職業能力開発基本計画を定める件(厚生労働一一三)
2021年3月29日

厚生労働省告示 第百十三号

 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第五条第一項の規定に基づき、職業能力開発基本計画を次のように定めたので、告示する。

  令和三年三月二十九日

厚生労働大臣 田村 憲久

   職業能力開発基本計画

目次

第1部 総説

 1 計画のねらい

 2 計画の期間

第2部 職業能力開発をめぐる経済・社会環境の変化と課題

 1 近年の労働市場の変化と課題

 2 労働需要側の構造的な変化と課題

 3 労働供給側の構造的な変化と課題

第3部 職業能力開発の方向性と基本的施策

 1 産業構造・社会環境の変化を踏まえた職業能力開発の推進

  (1) IT人材の育成強化

  (2) ITや新たな技術を活用した職業訓練等の推進

  (3) 企業・業界における人材育成の強化

 2 労働者の自律的・主体的なキャリア形成支援

  (1) キャリアコンサルティングの推進

  (2) 自律的・主体的な学びの支援

 3 労働市場インフラの強化

  (1) 中長期の人材ニーズを踏まえた人材育成戦略

  (2) 産業界や地域のニーズを踏まえた公的職業訓練等の実施

  (3) 技能検定・職業能力評価や日本版O-NETの推進

  (4) ジョブ・カードの活用促進

  (5) 職業能力開発施策に関する情報発信の強化

 4 全員参加型社会の実現に向けた職業能力開発の推進

  (1) 非正規雇用労働者の職業能力開発

  (2) 女性の職業能力開発

  (3) 若者の職業能力開発

  (4) 中高年齢者の職業能力開発

  (5) 障害者の職業能力開発

  (6) 就職やキャリアアップに特別な支援を要する方への支援

 5 技能継承の促進

 6 職業能力開発分野の国際連携・協力の推進

第1部 総説

 1 計画のねらい

 近年、日本経済は緩やかな回復基調にあり、雇用情勢も着実に改善していたが、令和2年からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により戦後最大の経済の落ち込みが生じており、今後も、同感染症の感染拡大が雇用に与える影響により一層注意する必要がある。

 中長期的にみると、我が国は少子化による労働供給制約という課題を抱えている。こうした中、我が国が持続的な経済成長を実現していくためには、多様な人材が活躍できるような環境整備を進め、一人ひとりの労働生産性を高めていくことが必要不可欠であり、そのためには、資本への投資に加えて、デジタル化や職業能力開発への投資を推進していくことが重要である。

 職業能力開発施策をめぐる状況を見ると、産業構造のサービス経済化、Society5.0(必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会)の実現に向けた経済・社会の構造改革等が進展しており、新型コロナウイルス感染症の影響の下で、社会全体のデジタルトランスフォーメーション(以下「DX」という。)の加速化が促進されるものとみられる。

 また、人生100年時代を迎え、労働者の職業人生が長期化し、働き方もこれまで以上に多様化し、労働者が生涯を通じて学び続ける必要性が高まっている。あわせて、新卒一括採用や長期雇用等に特徴付けられる日本型の雇用慣行も徐々に変化している。

 こうした経済・社会環境の変化を的確に把握するとともに、それに伴う人材ニーズや働き方の変化に機動的に対応するリカレント教育等の職業能力開発施策が求められる。

 また、我が国の経済成長の大部分が地域経済の成長に支えられていることを踏まえると、都会から地方への新たな人の流れをつくるなど、地域経済の更なる活性化を図ることが我が国全体の成長にとっても重要となる。

 職業能力開発施策の展開に当たっては、企業における労使の職業能力開発の取組を基本として、経済・社会の動向の変化を踏まえつつ、事業主及び労働者の努力を支援するための施策の強化を図るとともに、国や都道府県に加えて、企業、民間教育訓練機関、学校等の地域のアクターを有機的に結びつけ、職業能力開発施策を一体的に実施していくことが重要である。

 第10次職業能力開発基本計画では、人々が能力を高め、その能力を存分に発揮できる全員参加の社会と人材の最適配置を同時に実現することによって、我が国の経済を量の拡大と質の向上の双方の観点から成長させる「生産性向上に向けた人材育成戦略」と当該計画を位置付け、それに基づいて各施策を推進してきたところである。こうした取組については、その成果の検証や見える化に努めながら、引き続き推進することが重要である。一方、グローバル化による競争激化のほか、新型コロナウイルス感染症の影響によるデジタル技術の社会実装の進展等による労働需要の構造変化の加速化、人生100年時代の到来による労働者の職業人生の長期化など、労働者を取り巻く環境が大きく変化していくことが予想される中で、労働環境の変化に応じて労働者が主体的に能力の向上やキャリアの形成に取り組み、それを企業、国、都道府県等が支援することによって、一人ひとりの希望するライフスタイルの実現を図ることが重要である。

 以上のような観点から、第11次職業能力開発基本計画(以下「本計画」という。)では、労働者に求められる能力の急速な変化と職業人生の長期化・多様化が同時に進行する中で、企業における人材育成を支援するとともに、労働者の継続的な学びと自律的・主体的なキャリアの形成を支援する人材育成戦略として本計画を位置付け、職業能力開発施策を実施していく。なお、新型コロナウイルス感染症の影響を含め、経済・社会情勢の変化等に伴って、本計画の対象期間中に新たな施策が必要となる場合は、本計画の趣旨等を踏まえて機動的に対応するものとする。

 2 計画の期間

   本計画の期間は、令和3年度から令和7年度までの5年間とする。

第2部 職業能力開発をめぐる経済・社会環境の変化と課題

 1 近年の労働市場の変化と課題

 近年、日本経済は緩やかな回復基調にあり、雇用情勢も着実に改善していた。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する令和2年より前は、完全失業率(季節調整値)は、平成21年以降、徐々に低下し、令和元年は年平均で2.4%となっていた。また、有効求人倍率(季節調整値)は、平成30年8月に1.63倍となったが、令和元年後半からは米中貿易摩擦に伴う中国経済の減速の結果、製造業の生産活動が弱まったこと等の影響を受け、低下傾向にあった。幅広い産業で人手不足となっており、特に建設業、運輸業・郵便業、医療・福祉、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業等で不足感が強く、これらの産業における人手の確保が課題となっていた。

 新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した令和2年については、完全失業率は2.8%、有効求人倍率(実数(年平均))は1.18倍となっている。雇用情勢は、求人が底堅く推移する中、求人が求職を上回って推移しているものの、求職者が引き続き増加傾向にあり、厳しさがみられる状況が続いている。今後も新型コロナウイルス感染症が雇用に与える影響を、より一層注意する必要がある。

 2 労働需要側の構造的な変化と課題

 産業構造のサービス経済化、Society5.0の実現に向けた経済・社会の構造改革の進展、さらに、令和2年からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響の下における社会全体のDXの加速化等を背景に、労働需要においても構造的な変化がみられている。

 長期的な産業構造の変化をみると、農林漁業等の第1次産業及び建設業や製造業等の第2次産業から、サービス業等の第3次産業へと比重が移ってきており、産業構造のサービス経済化が進展する中、高齢化の進行を背景として、特に医療・福祉の就業者の割合が高まってきている。今後の見通しとしても、鉱業、建設業、卸売・小売業等の就業者の割合が低下する一方で、医療・福祉の就業者の割合が高まることが見込まれている。

 また、IT技術の進展が労働需要に及ぼす影響として、定型的な作業が多い職種の労働需要が減る一方、技術に代替されない職種の需要が高まることが予想される。職業大分類別に就業者の割合の変化をみると、販売従事者及び生産工程従事者の就業者の割合が大きく低下する一方、専門的・技術的職業及び事務従事者の就業者の割合の高まりがみられており、技術変化に伴う労働需要の変化に対応した人材育成が重要となっている。

 特に、IT人材については、今後更に需要が高まるものとみられている。ビッグデータ等を通じたAI技術の利活用に関し、国際競争は激しさを増しており、様々な分野で従来の延長線上にないイノベーションが生み出されているが、我が国では、こうした動向への対応が遅れている。今後、新型コロナウイルス感染症の存在を前提とした社会が継続する可能性が高い中で、感染拡大の防止と経済活動の両立の実現に向けて、社会全体のDXの加速化が促進されるものとみられている。こうした変革の推進に必要なIT人材の確保は、合理的で効率的なIT投資やITシステムの運用・活用を実現し、また、様々な現場における生産性の向上につなげていくためにも、情報通信業だけでなく幅広い業種で重要となっている。

 その一方で、我が国の教育訓練費は主要国と比較して少なく、民間企業における現金給与を除く労働費用に占める教育訓練費の割合は、1980年代においては一貫して上昇していたが、1990年代以降横ばい又は低下傾向にある。また、雇用形態別にOJT・OFF-JTの実施状況をみると、非正規雇用労働者は正規雇用労働者に比べていずれの能力開発の機会も乏しくなっており、非正規雇用労働者の能力開発機会の確保に向けた取組が引き続き重要となっている。

 新型コロナウイルス感染症により様々な面で構造変化が加速化する可能性がある中で、「失業なき労働移動」を目指していくためには、産業構造の変化に対応した一人ひとりへの能力開発が一層重要となっている。

 3 労働供給側の構造的な変化と課題

 少子化の進展に伴い、我が国の人口は平成20年の1億2808万人をピークに減少局面に入っている。今後も人口の減少傾向が続くことを前提とすると、労働投入量の増加により経済の供給力を拡大することには限界があり、我が国の経済規模を拡大するためには、一人ひとりの労働者の生産性を高めていくことが重要となる。

 男女別の就業率の動向をみると、男性の就業率については、25歳から54歳までの年齢層ではおおむね横ばいである一方、55歳から64歳までの年齢層では近年就業率が高まっている。就業意欲に関する国際比較をみても、我が国の高齢者の就業意欲の高さがうかがわれる。人生100年時代の到来を踏まえ、高齢者の活躍を進める取組が求められる。

 また、女性の就業率は、25歳から64歳までの全ての年齢層で上昇傾向にあるが、これは経済のサービス化が進む中で女性の労働需要が相対的に高まったこと等もあって、女性の労働市場への参入が進んだことが要因と考えられる。女性の非労働力人口のうち就業を希望している方は231万人(令和元年)にのぼるなど、女性の潜在的な労働力人口の規模に鑑みれば、女性の活躍を促進する取組を行うことで、我が国の経済を成長させる余地はまだまだ大きい。しかし、現状では女性の潜在的な労働力率と現実の就業率にはギャップがみられ、こうした取組が不十分であることが指摘されている。

 労働者の平均勤続年数をみると、男女ともに長期化する傾向にある一方、平成23年以降、転職者数は緩やかに増加する傾向にあり、特に「より良い条件の仕事を探す」ことを目的とする転職が増加している(労働力調査)。また、高齢者の雇用が進む中で、今後も一人ひとりの職業人生は延びていくことが見込まれており、職業人生を通じて能力を十分に発揮できるような環境を作っていくことが重要である。

 雇用形態に着目すると、正規雇用労働者は足元で増加しているが、経営の不確実性の増大やIT等の技術進歩を背景として労働需要側において非正規雇用労働者の活用が進み、また、労働供給側においても自らの生活スタイルに合わせた働き方としてパートタイム労働等の非正規雇用を望む者がいることから、長期的にみて非正規雇用労働者数は増加している。また、フリーター数の推移については、近年、減少傾向にあるものの、令和元年時点で138万人と未だ一定数存在しており、ニート数の推移については、若年労働力人口が減少傾向にあるにも関わらず平成26年から令和元年までは50万人台と横ばいで推移し、令和2年には前年比で13万人増の69万人となっていることから、今後ともきめ細かな就職支援が重要である。

 障害者においては新規求職申込件数が増加しており、障害者の障害特性やニーズに応じた就職が実現できるよう、一層の環境整備が求められる。

 自己啓発を行った労働者の割合を正規雇用労働者・正規雇用労働者以外別にみると、正規雇用労働者の取組割合が相対的に高くなっている(令和元年度能力開発基本調査)。また、正規雇用労働者・正規雇用労働者以外ともに自己啓発に問題があると回答する者が多くなっており、その理由として「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」、「費用がかかりすぎる」、「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」等のほか、3割弱が「どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない」としている。このように、正規雇用労働者・正規雇用労働者以外ともに時間・費用による制約を問題としており、働きながら学べることを実現するなど、こうした制約を緩和するような取組が求められるとともに、適切なコースや目指すべきキャリアがわからないとする者に対するキャリアコンサルティング等の支援の重要性が示唆される。

 このほか、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の下で、20代及び30代を中心に地方移住への関心が高まっているほか、テレワークやオンライン会議が急速に普及している。また、近年、スマートフォンが急速に普及し、世帯保有率はパソコンを上回っている。こうしたライフスタイルやデジタル技術における変化にも留意する必要がある。

第3部 職業能力開発の方向性と基本的施策

 第2部でみた職業能力開発をめぐる経済・社会環境の変化と課題を踏まえ、以下の観点から、今後の我が国の職業能力開発を推進していく。なお、本計画に基づき施策を推進するに当たっては、適切に目標を設定し、進捗状況について把握していくこととする。

 1 産業構造・社会環境の変化を踏まえた職業能力開発の推進

  (1) IT人材の育成強化

 近年、Society5.0の実現に向けた経済・社会の構造改革が進展している中で、IT等のデジタル技術を活用した課題解決・業務効率化や他の業務領域との協力・連携を行える人材が不足しており、そうした育成を推進していく必要がある。

 また、社会全体のDXが加速化しており、あらゆる産業分野におけるITの利活用ができる人材(IT利活用人材)のニーズの高まりを見据えて、全ての働く方々に必要とされるITリテラシーの付与を推進する必要がある。

 これらのIT人材の育成に当たっては、十分に裾野を広げる観点から、無料のコンテンツの活用やサブスクリプション(定額制)によるサービス提供など、ITに関する学びのハードルを低くする工夫が重要である。

 なお、テレワークへの対応を含め、必要とされる能力の急速な変化に対応できる企業・個人と対応できない企業・個人に二極化する可能性がある点に留意しながら施策を検討していく必要がある。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 労働者の主体的な職業能力開発を支援するため、教育訓練給付制度において、関係省庁とも連携しつつ、IT分野についても講座の充実に努める。

    ② 企業内において高度なIT人材の育成に係る訓練を実施した場合に、人材開発支援助成金において訓練経費等を助成することにより、高度なIT人材の育成を促進する。

    ③ 中小企業等の在職者に対して、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下「高障求機構」という。)において、民間を活用し、ITの活用による生産性の向上に向けた訓練の提供を推進する。

    ④ 離職者のITスキルの向上を促進するため、公的職業訓練において、IT活用スキルや基礎的なITリテラシー等の習得に資する訓練を組み込んだ訓練コースの設定を推進する。

    ⑤ ものづくり分野におけるIoTやロボット等の第4次産業革命に関連する技術の習得に向けた職業訓練プログラムの開発・実施を推進する。

  (2) ITや新たな技術を活用した職業訓練等の推進

 近年、教育分野においてEdTech(教育におけるAI、ビックデータ等の様々な新しいテクノロジーを活用したあらゆる取組)が進展しており、一人ひとりの能力や適性に応じて個別最適化された学びの実現に向けた取組が進められている。職業能力開発分野においても、受け手の利便性や職業能力開発の効果を高める観点から、国や企業等は、通信環境の変化も踏まえつつ、新しい技術を積極的に取り入れながら職業訓練や企業内研修を進めていく必要がある。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 新型コロナウイルス感染症の影響の下での「新たな日常」への対応の一環として、令和2年5月より、公共職業訓練の全ての課程において、同時双方向型によるオンライン訓練の実施を可能としたところであり、オンライン訓練の実施状況や訓練効果等を把握・分析した上で、更なる活用を推進する方策を検討する。

    ② 訓練内容の高度化や訓練実施の効率化を図るため、高障求機構が行うものづくり分野の職業訓練における新たなIT技術(AR・VR技術を活用した訓練、受講管理システム等)の導入に向けて、訓練手法の開発・検証等を進める。

    ③ 在職者をはじめとする労働者が身近に、必要な時にキャリアコンサルティングを受けることができる環境を整備するために、オンラインを活用したキャリアコンサルティングを推進する。

  (3) 企業・業界における人材育成の強化

 経済・社会環境の変化により、企業は大規模な事業構造又は事業形態の変革を迫られており、長期雇用システムの変容やその中での非正規雇用労働者の増加等の実態がある中で、人材育成の方向性を明確化し、その方向性に沿った継続的な取組を行うことが困難になる等の制約が生じている。こうした状況の変化によって、企業による人材育成への投資がより限定的になっていくことが懸念される中、我が国の人材育成においては引き続き企業の役割が大きく、労働者の実践的な職業能力開発を図る上で、計画的なOJTやOFF-JTを受けられる機会が確保されることが重要である。また、企業内で事業転換する場合や外部から人材を受け入れる場合等においては、企業や業界が、実習をはじめとしたニーズに即した実践的な教育訓練の機会の提供を行うことや実務経験を通じて労働者の職業能力を高めることが重要であり、国及び都道府県もその取組を支援することが必要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 個々の企業・業界のニーズに即した人材育成のため、人材開発支援助成金により訓練経費等を助成し、企業内又は業界単位での職業訓練の実施を促進する。

    ② 民間の活力を活かした人材育成を行う認定職業訓練制度については、訓練の修了者が公的職業訓練と同様に技能検定等において一部科目が免除になるなど技能者育成に寄与することも踏まえ、認定職業訓練を行う事業主等を支援する。

    ③ 全国87カ所の職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)等に設置した「生産性向上人材育成支援センター」において、中小企業等を対象に、企業の人材育成に関する相談支援及び課題に合わせた人材育成プランの提案を行うとともに、ポリテクセンター等におけるものづくり分野の在職者訓練及び個々の企業のニーズに応じたオーダーメイド型の訓練を中心とする生産性向上支援訓練を実施する。

    ④ 中小企業等への支援として、職業訓練指導員の企業への派遣や、ポリテクセンター等の施設・設備の貸出しも行う。また、事業主団体と共同で訓練コースを開発・実施するなど、個々の実情に応じた支援をしていく。

    ⑤ 企業における教育訓練を効果的に実施し、労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発等を促進していくために、企業におけるセルフ・キャリアドックの活用促進等が重要であり、国は、企業におけるキャリアコンサルティングの推進を支援していく。

    ⑥ 中央職業能力開発協会においては、企業内におけるキャリア形成支援の充実を図るため、職業能力開発推進者に対する研修等を実施する。

 2 労働者の自律的・主体的なキャリア形成支援

  (1) キャリアコンサルティングの推進

 日本型の雇用慣行が徐々に変化するとともに、急速なデジタル化の進展や労働市場の不確実性の高まり、人生100年時代の到来による職業人生の長期化等により、労働者に求められる能力も変化していく。このため、労働者は、日々の業務を通じて職業能力の向上を図るとともに、企業任せにするのではなく、若年期から自身の職業能力開発の必要性を継続的に意識しながら、時代のニーズに即したリスキリングやスキルアップを図っていく必要がある。これを支援するため、国や企業においては、労働者がキャリアコンサルティング等を通じて定期的に自身の能力開発の目標や身に付けるべき知識・能力・スキルを確認することができる機会を整備することが重要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① キャリア形成サポートセンターの整備等を通じて、企業へのセルフ・キャリアドックの導入支援や、夜間・休日、オンラインで利用できる環境等の労働者個人がジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングを利用しやすい環境の整備を更に推進する。

    ② キャリアコンサルティングの推進に当たっては、産業界・企業における理解が不可欠であり、その理解を促す取組を推進する。

    ③ ジョブ・カードは、キャリアコンサルティングの過程で有効活用できるツールであり、デジタル技術の進展を踏まえ、利便性の向上を図るとともに、企業が従業員に対して行うキャリア支援の場面(キャリアコンサルティングやキャリア研修等の場面)における活用を促すなど、更なる普及を推進する。

    ④ キャリアコンサルタントについて、平成28年の国家資格化以降、量の確保と資質の維持・向上を図ってきたが、今後は労働力需給調整の場面や職業訓練の場面における支援等の活動領域に応じた専門性を深めることや、豊富なキャリアコンサルティング経験を持つキャリアコンサルタントによる指導を受けることなど、実践力の向上に向けた取組を推進する。

    ⑤ キャリアコンサルタントに寄せられる相談内容の複雑化・高度化に対応するため、キャリアコンサルタントに必要な知識・技能を身に付ける機会を確保するとともに、専門家や専門機関に関する情報提供や講習の実施等により、産業医や保健師等関連領域の専門家に適切につなぐための知識・能力の習得や専門家等とのネットワーク作りを促進する。

    ⑥ 企業に関わるキャリアコンサルタントについては、労働者のキャリア意識の形成や職業生活を通じたキャリアプランの作成を支援することに加え、当該企業における人材育成の取組の改善や組織課題の解決に向けた提案を行うなど、キャリアコンサルティングを通じて得られた知見を当該企業の関連する制度やその運用、さらには組織活性化による生産性向上に活かすための専門性の向上を図る。

    ⑦ 場所を問わずキャリアコンサルティングの機会を提供できるよう、オンラインを活用したキャリアコンサルティングを推進する。

  (2) 自律的・主体的な学びの支援

 労働者自身が自らの職業能力開発・キャリア形成に責任を持ち、意欲を持って学び続けるためには、キャリアプランの明確化に加えて、学びに関するコンテンツの充実や情報へのアクセスの改善、学びのための費用や時間の確保、学びによる職業能力の向上を通じて主体的にキャリアを形成できるキャリアパスの整備など幅広い観点からの環境整備を国、都道府県、企業等が連携して進めていく必要がある。その際、労働者の主体的なキャリア形成と企業における職業能力評価・人事労務管理が密接な関わりを持つことについての企業の理解が不可欠であることに留意が必要である。また、経済・社会環境の変化に伴う労働者に求められる能力の変化について、企業や産業界が適切に把握し、それぞれにおける人材育成の取組に反映するとともに、労働者に情報発信することが重要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 労働者が自発的な学び直しに取り組みやすくするため、関係省庁と連携して、IT利活用等の企業横断的に求められる基礎的な知識等を学習できる動画を作成・公開し、オンラインで無料で学べる環境を整備する。

    ② 労働者の主体的な職業能力開発を支援するため、関係省庁とも連携しつつ、教育訓練給付の対象講座の充実に努めるとともに、教育訓練給付の対象講座に関する情報が得やすくなるよう、学び直しに関するポータルサイトと連携する等の情報へのアクセスの改善に取り組む。

    ③ 在職者が自発的な学び直しのための時間を確保できるよう、新たに教育訓練休暇を導入・適用する企業に対して人材開発支援助成金により経費等を助成すること等により、教育訓練休暇や教育訓練短時間勤務制度の普及を促進する。

    ④ 労働者が実務経験を通じた主体的な能力の向上や学び直しの意欲の維持・向上が可能となるよう、社内公募制やフリーエージェント制等の導入その他の労働者の自発性、適性及び能力を重視した的確な配置並びに処遇上の配慮が可能となる制度の普及促進を図る。

 3 労働市場インフラの強化

 中長期的な日本型の雇用慣行の変化の可能性や、労働者が自らキャリアを選択していく機会が増加することを視野に、雇用のセーフティネットとしての公的職業訓練、労働者の職業能力の証明・評価のツール等の労働市場インフラの更なる整備を進め、労働者一人ひとりが転職や再就職も含めた希望するライフスタイルの実現を図ることが求められる。

  (1) 中長期の人材ニーズを踏まえた人材育成戦略

 労働市場インフラの整備に当たっては、我が国の労働力人口が今後急速に減少していくことが見込まれる中、我が国の産業・職業構造の変化を中長期で見据え、将来的に必要となる人材ニーズを把握することが今後5年間の職業能力開発行政を戦略的に進めていくために重要である。

  (2) 産業界や地域のニーズを踏まえた公的職業訓練等の実施

 現在、公的職業訓練については、国(実施主体は高障求機構)は、都道府県や民間教育訓練機関では的確かつ確実な実施が困難なものづくり分野等の職業訓練をスケールメリットを活かし実施すること、都道府県は、地域の産業における人材ニーズに応じた職業訓練を実施すること、民間教育訓練機関は、介護分野、情報通信分野等の職業訓練を実施することといった役割分担の下に実施しているが、デジタル化の進展等の産業構造の変化及び非正規雇用労働者の増加の中で、雇用のセーフティネットとして、離職者等がそれぞれのニーズ・状況に応じて多様な訓練機会を得られるようにするとともに、中小企業等による労働者の人材育成を支援するため、公的職業訓練を適切に実施する必要がある。

 また、国はプレーヤーとして自ら公共職業訓練を提供するだけではなく、コーディネーターとして、他の機関が提供する職業訓練との調整や連携を強化していくことが求められる。その際、情報通信分野をはじめ時代の変化にも対応した職業訓練機会の提供を進めていくため、民間企業等のノウハウ等も活用することが重要である。あわせて、地域の産業構造、資源等の地域特性は個々に異なっていることから、産業界や地域のニーズを踏まえた職業訓練を実施することが必要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 人材ニーズに応じた公的職業訓練の推進

     ・ 成長分野や人手不足分野をはじめとして産業界や地域の訓練ニーズを反映した職業訓練を推進するために、中央訓練協議会及び地域訓練協議会等を通じて、関係者の意見を聴いた上で、公的職業訓練の実施に関する総合的な計画を国レベル及び地方レベルで策定するとともに、訓練の実施に係るPDCAサイクルを推進する。

     ・ 特に医療・福祉分野について、ハローワーク、訓練実施機関、福祉機関等の連携により、離職者への医療・福祉分野への再就職支援を推進する。

     ・ IT分野について、離職者や中小企業等の労働者に対し、IT利活用人材向けの訓練(IT活用スキルや基礎的なITリテラシー等に係る訓練)を中心とした職業訓練を推進する。また、製造業等ものづくり分野においてIoT、ロボット等の第4次産業革命に関連する技術の習得に向けた職業訓練を推進する。

     ・ ITや新たな技術を活用した職業訓練として、オンラインによる公的職業訓練の一層の普及を図るため、オンライン訓練の実施状況や訓練効果等を把握・分析した上で、更なる活用方策を検討する。また、訓練内容の高度化や訓練実施の効率化を図るため、高障求機構が行うものづくり分野の職業訓練における新たなIT技術(AR・VR技術を活用した訓練、受講管理システム等)の導入に向けて、訓練手法の開発・検証等を進める。

     ・ 都道府県が中心となり、地域レベルで産官学が連携する地域コンソーシアムを構築し、より就職可能性を高める離職者向けの職業訓練コース(委託訓練)を開発し、検証する事業について、実施コース数の制限の要件緩和や実施事例の共有により、更なる活用を図る。

     ・ 地域単位での工科系教育機関と職業能力開発大学校又は職業能力開発短期大学校の学生交流協定等を通じて、教育分野のEdTechと職業訓練分野のデジタル化の相乗効果による技術革新に対応した質の高い人材の供給を推進する。

    ② 雇用のセーフティネットとしての離職者向け訓練の実施

     ・ 新型コロナウイルス感染症の影響等による雇用情勢の動向を踏まえ、離職者に対し、再就職に必要な公的職業訓練の機会を確保するとともに、地域の求人者及び求職者のニーズを踏まえて安定した就職につながる訓練コースの設定に努める。

     ・ 求職者支援訓練について、高障求機構において、都道府県労働局とも連携の上、必要な訓練実施機関の開拓を行う。また、高障求機構が作成し、ホームページ上で公表している訓練実施機関向けのモデルカリキュラムについて、人材ニーズに応じた必要な見直しを行うことを通じて、訓練内容の質的向上に努める。

     ・ 一人ひとりの職業生活設計に沿った職業の選択に資するよう訓練受講前から訓練期間中を通じて的確なキャリアコンサルティングを実施する。

    ③ 中小企業等に対する人材育成の支援

     ・ 全国87カ所のポリテクセンター等に設置した「生産性向上人材育成支援センター」において、中小企業等を対象に、企業の人材育成に関する相談支援及び課題に合わせた人材育成プランの提案を行うとともに、ポリテクセンター等におけるものづくり分野の在職者訓練及び個々の企業のニーズに応じたオーダーメイド型の訓練を中心とする生産性向上支援訓練を実施する。

     ・ 都道府県における地域の産業や企業のニーズ等地域の実情に応じた在職者訓練の実施を促進する。

    ④ 職業訓練指導員の育成・確保

     ・ 将来にわたり訓練指導員を安定的・継続的に育成・確保するため、職業能力開発総合大学校を中心に、多様なカリキュラムを設定し、多様な経歴の人材に対して、それぞれが有する知識、技能、経験等に応じた指導員訓練を実施する。特に、IoT、センシング、ビッグデータ、AI、ロボット等の第4次産業革命に伴う技術革新の進展に対応するため、最先端の学識・技術・技能を有し、研究的思考をもって職業訓練指導技法等を開発できる訓練指導員を養成する。

     ・ 地域の人材ニーズに対応した職業訓練を的確に実施できるよう、指導員養成訓練の訓練課程の見直しを進めるとともに、高障求機構が運用する「テクノインストラクター総合情報サイト」等を通じ、若年層から熟練者層まで幅広い層に対して職業訓練指導員の魅力を発信し、職業訓練指導員の確保を図る。あわせて、公共職業能力開発施設やその設備の整備に努める。

    ⑤ 職業訓練サービスの質の確保・向上

     ・ 民間教育訓練機関の行う職業訓練サービスの質の確保・向上については、一義的には民間教育訓練機関において取り組むべき課題であるが、国においても職業訓練サービスガイドラインの認知度の向上を図るとともに、職業訓練サービスガイドラインに関し、民間教育訓練機関が職業訓練サービスの質の確保・向上に取り組みやすくなるよう、公的職業訓練を受託する際の研修受講の要件や研修内容の見直しによる研修効果の向上等の方策を検討する。

  (3) 技能検定・職業能力評価や日本版O-NETの推進

 技能検定等の職業能力評価制度や職業情報提供サイト(日本版O-NET)については、それぞれの職業に必要な能力の把握や能力の客観的な評価に活用できるものであり、労働者のキャリア開発の目標設定・動機付けとして機能することにより、労働者の主体的な能力の向上にも資するものである。

 これらの更なる整備を進めるとともに、労働者・企業において十分に活用されるよう、企業をはじめとした社会における認知度の向上に取り組み、有用性・利便性の向上に向けて関連サービスと連携するなど、普及・促進を図る必要がある。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 技能検定の活用促進

     ・ 技能検定制度については、企業内(内部労働市場)における人員配置、昇級・昇格等の処遇での活用に加えて、外部労働市場での活用が進むことが労働市場インフラとして求められている。

 そのために、技能検定制度が産業界の人材ニーズに適合したものとなるよう職種及び作業の新設・統廃合や等級、試験基準等について不断の見直しを行う。

 また、技能検定に関する業務の一部を担う中央職業能力開発協会においては、時代のニーズに適合した技能検定制度の実施に向け、試験問題の作成・見直しを行う。

 また、学生や若年層のキャリア形成に対するモチベーションの向上や円滑なキャリアアップに資するよう、技能検定を受検しやすい環境を整えるとともに、学校教育等との連携を通じた若者等に対する技能検定の積極的な活用を促進する。

 外国人技能実習生向け技能検定試験の受検申請の増加への対応については、技能検定を行う都道府県等に対して、試験会場や技能検定委員等の各地域における実施体制を踏まえつつ、集合的な試験の実施等、試験の効率的な実施に向けた技術的助言等を行う。

    ② 認定社内検定の推進

     ・ 労働者の自発的な職業能力開発を推進するためには、技能検定等の業界内共通の検定に加えて、企業単位の社内検定の推進が必要である。特に、業界内共通の検定と連関性を持つ実践的な社内検定を推進していくことが重要である。

 こうした観点から、社内検定認定制度の社会における認知度を向上させるとともに、認定社内検定の構築方法についても見直しを図り、計画的な制度の実施に努める。

    ③ 職業能力評価基準の整備・活用促進

     ・ 労働者が自らキャリアを形成し、転職や再就職も含めた希望するライフスタイルを実現するためには、自身の職業能力の客観的な評価が得られる労働市場インフラの整備を進めていくことが重要である。

 このため、業界団体等との連携の下、職業ごとにレベルに応じて業界内共通で必要とされる職業能力を整理した職業能力評価基準を整備し、企業の実情に応じた活用を促してきたが、今後は、技術の進展も踏まえた見直しや、活用事例の幅広い周知など、更なる普及・促進に取り組むことにより、労働者の主体的なキャリア形成にもつなげていく。

 ホワイトカラー職種については、いわゆる「資格」による職業能力の診断が難しいことから、求められる職務遂行能力を分析し、労働者個人の職業能力と各職種で求められる能力を比較して診断結果を表示することにより、キャリアコンサルティング等でも活用できる職業能力診断ツールの開発を進めるとともに、職業情報の「見える化」を進める日本版O-NETとの連携を図る。

 また、外国人労働者の増加に対応して、企業のニーズを踏まえた日本語能力評価ツールを開発し、各企業が活用できるひな形として提供するとともに、その普及・活用を促進することにより、職場における受入環境の整備を図る。

  (4) ジョブ・カードの活用促進

 ジョブ・カードは、これまで求職者と求人企業のマッチング等の場面で活用されてきたが、これに加え、現在、個人の生涯を通じたキャリア・プランニング及び職業能力証明のツールとして活用が進んでいる。企業にとっても、個人の職業能力の見える化や人材育成、従業員のモチベーション向上、定着等組織の活性化に役立つツールであり、また、企業内におけるキャリア面談時のコミュニケーションツールとして有用であることから、更に普及を進めていくことが必要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① ジョブ・カードについて、これまでの実績、活用状況、取組等を踏まえつつ、更に活用されやすいものとし、引き続き個人(学生・求職者・在職者等)及び企業、学校等に幅広く周知し、キャリアコンサルティング等の個人に対する相談支援ツールとして、求職活動、職業能力開発等の場面においてより一層積極的に活用を促進する。

    ② ジョブ・カードの周知及び活用促進に当たっては、関係省庁や都道府県労働局、都道府県、キャリア形成サポートセンター、訓練実施機関等の関係機関が連携して取り組む。

    ③ 長期にわたるキャリア形成の促進のため、新たにジョブ・カードをオンラインで登録・更新できるウェブサイトシステムの構築、マイナポータルとの連携など、ジョブ・カードのデジタル化を推進する。

  (5) 職業能力開発施策に関する情報発信の強化

 本計画が目指す方向性や人材開発の重要性、さらには労働者の職業能力開発に向けた施策に関する情報が、それぞれの施策の対象となる在職者、離職者等や企業、業界等に的確に伝わるように、デジタル技術も活用しながら、情報発信を強化していく必要がある。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① これまで、公的職業訓練の愛称(ハロートレーニング)やロゴマークを決定するなど周知・広報に注力してきたところであるが、今後もそれぞれの施策の対象の特性等を踏まえた広報資料を作成するなど、必要な情報を分かりやすく発信するよう努める。

    ② 特に在職者の学び直しを後押しするため、キャリアコンサルティングや教育訓練給付制度等の在職者向けの施策に係る情報発信を強化する。

    ③ 個々の労働者、企業、業界、地域等における積極的な取組につなげるため、従業員のキャリア形成支援について優れた取組を行う企業等を表彰し、積極的に広報するなど、人材育成に関する好事例を周知する。

 4 全員参加型社会の実現に向けた職業能力開発の推進

 一人ひとりの希望や能力、価値観等に応じた多様な働き方の選択ができ、誰もが活躍できる全員参加型社会の実現のため、全ての者が少しずつでもリスキリングやスキルアップをしていくことが重要であり、個々の特性やニーズに応じた支援策を講ずる必要がある。

  (1) 非正規雇用労働者の職業能力開発

 企業内における能力開発の機会に恵まれにくい非正規雇用労働者に対して、引き続き、企業が主体となった人材育成を促進することが必要である。また、キャリアアップを目指す非正規雇用労働者においては、その主体的な職業能力開発も重要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 非正規雇用労働者が企業内でキャリアアップできるよう、企業内におけるキャリアコンサルティングの実施とともに、キャリアパスの整備や企業内における訓練の実施及び計画的な配置を通じた職業能力の向上を促進する。

    ② 企業内における訓練の実施に関しては、有期契約労働者等が正規雇用労働者等に転換等することを目的とした訓練の実施を推進するため、人材開発支援助成金による訓練経費等の助成により支援するとともに、周知広報により助成金の活用促進を図る。

    ③ 非正規雇用労働者等が働きながら訓練を受講しやすいよう、短時間の訓練コースの設定を推進する。

    ④ 離職を余儀なくされた非正規雇用労働者等の安定した就職を促進するため、求職者支援訓練等の受講枠を確保し、企業外における職業能力開発を推進する。

  (2) 女性の職業能力開発

 経済・社会の活性化に向けて、職業能力開発施策においても、女性の活躍の推進に向けた取組が重要であり、女性の多様な課題やニーズを捉えたきめ細かな対策を講ずる必要がある。女性の就業率のM字カーブは改善してきているが、就業率という量的な面だけではなく、育児、出産等により一旦離職した後に非正規雇用労働者となる場合や、離職せずに継続就業をした場合であってもキャリアアップの機会が制約される傾向もあることから、雇用の質の面にも焦点を当てていくべきである。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① マザーズハローワーク等において、子育て中の女性、母子家庭の母等で早期の就職を希望する者等に対し、一人ひとりの希望、状況等に応じて、仕事と子育ての両立、長期の職業上のブランク及び長期的なキャリアの視点に配慮したキャリアコンサルティングを実施し、積極的な職業能力開発の機会の提供を推進する。

    ② 公的職業訓練において、介護分野、医療分野、IT分野等の女性が活躍している分野での訓練コースを設定するほか、子育て中の女性が受講しやすくなるよう、託児サービス付きの訓練コースや短時間の訓練コースを設定する。

  (3) 若者の職業能力開発

 若者一人ひとりが主体的に長期的なキャリア形成を図る中で、その能力を発揮し、次代を担うべき存在として社会で活躍できるよう、一人ひとりの状況に応じたきめ細かな就職支援やキャリアアップに向けた職業能力開発を進めることが必要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 学校卒業見込者等の在学中からのキャリア教育を通じた職業意識等の醸成

     ・ 若者が初等中等教育を含む学校の在学中から多様な職業について理解を深め、就業前から適切な職業意識を持つことが、その後の職業人生に重要であることから、学校等関係機関と連携し、児童・生徒等への職場体験等の支援とともに、ものづくり体験や技能講習会、ものづくりに関して優れた技能及び経験を有する者として認定された「ものづくりマイスター」による実技指導等の実施を推進する。

    ② キャリアコンサルティングの機会の確保等の若者の職業人生を通じたキャリア形成支援

     ・ 若者のキャリア形成を支援するため、セルフ・キャリアドックやオンラインを活用したキャリアコンサルティングの推進等により、キャリアコンサルティングの機会を確保する。

     ・ 学校生活から就労への円滑な移行のため、キャリア教育を行う専門人材の養成が求められていることから、キャリア教育に資するキャリアコンサルタントを養成する。

    ③ 公共職業訓練等による若者向けの職業訓練の推進

     ・ 実践的な職業能力の開発及び向上を図るために効果的な日本版デュアルシステム、認定実習併用職業訓練(雇用型訓練)等を実施することにより、若者の人材育成を推進する。

     ・ 学卒者向けの公共職業訓練について、更なる就職率の向上に向けた取組の充実を図る。

    ④ ニート、高校中退者等の支援

     ・ ニート等の若者について、将来生活困窮に陥るリスクを未然に防止し、経済的に自立させ、地域社会の支え手とするため、ニート等の青少年の支援の拠点である地域若者サポートステーションにおいて、地方自治体と協働した職業的自立に向けた専門的相談等の支援を行うとともに、学校等の関係機関との連携による切れ目ない支援の強化を行う。

     ・ 公的職業訓練や地域若者サポートステーションの支援につながりづらい高校中退者等の対象者の潜在的な支援ニーズを掘り起こすため、関係機関の緊密なネットワークの下での更なる周知等を行う。

  (4) 中高年齢者の職業能力開発

 人生100年時代の到来を踏まえ、これまで様々な就業や社会参加の形態を含めた70歳までの就業機会を確保する制度の創設等に取り組んできており、中高年層の強みを発揮できるよう職業能力の蓄積を図るとともに、キャリア転換を希望する中高年齢者の職業能力開発を推進することが必要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 中高年齢者に対して、高齢期を見据えて、それまでに培った知識・経験の棚卸しや今後の課題の明確化を行いつつ、キャリアプランの再設計を考えるキャリアコンサルティングの機会を提供する。あわせて、中高年齢者等のキャリアコンサルティングにおける職業能力診断ツールの活用を検討する。また、中高年齢者等のキャリア形成を支援するため、セルフ・キャリアドックによる若年期からの継続的なキャリアコンサルティングの機会を確保する。

    ② 事業主等がその雇用する中高年齢者に対する訓練を実施した場合に、人材開発支援助成金により訓練経費等を助成することにより、中高年齢者の更なるスキルアップを推進する。

    ③ 65歳超の高齢者の継続雇用の実現に向けて、生産性向上支援訓練の一環として、中高年労働者が身につけておくべき能力の習得に資する訓練コースを提供する。

 また、概ね60歳以上の高齢求職者を対象にした離職者訓練プログラムの研究開発を高障求機構とともに実施し、開発したモデルカリキュラム等をもとに都道府県の委託訓練として普及を促進する。

 これらの職業訓練の実施に当たっては、スキル・知識の複合化を行っていく視点や多様なキャリアパスの可能性を見据えた内容を盛り込む。

  (5) 障害者の職業能力開発

 ハローワークにおける精神障害者等の求職者数が増加を続けている中で、就職の実現に向けて、障害者の障害特性やニーズに応じた環境の整備が必要であるとともに、人生100年時代の到来による職業人生の長期化を踏まえ、今後は障害者についても雇入れ後のキャリア形成支援を進めていく必要がある。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 一般の公共職業能力開発施設(以下「一般校」という。)で受入れが困難な重度障害者を受け入れる障害者職業能力開発校での職業訓練及び障害者の多様なニーズに対応した委託訓練を引き続き推進していくとともに、在職の障害者に対する職業訓練に係る企業ニーズ等の把握・分析をした上で、訓練内容を含めた方向性等の検討を実施する。

    ② 一般校においても、施設のバリアフリー化の推進、精神保健福祉士等の専門家の配置等により、障害者が入校しやすい環境を整備し、障害者の職業訓練機会の拡充を図る。

    ③ 訓練の実施主体である都道府県、高障求機構、都道府県労働局及びハローワークが中心となって、地域における雇用、福祉、教育、医療・保健及び経済団体等の関係機関との連携・協力体制の推進・強化を図る。

    ④ 全国障害者技能競技大会(アビリンピック)を実施し、障害者一人ひとりの職業能力の向上を図るとともに、企業や社会一般の人々の障害者に対する理解と認識を深め、障害者雇用の促進につなげていく。

  (6) 就職やキャリアアップに特別な支援を要する方への支援

 就職氷河期世代は、希望する就職ができず、不本意ながら不安定な仕事に就いている、無業の状態にあるなど様々な課題に直面しており、一人ひとりの事情に応じた長期的・継続的な支援を行うことが必要である。

 また、外国人労働者等の就業に関して特別の支援を必要とする労働者について、その特性に応じた支援を行っていく必要があるとともに、これらの者においては、特に新型コロナウイルス感染症による影響を受けやすいことが懸念されるため、よりきめ細かな支援が必要である。

    こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 就職氷河期世代の方々のうち、不安定な就労状態にある方に対しては、短期資格等習得コース事業の推進、求職者支援制度、人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)等により支援していくとともに、就職氷河期世代の方々の積極的な採用に取り組む企業、非正規雇用にある就職氷河期世代の処遇向上等に取り組む企業等に関する情報発信等に取り組む。

    ② 長期にわたり無業の状態にある方に対しては、地域若者サポートステーションにおける相談支援等により、長期的・継続的な支援を行っていく。

    ③ 外国人の就職や企業実務(ダイバーシティ経営等)に関する知識を付与し、外国人材の就職等に精通したキャリアコンサルタントの育成を進めるとともに、企業内でのキャリアコンサルティングの実施により外国人材の活躍や定着につなげている企業事例の情報発信等に取り組む。

    ④ 日系人等の定住外国人に対して、その日本語能力等に配慮した職業訓練を実施するとともに、公共職業能力開発施設等に定住外国人職業訓練コーディネーターを配置し、就職支援や関係機関等との連携調整を行う。

 5 技能継承の促進

 労働者の優れた技能は、これまで我が国の経済・社会の発展に大きな役割を果たしてきたところであり、我が国が持続的な経済成長を続けるためには、高度な技能労働者の育成が不可欠である。一方、建設業、製造業等において技能労働者の不足が問題となっており、引き続き、若年層の技能への関心を高め、技能継承に向けた取組や技能労働者の育成をより一層進めていく必要がある。

   こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 「ものづくりマイスター」等による技能伝承や、多くの人が気軽に参加できる技能体験イベント等地域における技能振興の取組等を通じて、若者のものづくり分野への積極的な誘導を推進する。また、ものづくり分野等の高度な熟練技能者の技能を効果的に継承していくため、新たな機器や機材への対応も含め、デジタル技術を活用した技能継承の取組の普及を図る。

    ② 技能五輪国際大会等の技能競技大会の実施を通じ、学生等を含む若年者に対する技能の重要性・魅力の発信の取組を推進するとともに、技能五輪全国大会について、技能五輪国際大会の動向及び産業界等のニーズを踏まえ運営改善の検討を行う。さらに、特に優れた技能について、より社会の認知度を高め、社会的な評価や価値を高められるよう、卓越した技能者の表彰や技能グランプリ等を通じ、熟練の技能が広く社会に発信される取組を推進する。

    ③ 技能五輪国際大会については、幅広い産業分野の技能人材が世界レベルの技能競技に挑戦し、また、子どもを含む多くの国民がこうした競技に触れることにより、今後の技能人材の育成や地位の向上に資するよう、出場選手の競技力向上に向けた取組や選手出場のための支援の充実を図るなど、取組を一層推進していく。

    ④ 中央職業能力開発協会と連携しつつ、技能五輪国際大会等の技能競技大会に取り組むとともに、企業における能力開発・人材育成の好事例やものづくり分野の魅力の発信など、技能の振興及び発展・継承のための取組を推進する。

 6 職業能力開発分野の国際連携・協力の推進

 経済のグローバル化が進展し、我が国の企業の海外進出等が活発化する中で、グローバル人材の活用・育成が重要となっている。その一方で、国際社会の一員として国際協力を推進することの重要性はますます高まっている。これまでも我が国は、開発途上地域等が自立的発展を実現するための根幹となる人材育成について、自らの経験や知見、教訓及び技術を活かし、技術協力や人材の育成・確保のためのシステム作り等の「質の高い成長」に向けた支援を実施してきたところであり、引き続き、こうした支援を効果的・効率的に推進していく必要がある。

   こうした方向性を踏まえ、以下のような施策を講ずる。

    ① 開発途上国における技能労働者の育成を行うために、技能検定等の技能評価システムの開発途上国への移転を図る「技能評価システム(技能競技大会・技能検定)を通じた技能移転事業」について、我が国の強みであるものづくり分野や中小企業が持つノウハウを最大限活用しながら推進し、日本型技能評価システムである技能検定の国際的な普及を進めるとともに、国際水準の技能競技大会の開催ノウハウを移転する。

    ② 外国人の技能実習については、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)に基づき、引き続き技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図っていく。