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(別 紙)


中央職業安定審議会専門調査委員

雇用保険部会報告書
 雇用保険制度は、失業者の生活の安定と就職の促進、失業の予防等を図る重要な制度であるところ、これを取り巻く状況については、現在、産業構造の変化、急速な高齢化の進展等の大きな変化のただ中にあり、現下の厳しい雇用失業情勢にも直面している。
 雇用保険制度は、こうした状況の変化に適切に対応し、今後ともそのセーフティネットとしての役割を十分果たしていくことが重要である。
 また、我が国の財政が危機的状況にある中で、財政構造改革として、あらゆる分野において一般歳出の縮減が求められているところである。
 当部会においては、このような状況の変化に対応した雇用保険制度の在り方について検討してきたところであり、次の5に述べるように、今後引き続き検討していくこととしているが、当面、次の1から4までのとおりとすることが必要との結論に至ったところである。


1 労働者の主体的な能力開発の取組を支援するための給付の創設

(1)趣旨

 職務に必要とされる知識や技能の変化、産業間、企業間の労働移動の増加等に伴い、多様な職業能力開発が求められている中で、労働者の雇用の安定等を図っていくためには、労働者個々人が主体的に能力開発に取り組むことを支援することが必要である。
 このため、労働者が自ら費用を負担して一定の教育訓練を受ける場合について、その教育訓練に要した費用の一部に相当する額を支給する給付(教育訓練給付金(仮称))を創設する。


(2)具体的内容

  1)支給対象者
 被保険者又は受給資格者が、一定の教育訓練を受け、かつ、その教育訓練を修了した場合に支給する。
 対象となる被保険者又は受給資格者については、被保険者であった期間が通算して5年以上あること、過去に教育訓練給付金の支給を受けてから5年以上経過していること等を要件とする。
 また、対象となる教育訓練については、雇用の安定及び就職の促進に資すると認められる教育訓練を労働大臣が予め指定することとする。

  2)支給額
 労働者が負担した教育訓練の入学及び受講に係る費用の8割に相当する額を支給する。ただし、民間の教育訓練機関における教育訓練に要する一般的な費用等を勘案して、支給額については20万円を上限とする。

  3)費用負担等
 教育訓練給付金に係る費用負担については労使折半の保険料によることとし、失業等給付として位置づけることとする。

  4)実施予定時期
 平成10年12月1日から実施する。



2 介護休業をする労働者の雇用の継続を図るための給付の創設

(1)趣旨

 介護休業制度が平成11年度から義務化されることを踏まえ、労働者が介護休業を取得しやすくし、職業生活の円滑な継続を援助、促進するための給付(介護休業給付(仮称))を雇用継続給付として創設する。


(2)具体的内容

  1)支給対象者
 介護休業給付の対象とする介護休業の要件等については、育児・介護休業法に定められた介護休業の範囲に倣い、被保険者が、その配偶者、父母、子、配偶者の父母等の家族が要介護状態、すなわち、負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により常時介護を必要とする状態にある場合に行う休業とし、休業期間は対象家族1人につき1回、3ヵ月間を限度とすることが適当である。
 また、育児休業給付と同様に、被保険者が休業を開始した日前2年間に、賃金の支払の基礎となった日数が11日以上ある月が12ヵ月以上あることを要件とする。

  2)支給額
 休業時の給付水準として既に定着している育児休業給付の給付水準に倣い、休業前賃金の原則として25%に相当する額を支給する。

  3)支給方法
 育児休業給付については、休業中に育児休業基本給付金が、また、職場復帰後6ヵ月間雇用された後に育児休業者職場復帰給付金が支給されている。
 介護休業給付については、その支給対象とする休業期間が3ヵ月間以内と短期間であり、支給申請手続を簡素化するとの観点等も考慮し、休業中と職場復帰後に分離せずに支給する。

  4)実施予定時期
 平成11年4月1日から実施する。



3 高年齢求職者給付金の見直し

(1)趣旨

 雇用保険制度においては、65歳以上の労働者について原則として適用除外としつつ、65歳に達する前から雇用されている労働者が65歳に達した後に失業した場合には、その求職活動等に配慮し、高年齢求職者給付金が支給されている。このような中で、平成10年度から、60歳台前半層の者について雇用保険の基本手当と年金との併給調整が実施され、基本手当が支給されている間は、年金の支給が停止される。
 高年齢求職者給付金については、これを廃止するという考え方もあるが、65歳以降の求職活動に配慮する必要があること、仮に廃止することとした場合に65歳までの継続雇用という政策目標の達成がかえって阻害されるおそれがあること等を踏まえれば、必要な範囲で存続させることとすることが適当である。


(2)具体的内容

  1)支給額
 高年齢求職者給付金の支給額については、65歳以降の求職活動に配慮しつつ、基本手当と年金との併給調整の実施により、65歳までの継続雇用という政策目標の達成が阻害されるおそれも緩和されると考えられること等を踏まえ、おおむね現行の半分程度に引き下げる。
 具体的には次のとおりとする。なお、求職活動にも配慮し、少なくとも30日分は支給する。



(被保険者であった期間) (現行) (改正案)
1年未満 50日分 30日分
1年以上5年未満 120日分 60日分
5年以上 150日分 75日分


(短時間労働被保険者の場合)
(被保険者であった期間) (現行) (改正案)
1年未満 50日分 30日分
1年以上 100日分 50日分



  2)国庫負担
 60歳台前半層の者について、平成10年度から基本手当と年金の併給調整の実施により、基本手当が支給されている間は年金の支給が停止され、国庫負担の重複が解消されることとなる一方、65歳以上の者については、高年齢求職者給付金と年金が併給されることにかんがみ、高年齢求職者給付金に係る国庫負担を廃止し、国庫負担の重複を解消する。

  3)実施予定時期
 1については平成11年4月1日から、2については平成10年度から実施する。



4 失業等給付に係る国庫負担の在り方の見直し

 失業等給付については、その支給総額に応じて、一定率の国庫負担がなされているところである。
 一方、国家財政が危機的な状況にあり、一般歳出の縮減が強く求められている中で、失業等給付に係る国庫負担の総額の抑制を図るような何らかの措置を講ずることが避け難い状況にある。財政構造改革の趣旨を踏まえれば、失業等給付に係る国庫負担の総額について、当面一定水準を上回らないようにするとの観点から、平成10年度から、暫定的な措置として、国庫負担率を引き下げることはやむを得ないものと考えられる。
 なお、この場合においても、雇用保険制度のセーフティネットとしての役割を考えれば、国家財政における失業等給付のプライオリティは相当高いことに配慮がなされるべきである。


5 今後の検討課題等

 就業形態の多様化が進展する中で、派遣労働者やパートタイム労働者に対する雇用保険の適用の在り方について、制度面を含め、引き続き検討していくことが必要である。また、高齢化の進展等諸情勢の変化に対応した失業等給付の在り方及び費用負担の在り方についても、さらに検討することが必要である。
 雇用保険三事業については、経済構造改革の進展等の状況の変化を踏まえつつ、その在り方を見直す必要がある。
 雇用保険事業の運営については、さらに効果的、効率的な実施を図るとともに、高度情報通信技術を活用しつつ、雇用保険の被保険者、事業主、受給者等の利用者の利便性を高めるための手続の簡素化、的確な情報提供等を進める必要がある。



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