別添2
職場におけるセクシュアル・ハラスメント
調査研究会報告書概要
1 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの現状について
- どのような事案をセクシュアル・ハラスメントとして問題と考えるかどうかという
点については、企業、男性労働者、女性労働者の間でそれほど大きな認識の差は認め
られないものの、部分的には、女性労働者の方が問題としてとらえる傾向の強い事項
も見られる。(第1表)
- 女性労働者の6割が職場におけるセクシュアル・ハラスメントと思われる行為を、
職場において「見られる」又は「たまに見られる」としている。(第1図) また、「対価的な行為」(第1表参照)をこれまでに受けた女性労働者の8割近くは相手方を「社長」又は「上司」としており、「就業環境上の行為」(第1表参照)についてはその相手方は、上司が最も多いものの「同僚」も4分の1を占めている。(第2表)
女性労働者がセクシュアル・ハラスメントと思わせる行為を受けた際の対応として
は「無視した」が過半数に及んでいるが、「本人に抗議した」も3割以上を占めてい
る。(第3表)
- 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの原因としては、「男性は性的言動を女性が不快に思うことをわかっていない」「男性が女性を職場における対等なパートナーとして見ていない」等男性の意識の問題をあげる者が多い。(第4表)
- 企業の9割、男女労働者の8割が職場におけるセクシュアル・ハラスメントについ
て何らかの対応が必要と考えているが、現在、措置を実施している企業(5.5%)及び
実施予定又は検討中の企業(14.3%)の割合はあわせて2割程度と少ない。(第5表、第2図)
2 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの概念について
男女雇用機会均等法第21条では職場におけるセクシュアル・ハラスメントの概念に
ついて、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応に
より当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受けること」(いわゆる対価型)又
は「職場において行われる性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されること」(いわゆる環境型)の二類型に分けて規定している。
「職場におけるセクシュアル・ハラスメント」は、その態様、背景が極めて多様であ
る上に、その適用の判断に当たっては、主観的要素や個別の状況を斟酌する必要がある。
したがって、具体的範囲を明確にするためには、適用上の問題を整理するとともに、
具体的事例によって雇用管理上の目標を示すことが必要である。
(1)概念の内容と適用上の問題点
イ 男女雇用機会均等法第21条の文言の内容
- 「性的な言動」:性的性質を有する発言、視覚に訴えること、行動等の言動。
- 「職場」:女性労働者が業務命令に従って業務を遂行する場所。
- 「労働条件につき不利益を受けること」:
解雇や降格、昇進・昇格の対象からの除外、減給等の不利益が生ずる場合。
- 「就業環境が害されること」:
意に反する行為により就業環境が不快なものとされ、個人の職業能力の発揮に重大な悪影響が及ぶ等、就業上看過できない程度の不利益や被害が生じること。
ロ 適用上の問題
- (イ)「主観性」
-
主観性は、「性的な言動」及び「就業環境が害された」か否かを判断する場合の要因となる。
上記事項の判断に当たっては、雇用管理上の問題として、主観性を重視しつつも、
防止のための配慮義務の対象として、一定の客観性が必要であり、その客観的判断基
準として「平均的な女性の感じ方」を採ることが妥当である。
- (ロ)「被害の発生」
- 「いわゆる環境型」の職場におけるセクシュアル・ハラスメントの要件である「就
業環境が害された」の内容は、(1)イのとおりであるが、具体的な判断はケース・バイ・ケースの判断となる。ケースによっては、1回でも就業環境が害されたと言いうるもの(強姦、強制猥褻等意に反する身体接触)もあれば、ある程度の継続、繰り返しでなりうるもの(性的冗談、ヌードポスターの掲示等)もある。
- (ハ)「いわゆるグレーゾーン」
- 「女性であるという属性に基づくいやがらせ」は一般的な女性差別の問題として取
り上げることが適当な場合がある。他方、こうしたいやがらせに性的要素が加わる場合には、実態的にセクシュアル・ハラスメントと区別し難い場合や重複している微妙な場合が見られ、職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止のための一定の配慮の対象としてとらえていくことが必要と考えられる。
また、こうしたいやがらせの背後にある性別役割分担意識は、職場におけるセクシ
ュアル・ハラスメントを生む土壌となっており、これらについても一定の配慮の対象
とすることが適当である。
(2)典型例
- 対価型セクシュアル・ハラスメント
- 出張の際、上司から性的関係を強要され、拒否をしたら、その後のボーナスの査定を下げられた。
- 社長が事務所で身体を触ったり、乱暴しようとするので、拒否したら解雇された。
- 環境型セクシュアル・ハラスメント
- 営業にいつも一緒に行く男性同僚が、ある日車中で腰や胸に触るなどしたため、その後は営業に行くことが苦痛である。
- 会社内、得意先などに「性的にふしだらである。」などの噂を流され、職場にいるのがいたたまれない。
(3)注意すべき事例
「放置すれば就業環境を害するおそれがある事例」や「厳密には均等法上の定義に
あたるか微妙な事例」は未然防止の観点から一定の配慮をすべきである。
- 放置すれば就業環境を害するおそれがあり注意すべき事例
- 時々女性労働者の肩に触ったりする管理職がある。
- 男性労働者が集まると、時々女性労働者のいる前で性的会話をすることがある。
- 厳密に男女雇用機会均等法上の定義にあたるか微妙であり注意すべき事例
(「職場」ではあるが「性的な言動」の面で微妙な事例)
- 職場で顔をあわせる度に、「子供はまだか。」と繰り返し尋ねる。
(「性的な言動」ではあるが「職場」の面で微妙な事例)
- 部下の女性を勤務時間終了後酒に誘い、性的な要求をする。
(「性的な言動」と「職場」の双方で微妙な事例)
- 任意参加の歓迎会の酒席において、上司を含めた男性労働者の隣に座ることやデュエットやお酒のお酌を強要する。
3 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの原因について
(1)職場におけるセクシュアル・ハラスメントの特徴
セクシュアル・ハラスメントは継続的人間関係が存在している状況の中で生ずると
いう特徴があり、職場においては、上司や同僚によってなされることが多い。個々の
行為を問題とすることは当然であるが、こうしたセクシュアル・ハラスメントを生じ
させている土壌や背景となる職場の人間関係、環境の在り方を考え、問題点を除去す
ることが重要である。
(2)職場におけるセクシュアル・ハラスメントの原因
- イ 企業の雇用管理の在り方
- 企業自身が雇用管理の面で男性中心の発想から抜け出せず、女性労働者の活用や能力発揮を考えていないという場合が挙げられる。このような企業の女性労働者に対する対応は、男性労働者の意識ないし認識、ひいては行動に影響を与えるとともに、両者があいまってセクシュアル・ハラスメントを引き起こす環境を形成しているものと見られる。
- ロ 女性労働者に対する意識
- 職場におけるセクシュアル・ハラスメントに共通するのは、女性労働者を対等なパートナーとして見ない意識に加え、性的な関心ないし欲求の対象として見る意識が挙げられ、両者は密接に結びついている。
さらに、両者の意識に基づくハラスメントが画然と分けられない場合や重複している場合も見られる。
- 女性労働者を職場における対等なパートナーとして見ない性的役割分担意識の内容は、「自分の領域を女性に侵害されたくない意識」、「対等な労働力として明確に否定する意識」「女性労働者を軽く見る意識」「無意識の性別役割分担意識」に分けて考えることができる。
4 職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止のための対策について
(1)対策を考えるに当たっての留意点
セクシュアル・ハラスメントの防止を考えるに当たっては、厳密な意味でのセクシュアル・ハラスメントを問題とするだけでなく、放置すれば就業環境を害するおそれがある問題や職場におけるセクシュアル・ハラスメントに密接に関連した周辺の問題、すなわち「グレーゾーン」の問題も取り上げる必要がある。
(2)事業主に求められるセクシュアル・ハラスメント防止のための対策
イ 企業方針の明確化とその周知・啓発を内容とする一般防止対策
- (イ)企業方針の明確化・周知
- 企業の方針として、セクシュアル・ハラスメントを許さないことを明確にするとともに、これを周知することが重要である。
その方策としては、社内報等の広報資料への記載、ポスター掲示、パンフレット等の配布、従業員心得や必携、マニュアルへの明記、就業規則等への記載等が考えられる。
- (ロ)管理職・従業員の意識啓発
- 一般防止対策として企業方針を明確にした啓発・研修の在り方が極めて重要であり、これを効果的に進めるには、以下のようなきめ細かな方法を工夫していくことが必要であろう。
- 実態を踏まえた啓発・研修
各職場での管理職を含めた男性労働者・女性労働者の意識・認識の在り方がどうなっているのか、職場においてセクシュアル・ハラスメントやこれと関連する状況が生じているのかどうか等その実態を把握し、これに基づき、啓発・研修が行われることが望ましい。
- 対象者に応じた啓発・研修の在り方
新任者、初任管理職等を対象に計画的に実施したり、管理職を含め職階別に実施したりする方法が考えられる。特に管理職が職場におけるセクシュアル・ハラスメントについて正しい認識を持ち、職場環境について配慮を行えるようにすることが極めて重要であり、管理職に配慮した内容の研修を開発・工夫していくことが望まれる。
- 啓発・研修の内容
男性労働者に対しては、職場におけるセクシュアル・ハラスメントとは何か、何故問題であるかという点、その起こる原因まで掘り下げた認識を、女性労働者に対しては、職場におけるセクシュアル・ハラスメントを受けた際にはどうすべきかに配慮した研修が重要である。
また、兆候を見逃さないための研修や過去の事例によるケース・スタディを啓発・研修に活かすことも重要である。
- ロ 相談・苦情への対応による未然防止対策
- 未然に防止する観点からも相談・苦情の窓口を明確にし、適切に対応すること、相談内容もあらかじめ厳密に職場におけるセクシュアル・ハラスメントのみを対象とするのではなく、「放置すれば就業環境を害するおそれがある事例」や「いわゆる「グレーゾーン」の事例」など幅広く対象とすることが必要である。
さらに、相談したことにより不利益な取扱いを受けることがあってはならない。
- (イ)相談・苦情処理窓口の明確化
- 相談・苦情処理窓口の在り方として、相談担当者を明確にしておくことから苦情処理のための制度を設けることまで様々に考えられる。
可能であれば担当に女性を含めること、窓口は複数とすること、フォローの体制が取られていること、担当の資質向上が図られていること、広く情報が得られること、等が望まれる。
- (ロ)相談・苦情処理への適切な対応
- 事業所内で性的言動が問題となる場合には、未然に防止する観点から、状況に応じ
た適切な対応を図ることが求められ、公正な立場での真摯な対応、可能であれば対応の在り方についてあらかじめルール化を図ること、行為者への慎重かつ適切なアプローチが必要である。
- ハ 事後の迅速・適切な対応
- 職場におけるセクシュアル・ハラスメントが発生した場合、再発防止の観点からも
迅速・適切に対応することが不可欠である。
- (イ)相談・苦情処理体制の整備
- 適切な対応を図るためには、相談・苦情処理体制が設けられていることが大前提で
あり、ロ(イ)
の点が同時にあてはまる。相談に当たって、公正・真摯な対応やプライバ
シーの保護は当然であるが、さらに、相談結果についての人事担当者等との連絡等のフォローも不可欠である。
- (ロ)迅速な事実確認等初期段階での適切な対応
- 相談を受けた場合、プライバシーを尊重しつつ迅速に事実を確認し、初期段階での
真摯な対応が重要である。
事実確認のポイントとしては迅速な開始、当事者への十分な説明、プライバシーの保護、双方の言い分の十分な聴取、周辺情報の入手、が重要である。必要な場合は、事実確認中でも事案の性質等に応じて、適切な応急措置の実施も考慮されるべきである。
- (ハ)事実に基づく適正な対処等最終段階における処置
- 公正、適切な処置を行い、最終的な処置について当事者に十分説明することが必要である。
個別事案に対する処置の例としては、当事者を引き離す等の処置、当事者の関係改善のための援助、就業規則に基づく加害者への一定の制裁、労働条件や就業環境上の不利益の回復、被害者のメンタルケア等が考えられる。
また、再発防止のための全体的な処置として、方針の再確認、管理職を対象とした研修の強化等が考えられる。
(3)労働組合、労働者に求められるセクシュアル・ハラスメント防止のための方策
労働組合も職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止のため、積極的な役割を果たすことが重要である。とりわけ相談窓口の一端を担う等の役割を果たすことが期待される。
労働者は、事業主の実施する防止措置の趣旨を理解し、協力することが重要である。
男性労働者は、女性労働者が性的言動に対して意思表示がしづらい場合が往々にしてあることを念頭に置くことが望まれる。
女性労働者の側も伝達しづらい状況はあっても、不快に思うことは明確に意思表示することが重要である。
(4)行政による支援方策等
行政は、男女雇用機会均等法第25条に基づき助言、指導、勧告を適切に行うとともに、女性労働者からの相談受付体制の充実を図り、あわせて事業主が配慮義務を実施するに当たって必要となる事項に関し、情報、資料の提供やその相談に乗る対応が期待される。
体制上制約の多い中小企業も含め取組を効果的に進めるためには、中小企業の使用者団体なども含め、関係する機関が相互に連携協力してこれに当たることが望ましい。
5 指針策定に当たっての提言
(1)基本的な考え方
- 職場におけるセクシュアル・ハラスメントについて、現状では、その内容について一般の理解が必ずしも十分でなく、また防止対策をとっている企業も限られている。したがって、指針においては、雇用管理上、事業主が防止すべき対象としての職場におけるセクシュアル・ハラスメントの内容を誤解のないよう明確にすることが必要である。
- 指針において、防止のため配慮するべき事項を定めるに当たっては実効性に配慮し、必ず配慮されるべき事項を簡潔に明示する一方、その実施方法については、企業の実態に応じて最も適切な措置が講じられるようにすることが適当である。
- (2)防止すべき対象としての職場におけるセクシュアル・ハラスメントの内容
- 防止すべき対象を誤解のないよう明確にするためには、法律に基づく内容を具体的に示すとともに、性的な言動の種類に応じた典型例を示すことが必要である。
- (3)配慮すべき事項の内容
- 指針に定める事業主の配慮すべき事項は以下3点とし、それを実施するための実施
方法は、企業の実態に応じて選択できるよう具体的措置を例示することが適当である。
- 企業方針の明確化とその周知・啓発を内容とする一般防止対策
- 相談・苦情への対応による未然防止対策
- 再発を防止する観点からの事後の迅速・適切な対応
- (4)配慮すべき事項の実施方法の具体例
- 企業方針の明確化とその周知・啓発を内容とする一般防止対策
(具体例)
- 社内報等各種広報・啓発資料によるもの
- 従業員心得、必携等従業員の服務上の規律を示す文書の配布又は掲示
- 就業規則等への記載
- 研修、講習等の実施(問題発生の原因、背景について理解を深める内容、管理職が適切に対応できる内容面での工夫が望ましい。)
等
- 相談・苦情への対応による未然防止対策
相談・苦情処理窓口を明確にするとともに、相談・苦情に対し、厳密に職場におけ
るセクシュアル・ハラスメントに限定することなく、内容、状況に応じ適切かつ柔軟
に対応することが必要である。
(具体例)
- 相談・苦情処理窓口の明確化:
相談担当者をあらかじめ決めておくこと、苦情処理のための制度を設けること等
- 適切な対応:
人事部門との連携による円滑な対応、相談対応マニュアルの作成及びそれに基づく対応等
- 再発を防止する観点からの事後の迅速・適切な対応
問題が発生した場合、迅速かつ正確な事実確認を行い、適正な対処を行うことが必要である。
- 事実確認:
相談担当者、人事部門、専門の委員会等によるもの
- 適正な対処:
事案の内容・性質に応じ、適宜の人事雇用管理上の対処、就業規則の規定に基づき対処等
なお、事業主が上記3点を実施するに当たっては、当事者のプライバシーの保護や
相談・苦情等を申し出た者がそのことを理由に不利益を受けることがないようにすることに特に留意し、周知することが必要である。
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