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ICF

序論



1.背景



2.ICFの目的



 2-1.ICFの適用



3.ICFの特性



 3-1.ICFが扱う範囲



 3-2.ICFの視野



 3-3.分類の単位



 3-4.ICFが提供される形



4.ICF構成要素の概観



 4-1. 心身機能・身体構造/機能障害(構造障害を含む)



 4-2.活動と参加/活動制限と参加制約



 4-3.背景因子



5.生活機能と障害のモデル



 5-1.生活機能と障害の過程



 5-2.医学モデルと社会モデル



6.ICFの使用



ICFの国際使用に関する第54回世界保健会議承認決議

  

分類



脚注

ICF

序論

  

1.背景



 この本には国際生活機能分類:国際障害分類改定版(International 

Classification of Functioning, Disability and Health, ICF)を収めている

(注1)。ICF分類の目的を一言でいうと,健康状況と健康関連状況を記述するため

の,統一的で標準的な言語と概念的枠組みを提供することである。ICFには健康の構

成要素の定義(説明文)と,安寧(well-being)の構成要素のうちで健康に関連した

もの(例えば,教育や労働)の定義とが示されている。したがって,ICFに含まれて

いる領域(domain)には,健康領域と健康関連領域の2種類があるということができ

る。これらの領域は身体,個人,社会という3つの視点に立って,2つの基本的なリ

ストに記述されている。すなわち(1)心身機能・身体構造(以下心身機能・構造と

略)(body functions and structures)と(2)活動(activities)と参加

(participation)(注2)とに分類して,ICFは,ある健康状態にある人に関連する

さまざまに異なる領域(domains)(注3)(例:ある病気や変調をもつ人が実際にし

ていること,またはできること)を系統的に分類するものである。ここで生活機能

(functioning)とは心身機能・構造,活動,参加の全てを含む包括用語である。同

様に障害(disability)は,機能障害(構造障害を含む),活動制限,参加制約の全

てを含む包括用語として用いられている。ICFは更に環境因子のリストを含んでおり,

これは以上のすべての構成概念(constructs)と相互作用するものである。このよう

にICFは,利用者がさまざまな領域における個人の生活機能,障害および健康につい

て記録するのに役立つものである。



 ICFは,健康の諸側面に関してWHOが開発した「国際分類ファミリー」に属している。

WHO国際分類ファミリーは,健康に関する幅広い情報(例:診断,生活機能と障害,

保健サービスの受診理由)をコード化するための枠組みを提供し,健康と保健に関す

る諸専門分野および諸科学分野にまたがる国際的な情報交換を可能とする標準的な共

通言語を提供するものである。



 WHOの国際分類では,健康状態(病気〈疾病〉,変調,傷害など)は主にICD-10

(国際疾病分類第10版)(注4)によって分類され,それは病因論的な枠組みに立っ

たものである。健康状態に関連する生活機能と障害はICFによって分類される。した

がって,ICD-10とICFとは相互補完的であり(注5),利用者にはこの2つのWHO国際

分類ファミリーメンバーを一緒に利用することを奨めたい。ICD-10は,病気,変調や

その他の健康状態の「診断」を提供し,それによる情報はICFによる生活機能につい

ての付加情報によってより豊かなものとなる(注6)。診断に生活機能を付け加える

ことによって,人々や集団の健康に関するより広範かつ有意義な像が提供されること

になり,これは意思決定のために用いることができる。



 WHO国際分類ファミリーは,国際的背景において集団の健康を記述し比較するため

の価値の高いツール(道具)である。死亡率に関する情報(ICD-10による)と,健康

に関連して起こるさまざまな状況についての情報(ICFによる)とを統合することに

より,集団の健康の総括的指標を作ることもでき,それは集団の健康状態とその分布

をモニターしたり,さまざまな死因や病気がどのようにそれに影響しているのかを評

価するのに役立つであろう。



 ICFは「疾病の結果(帰結)」の分類(1980年版)から「健康の構成要素」の分類

へと移行してきた。「健康の構成要素」とは健康を構成するものを明らかにするもの

であり,一方「結果(consequences)」は病気やその他の健康状態の結果として起こ

りうる影響に焦点をあてるものである。このようにICFは原因となる病気については

中立的な立場をとっており,調査者は適切な科学的方法を用いて因果関係の推測を行

うことができる。同様にこのアプローチは,「健康の決定因子」や「危険因子」を求

めるアプローチとも異なるものである。しかしながら,決定因子や危険因子の研究を

助けるために,ICFには個人が生活している背景を示す環境因子のリストが含まれて

いる。



  

2.ICFの目的



 ICFは多くの目的に用いられうる分類であり,さまざまな専門分野や異なった領域

で役立つことを目指している。ICFの目的を個別にみると,以下のとおりである。



 ・ 健康状況と健康関連状況,結果,決定因子を理解し,研究するための科学的基

  盤の提供。



 ・ 健康状況と健康関連状況とを表現するための共通言語を確立し,それによって,

  障害のある人々を含む,保健医療従事者,研究者,政策立案者,一般市民などの

  さまざまな利用者間のコミュニケーションを改善すること。



 ・ 各国,各種の専門保健分野,各種サービス,時期の違いを超えたデータの比較。



 ・ 健康情報システムに用いられる体系的コード化用分類リストの提供。



 上記の目的は相互に関連している。それは,ICFの必要性と使用のためには,異な

る文化圏での保健政策,サービスの質の保証,効果評価などに,さまざまな消費者が

利用できるような,有意義で実用的なシステムの構築が求められているからである。





 2-1.ICFの適用



  1980年の試案の公刊以来,ICIDHはさまざまな用途に使用されてきた。例えば;



 ・ 統計ツール(手段)として:データ収集・記録(例:人口統計,実態調査,管

  理情報システム)。



 ・ 研究ツールとして:結果の測定,QOLや環境因子の測定。



 ・ 臨床ツールとして:ニーズの評価,特定の健康状態と治療法との対応,職業評

  価,リハビリテーション上の評価,結果の評価。



 ・ 社会政策ツールとして:社会保障計画,補償制度,政策の立案と実施。



 ・ 教育ツールとして:カリキュラムの立案,市民啓発,ソーシャルアクション。



  ICFは本来,健康分類および健康関連分類であるが,保険,社会保障,労働,教

 育,経済,社会政策,立法,環境整備のような他の領域でも用いられる。ICFは国

 連社会分類の1つとして認められ,また障害者の機会均等化に関する標準規則

 (注7)の中で取りあげられ,それを組み入れている。このようにICFは,国際的

 な人権に関する諸規則・方針や,各国の法令を実施するための適切な手段を提供す

 る。



  ICFは,例えば社会保障や医療の評価,地域・国・国際レベルでの住民実態調査

 といったさまざまな場面で,幅広く適用するのに有用である。ICFが提供する情報

 整理の概念的枠組みは,予防と健康増進を含む個人的な保健ケア,および社会的障

 壁の除去や軽減による参加促進,社会的支援の推進に応用できる。また保健システ

 ムの研究においても,評価と政策立案の両面で活用が可能である。



  

3.ICFの特性



 分類は,何を分類するのかが明確でなければならない。つまり,分類が扱う範囲,

その視野,分類の単位,分類の構成,各項目の相互関係などである。ICFの基本的な

特徴について,以下に説明する。





 3-1.ICFが扱う範囲



  ICFは,人の健康のすべての側面と,安寧(well-being)のうち健康に関連する

 構成要素のいくつかを扱うものであり,それらを健康領域および健康関連領域とし

 て記述する(注8)。ICFは広い意味での健康の範囲にとどまるものであり,社会

 経済的要因によってもたらされるような,健康とは無関係な状況については扱わな

 い。例えば,人種,性別(ジェンダー),宗教,その他の社会経済的特徴のために

 現環境での課題の遂行において制約を受ける場合があるが,これらはICFで分類さ

 れる健康関連の参加制約ではない。



  ICFは,障害のある人だけに関するものとの誤解が広まっているが,ICFは全ての

 人に関する分類である。あらゆる健康状態に関連した健康状況や健康関連状況はIC

 Fによって記述することが可能である。つまり,ICFの対象範囲は普遍的である

 (注9)。





 3-2.ICFの視野



  ICFは,人の生活機能と障害に関する状況の記述を可能にし,情報を組織化する

 枠組みとして役立つ。ICFは情報を,有意義な,相互に関連した,容易に利用しう

 るものとして構成する。



  ICFは情報を2つの部門に整理している。第1部は生活機能と障害,第2部は背

 景因子を扱い,それぞれ2つの構成要素からなる。



   1.生活機能と障害の構成要素



    身体の構成要素には2つの分類がある。心身機能と身体構造である。両分類

   の章立ては,身体系に従って構成されている。



    活動と参加の構成要素は,個人的視点および社会的観点からみた生活機能の

   さまざまな側面を示す全領域をカバーしている。



   2. 背景因子の構成要素



    環境因子のリストは背景因子の第1の構成要素をなしている。環境因子は,

   生活機能と障害の全ての構成要素に影響を及ぼすものであり,個人の最も身近

   な環境から,全般的な環境へと向かうように構成されている。



    個人因子も背景因子の構成要素である。しかし,社会的・文化的に大きな相

   違があるために,ICFでは分類されていない。



  ICFの第1部である「生活機能と障害」の構成要素(components)は,2つの方

 法で表現される。つまり一方では,問題点(例:機能障害〈構造障害を含む〉,活

 動制限,参加制約。これらは障害〈disability〉という包括用語で要約される)を

 示すために用いることができる。他方では,健康状況と健康関連状況の問題のない

 (中立的な)側面,すなわち生活機能(functioning)という包括用語のもとに要

 約される側面を示すこともできる。



  生活機能と障害のこれらの構成要素は,独立しているが互いに関連した4つの構

 成概念(constructs)によって評価され,それは具体的には評価点を用いてなされ

 る。心身機能・構造は,生理的システムや解剖学的構造の変化によって評価される。

 活動と参加については,2つの構成概念(能力と実行状況)によって評価される

 (4-2参照)。



  人の生活機能と障害は,健康状態(病気〈疾病〉,変調,傷害,ケガなど)と背

 景因子とのダイナミックな相互作用(注10)と考えられる。前述したように,背

 景因子には個人因子と環境因子の2つがある。ICFは本分類の基本的構成要素であ

 る環境因子の包括的なリストを含んでいる。環境因子は生活機能と障害のあらゆる

 構成要素と相互に作用しあう。環境因子の基本的な構成概念とは,物的な環境や社

 会的環境,人々の社会的な態度による環境による,促進的あるいは阻害的な影響力

 である。





 3-3.分類の単位



  ICFは健康状況と健康関連状況とを分類する。したがって分類の単位は,健康領

 域と健康関連領域における各種のカテゴリーである。ICFは人間を分類単位として

 いないことに留意することが大切である。すなわち,ICFは人々を分類するもので

 はなく,それぞれの人の状況を,健康領域や健康関連領域の中で整理して記述する

 ものである。さらに,この記述は常に環境因子や個人因子との関連においてなされ

 るのである。





 3-4.ICFが提供される形



  ICFには,利用者の必要に応じて,2つの版がある。



  本書に収められているICFの完全版は,第4レベルまでの詳細にわたる分類を示

 している。この4つのレベルは,より高次のレベル(第2レベルのすべての領域を

 含む)に集約することができる。第2レベルまでの体系はICFの短縮版としても提

 供されている。



  

4.ICF構成要素の概観
               定義(注11
健康との関連において
 心身機能(body functions)とは,身体系の生理的機能(心理的機能を含む)で
ある。
 身体構造(body structures)とは,器官・肢体とその構成部分などの,身体の解
剖学的部分である。
 機能障害(構造障害を含む)(impairments)とは,著しい変異や喪失などといっ
た,心身機能または身体構造上の問題である。
 活動(activity)とは,課題や行為の個人による遂行のことである。
 参加(participation)とは,生活・人生場面(life situation)への関わりのこ
とである。
 活動制限(activity limitations)とは,個人が活動を行うときに生じる難しさの
ことである。
 参加制約(participation restrictions)とは,個人が何らかの生活・人生場面に
関わるときに経験する難しさのことである。
 環境因子(environmental factors)とは,人々が生活し,人生を送っている物的
な環境や社会的環境,人々の社会的な態度による環境を構成する因子のことである。
 これらの概念の概要は表1の通りである。更に詳しい説明が5-1.に具体的な用語

で示されている。表1に示すように:



・ ICFには2つの部門があり,それぞれは2つの構成要素からなる。



   第1部:生活機能と障害

       (a)心身機能(Body Functions)と身体構造(Body Structures)

       (b)活動(Activities)と参加(Participation)



   第2部:背景因子

       (c)環境因子(Environmental Factors)

       (d)個人因子(Personal Factors)



・ 各構成要素は肯定的と否定的の両方の用語から表現可能である。



・ 各構成要素はさまざまな領域からなり,それぞれの領域はカテゴリーに分かれ,

 それらが分類の単位となる。個人の健康状況や健康関連状況は適切なカテゴリーコ

 ードを選び,それに評価点(qualifiers)をつけることによって記載される。評価

 点とは数字のコードであり,そのカテゴリーにおける生活機能や障害の程度または

 大きさ,あるいは環境因子が促進因子または阻害因子として作用する程度を明らか

 にする。



表1 ICFの概観
  第1部:生活機能と障害 第2部:背景因子
構成
要素
心身機能・
身体構造
活動・参加 環境因子 個人因子
領域 心身機能
身体構造
生活・人生領域
(課題,
行為)
生活機能と
障害への
外的影響
生活機能と
障害への
内的影響
構成
概念
心身機能の変化
(生理的)

身体構造の変化
(解剖学的)
能力標準的環境に
おける課題の遂行
実行状況現在の環
境における課題の
遂行
物的環境や社会的環
境,人々の社会的な
態度による環境の特
徴がもつ促進的ある
いは阻害的な影響力
個人的な
特徴の
影響力
肯定的
側面
機能的・
構造的
統合性
活動
参加
促進因子 非該当
生活機能
否定的
側面
機能障害
(構造障害
を含む)
活動制限
参加制約
阻害因子 非該当
障害
 4-1. 心身機能・身体構造/機能障害(構造障害を含む)



 定義:心身機能とは,身体系の生理的機能(心理的機能を含む)である。

    身体構造とは,器官・肢体とその構成部分などの,身体の解剖学的部分であ

   る。

    機能障害(構造障害を含む)とは,著しい変異や喪失などといった,心身機

   能または身体構造上の問題である。



  (1)心身機能と身体構造は,2つの別々のセクションに分けて分類されている。

    これら2つの分類は,並列的に使うようにできている。例えば,心身機能に

    「視覚機能」のような基本的な感覚を含み,それに対応する身体構造として

    「目および関連部位の構造」がある。



  (2)身体とは人体構造の全てを指し,脳とその機能である心も含まれる。した

    がって精神的(または心理的)機能は心身機能に含まれる。



  (3)心身機能・身体構造(以下心身機能・構造と略)は,身体系に従って分類

    されている。よって,身体構造は器官とはみなさない(注12)。



  (4)構造面の障害は,奇形・欠陥・欠損,その他の身体構造の著しい変異を含

    む。機能障害は組織・細胞・細胞内器官・分子レベルの生物学的な知識に合

    わせて概念化されている。しかし,これらのレベルは実用的な観点からICF

    には含まれていない(注13)。この部分の現在の分類は,機能障害の生物

    学的な基礎に基づいており,今後,細胞や分子レベルにまで分類を拡大する

    余地はあろう。医療分野の利用者にとって,機能障害はその基礎をなす病理

    と同じではなく,その病理が発現したものであるという点を注意することが

    大切である。



  (5)機能障害は,身体とその機能の医学的・生物学的状態に関する,一般に認

    められた一般人口の標準からの偏位を表すものである。何を機能障害とする

    かの定義は,本来,心身機能・構造を判断する資格を有するものによって,

    それらの標準に従って行われる。



  (6)機能障害には,一時的なもの,恒久的なもの,進行するもの,回復してい

    くもの,不変のもの,さらに断続的(間歇的)なもの,連続的なものがあり

    うる。集団の規範からの逸脱には,軽いものも重いものも,時間とともに変

    動するものもある。それらの特徴は,主に小数点以下の評価点コードによっ

    て,記述され把握される。



  (7)機能障害は,その病因やその発生経過に依存するものではない。例えば,

    失明や手足の喪失は遺伝的異常によっても外傷によっても起こりうる。機能

    障害の存在は,必然的になんらかの原因を暗示するが,その原因だけでは,

    結果としての機能障害を説明するには十分でないこともありうる。また,機

    能障害がある場合には,心身機能または身体構造の異常があるわけだが,そ

    のような異常はさまざまな病気,変調,その他の生理的状態のどれにでも関

    連しうるものである。



  (8)機能障害は,ある健康状態の一部であったり,そのひとつの表れであった

    りする。しかし必ずしも病気が存在しているとか,その人を病人とみなすべ

    きだということを示すものではない。



  (9)機能障害は,変調や病気よりも範囲が広く包括的である。例えば,一下肢

    の喪失は構造障害であるが,変調や病気ではない。



  (10)ある機能障害が原因となって,他の機能障害をもたらすことがある。例え

    ば,筋力低下が運動機能を障害したり,心機能が肺機能の低下に関連したり,

    知覚障害が思考機能に関連したりすることもある。



  (11)心身機能・構造のカテゴリーとICD-10のカテゴリーのいくつかは,特に症

    状と徴候に関して重複しているように見える。しかしこの2つの分類は目的

    が異なる。

     ICD-10は,有病率とサービス利用を記述するための特定の章の中で症状を

    分類しており,ICFでは心身機能の一部としてそれらを示して,予防や患者

    ニーズの把握のために用いることができるようにしている。もっとも重要な

    ことは,ICFでは心身機能・構造の分類が,活動や参加のカテゴリーととも

    に使うものとして作られていることである。



  (12)機能障害は定義された判定基準を用いて,各カテゴリーに分類される

    (例:閾値をあてはめてその存在の有無が判断される)。これらの判定基準

    は,心身機能・構造について共通であり,(a)喪失または欠損,(b)減

    少,(c)追加または過剰,(d)変異,である。機能障害が存在するとわ

    かれば,ICFの共通評価点を用いてその程度を測ることができる。



  (13)環境因子は心身機能と相互に関連する。例えば,空気の質と呼吸,光と視

    覚,音と聴覚,気を散らすような刺激と注意力,床面の性状とバランスの保

    持,外気温と体温調節といった相互作用がある。



 4-2.活動と参加/活動制限と参加制約



 定義:活動とは,課題や行為の個人による遂行のことである。

    参加とは,生活・人生場面への関わりのことである。

    活動制限とは,個人が活動を行うときに生じる難しさのことである。

    参加制約とは,個人が何らかの生活・人生場面に関わるときに経験する難し

   さのことである。



  (1)活動と参加の領域は,単一のリストとして示されており,それは「注意し

    て視ること」や「基本的学習」から,「対人関係」や「雇用」といったよう

    な複雑な領域にまでいたる,全ての生活・人生領域をカバーしている。この

    リストの構成要素は,(a)「活動」,(p)「参加」,または両方を示す

    ために用いることができる。これらの領域は,実行状況と能力の2つの評価

    点によって評価される。したがってこのリストから集計された情報は,重複

    や不要データのない一括表として示される(表2参照)。



表2 活動と参加の一括表
領域 評価点
実行状況 能力
d1 学習と知識の応用    
d2 一般的な課題と要求    
d3 コミュニケーション    
d4 運動・移動    
d5 セルフケア    
d6 家庭生活    
d7 対人関係    
d8 主要な生活領域    
d9 コミュニティライフ・社会生活・市民生活    


  (2)実行状況(performance)の評価点とは,個人が現在の環境のもとで行っ

    ている活動/参加を表すものである。現在の環境は社会的状況を含むため,

    実行状況は,人々の実際生活の背景における「生活・人生場面への関わり」

    あるいは「生活経験」としても理解することができる(注14)。この背景

    には,環境因子,すなわち「環境因子」の分類を用いてコード化できる,物

    的・社会的・態度的などの全ての側面が含まれている。



  (3)能力(capacity)の評価点とは,ある課題や行為を遂行する個人の能力を

    表すものである。この構成概念は,ある領域についてある時点で達成するこ

    とができる最高の生活機能レベルを示すことを目的としている。個人の完全

    な能力を評価するためには,異なる環境が個人の能力に対してもつさまざま

    な影響を中立化させるような「標準化された」環境をもつことが必要であろ

    う。この「標準化された」環境とは,(a)テスト場面において能力評価の

    ために通常用いられている実際の環境,または(b)それが不可能な場合,

    画一的な影響を有すると想定することができる仮想的な環境である。この環

    境は「画一的」(uniform)あるいは「標準的」(standard)環境とよばれ

    る。したがって,能力は環境により調整された個人の能力を反映する。この

    調整は,国際的な比較を行うために世界中の全ての国の全ての人について同

    じでなければならない。この画一的あるいは標準的な環境の特徴は環境因子

    の分類を用いてコード化することができる。能力と実行状況の間のギャップ

    は現在の環境と画一的な環境の影響の差を反映し,したがって,実行状況を

    改善するために個人の環境に対して何をなすべきかについての有用な手引き

    を提供する。



  (4)能力と実行状況の評価点はいずれも,福祉用具や人的支援をともなう場合

    と,ともなわない場合の両方について用いることができる。福祉用具も人的

    支援も機能障害を消し去りはしないが,特定の領域の生活機能における諸制

    限を取り除くことができる。このような様式のコード化は特に個人の生活機

    能が福祉用具のない場合には,どの程度制限されるかを明らかにするために

    有用である(付録2のコード化のガイドライン参照)。



  (5)これらの領域における困難性や問題は,人がこれらの領域における生活機

    能を行うやり方の質的または量的な変更が生じたときに起こりうる。制限や

    制約は一般に認められた一般人口の標準と比較して評価される。ある個人の

    能力と実行状況を比較すべき標準や規範とは,同様の健康状態(病気,変調,

    傷害など)にない人の能力や実行状況である。制限や制約は,観察されてい

    る実行状況と期待されている実行状況との間の解離を示す。期待されている

    実行状況とは,その集団における基準であり,特定の健康状態にない人々が

    経験している状況である。同じ規範が能力の評価点についても用いられてお

    り,実行状況を改善するために個人の環境に対して何をなすべきかについて

    推測することができる。



  (6)実行状況に関して,個人に機能障害がない場合でさえ,社会環境が原因と

    なって問題が生じることがある。例えば,症状がなく発病もしていないHIV

    陽性者や,ある病気になりやすい遺伝的素因をもつ人が,機能障害がなく,

    十分な働く能力があっても,サービスの利用を拒否されたり,差別,または

    偏見のために働くことができないような場合である。



  (7)活動と参加の分類の各領域別に,「活動」と「参加」とを区別することは

    困難である。同様に,各領域別に「個人」と「社会」の観点を区別しようと

    することも,国際的な多様性と,各専門職間,また各理論的枠組み間でのア

    プローチの相違により可能ではなかった。そのため,ICFでは単一のリスト

    を用意し,利用者が彼ら自身の操作的な方法で活動(A)と参加(P)とを

    区別して使用できるようにした。これは付録3において更に説明されている。

    それを行う可能な方法は4つある。



    (a)いかなる重複も認めず,ある領域を活動とし,その他を参加とするも

      の。

    (b)(a)と同様だが,部分的な重複を認めるもの。

    (c)すべての詳細な領域を活動,大分類のみを参加として用いるもの。

    (d)すべての領域を活動と参加の両方として用いるもの。



 4-3.背景因子



  背景因子(contextual factors)は,個人の人生と生活に関する背景全体を表す。

 それは環境因子と個人因子の2つの構成要素からなり,ある健康状態にある個人や

 その人の健康状況や健康関連状況に影響を及ぼしうるものである。



  環境因子(environmental factors)とは人々が生活し,人生を送っている物的

 な環境や社会的環境,人々の社会的な態度による環境を構成する因子のことである。

 この因子は個人の外部にあり,その人の社会の一員としての実行状況,課題や行為

 の遂行能力,心身機能・構造に対して,肯定的な影響または否定的な影響を及ぼし

 うる。



  (1)環境因子は,この分類の中では,次の2つの異なるレベルに焦点を当てて

    整理されている。



    (a)個人的:家庭や職場,学校などの場面を含む個人にとって身近な環境。

      人が直接接触するような物的・物質的な環境や,家族,知人,仲間,よ

      く知らない人などの他者との直接的な接触を含む。



    (b)社会的:コミュニティーや社会における公式または非公式な社会構造,

      サービス,全般的なアプローチ,または制度であり,個人に影響を与え

      るもの。これは就労環境,地域活動,政府機関,コミュニケーションと

      交通のサービス,非公式な社会ネットワーク,更に法律,規定,公式・

      非公式な規則,人々の態度,イデオロギーなどに関連する組織やサービ

      スを含む。



  (2)環境因子は,心身機能,身体構造,活動,参加といった構成要素と相互作

    用する。各構成要素について,相互作用の性質と程度は将来の科学的な研究

    により解明されるべきである。障害は,個人の健康状態と個人因子間の複雑

    な関係の結果として,またその個人が生活している状況を示す外部因子の結

    果として特徴づけられる。このような関係のために,異なった環境はある健

    康状態にある同一の人に対して,非常に異なった影響を及ぼしうる。阻害因

    子を含んでいたり促進因子のない環境は,個人の実行状況を制限するであろ

    うし,より促進的な環境はその実行状況を向上させるであろう。社会は個人

    の実行状況を,阻害因子を作り出すこと(例:利用できない建物)で,ある

    いは促進因子を供給しないこと(例:福祉用具が利用できないこと)で妨げ

    る可能性がある。



     個人因子とは,個人の人生や生活の特別な背景であり,健康状態や健康状

    況以外のその人の特徴からなる。これには性別,人種,年齢,その他の健康

    状態,体力,ライフスタイル,習慣,生育歴,困難への対処方法,社会的背

    景,教育歴,職業,過去および現在の経験(過去や現在の人生の出来事),

    全体的な行動様式,性格,個人の心理的資質,その他の特質などが含まれる

    であろうし,これらの全部または一部が,どのレベルの障害においても一定

    の役割をもちうる。個人因子はICFには分類として含まれていないが,その

    関与を示すために図1には含まれている。この因子の関与は,さまざまな介

    入の結果にも影響しうる。



  

5.生活機能と障害のモデル



 5-1.生活機能と障害の過程



  ICFは分類であり,生活機能や障害の「過程」をモデル化するものではない。し

 かし,ICFはさまざまな構成概念や領域を位置づける手段を提供することによって,

 過程の記述のためにも役立つものである。ICFが提供するのは,相互作用的で発展

 的な過程としての,生活機能と障害の分類への多角的アプローチである。これは利

 用者に「建築材料」を提供するものであり,誰でもこれを使ってモデルを作ったり,

 この過程を異なった側面から研究したりすることができる。この意味で,ICFは一

 種の言語とみなすことができる。それを用いて作られる文章の内容は,利用者の創

 造性と科学的志向性によって違ってくる。さまざまな構成要素間の相互作用につい

 ての現在の理解をよりよく視覚化するために,図1に示す図式が役立つであろう

 (注15)。



  図1 ICFの構成要素間の相互作用



  図



  この図式では,ある特定の領域における個人の生活機能は健康状態と背景因子

 (すなわち,環境因子と個人因子)との間の,相互作用あるいは複合的な関係とみ

 なされる。これらの各要素の間にはダイナミックな相互関係が存在するため,1つ

 の要素に介入するとその他の1つまたは複数の要素を変化させる可能性がある。こ

 れらの相互関係は特定のものであり,必ずしも常に予測可能な一対一の関係ではな

 い。相互作用は双方向性である。すなわち障害の結果により,健康状態それ自体が

 変化することすらある。機能障害から能力の制限を推定したり,活動制限から参加

 の制約を推定することは,しばしば理にかなったことと思われるかもしれない。し

 かし,これらの構成要素に関するデータを別々に収集し,その後にそれらの間の関

 連や因果関係について研究することが重要である。健康に関する状況をすべて記載

 するのであれば,すべての構成要素が有用である。例えば,



 ・ 機能障害(構造障害を含む)があるが,能力の制限はない場合(例:ハンセン

  病で外観を損じても,個人の能力にはなんらの影響を及ぼさない場合)。



 ・ 実行状況上の問題や能力の制限があるが,明らかな機能障害(構造障害を含む)

  がない場合(例:いろいろな病気の場合にみられる日常生活の実行状況の減少)。



 ・ 実行状況上の問題をもつが,機能障害も,能力の制限もない場合(例:HIV陽

  性の人,精神障害回復者の,対人関係や職場での偏見や差別への直面)。



 ・ 介助なしでは能力の制限があるが,現在の環境のもとでは実行状況上の問題は

  ない場合(例:移動の制限のある人が移動のための福祉用具を社会から提供され

  ている場合)。



 ・ 逆方向の影響がある程度ある場合(例:手足を使わないことが筋萎縮の原因と

  なる場合,施設入所が社会生活技能の喪失につながる場合)。



 付録4の症例に構成概念間の相互作用の可能性をさらに示した。



  図1に示した現在の概念枠組みには,障害過程における背景因子(環境因子と個

 人因子)の役割が示されている。これらの背景因子は,ある健康状態にある人と相

 互作用して,その人の生活機能の水準と程度を決定する。環境因子は,個人にとっ

 て外部のもの(例:社会の態度,建築物の特徴,法制度)で,環境因子の項で分類

 されている。一方,個人因子はICFの今回の版では分類されていない。個人因子に

 は,性別,人種,年齢,体力,ライフスタイル,習慣,困難への対処方法,その他

 同様の因子が含まれている。これらの評価は必要に応じて利用者に任されている。



 5-2.医学モデルと社会モデル



  障害と生活機能の理解と説明のために,さまざまな概念モデル(注16)が提案

 されてきた。それらは「医学モデル」対「社会モデル」という弁証法で表現されう

 る。医学モデルでは,障害という現象を個人の問題としてとらえ,病気・外傷やそ

 の他の健康状態から直接的に生じるものであり,専門職による個別的な治療という

 かたちでの医療を必要とするものとみる。障害への対処は,治癒あるいは個人のよ

 りよい適応と行動変容を目標になされる。主な課題は医療であり,政治的なレベル

 では,保健ケア政策の修正や改革が主要な対応となる。一方,社会モデルでは障害

 を主として社会によって作られた問題とみなし,基本的に障害のある人の社会への

 完全な統合の問題としてみる。障害は個人に帰属するものではなく,諸状態の集合

 体であり,その多くが社会環境によって作り出されたものであるとされる。したが

 って,この問題に取り組むには社会的行動が求められ,障害のある人の社会生活の

 全分野への完全参加に必要な環境の変更を社会全体の共同責任とする。したがって,

 問題なのは社会変化を求める態度上または思想上の課題であり,政治的なレベルに

 おいては人権問題とされる。このモデルでは,障害は政治的問題となる。



  ICFはこれらの2つの対立するモデルの統合に基づいている。生活機能のさまざ

 まな観点の統合をはかる上で,「生物・心理・社会的」アプローチを用いる。した

 がってICFが意図しているのは,1つの統合を成し遂げ,それによって生物学的,

 個人的,社会的観点における,健康に関する異なる観点の首尾一貫した見方を提供

 することである(注17)。



  

6.ICFの使用



 ICFは人間の生活機能と障害の分類である。ICFは健康領域と健康関連領域とを系統

的にグループ化している。各構成要素内では,種々の領域がさらに共通の特性(例え

ば,起源,タイプ,類似性)別にグループ化され,意味ある形で順序づけられている。

分類は,一連の原則に立って組織されている(付録1参照)。これらの原則は,レベ

ル間の相互関連性と分類の階層性(複数のレベルの組合わせ)に関連している。しか

しICFのいくつかの項目では,序列も階層構造もなく,ある枝の同等な一員として配

列されていることもある。



 以下は,本分類の使用に関連する構造的な特徴である。



(1)ICFは健康領域と健康関連領域に関する標準的な操作上の定義を提供するが,

  この定義は一般用語としての健康の定義とは異なるものである。これらの定義は

  各領域の本質的な属性(例:性質,特性,関係)を示し,各領域について「含ま

  れるもの」と「除かれるもの」についての情報を含んでいる。その定義は一般的

  に用いられる評価のための標準点(anchor points)を含むため,アンケートに

  転用することが可能である。逆にいえば,既存の評価表の結果をICFの用語でコ

  ード化することが可能である。例えば,「視覚機能」は両眼および単眼の双方で,

  さまざまな距離から,形と輪郭を感じる機能として定義されている。そのため,

  視覚の困難さはこれらのさまざまな要素に関連づけて,軽度,中等度,重度,完

  全喪失の段階にコード化できる。



(2)ICFは最初のローマ文字と数字を組み合わせた方式をもちいる。文字のb,s,

  d,eはそれぞれ心身機能,身体構造,活動/参加,環境因子を意味するために

  使用される。これらの文字の後には,数字のコードが章番号(1桁目),第2レ

  ベル(2桁目),第3,第4レベル(各1桁)と続く。



(3)ICFのカテゴリーは階層構造となっている。したがって,より広いカテゴリー

  が,親カテゴリーよりも細かい多数の小カテゴリーを含むように定義されている

  (例えば,参加と活動の第4章の運動・移動は,立位,座位,歩行,物を運ぶこ

  となどについて別々のカテゴリーを含んでいる)。短縮(簡略)版は第2レベル

  までであり,完全(詳細)版は第4レベルにまでおよぶ。短縮版と完全版のコー

  ドは対応しており,短縮版には完全版からの要約が可能である。



(4)どんな個人でも各レベルにおいて,コードが複数になる可能性がある。それら

  は相互に独立の場合もあり,相互に関連する場合もある。



(5)ICFのコードは評価点があってはじめて完全なものとなる。評価点は健康のレ

  ベルの大きさ(例:問題の重大さ)を表す。評価点は小数点(あるいは分離点

  separator)の後の1〜2,もしくはそれ以上の数字としてコード化される。ど

  のコードも最低1つの評価点を伴う必要がある。評価点がなければ,コード自体

  には何の意味もない。



(6)心身機能・構造の第一評価点,活動と参加の実行状況と能力の評価点,環境因

  子の第一評価点,これらはすべて,それぞれの構成要素における問題の程度を表

  す。



(7)ICFで分類されたこれらすべての構成要素(心身機能,身体構造,活動と参加,

  環境因子)は共通スケールを用いて量的に示される。問題があるということは,

  その構成概念に応じて,機能障害(構造障害を含む),活動制限,参加制約ある

  いは阻害因子かもしれない。該当する分類領域について,下記の括弧内に示した

  適切な評価用語を選ぶ必要がある(xxxは第2レベルの領域の数字を表す)。こ

  こに示した数量的なスケールを普遍的に用いることが可能になるためには,研究

  を重ねて評価の手順が開発される必要がある。ここに示した大まかなパーセント

  表示は,較正(キャリブレーション,訳注:測定器などの正確さを保障するため

  に,感度などの調整を行うこと)された評価器具やその他の評価基準によって,

  機能障害,能力の制限,実行状況における問題,および阻害因子を数量的に判定

  できる場合のためのものである。ちなみに,「問題なし」または「完全な問題」

  とされた場合でも,5%までの誤差はあるとみてよい。「中等度の問題」の程度

  は通常「完全な問題」の半分までである。パーセント表示は,関係する集団の標

  準値のパーセンタイル(百分位数,訳注:大きさ順に並べた集団の,例えば30パ

  ーセント目にある個体の示す数値を30パーセンタイルと呼ぶ)を参照して,それ

  ぞれの領域で較正されるべきである。



  xxx. 0 問題なし(なし,存在しない,無視できる…)  0-4%

  xxx. 1 軽度の問題(わずかな,低い…)       5-24%

  xxx. 2 中等度の問題(中程度の,かなりの…)    25-49%

  xxx. 3 重度の問題(高度の,極度の…)       50-95%

  xxx. 4 完全な問題(全くの…)           96-100%

  xxx. 8 詳細不明

  xxx. 9 非該当



(8)環境因子の場合には,第一評価点は環境の肯定的側面,すなわち促進因子

  (facilitator)を示すため,または否定的な側面すなわち阻害因子(barrier)

  を示すために用いることができる。両方とも0-4のスケールを用いるが,促進因

  子を示すためには小数点を「+」で置き換える(例:e110+2)。環境因子は

  (a)各構成概念と個々に関連づけて,あるいは(b)個々の構成概念とは個々

  に関連づけないで全体的な評価として,コード化することが可能である。影響と

  寄与をより明確に確認する上では,(a)の方が好ましい。



(9)さまざまな利用者にとっては,各項目をコード化する際に別の種類の情報を付

  け加えることが適切であり有益であろう。有益と思われる付加的評価点は多種多

  様である。表3には,各構成要素についての評価点の詳細と,開発予定の付加的

  な評価点の案とが示されている。



(10)健康領域と健康関連領域はある瞬間について(例えば,スナップ写真のように)

  記述される。しかし,多数の時点において使用することで経過の軌跡を示すこと

  ができる。



(11)ICFにおいては,ある人の健康状況と健康関連状況の記述は,分類の2つの部

  門にわたる多数のコードを使って行われる。このようにして,一人あたりのコー

  ドの最大の数は一桁レベルでは34(心身機能8,身体構造8,実行状況9,能力

  9)であり,2桁レベルではコードの全数は362である。より詳細なレベルにお

  いてはこれらのコードの数は1424にまでなる。しかしICFを実際に適用する場合

  には,あるケースを第2レベル(3桁)の正確さで表現するためには,3〜18個

  のコードが適当であろう。一般的に,より詳細な4桁レベルの分類は専門的なサ

  ービス(例:リハビリテーションの効果,老年医学)において使用される。一方,

  第2レベルの分類は調査や臨床効果の評価のために用いることができる。



   更に詳しいコード化のガイドラインは付録2に記載されている。利用者は,本

  分類の使用にあたってはWHOと協力センターを通じて所定の研修を受講すること

  が,強く推奨される。



表3 評価点
構成要素 第1評価点 第2評価点
心身
機能(b)
否定的スケールによる共通評価点であ
り,機能障害の程度や大きさを示す。
例;b167.3は言語に関する精神機能
   の重度の機能障害を意味する。
なし
身体
構造(s)
否定的スケールによる共通評価点であ
り,構造障害の程度や大きさを示す。
例;s730.3は上肢の重度な構造障害
  を意味する。
各々の身体構造の変化の性状を示
すために用いられる。
0 構造に変化なし
1 全欠損
2 部分的欠損
3 付加的な部分
4 異常な大きさ
5 不連続
6 位置の変異
7 構造上の質的変化
  (液の貯留を含む)
8 詳細不明
9 非該当
例;s730.32は上肢の部分的な
  欠損を表す。
活動と
参加(d)
実行状況
共通評価点
その人の現在の環境における問題。
例;d5101._1は,その人の現在の環
  境において利用可能な補助用具を
  使用して,全身入浴に軽度の困難
  があることを意味する。
能力
共通評価点
介助なしでの制限
例;d5101._2は,全身入浴に
  中等度の困難がある。これは
  福祉用具の使用または人的支
  援がない場合に中等度の活動
  制限があることを意味する。
環境
因子(e)
共通評価点であり,阻害因子と促進因
子とのそれぞれの程度を示す,否定的
スケールと肯定的スケールとからなる

例;e130.2は,教育用の生産品と用
  具が中等度の阻害因子であること
を意味する。逆に,e130+2は教育用
の生産品と用具が中等度の促進因子で
あることを意味する。
なし
  

ICFの国際使用に関する第54回世界保健会議承認決議



WHA54.21の決議文は以下の通りである。

第54回世界保健会議は,



1.「国際障害分類」(ICIDH)の第2版を,国際生活機能分類:国際障害分類改定

 版(略称ICF)として承認し,



2.加盟国に対し,ICFを研究,サーベイランスおよび報告の上で,各国の事情を考

 慮し,特に将来の改定を念頭におきつつ適切な方法で用いることを勧告し,



3.WHO事務総長に対し,加盟国へその要請に応じてICFの活用のための援助を行うこ

 とを要請する。

脚注  

  

1) これは1980年にWHO(世界保健機関)が試案として発行した国際障害分類,すな

  わちICIDHの改定版にあたる。これは過去5年間にわたる系統的なフィールドト

  ライアルと国際的な議論をへて開発され,2001年5月22日に第54回世界保健会議

  (WHO総会)によって承認され(決議WHA54.21),国際的に用いられることにな

  った。

  

2) これらの用語は,以前用いられていた「機能障害(impairment)」,「能力障

  害(disability)」,「社会的不利(handicap)」にとって代わり,分類の視野

  を拡大して,マイナス面だけでなくプラス面をも記述できるようにしたものであ

  る。これらの新しい用語は序論で定義され,更に分類の中で詳細に説明されてい

  る。これらの用語は特殊な意味に用いられており,日常生活で用いられる意味と

  は異なることに注意していただきたい。

  

3) 領域(domain)とは,生理的機能,解剖的構造,行為,課題,生活・人生のさ

  まざまな分野における,実際的で有意義な組合せをなした複数の項目のまとまり

  のことである。

  

4) International Statistical Classification of Diseases and Related Health 

  Problems,Tenth Revision,Vols. 1-3. Geneva,World Health Organization,

  1992-1994.(日本版,厚生省大臣官房統計情報部編,疾病,傷害および死因統計

  分類概要〈ICD-10準拠〉,1−3巻,厚生統計協会,1993-1996)

  

5) ICD-10とICFにある重複を認識しておくことも大切である。ICFもICD-10もとも

  に身体系からはじまっている。機能障害(構造障害を含む)は身体の構造と機能

  に関するものであり,この構造・機能はふつう「疾病過程」の一部をなし,ICD-

  10にも使われている。しかしながら,ICD-10では機能と形態の障害は徴候と症状

  として「疾病」を形作る集合体の一部として用いられ,時には保健サービスへの

  受診理由としても用いられる。一方,ICFの体系では,機能障害は健康状態に関

  連した心身機能の問題そのものとして用いられている。

  

6) 同じ疾患をもつ2人の人が,異なった生活機能の水準にあることがありうるし,

  逆に同じ生活機能レベルにある2人の人が必ずしも同じ健康状態にあるとは限ら

  ない。したがって,組み合わせて使用することによって医療の目的で使う時のデ

  ータの質が向上する。この目的の場合には通常の診断手順を省略すべきでない。

  その他の目的のためには,ICFを単独で使用してよい。

  

7) The standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons 

  with Disabilities : 障害者の機会均等化に関する標準規則。国連総会1993年12

  月20日,第48回会期で採択〈決議 48/96〉国連公共情報部発行,ニューヨーク;

  1994年

  

8) 健康領域の例は見ること,聞くこと,歩行,学習,記憶を含み,一方,健康関

  連領域の例は交通,教育,社会的相互関係を含む。

  

9) Bikenbach JE, Chatterji S, Badley EM, U¨stun TB. : Models of 

  disablement, universalism and the ICIDH, Social Science and Medicine, 

  1999, 48 : 1173-1187.

  

10) この相互作用は,利用者によって過程として見ることも,結果として見ること

  も可能である。

  

11) 付録1.分類法および用語法の問題を参照。

  

12) ICIDHの1980年版では,器官レベルという言葉が使われていたが,「器官」の定

  義は明瞭ではない。目と耳は伝統的には器官と考えられているが,その境界を定

  義することは困難であり,同じことが四肢や内臓についても当てはまる。身体の

  中に独立した部位や単位があるかのような,「器官」別の考え方の代わりに,IC

  Fでは「身体構造」の用語を用いる。

  

13) したがって,ICFの完全版を用いてコード化された機能障害は,他者または本人

  により直接の観察あるいは観察からの推測により,発見あるいは認めうるもので

  なくてはならない。

  

14) 参加の定義には関与の概念が含まれている。「関与」の定義については,ある

  生活・人生分野に加わること,含まれること,あるいは参与することであり,ま

  た受け入れられること,あるいは必要な資源を利用できることである,などのさ

  まざまな提案がなされている。表2の一括表の中で,参加の唯一可能な指標は,

  実行状況についてコード化することである。このことは,参加が自動的に実行状

  況に等しいということを意味しているものではない。関与の概念はまた,関与の

  主観的な経験(「属している」という意識)とは区別されるべきである。関与を

  別にコード化したい利用者は,付録2のコード化のガイドラインを参照されたい。

  

15) ICFは,ICIDHの1980年版とは生活機能と障害の諸次元間の相互作用の描写にお

  いて,本質的に異なっている。どんな図式であっても不十分なところはあるだろ

  うこと,また多次元のモデルにおいては相互関係の複雑さのために誤解が生じが

  ちであることに注意しておかなくてはならない。このモデルは,多くの相互関係

  を図示するために描かれている。この過程におけるこれ以外の重要な焦点概念を

  示す図も確かに可能である。異なる構成要素や構成概念間の相互作用の解釈もま

  た,さまざまに異なるものになりうる(例えば,環境因子の心身機能への影響は,

  参加への影響とは確かに異なるであろう)。

  

16) ここでの「モデル」という用語は,既出の節でのこの用語の使用法とは異なり,

  構成概念またはパラダイムのことを意味する。

  

17) 付録5:「ICFと障害のある人々」を参照のこと。

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