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拝 啓



 日頃から労働行政の運営について格別の御配意を賜り、厚く御礼を申し上げます。

 我が国経済は、景気の低迷状態が続き、雇用情勢は完全失業率が依然として高水準

で推移しているなど、厳しい状況が続いています。

 こうした中にあって、産業界の皆様が雇用の安定に向けて真摯に取り組まれている

ことに対しまして深く敬意を表する次第です。

 労働省におきましては、このような雇用失業情勢の中で、国民の皆様方の雇用に対

する不安を払拭し、再び希望と活力にあふれた経済社会をつくりだすべく、「雇用活

性化総合プラン」などの対策を始めとして、労働行政の総力をあげて、取り組んでい

るところです。

 また、同時に、働く人一人ひとりが希望にあふれ安心して働ける社会を実現するた

めには、各人の人格が尊重され、職業選択の自由が保障されることにより、その能力

を活かすことのできる職業に就いていただけるようにすること、すなわち、就職の機

会均等の確保を図ることが重要な課題の一つであると考えます。

 このため、労働省では、かねてより、企業における採用選考に当たって、応募者の

適性と能力に基づく公正な採用選考が図られるよう、雇用主の皆様方に対しまして啓

発活動を展開してきたところであり、とりわけ、就職差別を未然に防止するという観

点から、採用選考の際の身元調査は行わないよう雇用主の皆様方の御理解と御協力を

お願いしてきたところです。

 しかるに、今般、大阪府内の調査会社の調査員が、採用調査の依頼を受けたものに

ついて、部落差別につながるおそれのある調査をした事件が明らかになり、大阪法務

局長から当該調査会社に対し、差別を助長する調査を見過ごしていたとして、文書に

よる「説示」が行われたところです。

                                   私自身

本事件は当該調査会社による就職差別につながるおそれの強い身元調査と考えており、

かかる事件が発生したことについて、誠に遺憾に思っております。

 基本的人権の尊重は、日本国憲法の柱の一つであり、民主社会の基本となるもので

す。

 また、第四十九回国連総会(平成六年十二月)において、「人権教育のための国連

十年」の決議が採択され、我が国では、平成九年七月、内閣総理大臣を本部長とする

推進本部において、「人権教育のための国連十年」に関する国内行動計画を策定・公

表し、政府全体をあげて人権教育・人権啓発のための取組みを推進しているところで

す。

 申し上げるまでもなく、企業における採用選考においても、人権尊重の精神、すな

わち応募者の基本的人権を尊重することが大切です。

 今般の件は、企業の採用調査が発端となっていることは否めないものであり、応募

者の適性と能力による公正な採用選考を行うことが何よりも重要です。このことが人

権尊重の精神に沿うものであり、ひいては企業の発展にもつながるのではないかと考

えます。

 もとより、国民が人権尊重の視点から、あらゆる差別意識の解消等に取り組んでい

ただくよう国民に対し啓発を行うことは、行政の極めて重要な任務と考えております

が、採用選考の場面に当たっての一方の当事者である企業をはじめ、事業主団体等に

おかれましても、その社会的責任を自覚し、公正な採用選考に関する主体的、自主的

な活動を推進することが望まれます。

 貴団体におかれましても、このような趣旨を十分に御理解いただき、今後とも、貴

団体傘下各企業において公正な採用選考システムの確立が図られるよう、とりわけ、

採用選考の際に、応募者の家族状況など応募者本人に責任のない事項等についての調

査を行うことは就職差別につながるおそれがありますので、このような身元調査が行

われることのないよう、格別の御配慮を賜りますことをお願い申し上げます。

 末筆ながら、貴団体及び傘下各企業の益々の御発展をお祈り申し上げます。



                                  敬 具



 平成十一年四月一日



                         労働大臣   甘利 明



 経済・業種別一〇七団体 代表者 あて



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