タイトル:「業績主義時代の人事管理と教育訓練投資に関する調査」

            大企業で進む業績主義管理と多様化する人材育成戦略

            〜 人事・労務管理研究会 人材育成ワーキンググループ 〜

                             調査研究報告



発  表:平成12年8月8日(火)

担  当:労働省 労働大臣官房政策調査部 産業労働調査課



                 電 話 03-3593-1211(内線5245)

                     03-3502-6729(夜間直通)


 バブル経済崩壊後の厳しい経営環境の中で、企業は成果主義・業績主義化を基本コンセ

プトにして人事処遇システムの見直しを進めており、年功賃金を基本とする日本的雇用慣

行は大きな転換点を迎えている。

 人事処遇システムは、企業における人事・労務管理のコアシステムの一つであることか

ら、その変化は、企業における就業形態・雇用形態・労使関係など広範な分野に影響を与

えることが予想される。特に、人事処遇システムは人材育成システムと深く関係している

ことから、「ヒト」を資源とする我が国経済構造の根幹にも影響を及ぼす可能性がある。

 このため、労働省では、人材育成ワーキンググループ(座長 今野浩一郎 学習院大学

教授)を開催し、主に国内大企業を対象として、 <1>成果主義・業績主義の実施の前提と

なる「業績管理」とは何なのか、 <2>業績管理と人事処遇システムとの間にはどのような

関連があるのか、 <3>成果・業績主義化は人材育成にどのような影響を与えるのか、につ

き調査研究を実施した。

 本ワーキンググループでは、平成10年度と11年度の2年間にわたり調査を実施した。

10年度は、企業を対象にした人事労務管理の現状と今後の方向に関するアンケート調査と、

労働者個人を対象にした働く意識に関するアンケート調査を行い、『新世紀に向けての日

本的雇用慣行の変化と展望』と題した報告書を取りまとめた。本報告は、2年度目に当た

る平成11年11月〜12月に人材育成ワーキンググループで実施したアンケート「業績主義時

代の人事管理と教育訓練投資に関する調査」(日本労働研究機構への委託調査)の結果を

もとに分析したものである。





調査結果の要旨



1.人事戦略の基本方針 〜 能力主義・業績主義の徹底と人材育成・教育訓練の強化

  人事戦略の基本方針をみると、企業は「能力主義・業績主義の徹底」(今後重視する

 企業が97%)、「人材育成・教育訓練の強化」(同88%)を共に重視しており、短期的

 な成果を求めながらも長期的な観点で社員を育てる方針を採ろうとしている。それに対

 し「終身雇用慣行の維持」については消極的である(同10%)。



2.変化する企業の業績管理指標 〜 収益性・市場評価に関連する指標を一層重視



  全社レベルの業績管理に使われる指標が今後どのように変化するかについて見ると、

 売上高を重視する企業が大幅に減少しており(「今後重視」−「これまで重視」=▲24

 %)、従来型の量的拡大主義の考え方は終焉する傾向にある。これにかわってキャッシ

 ュフロー(同 +38%)、経済的付加価値(EVA)(同+17%)、株価(同+11%)とい

 った収益性と市場評価に関連する財務指標に加えて、顧客満足度(同+16%)、新製品

 開発(同+11%)、価格競争力(同+11%)といった競争力強化に関する指標、組織・事

 業改革(同+18%)と企業倫理(同+11%)といった内部の管理体制に関する指標が重視

 される傾向にある。



3.緩やかに進む総額人件費管理



  人件費管理の基本方針には、総額人件費管理を指向する一括管理型(給与、賞与、退

 職金、福利厚生費などを一括して管理する)と、積み上げ管理を指向する個別管理型

 (それぞれを個別に管理する)の二つがあるが、これまでは一括管理型が51%、個別管

 理型が48%とほぼ拮抗した状況にあった。しかし、今後の方針をみると一括管理型が60

 %に増え、全体としては総額人件費管理化が今後緩やかに進むものと予想される。

  また、賞与・一時金に対する経営業績の反映度は、上位職になるほど業績の反映度が

 高い(部長レベルで賞与の3.7割に業績が反映。課長レベルでは3.4割、一般社員は2.4

 割)。さらに、この変動幅を規定する業績には部門業績と個人業績があり、部長レベル

 では部門業績3.6割・個人業績6.4割、課長レベルでは部門業績 2.9割・個人業績7.1割、

 一般社員では部門業績1.5割・個人業績が8.5割と、上位職になるほど部門業績の割合が

 高い。



4.要員管理は積み上げ型からトップダウン型へ



  要員計画の策定方法には、積み上げ方式(個々の部門から要求のあった要員を積み上

  げる)とトップダウン方式(経営層の方針を人事や経営企画部などがとりまとめ、各部

  門に要員を配分する)の二つがあるが、これまでは積み上げ方式が多数を占めていた

  (「同方式である」19%、「どちらかと言えば同方式」42%)が、今後はトップダウン

  方式が多数を占めることが予想される(「どちらかと言えば同方式」47%、「同方式で

  ある」27%)。



5.教育訓練分野別の資源配分戦略 〜 選抜教育の重視



  教育訓練費の今後の方針は、増加を考えている企業が36%、現状維持が47%、減少を

  考えている企業が15%であり、長引く不況下においても、教育訓練費を減らそうと考え

  ている企業は少ない。

  教育訓練投資の資源配分につき今後の方針に注目すると、階層別研修(今後重視する:

  38%)といった社員一律型の研修よりも、職能別研修(同61%)や課題別研修(同56%)

  といった仕事の違いに合わせて専門能力を養成する戦略が重視されている。

  企業の教育訓練の方針には、「底上げ教育」(社員の能力レベルを全体的に高める方

  針)と「選抜教育」(特定の社員を選抜して教育する方針)の二つがあるが、現在と今

  後の教育方針を比べると、選抜教育重視派が23%から66%に増加しているのに対し、底

  上げ教育重視派は75%から32%に減少している。



6.能力開発の責任主体は企業責任から個人の自己責任へ



  社員の能力開発の責任は企業が負うべきか、それとも個人が負うべきか。これまでは

  多くの大手企業が能力開発は「企業の責任」である(82%)と考えてきた。しかし、今

  後は「社員個人の責任」とする企業が15%から55%に増加し、「企業の責任」は43%ま

  で低下するなど、能力開発の主体は企業から個人へと大きく変化しようとしている。



7.今後の課題



 (1)「結果の評価」の公平性・納得性の確保



  企業が成果主義・業績主義を重視し、「結果で評価する管理」へ移行するに際しては、

  「結果の評価」の公平性・納得性を高めるための努力が必要である。具体的には、公正

  で客観性のある評価システムと苦情処理システムを確立するため、労使で取り組む必要

  性があろう。

  また、政府は、新しい雇用管理の成功事例と失敗事例を調査研究し、そこから得られ

  る「Best  Practice」を社会全体で共有することが必要である。



 (2)人材育成への支援



  個々の労働者が、「いまの能力を知る」、「会社(あるいは市場)が必要とする能力

  を知る」ことを通して、自ら能力開発とキャリア形成の計画を考えることが求められつ

  つある。このため、政府としては、個人の能力開発計画の作成と個人が必要とする能力

  開発機会の提供を支援する政策を一層充実することが必要である。

  また、研修方法の外部化・専門化が進むに従い、公共職業訓練機関や民間教育訓練機

  関等を活用した職業訓練を一層促進していく必要があろう。さらに、選抜教育を重視し

  ようとしている企業は、従業員の国内外の大学等への留学を重視していることから、今

  後産学交流機会の一層の拡大も必要であろう。



 (3)サービス業における人材育成の重要性



  サービス業では、製造業の「設備」がまさに「人」であり、人材育成に企業の競争力

  がかかっているといっても過言ではない。高度成長期に企業が新規設備を競って導入し

  たのと同様に、21世紀は企業が人材育成を競って行うことが予想される。政府としては、

  雇用創出が期待されるサービス業を中心として、今後企業が人材育成を行うに際して、

  より簡易に広範な支援を得られるように制度を改革していくことが必要であろう。







  (参考)

      人事・労務管理研究会

   人材育成ワーキンググループ メンバー(50音順)



      座長 今野 浩一郎   学習院大学経済学部教授

         大木 栄一    日本労働研究機構副主任研究員

         佐藤 厚     日本労働研究機構主任研究員

         田口 和雄    (財)機械振興協会経済研究所研究員

         立道 信吾    日本労働研究機構副主任研究員

         畑井 治文    日本労働研究機構臨時研究助手 

         藤村 博之    法政大学経営学部教授

         脇坂 明     学習院大学経済学部教授

 
調査の概要


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