報センターとの連携により的確な審

  査を行うとともに、医療機関からの誤請求について、労災診療協議会等を通じた

  都道府県医師会等の協力、誤請求の多い医療機関に対する指導の強化等により、

  その解消に努め、柔道整復師の施術料金についても的確な審査に努める。

   第三者行為災害については、適正な求償に努めるとともに、的確な納入督励や

  時効中断措置により適正な債権の管理を図る。

(2)重度被災労働者に対する介護施策の推進

   在宅での介護に関する専門的な相談援助を行う「労災ケアサポート事業」、在

  宅の重度被災労働者に対して介護サービスを提供する「労災ホームヘルプサービ

  ス事業」、安価な料金で介護機器を活用できる「介護機器レンタル事業」を推進

  するとともに、労災特別介護施設(ケアプラザ)の計画的整備を進めるほか、当

  該施設を活用した短期滞在介護サービス等を提供する。

(3)被災労働者の早期社会復帰対策の総合的推進

   長期療養者については、症状固定後の職場生活順応への危惧、健康維持への不

  安等が社会復帰の阻害要因となることが多いことから、各種援護金、アフターケ

  ア及び義肢等補装具支給制度の活用により、早期の社会復帰を図るとともに、併

  せて個々の症状に応じた適正給付対策を行うことにより、療養から社会復帰まで

  の一貫した総合的対策を推進する。







第3 労働基準行政展開に当たっての基本的対応

 1 計画的・効率的な行政の運営

   労働基準行政の運営に当たっては、現下の厳しい経済情勢、管内の労働災害の

  発生状況等に的確に対応するために、管内事情を継続的に把握しつつ、これに即

  した重点課題を自主的かつ的確に選定し、重点指向に徹した運営を図る。

   また、重大事故の発生に対しては、局内各課・署内各課(方面)の連携、協力

  の下に、局署一体となって迅速かつ的確に対応するとともに、労働災害の多発等

  管内事情の変化に対しては、機動的に対応する。



 2 各種手法による的確な行政展開

(1)的確かつ厳正な監督指導の実施

   労働基準監督機関の基本的使命は、臨検監督を中核とした各種の監督指導を通

  じ、法定労働条件の履行確保を図ることにあり、現下の厳しい経済情勢等により、

  労働条件の確保・改善への対応が重要な課題となっている状況において、労働基

  準監督機関としては、一層的確な監督指導の実施を期する。

   さらに、重大又は悪質な法違反の事案や同種の法違反を繰り返す事案に対して

  は司法処分に付するなど厳正に対処する。

(2)各種指導援助等の積極的効果的展開

   現下の厳しい経済情勢に対応し、また、産業、就業構造、就業意識が変化する

  状況に対応した労働基準行政の積極的展開を図るため、労働条件の確保・改善を

  始め、労働時間の短縮、自主的な労働災害防止活動の促進、労働者の健康確保、

  労働福祉の増進等に関する指導援助等を積極的効果的に実施する。

   また、労働者、事業主等が利用しやすい相談窓口を設置する等相談援助体制の

  充実に引き続き配慮する。

   さらに、労働基準法第105条の3に基づく紛争解決援助制度の積極的な運用

  を図り、紛争の早期解決のための適切な助言又は指導を実施する。

(3)労働基準行政情報システムの積極的な活用

   的確な行政の展開に必要な情報を効率的に把握し、また、日常業務の一層の効

  率化を図るため、労働基準行政情報システムが保有する個別事業場情報、労働災

  害情報等の各種情報を局署の実情に応じて分析の上、管内状況を把握する等、シ

  ステムの積極的な活用を推進する。

(4)関係者との積極的連携

 イ 的確かつ効果的な広報の実施等

   広報活動は、労使はもとより国民全体の労働基準行政に対する理解と信頼を高

  めるために重要であることから、行政を取り巻く状況を的確に把握し、適切な時

  期・手段により、創意工夫した効果的な広報活動を積極的に推進する。

 ロ 労使等のコンセンサスの形成

   労働基準行政の適切、円滑な運営を図っていくため、関係労使団体に対し、施

  策の推進について、本省から幅広く積極的な働きかけを行うとともに、局及び署

  においても、経営者協会、中小企業関係団体や労働団体等に対し、各種会議・会

  合の場や広報誌の活用を図る等幅広く積極的な働きかけを行うことにより、効率

  的な行政の運営に努める。

   また、地方労働基準審議会の活用等により、労使に対し行政施策についての理

  解と協力を求めるよう努める。

 ハ 関係団体との積極的連携

   労働基準行政を効率的・効果的に推進していくに当たっては、労働基準協会、

  労働災害防止団体、労働福祉事業団等関係団体の協力が不可欠であり、これら団

  体等と必要な情報を共有し、施策の推進を図る等、密接な連携を図る。

 ニ 関係行政機関との積極的連携

   本省において、事業所管官庁等関係行政機関との連携の強化に努めるとともに、

  局及び署においても、都道府県女性少年室、都道府県労働主管部局、公共職業安

  定所等の労働行政機関はもちろん、地方公共団体を始めとする関係行政機関との

  間で、各種施策の遂行について積極的かつ密接な連携を図る。



 3 情報公開等への対応

   労働基準行政機関が管理する文書の公開については「行政情報公開基準」(平

  成3年12月11日 情報公開問題に関する連絡会議申合せ)に基づき、また、

  審議会等の公開については「審議会等の透明化見直し等について」(平成7年9

  月29日 閣議決定)に基づき、それぞれ的確な対応を図る。

   さらに、国民の申請負担の軽減を図るため、「押印見直しガイドライン」(平

  成9年7月3日 事務次官等会議申合せ)に基づき押印の見直しを行ったことに

  ついて、その周知及び適正な運用等に努める。




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