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雇用保険制度の見直しについて(中間報告)
第2 雇用・失業をめぐる動向
1 労働市場の動向
(1) 最近の動向
○ 景気は、依然として厳しい状況にあるが、輸出の大幅な増加や、生産の持ち
直しの動きがみられ、また、設備投資が減少しているものの、先行きについて
下げ止まる兆しもみられるなど、一部に持ち直しの動きがみられるとされてい
る。雇用は景気に遅れて動く性格があり、完全失業率も平成13年度は過去最悪
の5.2%を記録し、平成14年5月も5.4%と高水準であるなど、雇用失業情勢は
依然として厳しい状況にある。また、企業経営者の経済に対する厳しい見方等
を反映し、企業の雇用過剰感はなお高い水準にある。
○ 完全失業者の中では、失業期間が1年以上の長期失業者が増加しており、失
業者の3割(最近5年間で倍増)を占めるに至っている。
また、非自発的失業者が傾向的に増加し、特に昨年11月以降、非自発的失業
者数が自発的失業者数を上回り、その差も拡大している。平成14年5月の非自
発的失業者の内訳をみると勤め先・事業の都合による離職者が4分の3を占め
ている。
○ 過去3年間に離職した失業者の属性を見ると、男性では55〜64歳の「製造
業」出身者が、女性では25〜34歳の「サービス業」出身者がそれぞれ最も多く
なっている。
(2) 雇用・失業をめぐる構造的変化
○ 労働力需要面では、国際化、IT化等に伴う産業・職業構造の変化が急速に進
展し、国内における雇用機会の減少、新たな雇用機会を生み出す産業のシフト、
求められる能力の高度化等が生じている。また、事業環境の変化に企業が機動
的に対応する等のため、雇用就業形態の多様化が進んでいる。
○ 労働力供給面では、少子・高齢化に伴い労働力の年齢構成が変化し、年齢間
の労働力需給の不均衡の原因となるとともに、新卒者の入職分野のシフトによ
る産業間・職業間の労働力再配置が進みにくくなっている。また、勤労者意識
の変化に伴い多様な就業形態に対するニーズが高まるとともに、特に若年者を
中心に転職希望率の上昇がみられる。このような希望に基づく転職に対しては、
円滑な労働移動や早期再就職を支援するなど、労働力需給調整機能の強化を図
っていくことが大変重要である。
○ 以上から、今後の労働市場においては、中高年齢者を含め労働移動が更に増
加するとともに、人材ニーズの高度化や雇用就業形態の多様化が一層進展する
ものと見込まれ、これらに的確に対応することが雇用保険制度を含めた雇用政
策全体の課題となると考えられる。
(3) 完全失業率の将来見通し
○ 「平成14年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(平成14年1月25
日閣議決定)では、平成14年度の完全失業率を5.6%と見込んでいる。これは
平成13年度実績の5.2%よりさらに悪化するという見通しである。
○ また、平成15年度以降については、「構造改革と経済財政の中期展望」(平
成14年1月25日閣議決定)の審議過程にあたって内閣府が作成し、経済財政諮
問会議へ提出した参考資料に示された試算では、平成15年度も引き続き5.6%
と高止まりし、その後構造改革の成果により平成16年度5.4%、平成17年度5.2
%と順次低下するという見通しが示されている。
2 雇用対策の動向と雇用保険制度
○ 前回の制度改正以降、雇用対策法等の改正(一部を除き平成13年10月施行)、
総合雇用対策等により、
(1) 良好な雇用機会の創出(地域の主体性をいかした雇用創出や、企業の経営
革新に伴う雇用創出の支援等)
(2) 失業なき労働移動の実現・早期再就職の促進(官民連携した雇用情報の提
供、募集・採用時の年齢制限の緩和、在職中からの計画的な再就職援助等)
(3) 労働者の主体的なキャリア形成の促進(労働者の職業生活設計に即した自
発的能力開発の促進、試行就業を通じた実践的能力の付与等)
(4) 安定した雇用の維持・確保(業種にとらわれない雇用維持支援、緊急対応
型ワークシェアリングに対する支援等)
(5) セーフティ・ネットの整備(訓練延長給付の拡充等)
のため種々の対策が講じられてきた。
○ これらの中で、雇用保険制度においても、訓練延長給付に係る中高年齢者向け
の特例措置の創設や三事業の助成金の見直し等雇用対策の一環としての政策的対
応を行ってきている。
○ 去る6月25日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針
2002」においては、経済活性化戦略の一つとして「高齢者、女性、若者等が、と
もに社会を支える制度の整備」、「挑戦者支援」などの「人間力戦略」を挙げ、
具体的には、「企業による離職者の再就職支援システム(企業の再就職あっせん
や教育訓練に対する支援)や官民による労働力需給調整機能の強化など、離職者
の再就職インフラを強化」、「民間活用によるキャリアカウンセリングを促進」、
「不安定就労若年者等に対する効果的なカウンセリングや職業訓練の一層の推
進」などが取り上げられている。
○ また、7月18日に、平成11年の第9次雇用対策基本計画策定後これまでの雇用・
失業情勢をめぐる変化についての分析結果を踏まえた雇用政策の課題と、我が国
経済の集中改革期間に当たる今後2〜3年の時期を見据えて重点的に展開する雇
用対策について「雇用政策研究会(注)」が報告をまとめた。
この報告では、個人の個性と能力に応じた働き方が複線型でかつ随時選択可能
となる「多様選択可能型社会」の実現に向けて、
(1) 労働市場のインフラ整備の推進
・ 官民の職業紹介機関による積極的な役割の発揮、情報提供機能の強化、労
働者派遣事業等の規制改革等を通じた労働力需給調整機能の強化
・ キャリアコンサルティングの体制整備、職業能力評価制度の整備の支援等
による相談・評価機能の充実
・ 多様な能力開発機会の提供、自発的な能力開発を行うための時間の確保や
経済的支援等による職業能力開発の推進
(2) 雇用・就業機会の整備
・ 雇用創出の可能性がある分野における制度改革等による雇用創出
・ パートタイム労働の公正・均衡処遇のあり方に関する検討、社会保障制度
の所要の見直し等による多様な働き方に係る環境整備等
(3) 重点的な支援を要する者への対応
・ 早期の相談援助の実施、多様な職業訓練の推進、募集・採用時の年齢制限
緩和の促進、トライアル雇用や中高年齢者についての派遣期間の特例措置の
活用等による長期失業者の再就職の促進
・ 職業意識の涵養、職業教育の充実、インターンシップ等の就業体験付与、
若年者トライアル雇用の利用等を通じた若年者への対応
(4) セーフティネットとしての雇用保険制度の在り方
・ 再就職意欲を阻害しないような給付の在り方、雇用形態との関係での中立
性の確保、労働者の年齢を問わない公平な資源配分等の観点からの失業等給
付の見直し、円滑な労働移動の促進と早期再就職の支援の観点からの三事業
の見直し等
等が当面展開する雇用政策として示されている。
(注)厚生労働省職業安定局長が参集を委嘱した学識経験者(12名)による研
究会(座長:小野旭 東京経済大学経済学部教授)
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