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第2部 欧米諸国における就業形態の多様化





 欧米諸国では、パートタイム労働を中心に有期雇用、派遣労働等も増加してきてお

り、就業形態の多様化がみられる。パートタイム労働者は長期的に増加傾向にあり、

その雇用者に占める割合もオランダ38.3%(97年)、イギリス25.3%(97年)のように概

して上昇が見られる。パートタイム労働者に占める女性の割合はドイツ87.2%(96年)、

イギリス82.9%(97年)と高くなっており、また、サービス産業におけるパートタイム

労働者の割合は、イギリス、オランダ、アメリカでは40%を超えている。このように

就業形態は女性の労働力化、サービス経済化の進展とともに多様化が進んできている有期雇用労働者や派遣労働者は、増加傾向が見られるものの、その数はパートタイム

労働者に比べると少なく、雇用者全体に占める割合も低い。

 もっとも、一口で多様化とはいっても、これらの就業形態に係る法制度、政府の雇

用対策におけるパートタイム労働等の取り込み、雇用失業情勢等は、国によって異な

っているため、例えば、雇用者に占めるパートタイム労働者の割合について国による

幅が相当あるように就業形態の多様化の様相は国によって違いが見られる。オランダ、

ドイツ、フランスにおいては、パートタイム労働の失業対策への取り込みもみられる。

 パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者等については国によって程度に

差はあるものの、労働条件の保護、雇用の安定等のための措置が図られている。例え

ば、賃金についてみると、フランス、ドイツ等においては職種による産業横断的賃金

の存在を背景にパートタイム労働者と比較しうるフルタイム労働者との条件の均等の

ための措置が図られている。

 今後を展望すると、サービス経済化の進展、経済のグローバル化と国際競争の激化

等の就業形態の多様化を進める要因はさらに強まっていくものと考えられる。しかし各国の法制、政府の対策も一様でなく、また、女性の労働力化の進展の度合いも国に

よって異なっている。さらには、労働市場における規制緩和の動きについても、オラ

ンダのように既に積極的に進められている国があれば、イギリスのようにEUの社会

政策を取り組むプロセスの中で従来よりも法規制が多くなる国もある。そのような状

況下にあって、例えばオランダではパートタイム労働の増加が失業情勢の改善をもた

らしており、またフランスのように失業対策としてパートタイム労働の増加を図って

いる国もあり、失業情勢の改善という観点からも就業形態の多様化の傾向は注目され

る。

 就業形態の多様化については各国における雇用政策への活用も含め、雇用面に及ぼ

す量的な動向に加え、その労働条件という質的な面について、どのようにしてその向

上が図られていくのか、今後の推移が注目される。





1 多様な就業形態の概念

  次のように、国によってパートタイム労働、有期雇用労働、派遣労働等の概念、

 法律における位置づけ等は異なっている。



(1)イギリス

   大陸ヨーロッパ諸国に比べると労働分野における法規制は少なく、パートタイ

  ム労働者、有期雇用労働者についての法規制は無い。統計ではパートタイム労働

  者数は自己申告に基づいて集計される。労働者派遣事業についても、事業運営に

  対する規制のみが存在する。政府は、伝統的に、労使関係は当事者である労使の

  話し合いによって決定・解決されるべきとの立場をとっている。



(2)ドイツ

   パートタイム労働とは「その週所定労働時間が事業所内で対比しうるフルタイ

  ム労働者の週所定時間より短い者」(就業促進法)と規定されている。

   有期雇用労働は、「期間設定に合理的な理由が無い限り、期間が設定されてい

  ても、判例によって期間の定めのない労働契約を締結したものとして取り扱う」

  とされ、例外的な雇用形態であると考えられている。ただし、一定の要件を満た

  す場合、24ヶ月を上限に有期雇用契約が認められこの範囲内であれば2回契約を

  更新することができる(就業促進法)。

   労働者派遣事業は、許可制とされており、建設業を除いて対象業務に制限は無

  い。派遣元と派遣労働者との労働契約は原則として最初の契約のみ期間の定めを

  置くことが認められている。



(3)フランス

   パートタイム労働とは、@労働時間が法定労働時間又は協約の定める労働時間

  を1/5以上下回る、又はA就労期間と不就労期間が交互におとずれその年間労

  働時間が年当たり法定労働時間又は協約の定める労働時間を1/5以上下回る労

  働と規定されている(労働法典)。

   派遣事業の対象業務に制限は無いが、利用可能な事由が制限される。派遣元と

  労働者の契約は登録型のみ。有期雇用契約は、利用事由に派遣と同様の制限があ

  り、期間については上限が定められている。



(4)オランダ

   失業の削減、女性の労働市場への参加促進、高年齢就業者の就労継続の促進等

  を目的としたパートタイム労働の質・量両面における促進が図られており、男性

  のパートタイム労働も拡大してきている。

   有期雇用労働は、契約期間の上限が3年、通算契約期間がこの上限を超えない

  限り2回の契約更新が認められる。派遣労働者については、労働者派遣事業につ

  いての規制が緩和される一方で、派遣労働者の雇用保護の拡大が図られている。



(5)アメリカ

   労働分野に関する法律は少なく、パートタイム労働者、派遣労働者等について

  の労働法上の規定は無い。

   アメリカ統計局では、パートタイム労働者を「通常の週労働時間が35時間未満

  の者」としている。95年と97年に実施した特別調査では、「臨時労働者」を「仕

  事の継続について暗黙の或いは明白な契約のない者で、自らの仕事が続く見込み

  がないと考えている者」、「非典型労働者」を「人材派遣等の仲介者を通じて労

  働の配置が取り決められる者及び労働の場所・時間・内容が標準化されていない

  者」と定義している。





2 パートタイム労働、有期雇用労働、派遣労働等の動向と背景

  パートタイム労働は、長期的に増加傾向にあり、アメリカを除くと雇用者全体に

 占める割合も上昇している。雇用者に占めるパート労働の割合は、国によってパー

 トタイム労働者の定義や考え方が異なっているため厳密な比較は困難であるが、オ

 ランダ38.3%(97年)、イギリス25.3%(97年)、ドイツ18.9%(96年)、アメリカ17.9

 %(97年)、フランス16.3%(96年)となっている。

  有期雇用労働や派遣労働は、若干増加傾向にあるものの、パートタイム労働と比

 べるとその伸びや雇用者に占める割合は低い。例えば、イギリスでは、有期雇用労

 働者は全雇用者の3.8%、派遣労働者は1.1%となっており(97年)、フランスでは、

 有期雇用労働者は全雇用者の4.0%、派遣労働者は1.6%となっている。



(1)パートタイム労働者

 @ 女性のパートタイム労働

   各国ともにパートタイム労働者に占める女性の割合が高く、長期的に増加傾向

  にある(ドイツ(96年、87.2%)、イギリス(97年、82.9%)、フランス(97年、

  82.7%)、オランダ(97年、74.9%)、アメリカ(97年、68.0%))。女性の職場進

  出が進む中で、家庭責任を有する女性の多くが仕事との両立を図るためにパート

  タイム労働を選択しており、また、保育施設が不十分であることも背景にある。

 A 男性のパートタイム労働

   男性のパートタイム労働者は、わずかながら増加しているものの、雇用者全体

  に占める割合は低い(イギリス8.2%(97年)、ドイツ4.0%(96年)、フランス5.1

  %(97年)、オランダ16.7%(97年)、アメリカ10.7%(97年))。

 B サービス経済化の進展とパートタイム労働

   各国ともにサービス産業におけるパートタイム労働者の増加が著しい。サービ

  ス業では、ライフスタイルの変化に見合った営業時間やサービスの需要が生み出

  されており、営業時間の延長や多様化がパートタイム労働者、特に女性の就労を

  促進している。

 C 使用者の経済的要因

   使用者がコストの安い労働を選好することもパートタイム労働進展の要因の一

  つであると考えられる。例えば、パートタイム労働について社会保障費が減免さ

  れる国々では、コストの低いパートタイム労働への需要を高める要因となる。

 D 失業問題の深刻化とパートタイム労働の雇用政策への取り込み

   オランダでは、70年初以来、高失業率を解決するための手段として積極的にパ

  ートタイム労働の促進を図ってきており、パートタイム労働の割合が先進国の中

  でも群を抜いて高く、失業率も大幅に低下している。

   フランスにおいても、失業対策の一環としてパートタイム労働が活用されてお

  り、一定の要件を満たしてパートタイムを雇用する場合、パートタイム労働者の

  社会保険料の事業主負担が軽減される措置等がとられている。

   ドイツでは、高齢労働者をパートタイム就労に移行させ「空きポスト」へ求職

  者・養成訓練生を就かせる制度(高齢者パートタイム就労法)が設けられている。

 E 労働組合の態度の変化

   オランダにおいては、80年代の初めより政労使が一体となってパートタイム労

  の促進について取り組んでる。イギリス、ドイツ、フランスにおいても、過去

  においてはパートタイム労働等に若干否定的であった労働組合も、最近の深刻な

  雇用・失業情勢を受けて、パートタイム労働者の労働条件向上やパートタイム労

  働者の組織化等を図る方向へ動いている。



(2)有期雇用労働者、派遣労働者

 @ ドイツ、フランス

   常用雇用労働者は解雇制限があったり、解雇手続が複雑であることから、有期

  雇用労働や派遣労働を利用する要因の一つとなりうる。しかしながら、フランス

  では、有期雇用労働を活用できる事由が法律で決められており、また、期間や契

  約更新について制限がある。ドイツでも、期間や契約更新について制限がある。

  このような制度も、有期雇用労働があまり伸びていない要因の一つになっている

  と考えられる。労働者派遣事業についても、概ね自由度は高いと考えられるにも

  かかわらず、現在までのところあまり伸びていない。

 A オランダ

   常用雇用労働者への法律上の保護が手厚いこと等もあり、有期雇用労働、派遣

  労働等の割合が比較的高くなっている。企業は有期雇用労働や派遣労働を常用雇

  用の試用や人材選別の手段としても使っている実情にある。

 B イギリス、アメリカ

   イギリスにおいては、勤続2年未満であれば期間の定めのない雇用についても

  解雇の手続きが容易であること等が、有期雇用労働や派遣労働が大きく伸びてい

  ない原因の一つとなっている。

   アメリカでは、臨時労働者の数は伸びていないが、非典型労働者は若干増加し

  ている3 労働条件



(1)均等待遇

 @ イギリスでは、パートタイム労働者の労働条件については、労働法上の一般原

  則に従うこととされている。ただし、雇用保護法の適用については勤続年数の要

  件が存在するため、勤続年数が比較的短いパートタイム労働者、有期雇用労働者

  等については適用されないことが多い。アメリカにおいても、パートタイム労働

  等の賃金等について特段の法律は無い。

 A ドイツ、フランス、オランダでは、法律によってパートタイム労働者等につい

  ての均等待遇原則があるので、様々な権利をフルタイム労働者と平等に有するこ

  ととされている。すなわち、不当解雇からの保護等の労働者の基本的な権利に関

  しては労働時間の長さに関わらず保護され、また、賃金、諸手当等については比

  較しうるフルタイム労働者と比べ時間比例的な処遇が保障されている。



(2)パートタイム労働・フルタイム労働間の転換

   ドイツでは、使用者に労働者への情報提供が義務づけられており、労働者がフ

  ルタイムからパートタイムへ、パートタイムからフルタイムへ転換するための情

  報獲得の道を開いている。ただし、労働者に対して、希望ポストへの転換・配置

  請求権や、労働ポスト補充の際の優先権を認めたものではない。

   フランスでも、事業主に対して、転換を希望するパートタイム労働者にフルタ

  イムの空席ポストのリストを通知することを義務づけている。

   オランダでは、約80%の労働協約がパートタイム労働に関する事項を盛り込ん

  でおり、この中に、フルタイムからパートタイムへ転換する権利が規定されてい

  る。





4 今後の展望



(1)イギリス

   97年6月にEU社会労働政策への参入を表明したことから、EUパートタイム

  労働指令についても2000年までに国内法制化の運び。既に多くの企業においてパ

  ートタイム労働は常用労働と均等に取り扱われているため、同指令の影響は大き

  くないものと考えられるが、パートタイム労働の就労分野に広がりがみられるも

  のと考えられる。政府は、99年1月、労働党政権による労働政策の転換の大きな

  柱の一つとなる「雇用関係法案」を提出した。この法案は、個別的労使関係、集

  団的労使関係等に関する規定を含むものであるが、その中には、不当解雇に対す

  る不服申立て権を得るための勤続年数要件の2年から1年への短縮、雇用保護法

  制の対象範囲の拡大、パートタイム労働者の保護等就業形態の多様化に影響があ

  ると考えられる内容が含まれている。

   労働組合は、就業形態の多様化を肯定的にとらえ始め、積極的に議論に参加し

  ていくこととしている。使用者側も、EU社会政策への参加を不可避的なものと

  受け止め姿勢を転換しつつある。



(2)ドイツ

   パート労働者に占める女性の割合が非常に高く、近年の女性の労働力率は横這

  いあるいは低下気味であることから、今後の女性の労働市場への進出は緩やかな

  ものと考えられる。高年齢労働者のパートタイム労働への転換促進の取り組みが

  行われているが、最近の厳しい失業情勢の中で今後の政府の取り組みが注目され

  。労働組合の中にも、雇用維持のための時短と絡めてパートタイム労働の活用

  を図る動きが見られる。



(3)フランス

   政府は、失業対策としてのパートタイム雇用を積極的に推進しており、政府等

  による失業者直接雇い入れ措置に際してパートタイム労働者を対象としたり、失

  業者をパートタイムで雇用する事業主に対して特定の条件下で社会保険料の減免

  を行う等の助成措置を講じている。



(4)オランダ

   今後も、積極的にパートタイム労働の導入が促進される見通し。特に、男性優

  位の職種、専門性の高い職種等におけるパートタイム労働の促進が目標として掲

  げられている。

   99年1月より、「労働市場の柔軟性及び雇用の安定に係る法律」が施行された。

  その主な内容は、@解雇規制の緩和、A派遣労働者等の雇用形態による労働者の

  法的地位の強化、B労働者派遣事業に係る許可制の廃止等。この法改正により、

  オランダの労働市場における柔軟性と安定性は一つの到達点に達すると公労使は

  一致して見ている。



(5)アメリカ

   パートタイム労働者等に関する政府のスタンスは、基本的には、契約自由の原

  則に基づき特段の方針は無い。使用者側は、労働力需給に応じてパートタイム労

  働者等を活用しようとしている。労働組合側も、基本的にはパートタイム労働者

  等のみに焦点を当てた活動は展開していない。




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