トップページ
報告書の概要 1.本調査研究の目的 ○ 目的 NPOと労働行政の関係について整理・検討を行うこと。特に、以下の3点に つき、実態を把握し、考察する。 @ 労働分野のNPOと労働行政の協力の可能性 A 雇用・就業の場としてのNPOの可能性 B NPOを支援するサポートセンターについて、行政とNPOとが協力する 際の仲介役、NPOの雇用・就業環境の改善の支援役としての役割 ○ 実施した調査 ・ NPO有給スタッフへのアンケート調査(「NPOスタッフ就労実態・意識 に関する調査」〔976団体〕、「NPOに関するアンケート調査」〔976団体〕 の2本)を実施。 ・ サポートセンター及び有給スタッフへのヒアリング調査〔7団体〕を実施。 2.NPOと行政との協力(パートナーシップ)の可能性 ○ 協力の在り方 @ NPOと行政とは互いに異なる存在であることを理解すること。 A NPOと行政とは対等の立場で協働事業を契約すること。 B NPOと行政との緊張関係を保つため契約を有期限とすること。 ○ 協力の条件 @ 行政側の課題 ・ NPOに対する基本的理解(自主性・独立性を尊重し、その社会的役割を 認知) ・ 保有する情報の積極的発信 ・ 協力する目的の明確化 ・ パートナーを決める基準・手続の確立 ・ パートナーシップに基づく事業の評価方法の確立 A NPO側の課題 ・ 行政に対する基本的な理解(組織原理、予算決定・執行のルール、公平性 等を理解) ・ 組織体制の確立 ・ 情報開示、アカウンタビリティ B 情報交換等の場の設定 C サポートセンターのコーディネーターとしての役割 ○ 労働分野のNPOと労働行政との協力の可能性 @ 基本的な考え方 雇用・就業、労働条件、職業能力開発、労使関係、勤労者福祉、労働面の国 際協力・交流等に関連する事業活動を行っているNPOは多数存在。 労働行政としては、このようなNPOと協力することにより、政策の目的を 的確かつ効率的に達成できる可能性があり、労働分野における協力の可能性と して、従来民間事業者団体や所管公益法人等を活用して実施してきた施策・事 業の延長線上にNPOと協力して行う事業を位置付ける考え方を基本として検 討を進めることが考えられる。 A 想定される協力の方法 (1)事業委託 ・ 調査研究の外部委託等は、実績・能力を見極め、NPOに、労働行政に 関わる調査研究等の委託を検討することは可能。 (2)資金助成 ・ 高齢者や障害者の就業支援の機能を果たすNPOや仕事と育児の両立支 援事業等を行うNPOに対し、協力する際の要件が明確になれば、労働行 政と「パートナーシップ」を構築し、協力して目的を達成する仕組みは想 定可能。 ・ NPO支援策として組織に対して直接給付するのではなく、利用者に対 する給付という考え方で資金を流し、総合的にみて良好なサービスを提供 している利用者が多いNPOに資金が流れる仕組みについても検討の余地 有り。 3.雇用・就業の場としてのNPOの可能性 ○ アンケート調査結果(NPO有給スタッフの就労実態と意識) @ NPOの職場を担う人々 有給スタッフ(専従・非専従)の特徴は、まず第一に、女性の割合の高さ。 男性が36.5%、女性が63.5%と圧倒的に女性の比率が高くなっている。 第二には、年齢層が20歳代、30歳代が中心で全体の半数を占める点である。 第三として、年齢層が40歳代の女性、60歳代以上の男性に対しても多くの雇 用機会を提供している点があげられる。 A 就労動機等 NPOスタッフとして就労するに至ったきっかけは「スタッフの募集に応募 した」、「知人の勧誘」で高い割合を占める。 NPOで働くようになった理由は、「NPOの活動内容に共感したから」、 「自分の経験を通じNPO活動の必要性を感じたから」、「社会の役に立てる から」が高い割合を占め、また、NPOで働いて良かったことも、「自分自身 の精神的な成長に役に立った」、「社会問題について考えさせられた」が過半 数を占める。 B 労働条件 給与水準は「年収300万円未満」が全スタッフの約7割を占める。スタッフ のうち約6割がNPOの仕事によって家計を支えているにもかかわらず、その 年収は「平成9年毎月勤労統計調査」(労働省)の月別の現金給与総額を単純 に12倍した額と比較しても2分の1に満たない現状である。労働時間は、週40 時間以上が過半である。 また、休日・休暇は、週休2日が64.2%と比較的恵まれた状況である。 C 仕事や労働条件への評価 上記のような労働条件にもかかわらず、「仕事の内容や進め方」、「労働時 間や休日・休暇」、「報酬」、「訓練・研修」の全項目を通じ高い満足度を得 ている。 ただし、管理職員や経理・コーディネーター担当職員等では報酬に関する不 満度がやや高い。 D 有給スタッフの典型的形態 有給スタッフは多様な形態の構成員から成っているが、その中でも次のよう な4つの典型的な類型を特徴的に抽出することができる。それぞれの特徴は以 下のとおり。 ・ 「家計を支えている男性・20〜30歳代」 NPOの活動内容に共感し、スタッフの募集に応募してスタッフとなった。 年収288万円・週労働時間44.2時間で一般職員として働く20〜30歳代の男性 ・ 「家計を支えている女性・20〜30歳代」 NPOの活動内容に共感し、スタッフの募集に応募してスタッフとなり、 年収は241万円・週労働時間は41.4時間で一般職員として働く20〜30歳代の 女性。 ・ 「家計を支えていない女性・40〜50歳代」 NPOの活動内容に共感し、知人の勧誘がきっかけで育児等後再就職して スタッフとなり、年収133万円・週労働時間は30.8時間で一般職員として働 く40〜50歳代の女性。 ・ 「家計を支えていない男性・60歳代以上」 NPOの活動内容に共感し、知人の勧誘がきっかけで官公庁・企業からの 引退後再就職してスタッフとなり、年収は150万円・週労働時間は33.6時間 で、管理職員として働く60歳代の男性。 ○ 有給スタッフへのヒアリング調査結果 ヒアリング対象者からは、次のような意見が聞かれた。 ・ NPOは、労働条件の低さを、仕事内容、仕事の進め方、様々な人との交流 によってカバーでき、満足を得られる雇用・就業の場である。 ・ 行政に対しては、人材育成、人材確保、労働環境の整備の支援策等を要望す る。 ○ 有給スタッフを有するNPO像 @ 団体の形態及び規模 有給スタッフを有する団体の活動領域は福祉領域が多く、全体の8割を占め る。年間予算規模は「1,000〜5,000万円未満」が多い。 A 団体の労働環境 労働保険(労災保険、雇用保険)への加入状況は、雇用保険が62.0%、労災 保険が56.9%である。 また、産休などの長期休暇後の復帰例のある団体は約3割であった。 B NPOが求める人材 NPOとして求める人材は、「団体の問題意識を共有できる人」が82.1%、 「活動領域の専門知識、技術を持った人」が52.4%となっている。 ○ 雇用・就業の場としての展望と課題 @ 雇用・就業の量の増加 NPOは今後の社会の多様なニーズに応える形で成長する可能性があり、特 に少子・高齢社会の下で労働・福祉分野などで活動の拡大とともにスタッフの 雇用・就業の量の増加が期待される。今後の環境整備が米国並に進めば4%程 度の雇用の新たな創出の可能性もある。 A 雇用・就業の質的改善の必要性 NPO活動を安定的に継続させるためには、NPOで中心的役割を担い、N PO活動で家計を支えている有給スタッフの報酬等の処遇の改善が必要。 やりがい、自発性があっても年収が一般企業労働者の5割弱の現状では、生 計維持に困難な面があり、当面、米国並に7割程度を目標に改善していくこと も考えられる。 ○ 雇用・就業の場としてのNPOの発展に向けた行政の役割 @ 「パートナーシップ」に基づく支援 NPOが策定したプログラムに対して、行政がその内容を評価した上で財政 的支援を行うなどの「パートナーシップ」に基づき、NPOに資金的な余裕が 生まれれば、スタッフの報酬等の処遇が改善され、それが優秀な人材の確保に つながり、NPOがさらに発展し、良好な雇用・就業の場が創出されるという 好循環が生まれる。 A 労働政策による支援 (1)雇用・就業環境の改善 ・ NPOのリーダーに対する人事・労務管理のノウハウ提供 ・ 雇用関係助成制度の活用 ・ 労働保険加入促進 ・ 労働安全衛生指導 (2)人材確保・育成 ・ NPOにおけるスタッフの能力開発への支援 (3)人材のあっせん ・ NPOの特質(使命、やりがい)を考慮した職業紹介・相談 ・ NPO就業希望者を対象としたイベント開催 ・ NPO支援組織による人材あっせん 4.サポートセンターの実態 ○ サポートセンターの主な機能 米国では、特定のサポート機能に特化したサポートセンターが中心的であるが、 我が国では現在、複数のサポート機能を有する総合的なサポートセンターが多い のが特徴であり、まだ基盤の脆弱な我が国のNPOのトータルな相談、援助に応 じている。 主な機能は以下のとおりである。 @ 情報収集・提供機能 サポートセンターがまず事業の第一段階として取り組むのが、個々のNPO の団体情報、活動情報の収集及び提供であり、これによってサポートセンター としてはサポートの必要なニーズを明確に把握し、顧客や市場の開拓が可能と なる。 A NPOに関する意識啓発機能 NPOの立ち上げ支援・育成を目的に、市民一般に対しイベント、シンポジ ウムを通じて意識啓発的な活動を行っている。 B 行政・企業に対するアドボカシー(提言・要請)機能 NPO側の意向を代表して、行政や企業に対して提言活動等の働きかけも盛 んに行っている。こうした活動は、現在、特にNPOと地方行政や企業とのパ ートナーシップ作りに大きな役割を果たしている例がある。 C NPOに対する相談・支援機能 NPO経営に関わる様々な課題解決に向けてのコンサルティング等の支援活 動も行っている。今後、介護保険導入後の有償介護サービス市場の拡大や特定 非営利活動促進法に基づく法人格取得の動きに伴い、個々のNPOからサポー トセンターに対するこうした相談・支援活動へのニーズが高まるものと考えら れる。 ○ サポートセンターに将来期待される役割 サポートセンターには、NPO相互のネットワーク上の結節点としての役割を 果たすに止まらず、個々のNPOだけでは対応が困難な面もあるNPOと行政、 NPOと企業との間の関係を仲介するコーディネーターとしての役割が今後益々 期待される。 これによって、NPO、行政、企業間の有機的連携が容易になれば、多様化す る社会ニーズをより的確に満たすことが可能となる。 例えば、現在でも行政との関係では、定期的に対話の場を設け相互学習・相互 評価、NPOとのパートナーシップにつながる支援策等の提案を行っており、企 業との関係では、企業市民活動全般のコンサルティングを企業内研修支援、フォ ーラム開催を通じて行っている例もある。 5.まとめ ○ 基本的な課題 ・ 行政としては、NPOの独自性を担保しつつ、その有効性を社会に還元でき るような仕組みについて支援していくことが重要。 ・ NPO自身としては、効率的な事業運営、サービスの質の担保、情報の公開 に努めていくことが重要。 ○ NPO、行政、企業3者間のパートナーシップ ・ NPOは行政とのパートナーシップで組織としての基盤を安定させることが できるとともに、さらに企業とのパートナーシップによって一層効果的な社会 貢献を行うことが可能。 ○ 労働市場として成長するための条件 ・ NPOがボランティア活動に依拠するのは当然であるが、今後の健全な発展 を期するためには、有給スタッフの処遇を改善し、優秀な人材を確保していく とともに、社会に対する経営のアカウンタビリティに努め、リーダーが重要な 労務管理責任を果たしていくことが必要。 ・ 現在のNPOをめぐる労働市場は、スタッフにおいてもボランティア労働的 性格を有すること等により通常の労働市場原理が必ずしも働かないが、行政が NPOに対しパートナーシップ等に基づく支援を行うことにより、労働市場原 理に欠ける部分を補完し、市場の健全性を確保していくことが重要。