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ダイオキシンの健康影響評価に関するワーキンググループ報告書に関するQ&A
報告書の概要について:
Q1.厚生労働省はワーキンググループに何をするように依頼したのですか?
A1.現在ヒト体重1 kg当たり1日4ピコグラムと定められている我が国のダイオキ
シン類の耐容一日摂取量(TDI)の見直しが必要かどうか、現時点での検討を行
い、報告書をとりまとめることを依頼しました。
Q2.TDI(耐容一日摂取量)とは何ですか?
A2.ある汚染物質について、健康危害を被ることなく毎日一生涯にわたって摂取で
きる量のことです。
Q3.厚生労働省はなぜワーキンググループに作業を依頼したのですか?
A3.平成12年12月、厚生省(当時)の関係審議会は、「平成11年に定めたTDI
の早急な再検討の必要性を示唆する知見は得られなかったが、引き続き検討を継
続する必要がある」との中間報告をとりまとめました。一方、平成13年に入っ
てからは、WHO/FAO食品添加物に関する合同評価会議(JECFA)や欧州委員会等で
も、ダイオキシン類の健康影響に関する検討が行われ、その結果が公表されまし
た。厚生労働省としては、中間報告から1年経過したことから、海外の動向も参
考にして、我が国のTDIの見直しが必要かどうか、現時点での検討を行う必要が
あると判断しました。
Q4.ダイオキシン類の健康リスクとは何ですか?
A4.私たちが日常の生活の中で摂取する量で急性毒性が生じるようなことは考えら
れませんが、多量のダイオキシン類を長期にわたって摂取した場合の健康リスク
が指摘されています。動物実験の結果によれば、ダイオキシン類は胎児の生殖器
系に影響を及ぼす可能性があることなどが指摘されています。またダイオキシン
類の一部には、高濃度に暴露した場合に、ヒトに対する発がん性が指摘されてい
ます。
Q5.可能性のある生殖器系への影響は何ですか?
A5.ラットを使った動物実験で、雄児の精子産生数又は精子数の減少、雌性生殖器
の形態異常などが報告されています。
Q6.ワーキンググループの結論は何ですか?
A6.最低の毒性発現量の根拠に関して、新たに考慮すべき毒性知見は現時点では得
られていないことから、我が国における現在のTDI:4 pgTEQ/kgbwを早急に変更
する必要はない、ということです。詳細は添付の報告書の通りです。
ダイオキシン類に関する全般的事項について:
Q7.ダイオキシン類とは何ですか?また、どこから発生するのですか?
A7.炭素・酸素・水素・塩素が熱せられる過程で自然にできてしまう副生成物です。
通常は無色の個体で、水に溶けにくく、脂肪に溶けやすく、蒸発しにくい性質を
もっています。また環境中では分解されにくく、環境や体内に残留しやすい性質
をもっています。主な発生源はごみ焼却による燃焼ですが、その他に、製鋼炉、
たばこ煙、自動車排出ガスなど、様々な発生源があります。
Q8.ダイオキシン類にはどんな問題がありますか?
A8.ヒトの暴露についての問題があります。ダイオキシン類は、様々な経路から長
い年月をかけて、土壌や水、底泥など環境中に蓄積され、プランクトンや魚介類
に食物連鎖を通して取り込まれていくことで、動物やヒトに、特に脂肪組織に蓄
積されていくと考えられています。なお実際に環境中や食品中に含まれるダイオ
キシン量は超微量ですが、全ての人々はこれら環境中に存在するダイオキシン類
の暴露を受けていることになります。
Q9.全てのダイオキシン類は危険ですか?
A9.違います。ダイオキシン類は、PCDD(ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン)、
PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)、コプラナーPCB(コプラナーポリ塩化ビフェ
ニル)と呼ばれる一連の化合物群のことを指しますが、毒性の強さはそれぞれ異
なっており、PCDDのうち2と3と7と8の位置に塩素が付いた2,3,7,8-TCDDがダ
イオキシン類の仲間の中で最も毒性が強いことが知られています。そこで、最も
毒性の強い2,3,7,8-TCDDの毒性を1として他のダイオキシン類の仲間の毒性を換
算した係数(毒性等価係数:TEF)が用いられます。多くのダイオキシン類のデ
ータは、このTEFを用いてダイオキシン類の毒性を足し合わせた値(毒性等量:
TEQ)が用いられています。現在のTEFは、1997年に世界保健機関(WHO)より提
案されたものが国際的に使われています。
Q10.ダイオキシン類はどのようにして食事のなかに入り込むのですか?
A10.ダイオキシン類の摂取量の95%以上は食事を介しています。ダイオキシン
類は脂肪組織に溶けやすく残留しやすいので、魚介類、肉、乳製品、卵などに含
まれやすくなっています。食生活の違いから、我が国では魚介類から、欧米では
肉や乳製品等の動物性食品からの取り込み量が多くなっています。
各個人の食生活について:
Q11.私たちが食事から摂るダイオキシン量はどのくらいですか?また、TDIと
の関係はどうなっていますか?
Q11.厚生労働省の行ったマーケットバスケット方式によるトータルダイエット調
査(約120品目について、国民栄養調査による食品群別摂取量表を基にして、7
地区10〜16機関で食品試料を購入し、各食品を実際の食事形態に従って処理し、
ダイオキシン類の存在を分析するというもの。)の結果によれば、我が国のダイ
オキシン類の平均的な1日摂取量は、平成10年度が2.01 pg/kg、平成11年度
が2.25 pg/kg、平成12年度が1.45 pg/kg、過去3年間の平均が1.90 pg/kgとな
っており、現在のTDI:4 pg/kgを下回っています。また平成12年度に自治体の
実施した同様の調査によれば、東京都で2.18 pg/kg、埼玉県で1.0 pg/kg、神奈
川県で1.60 pg/kg、札幌市で1.04 pg/kgと報告されており、いずれも現在のTDI
を下回っています。
Q12.食事からの摂取量がTDIを越える人はいますか?
A12.マーケットバスケット方式によるトータルダイエット調査によれば、1日摂
取量の分布は、平成10年度が1.23〜2.77 pg/kg、平成11年度が1.19〜7.01
pg/kg、平成12年度が0.84〜2.01 pg/kgとなっており、食事からの摂取量は概
ね現在のTDIの範囲内にあると言うことができます。仮に、ある1日の食事から
の摂取量がTDIを越えることがあったとしても、長期間での平均摂取量が
TDI以内ならば健康を損なうことはありません。
Q13.ダイオキシン類を含む可能性のある食品は避けるべきですか?
A13.現状の汚染レベルでは、バランスのとれた食事が健康にもたらすベネフィッ
トのほうが、ダイオキシン類の摂取に関係する健康リスクよりも、はるかに上回
っています。ダイオキシン類の摂取に関係する健康リスクは、現在の食生活を変
える必要がある程のものではありませんし、また食生活を短期間変えたとしても
長期的な健康に影響するものではありません。これは妊婦や子どもの場合にも言
えることです。
Q14.TDIを越えることは何を意味するのですか?
A14.TDIとは、ある汚染物質について、健康危害を被ることなく毎日一生涯に
わたって摂取できる量のことです。ダイオキシン類は体内、特に脂肪組織に蓄積
しやすく、取り込んだ量が半減するのに約7年かかります。現在のTDIは、予
防的観点からこのような特徴も考慮に入れて、安全性を見込んで設定されたもの
です。従って、ある一時期ダイオキシン類の摂取量がTDIを越えたとしても、
健康へのリスクにはなりません。むしろ、バランスのとれた食事が健康にもたら
すベネフィットのほうが、ダイオキシン類の摂取に関係する健康リスクよりも、
はるかに上回っています。これは妊婦や子どもの場合にも言えることです。
報告書の詳細について:
Q15.現在のTDIの算定根拠となった主な毒性影響は何ですか?
A15.ラットの胎生期(最も感受性の高い時期)の単回投与実験で観察された胎児
(雌)の雌性生殖器の形態異常などです。これは、現時点で入手できる各種毒性
試験のうち、TDIの算定根拠にできる明らかに毒性とみなされる影響です。
Q16.一日精子産生数の低下や精子数減少などの雄性生殖器系への影響を主な根拠
にしなかったのはなぜですか?
A16.精子細胞や精子に対する影響については多くの実験報告がありますが、影響
の有無及び認められた影響の毒性学的意義については、報告間で大きな差があり、
整合性のある結果が得られていません。ワーキンググループでは、1998年以降に
公表された生殖発生毒性に関する論文の内容について検討しましたが、精子細胞
や精子に対する影響の再現性や毒性学的意義についての問題を解決する新たな知
見は得られなかったことから、これらの影響をTDI算定の主な根拠にはしませ
んでした。
Q17.ワーキンググループの結論が欧州科学委員会における評価結果と違っている
のはなぜですか?評価の対象にしている毒性データが違うのですか?
A17.欧州科学委員会は、ダイオキシン類の一週間あたりの耐容摂取量として14
pg/kgを勧告しています。欧州科学委員会における評価ではワーキンググループ
と共通のデータセットを材料にしていますが、耐容摂取量を求めるための根拠に
した主な影響、耐容摂取量の計算に必要な体内負荷量に関するデータの取扱、ま
た耐容摂取量の表現方法が異なります。耐容摂取量を求めるための根拠にした主
な影響については、より感受性が高いと考えられた実験動物で観察された精子に
対する影響が採用されています。一方、耐容摂取量の計算に必要な体内負荷量に
ついては、単回投与の結果から計算モデルによって反復投与時の結果を推定する
方法を用いて高値側に補正されています。また耐容摂取量の表現方法については、
摂取量の日間変動の影響を少なくするために、一週あたりの耐容摂取量が提案さ
れています。
Q18.体内負荷量とは何ですか?また体内負荷量が耐容摂取量の計算に必要なのは
なぜですか?
A18.一般的に化学物質による毒性発現は、投与量に依存していますが、ダイオキ
シン類のように体内蓄積性の高い物質の毒性を評価するためには、どの程度の量
を継続的に摂取し続ければ、毒性を発現する体内量(体内負荷量)に到達するか
が重要となります。またダイオキシン類は、体内からの消失半減期の動物間の種
差が大きいため、毒性試験で得られた結果をヒトにあてはめる場合には、投与量
ではなく、体内負荷量に着目し、動物で健康影響が生じる体内負荷量を試験で求
め、ヒトの場合にどの程度の量を継続的に摂取すればその体内負荷量に達するか
を評価することが適切と考えられます。
Q19.1週間あるいは1ヶ月単位の耐容摂取量と耐容一日摂取量(TDI)の違いは何
ですか?
A19.ダイオキシン類の体内消失半減期は長いので、一時的に摂取量がTDIを越
えることがあったとしても体内負荷量が大きく変動することはなく、長期間での
平均摂取量がTDI以内ならば健康を損なうことはありません。その意味で、耐
容摂取量は1週間あるいは1ヶ月という単位で表現するほうが適切であるという
考え方があります。しかし、個人レベルでは、1週間あるいは1ヶ月単位で食事
量を管理することはまれであり、むしろ1食あるいは1食品中に含まれるダイオ
キシン類の量に関心が高いことを考えると、リスクコミュニケーションの観点か
らは適当な表現ではないかもしれません。従って、耐容摂取量の表現は、一日あ
たりの耐容摂取量として設定するほうが妥当と思われます。また、1週間あるい
は1ヶ月あたりの耐容摂取量を単純に7日あるいは30日で割ると1日あたりの
耐容摂取量になるということではありません。1日あたり、1週間あたり、1ヶ
月あたりの耐容摂取量は、それぞれ独立した指標として扱うことが適当です。
Q20.現時点で国際的にみて最も基本となるTDIに関する勧告はどれですか?また
今回のワーキンググループの結論とはどのような関係になりますか?
A20.1998年(平成10年)のWHO欧州地域事務局及び国際化学物質安全性
計画(IPCS)専門家会合の勧告です。この会合は、各種毒性知見の結果から、TDI
の値を1〜4pg/kg/日の範囲として示し、先進国の一日摂取量の水準からみて、
当面は4 pg/kgを最大耐容摂取量と考え、究極的な目標として、ヒトの摂取レベ
ルを1 pg/kg未満に低減していくことが適当だとしています。ワーキンググルー
プの結論はこの勧告値の範囲の最大耐容摂取量に相当します。
(参考)
このQ&Aの作成には、ワーキンググループ報告書及び報告書に記載された参考文
献以外に、次の資料を参考にしました。
・UK Food Standard Agency and Environment Agency Question and Answer
briefing on dioxins and PCBs, and the associated statement by the
Committee on Toxicity of Chemicals in Food, Consumer Products and the
Environment (COT), 16 November 2001
・関係省庁共通パンフレット「ダイオキシン類」(2001)
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