I 労働契約に係る制度の在り方 1 労働契約内容の明確化 労働市場をめぐる環境が変化する中では、労働契約に係るルールや労働契約の 内容が明確となっており、労働者及び使用者が予見可能性を持って納得した上で 行動できるようにすることが重要であるが、このような明確化は、労働契約の終 了に際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決に資するものと考えられ ることから、次のとおり、労働契約内容の明確化を図ることが必要である。 (1)就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」について、 「解雇の事由」が含まれることを明らかにすること。 この場合に、各事業場において解雇の事由が就業規則に適切に記載されるよ う、現在、事業場において就業規則を作成する際の参考とするために作成し ている「モデル就業規則」について見直しを行い、その普及に努めることが 適当であること。 (2)使用者が労働契約の締結に際し書面の交付により明示すべき労働条件とし て、「退職に関する事項」に「解雇の事由」が含まれることを明らかにする こと。 2 労働契約の期間 (1)有期労働契約の期間の上限について 我が国においては、長期継続雇用が基幹的な労働者を中心に今後も基本的な 就業形態であり続けると考えられるが、一方で雇用形態の多様化が進んでおり、 このような状況の下では、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態と して活用されるようにしていくことが必要である。このため、有期契約労働者 の多くが契約の更新を繰り返すことにより一定期間継続して雇用されている現 状等を踏まえ、有期労働契約の期間の上限について、現行の原則である1年を 3年に延長するとともに、公認会計士、医師等専門的な知識、技術又は経験で あって高度なものを有する労働者を当該専門的な知識、技術又は経験を必要と する業務に従事させる場合及び満60歳以上の高齢者に係る場合については、 5年とすることが必要である。 この場合に、有期労働契約の期間の上限を延長することに伴い、合理的理由 なく、企業において期間の定めのない労働者について有期労働契約に変更する ことのないようにすることが望まれる。 本項目については、労働者側委員から、有期労働契約の期間の上限を延長す ることに伴い、企業において、期間の定めのない労働者の雇用に代えて有期契 約労働者の雇用にするケースや、新規学卒者の採用に当たって3年の有期労働 契約とすることにより事実上の若年定年制となるケースが増大するのではない か、との強い懸念があり、常用代替が進まぬよう、一定の期間を超えて雇用さ れた場合の常用化や期間の定めのない労働者との均等待遇等を要件とすべきで あるとの意見があった。一方、使用者側委員から、企業においては、基幹労働 者は基本的に期間の定めのない雇用としており、今回の見直しに伴って基幹労 働者を有期労働契約とすることは考えにくいとの意見があった。 有期労働契約の期間の上限を延長した場合において、トラブルの発生につい て状況を把握し、当分科会に報告することとされたい。 (2)有期労働契約の締結及び更新・雇止めに係るルールについて 有期契約労働者について適正な労働条件を確保するとともに、有期労働契約 が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにしていくためには、 有期労働契約の締結及び更新・雇止めに際して発生するトラブルを防止し、そ の迅速な解決が図られるようにする必要がある。 このため、労働基準法において、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関 する基準を定めることができる根拠規定を設け、有期労働契約を締結する使用 者に対して必要な助言及び指導を行うこととし、当該基準においては、一定期 間以上雇用された有期契約労働者について使用者が契約を更新しないこととす るときは、当該労働者に対して更新しない旨を予告すること等を定めることと することが必要である。 (3)その他 有期労働契約の果たす役割など有期労働契約の在り方については、上記(1) の状況把握を踏まえ、雇用形態の在り方が就業構造全体に及ぼす影響を考慮し つつ、今後引き続き検討していくことが適当である。 3 労働契約終了等のルール及び手続 (1)労働契約終了のルール及び手続の整備について イ 労働契約の終了が労働者に与える影響の重大性を考慮するとともに、解雇 に関する紛争が増大している現状にかんがみると、労働契約終了のルール及 び手続をあらかじめ明確にすることにより、労働契約の終了に際して発生す るトラブルを防止し、その迅速な解決を図ることが必要である。 ロ このため、労働基準法において、判例において確立している解雇権濫用法 理を法律に明記することとし、使用者は、労働基準法等の規定によりその使 用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解 雇できるが、使用者が正当な理由がなく行った解雇は、その権利の濫用とし て、無効とすることとすることを規定することが必要である。 この場合に、判例上の解雇権濫用法理が使用者及び労働者にこれまで十分 に周知されていなかった状況があることから、この規定を設けるに当たって は、これまでの代表的な判例及び裁判例の内容を周知すること等により、こ の規定の趣旨について十分な周知を図るとともに、必要な相談・援助を行う こととすることが適当である。 ハ また、解雇をめぐるトラブルを未然に防止し、その迅速な解決を図る観点 から、退職時証明に加えて、解雇を予告された労働者は、当該解雇の予告が なされた日から当該退職の日までの間においても、使用者に対して当該解雇 の理由を記載した文書の交付を請求できることとすることが必要である。 ニ なお、上記ハと同様の観点から、上記1の(1)で述べたとおり、就業規則 の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」について、「解雇の事 由」が含まれることを明らかにすることが必要である。 (2)裁判における救済手段について 解雇の効力が裁判で争われた場合において、裁判所が当該解雇を無効として、 解雇された労働者の労働契約上の地位を確認した場合であっても、実際には原 職復帰が円滑に行われないケースも多いことにかんがみ、裁判所が当該解雇は 無効であると判断したときには、労使当事者の申立てに基づき、使用者からの 申立ての場合にあっては当該解雇が公序良俗に反して行われたものでないこと や雇用関係を継続し難い事由があること等の一定の要件の下で、当該労働契約 を終了させ、使用者に対し、労働者に一定の額の金銭の支払を命ずることがで きることとすることが必要である。 この場合に、当該一定の金銭の額については、労働者の勤続年数その他の事 情を考慮して厚生労働大臣が定める額とすることを含めて、その定め方につい て、当分科会において時間的余裕をもって検討することができるよう、施行時 期について配慮することが適当である。 (3)その他 労働条件の変更、出向、転籍、配置転換等の労働契約の展開を含め、労働契 約に係る制度全般の在り方について、今後引き続き検討していくことが適当で ある。