(概要) T 諸外国における「ファミリー・フレンドリー」企業 1 諸外国における「ファミリー・フレンドリー」の概念 「ファミリー・フレンドリー」とは、おおまかにいえば、「労働者の家族 的責任に配慮した」という意味であり、80年代以降、欧米において普及し ている。 「ファミリー・フレンドリー」の概念が登場した背景には、@女性の職場 進出、A家族形態の変化、B男女労働者の意識の変化、C人口の少子・高齢 化がある。 「ファミリー・フレンドリー」という概念には、国際的に確立した定義は ないといわれる。しかし、以下の3点は、共通して指摘される。 @ 「ファミリー」とは、夫婦と子どもからなる世帯のみでなく、単独世帯 など多様な家族形態を含むこと。また、女性のみでなく、男性にも「フレ ンドリー」であること。 A 従来の人事管理制度と働き方を、労働者の家庭の事情に対応できる柔軟 なものに変えていく必要があること。 B これに加えて、「仕事の場に家庭の事情を持ち込むべきではない」「男 性は仕事に従事し、女性は家庭を守る」べきだという社内の人々の意識の 改革、すなわち企業文化の変革が必要であること。 2 諸外国の概念の特色 英米と大陸(英国を除く西欧諸国をいう。)の「ファミリー・フレンドリ ー」の概念には共通点もあるが、相違点もあるといわれる。 英米では、家庭は個人の領域で、公権力も企業も介入してはならないとす る考えが伝統的に強い。このため、国・地方自治体の取組は弱い。先進的企 業が企業経営上も有利であるとして、「ファミリー・フレンドリー」な措置 をとっている。英米の「ファミリー・フレンドリー」の概念が、「ファミリ ー・フレンドリー」企業を中心にし、「ファミリー・フレンドリー」な措置 の中に、事業所内託児施設の設置から種々の休業制度、経済的支援制度まで が含まれるのは、このためである。 一方、大陸では、育児・介護を、国・地方自治体、企業、労働組合、家庭 などが分担するという考え方が定着している。すなわち、国・地方自治体に は「ファミリー・フレンドリー」な公共政策をとる責任があり、企業には「 ファミリー・フレンドリー」な企業になる責任があり、労使は「ファミリー ・フレンドリー」な職場づくりに責任があるという観念を受け入れている。 「ファミリー・フレンドリー」企業がとる措置は、法律で定める最低基準の 上積み措置が中心になる。 しかし、制度と働き方を柔軟なものに変えていく必要があること、及び企 業文化の変革の必要性については、英米、大陸を通じて共通に指摘されてい る。 3 米国における最も「ファミリー・フレンドリー」な企業4社の事例 米国のNPOである研究機関(家族・労働研究所)は、その開発したファ ミリー・フレンドリー指標により、最も先進的とされた企業4社(「ジョン ソン・エンド・ジョンソン社」、「IBM社」、「エトナ生命・損害保険会 社」、「コーニング社」)の取組を紹介している。 これらの4社の共通点は、以下のとおりとされる。 ・ 仕事と家庭の両立により従業員が良好な勤務成績をあげることが、長期 的には企業の業績向上に結びつくという考え方を、企業の基本的経営方針 としていること。 ・ 両立支援に役立つ、数多くの柔軟な制度を有し、専任の担当部署・担当 者を擁すること。 ・ 企業文化の変革のため、管理職研修を行うとともに、従業員に両立問題 に対する企業の姿勢や支援策を社内広報により浸透させていること。 4 「ファミリー・フレンドリー」企業のメリット 企業が「ファミリー・フレンドリー」な措置を実施することは、労働者だ けでなく、企業にとっても大きなメリットがあると言われている。 ILOの文書によれば、企業にとっては、労働者のモラール向上、熟練労 働者の確保、企業イメージの向上などのメリットがあり、労働者にとっては、 家族とのコミュニケーションの増大、仕事の満足度の向上、ストレスの減少 などのメリットをもたらすとしている。 また、英国の研究機関が「ファミリー・フレンドリー」な措置を実施して いる企業約1,400社に行った調査(1996年)によると、「ファミリー・フレ ンドリー」な措置を実施している企業では、半数以上(56%)がこの措置 を「有益」と回答した。 U 我が国における「ファミリー・フレンドリー」企業 1 「ファミリー・フレンドリー」企業の意義及び概念の具体的展開 我が国のこれまでの企業の人事労務管理の主流は、長期雇用、年功賃金、 充実した福利厚生制度などを構成要素とする、いわゆる日本的雇用慣行に基 づくものであり、常用労働者である男性が専業主婦である妻と子どもを扶養 する家庭が典型的世帯であった時代には、ある意味で合理的であったといえ る。 しかし、このような日本的雇用慣行に基づく人事労務管理が前提とした事 情は変化している。すなわち、働く女性が増加し、共働き世帯が主流になり、 単独世帯、夫婦だけの世帯も増加している。また、少子・高齢化が進行して いる。これに伴い、従来の企業の人事労務管理が十分に機能しないようにな ってきている。 今後、企業においては、新しい状況に応じて、労働者の家庭・個人生活の 事情に柔軟に対応できる働き方を提示し、男女労働者のライフサイクルに応 じて、その能力を十全に発揮することを可能とする人事労務管理を再構築す る必要がある。すなわち、企業は、新しい状況に適応した「ファミリー・フ レンドリー」企業を目指すべきである。 このように、我が国において、「ファミリー・フレンドリー」企業の概念 を普及させることは、次のような意義がある。 @ 少子・高齢化が急速に進み、女性の労働力の活用が大いに期待されてい るという社会的環境のもとで、企業の対応として「ファミリー・フレンド リー」企業を目指すことが一つの社会的要請であること。 A 「ファミリー・フレンドリー」企業であることが、従業員のモラールを 高め企業経営にプラス効果をもたらすこと。 B 「ファミリー・フレンドリー」企業は、今後の企業の意識改革に当たっ ての一つの理念となること。 本研究会では、諸外国における「ファミリー・フレンドリー」企業の取組 や我が国の現状も踏まえ、我が国における「ファミリー・フレンドリー」企 業の概念をさらに具体化して、当面次の三つを柱として理解することとした。
「ファミリー・フレンドリー」企業とは |
2 「ファミリー・フレンドリー」企業を推進するために 国・地方自治体においては、育児・介護等に関わるインフラや制度の基本 的枠組みの整備をさらに強化するとともに、「ファミリー・フレンドリー」 を目指す企業の取組を積極的に支援していくことが求められる。 また、企業においては、労働者に対し国・地方自治体が設定する基本的枠 組みを上回る「ファミリー・フレンドリー」な措置を実施し、さらに企業文 化を「ファミリー・フレンドリー」なものに変革していくことが求められる。 そして、企業はこのような取組が企業にとってもメリットが負担を上回り、 経営上も合理性を有するものであることに留意すべきである。家庭も、家族 の間で家族的責任の分担が行われるよう、意識変革と実践を行っていくこと が必要である。 3 国の施策への提言 我が国において、21世紀の優良企業とは「ファミリー・フレンドリー」 企業であるということを、労使をはじめ国民一般に定着させていくことが必 要である。このため、第一段階として、国は以下の施策を行うことが必要で ある。 @ 「ファミリー・フレンドリー」企業の表彰の実施 A 「ファミリー・フレンドリー」企業に関する国際シンポジウムの開催 B 事業主団体を通じた「ファミリー・フレンドリー」企業の普及促進 C 企業文化の変革を促すための経営トップ・管理職セミナーの開催 D 「ファミリー・フレンドリー」な取組に関する調査研究の実施