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雇用保険制度の見直しについて(中間報告)
第1 雇用保険制度の現状
1 雇用保険制度の概要
(1) 目的等
○ 雇用保険制度は、労使連帯からなる雇用のセーフティ・ネットであり、労働
者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を
促進することを目的とし、労使折半で負担する保険料及び国庫負担を財源とす
る「失業等給付」と、付帯事業として失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機
会の増大、労働者の能力の開発向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目
的とし、使用者が財源を負担する「三事業」からなる。
(2) 失業等給付
イ 求職者給付
○ 失業等給付の中心をなす求職者給付は、被保険者が離職し、失業状態(労
働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態)
にある場合に必要な給付を行い、その生活の安定を図りつつ再就職を援助す
るものである。
○ 一般求職者給付のうち基本手当については、平成13年4月以降、給付の重
点化を図る観点から、定年退職者を含め離職前から予め再就職の準備ができ
るような者に対する所定給付日数を圧縮(90〜180日)する一方、特定受給
資格者(倒産・解雇等により離職を余儀なくされた者)には中高年齢層を中
心に手厚い所定給付日数(90〜330日)が確保されている。
○ 短時間労働被保険者であった者の所定給付日数は、それ以外の者より30日
程度短くなっている。
○ 給付率は、離職前の賃金日額に応じて6〜8割(60歳以上は5〜8割)と
されている。なお、60歳以上の者については、離職前の賃金日額に代えて60
歳時点の賃金日額を用いる特例が設けられている。
○ 賃金日額には、年齢一律の下限(4,250円(短時間労働被保険者は
2,160円))と、年齢区分別の上限(30歳未満14,590円、30歳以上45歳
未満16,210円、45歳以上60歳未満17,840円、60歳以上65歳未満19,450円)
が定められている。
○ 「失業」は「労働の意思」という主観性を伴う概念であるため、求職者給
付の支給に当たっては、公共職業安定所において4週間ごとに受給者が失業
状態にあることの認定を行うとともに、受給者が公共職業安定所の行う職業
紹介等を拒んだ場合には求職者給付の支給を制限するなど、制度の趣旨に適
った支給のための仕組みが設けられている。
○ 延長給付制度として、訓練延長給付、広域延長給付及び全国延長給付が設
けられている。なお、訓練延長給付に関連して、平成14年1月1日から平成
17年3月31日までの臨時特例の措置として、45歳以上60歳未満の中高年齢者
に対して、訓練延長給付を受けながら複数の訓練受講(最長2年間)ができ
る制度が設けられている(「経済社会の急速な変化に対応して行う中高年齢
者の円滑な再就職の促進、雇用機会の創出等を図るための雇用保険法等の臨
時の特例措置に関する法律」)。
○ 一般求職者給付以外の求職者給付として、65歳以上の者に係る高年齢求職
者給付、短期雇用特例求職者給付及び日雇労働求職者給付がある。
ロ 就職促進給付
○ 雇用保険受給者の再就職を促進するための給付として、再就職手当及び常
用就職支度金がある。
○ 再就職手当は、受給者の早期再就職意欲を喚起するため、基本手当の支給
残日数が一定以上である場合において、受給資格者が安定した職業(1年を
超えた雇用が確実であること等が要件)に就いたときに支給される。
○ 常用就職支度金は、受給資格者等のうち就職困難者が安定した職業に就い
た場合に支給される。
○ 再就職手当の一部及び常用就職支度金は、公共職業安定所の紹介により就
職したことが支給要件となっている。
ハ 教育訓練給付
○ 教育訓練給付は、労働者が主体的に能力開発を行うことを支援するため、
被保険者等が厚生労働大臣の指定する教育訓練を修了した場合に、当該教育
訓練費用の8割(上限30万円)を支給するものである。
○ この給付は、職務に必要とされる知識・技能の変化、労働移動の増加等に
伴い、労働者の雇用の安定及び就職の促進を図っていくためには、事業主の
行う職業訓練や公共職業訓練に加え、労働者自らが主体的に能力開発に取り
組むことが必要となっており、その費用負担に対応するため、失業等給付の
一環として創設された(平成10年12月施行)。
ニ 雇用継続給付
○ 高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の期間において賃金が60歳時点
に比して15%を超えて低下した場合に、原則賃金の25%を65歳に達するまで
の期間支給するものである。
○ 育児休業給付及び介護休業給付は、育児休業又は介護休業を取得した被保
険者に対し、休業前賃金の40%を支給するものである。
○ これらは、高齢期における労働能力の低下や通常勤務の困難化等に伴う賃
金低下あるいは育児休業・介護休業の取得に伴う賃金の全部又は一部の喪失
を、雇用継続が困難になるという意味で「失業」に準じた事故ととらえ、こ
れに対し保険給付を行い失業を回避することを目的として創設された(高年
齢雇用継続給付及び育児休業給付は平成7年4月、介護休業給付は平成11年
4月施行)。
(3) 三事業
○ 三事業(雇用安定事業、能力開発事業及び雇用福祉事業)は、労働者の雇用
の安定、能力の開発向上、福祉の増進を目的とした雇用保険の付帯事業である
が、雇用保険制度本体の保険事故である「失業」の予防(円滑な労働移動を含
む。)、失業した場合の積極的な再就職の促進などを通じて失業等給付を減少
させる効果を有しており、失業等給付とあいまって、我が国雇用対策に大きな
役割を果たしている。
○ なお、かつては移転就職者用宿舎及び福祉施設の設置・運営を雇用福祉事業
として行っており、具体的には雇用促進事業団が業務を行っていたが、平成10
年度以降新設を打ち切り、雇用促進事業団を解散し雇用・能力開発機構を設立
した際(平成11年10月)には法律上の業務としても廃止され、施設の新規設置
は行われていない。
現在は、雇用・能力開発機構法に基づき、同機構が既存施設の譲渡業務及び
譲渡までの間の管理運営業務を行っている。また、平成13年12月19日に閣議決
定された「特殊法人等整理合理化計画」により、「勤労者福祉施設は、廃止期
限を明確にし(遅くとも改革期間内)、特に自己収入で運営費さえも賄えない
施設については、できるだけ早期に廃止する。移転就職者用宿舎は、現に入居
者がいることを踏まえた早期廃止のための方策を検討し、できるだけ早期に廃
止する。」と定められ、現在、この方針に則って具体的処理が進められている。
(4) 負担
イ 失業等給付
○ 失業等給付に係る保険料率は、賃金の原則12/1000(労使折半)とされて
いる。また、求職者給付の一部及び雇用継続給付に対しては一定の国庫負担
がなされており、その割合は、求職者給付費の原則4分の1、雇用継続給付
費の8分の1とされている。
○ 雇用失業情勢の変化に機動的に対応して雇用保険制度の安定的運営を確保
するため、積立金制度が設けられている。さらに、積立金の額が失業等給付
費の額の2倍を超え、又は1倍を下回った場合には、労働政策審議会の意見
を聴いて保険料率を原則料率±2/1000の範囲で変更できる「弾力条項」が設
けられている。
○ 失業等給付費を支弁するため必要があるときは、「労働保険特別会計法」
に基づいて借入金をすることができる。この借入金は、金利も含めて後の保
険料負担により償還する必要がある。
ロ 三事業
○ 三事業の保険料率は原則3.5/1000(使用者負担)とされている。
○ 雇用失業情勢の変動の影響を強く受ける雇用安定事業については、三事業
の決算上の剰余金を積み立て、雇用安定事業費を支弁するため必要なときに
使用することができる「雇用安定資金」制度が設けられている。
2 適用給付等の現状
(1) 適用状況
○ 雇用保険の適用事業所数は、平成13年度において約203万事業所(年度月平
均)となっている。
○ 被保険者数は、平成13年度において約3,390万人(年度月平均)となってい
る(短期特例・日雇を除く。)。
被保険者数は平成10年度以降概ね横ばいとなっているが、平成13年4月の短
時間労働者に係る適用要件の見直しの影響等により、短時間労働被保険者数は
対前年30%以上の極めて高い伸びを見せている(平成13年度は約128万人(年
度月平均))。
(2) 失業等給付の状況
○ 雇用失業情勢の厳しさを反映して、基本手当の受給者実人員(月平均受給者
数)の増加が続いており、平成13年度の受給者実人員は約111万人(対前年比
7.5%増)と過去最高の規模となっている。
○ 平成13年度の制度改正により給付の重点化を図り、倒産・解雇等により離職
した者については手厚い給付を行うこととなったが、このような特定受給資格
者の受給資格決定を受けた者に占める割合は、平成13年度平均は35.9%となっ
た。なお、特定受給資格者割合を年齢階層別に見ると、若年層及び高齢層(60
歳以上65歳未満)で低く、中高年齢層(45歳以上60歳未満)で高くなっており、
特定受給資格者のうち中高年齢層の占める割合は45.2%にのぼっている。
(3) 三事業の状況
○ 三事業の給付金については、平成12年度から中央職業安定審議会及び中央職
業能力開発審議会(平成13年から労働政策審議会)において雇用対策の方向に
即した見直しが行われた。具体的には、(1)円滑な労働移動の実現、(2)安定し
た雇用の維持・確保、(3)良好な雇用機会の創出、(4)労働力需給調整機能の強
化、(5)労働者の主体的なキャリア形成の促進への重点化という5つの方向を
踏まえ、重点化及び簡素合理化を図り、各種給付金を整理(61本→39本)し、
申請・支給に係る諸手続きの簡素化等を行い、平成13年10月から実施された。
○ その結果、平成13年9月、厳しさを増す雇用情勢に対処するため「総合雇用
対策」に基づき緊急的な雇用対策の実施に必要な措置を講じたことによる支出
増はあったものの、平成14年度予算の三事業費は、対前年度当初予算比約1割
減の約6,100億円となっている。その内訳は、雇用安定事業費が約3,100億円、
能力開発事業費が約1,900億円、雇用福祉事業費が1,100億円と、雇用安定事業
費が半分以上を占めている。
3 雇用保険財政の現状
(1) 失業等給付の状況
○ 厳しい雇用失業情勢を受けて受給者が急速に増加したこと等を受け、平成6
年度以降、単年度での赤字が続き、平成6年度以降の累積赤字額は4兆円強に
達している。
○ 特に平成10年度から平成12年度にかけては3年続けて1兆円前後の赤字を記
録し、平成13年度に給付体系の見直し、保険料率の引上げ、国庫負担の原則復
帰等の制度改正を行ったが、平成13年度(補正後ベース)は、単年度の赤字幅
は縮小したものの、予想を上回る雇用失業情勢の悪化(注)により、収入約
2.4兆円、支出約2.7兆円、収支差▲約3,500億円(平成12年度は▲約10,400億
円)となった。
注)平成13年度の制度改正時点において想定していた雇用失業情勢(「4%台
半ば」の完全失業率、完全失業者数310万人程度)より、現在の雇用失業情
勢は大幅に悪化しており、完全失業率は実際には平成12年度4.7%、平成13
年度5.2%と急上昇した。
○ 積立金は、(1)景気変動に対応し、好況期に資金を積み立て、不況期にこれ
を財源として使用することで収支を必要な積立金を維持しつつ中長期的にバラ
ンスさせる、(2)年度当初の保険料納期前の期間などにおける短期的な資金需
要に対応する、という2つの機能を有しているが、現在は積立金残高が大幅に
減少し、双方の機能が発揮できなくなりつつある。
・ 平成6年度以降の収支差を積立金の取崩しで対応してきた結果、平成5年
度末に4.7兆円にのぼった積立金残高は平成13年度末には約5,000億円(補正
後ベース)にまで減少した。これは同年度の失業等給付費の約20%程度であ
る。
・ ちなみに、労働保険徴収法上、毎会計年度において積立金が失業等給付費
の1〜2倍の範囲内にない場合、保険料の弾力的変更が可能とされており、
補正後ベースで、現時点で弾力条項の発動要件を満たしている。(法律上弾
力条項が発動できるようになった平成13年4月時点では既に発動要件を満た
していた。)
・ 平成14年度予算上、約3,600億円の積立金取崩しを見込んでおり、平成14
年度末の積立金残高は約1,400億円に減少する見込みである。この金額は年
間の失業等給付費の約6%、日数にして約半月分に相当する。
・ このままでは、平成15年度中には積立金が枯渇することがほぼ確実である。
また、平成15年度当初の資金繰りが難しくなるなどのおそれもある。
(2) 三事業の状況
○ 平成10年度から12年度にかけて厳しい雇用失業情勢に対応して必要な雇用対
策を積極的に講じてきたこと等から、支出規模が経年的に拡大したことを受け
て、平成13年10月に財政状況を踏まえ、政策目的の達成のため効果的・効率的
な制度運営を目指し、前述の見直しを行った。平成13年度の「総合雇用対策」
で追加した施策項目の平年度化分等を含めて、平成14年度予算においては、収
入約5,400億円、支出約6,100億円(対前年度当初予算比約1割の削減)と、収
支差▲約700億円となっている。この収支差は雇用安定資金(平成13年度末残
高見込は約1,800億円(補正後ベース))の取崩しで対応することとしている。
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