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労働政策審議会障害者雇用分科会意見書
−今後の障害者雇用施策の充実強化について−
我が国の障害者雇用の状況は、厳しさを増している雇用失業情勢の下、有効求職者
数は過去最高、障害者の解雇届出数も高水準である等厳しい状況にある。こうした中、
障害者雇用施策は、経済・就業構造等の変化に的確に対応することが求められている。
一方、平成9年の「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、「障害者雇用促
進法」という。)の改正により知的障害者の雇用義務化等が図られるともに、雇用率
制度の対象となっていない精神障害者についても施策の強化が図られるなど、新たな
取組が進められている。
また、平成14年度までを期間とする「障害者対策に関する新長期計画」、「障害
者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略〜」等により、障害のある人もない人も
同様に活動できる社会をめざすノーマライゼーションの理念が浸透してきており、政
府の施策全般に反映されてきている。
さらに、昨年1月の厚生労働省の発足は、雇用施策と保健福祉施策との一層の連携
を可能とし、障害者の雇用施策の充実強化につながることが期待されている。
このような状況を踏まえ、以下のとおり、今後の障害者雇用施策の充実強化を図る
必要がある。
1.障害者の職域等雇用の場の拡大
我が国の障害者雇用施策においては、障害者雇用率制度が最も重要な柱の一つであ
って障害者の雇用の場の確保、職域の拡大に大きく寄与している。企業、国、地方公
共団体等においては、雇用率達成を目標として障害者雇用への更なる積極的取組が望
まれるとともに、雇用率達成指導や納付金制度の活用、障害種別の特性に配慮した雇
用管理のノウハウの提供や職域の開拓等により、一層の障害者雇用の促進が図られる
ことが必要である。
こうした中で、特に以下の点についての施策の強化が図られることが必要である。
(1) 特例子会社制度の活用について
特例子会社制度については、障害者雇用の実績などから、障害者本人にとってメ
リットの大きい制度であるのみならず、企業にとっても障害者雇用に積極的に取り
組む契機となる制度として評価されるようになっている。
しかしながら、昨今の経済経営環境の変化により、特例子会社制度については、
分社化による事業のスリム化の進展、持株会社制度の発展、国際会計基準の導入等
に対応することが必要となっている。
こうした状況において、特例子会社制度を活用した障害者の雇用の場の拡大を目
指すためには、次のような制度の見直しを図るべきである。
(1)親会社の責任の下、企業グループでの障害者雇用の取組が行える仕組みを構
築するため、企業グループの中で、他の子会社と特例子会社の間に一定程度の
出資、仕事の発注等の関係があり、親会社が特例子会社と他の子会社も含めて
障害者雇用の促進に責任を有することができると認められる場合には、親会社
が中心となって、特例子会社と他の子会社を合わせてグループで雇用率の算定
を行えるようにする。この場合、親会社にはグループ全体の障害者雇用につい
て責任を負う者の配置を行うようにすることが適当である。
(2)特例子会社と親会社の関係においては、現在、持株基準をもとに保有する議
決権が1/2を超えていることを要件としているが、支配力基準に拡大する。
国、地方公共団体においても、障害者雇用の促進が期待できる場合には、権
限、人的関係等において密接な関係のある機関が連携して障害者雇用に取り組
むことを促すため、雇用率を合算して算定する方法がとれるようにすることが
必要である。
なお、特例子会社を持たないが、企業グループ全体で障害者雇用を進めよう
とする企業への対応が必要との意見もあり、今後の検討課題である。
(2) 除外率制度の縮小について
技術革新、職場環境の整備等が進む中、障害者にとって困難と考えられていた職
種においても就業可能性が高まっており、特例子会社制度、助成金の充実等の条件
整備が図られ、さらに、障害者の資格欠格条項の見直しが進められており、除外率
制度に関する状況が変化してきている。
こうした中で、企業の除外率、国及び地方公共団体の除外職員の制度は、ノーマ
ライゼーションの理念から見て問題があること、職場環境の整備等が進んでいる実
態と合わなくなっていること、障害者の雇用機会を少なくし、障害者の職域を狭め
るおそれがあること等から、不合理となっている。
このため、企業の除外率については、職場環境の整備等を更に進めつつ、今後、
周知・啓発を行いながら、準備期間を置いて、一定の期間をかけて、段階的に除外
率を引き下げ、縮小を進め、廃止を目指すべきである。この場合、準備期間として
は2年程度とし、除外率の引下げ幅としては各業種ともまず10ポイント下げるこ
ととし、一定の期間としては次の障害者基本計画の計画期間を目安の期間とするこ
とが適当である。
国及び地方公共団体の除外職員についても、企業との均衡を考慮して、同様の方
向で進めることとし、実態もふまえて機関ごとの除外率に転換を図り、縮小を進め、
廃止を目指すべきである。この場合、国、地方公共団体のあらゆる職種で障害者雇
用が進むことが必要であるが、国民の生命の保護とともに、公共の安全と秩序の維
持を職務としており、その遂行のためには職員個人による強制力の行使等が必要で
あるような職員については別途の取扱いが必要である。
なお、除外率縮小により障害者雇用の拡大が図られるよう、周知・啓発を進める
とともに、次回の法定雇用率見直しの際には、除外率縮小による障害者雇用の進捗
状況、障害者の就業を容易にする技術革新等の状況、関係者の理解の進展状況等に
ついての評価を行い、所要の措置がとられるべきである。
(3) 多様な雇用・就業形態への対応について
障害者の雇用・就業については、段階的に雇用に向かう方法が活用されるととも
に、多様な形態が生じており、障害者の特性を踏まえた適切な対応が必要となって
いる。
こうした中で、3か月のトライアル雇用を通じて、事業主による障害者雇用への
理解を深めるきっかけ作りを行い、段階的に雇用につなげる「障害者雇用機会創出
事業」は、成果を上げていることから、今後さらなる事業の拡大が図られることが
必要である。
多様な雇用・就業形態の一つとしては、IT技術の進展等による在宅雇用・就労
の形態が増加しつつあり、通勤が困難な重度障害者について、企業における在宅勤
務の活用や、仕事の受発注や技能の向上に係る援助を行う支援機関の育成を行うこ
とが必要である。
また、直ちにフルタイムで働くことが困難な障害者にとって短時間勤務は必要な
選択肢であり、可能な範囲で支援の対象を拡大することが必要である。
さらに、視覚障害者等の重度障害者が、自営形態を含め就業を実現できるように
するための相談窓口の開設や、ノウハウを広く普及させるためのセミナーの開催、
ITを活用した職業講習等の支援を進めていく必要がある。
さらにまた、障害者を多数雇用する中小企業等において障害者雇用の安定及び促
進が図られるようにするため、こうした企業等への官公需等の発注が促されるよう
にすることが必要である。
なお、事業所の常用雇用以外に、短時間雇用等の多様な雇用形態が増加しており、
また、在宅就労を含む自営業、障害者を多数雇用する企業等への発注により障害者
の雇用・就業に貢献する場合も考えられる。これらに対して雇用率制度上何らかの
対応を図ることについては、障害者雇用促進法が企業での常用雇用を進めることを
目的としていることとの関係、企業での障害者雇用に与える影響等の整理が必要で
あることから、障害者雇用促進施策の在り方を今後さらに検討する中で取り上げる
べき課題である。
2.障害者への総合的支援の充実
障害者の職業リハビリテーションについては、公共職業安定所、地域障害者職業セ
ンター、障害者職業能力開発校等において各種の事業が展開されているが、保健福祉
との連携の強化を図り、障害者の特性に合わせたきめ細かな支援の充実が求められて
いる。
こうした中で、特に以下の点について施策の充実が必要である。
(1) 就業・生活面からの支援について
障害者の雇用を進める上で、就業面及び生活面での一体的かつ総合的な支援が重
要であり、障害者が職業生活を送る身近な地域でこうした支援が受けられるよう、
雇用、保健福祉、教育等の関係機関の支援ネットワークの拠点として、「障害者就
業・生活支援センター」(仮称)による支援事業を全国で展開すべきである。
この場合、「障害者就業・生活支援センター」の実施主体については社会福祉法
人をはじめとして、できるだけ幅広い主体が実施できるようにすることが適当であ
る。事業の実施に当たっては、保健福祉施策における障害者生活支援事業等と合わ
せた事業の展開を図ることが必要である。
また、業務の内容としては、障害者に対する就業に関する相談及びこれに伴う日
常生活上の相談、障害者の求職活動についての助言・相談、職業準備訓練及び職場
実習のあっせん、就職後の雇用管理に関する助言・相談、養護学校卒業生のフォロ
ーアップ等が考えられる。
さらに、都道府県、市町村においても、地域の障害者への援助事業であることを
踏まえ、地域の社会資源を有効に活用して連携を強める等必要な支援を行うことが
重要である。
なお、障害者就業・生活支援センターの事業が適切に推進されるよう、事業内容
の評価を十分に行っていくことが必要である。
(2) 職場適応のための人的支援について
知的障害者、精神障害者等について、事業所内で、就職前後を通じて、障害者の
職場適応を援助する外部の専門家による障害特性を踏まえた直接的、かつ専門的な
きめ細かな人的支援を図ることが有効であり、「職場適応援助者(ジョブコーチ)」
(仮称)による支援を行うようにすべきである。
このため、地域障害者職業センターで就職前の支援に限定して実施してきた「職
域開発援助事業」を就職前後の支援に改組発展させて、全国で展開を行うべきであ
る。
また、地域障害者職業センターにおいては、社会福祉法人などの障害者の就労支
援の経験のある機関を活用し、保健福祉機関との連携を図るようにすることが必要
である。
さらに、ジョブコーチには、企業での障害者の雇用管理の経験を積んだ者を活用
することが期待される。
3.精神障害者の雇用の促進
(1) 雇用支援の対象とすべき精神障害者の範囲及び支援施策について
雇用支援の対象となる精神障害者については、精神障害者保健福祉手帳の交付該
当者に相当する者(手帳所持者及び申請すれば交付される者)とすることが適当で
ある。この場合、手帳取得の促進を図るとともに、手帳を所持しない精神障害者に
ついては、プライバシーに十分配慮した把握・確認方法を構築することが必要であ
る。
また、精神障害者に対する雇用支援を進めることを明確にするため、障害者雇用
促進法上、精神障害者の定義規定を置くべきである。
精神障害者の特性に合った支援を行うため、障害者就業・生活支援センター、職
場適応援助者(ジョブコーチ)の活用を図るとともに、特定求職者雇用開発助成金
の支給期間の延長等の助成措置の拡充、短時間勤務の場合でも支援が行われる仕組
みの導入、特例子会社をはじめとする企業での障害者雇用のノウハウの活用等が進
められる必要がある。特に、障害者就業・生活支援センターを精神障害者社会復帰
施設等で実施する取組を進めるとともに、他の障害者施設で実施する場合でも、近
隣の精神障害者社会復帰施設等を地域の支援ネットワークの中に組み入れていくこ
とが必要である。
また、採用後精神障害者への支援のため、実態把握を早急に行うとともに、保健、
医療、福祉等の関係機関の連携を図り、相談体制の確立や円滑な職場復帰のための
ウォームアップの場の確保等が必要である。あわせて、就職後の中途障害者の雇用
継続を図るための事業主に対する雇用継続助成金の対象に精神障害者を加えること
が必要である。
さらに、精神障害者の雇用について社会の理解を進めるため、精神障害者の雇用
事例や雇用管理ノウハウ等を広めていけるよう、障害者団体等とも連携したきめ細
かな啓発・広報が必要である。
(2) 雇用義務制度について
精神障害者についても、今後雇用義務制度の対象とする方向で取り組むことが適
当と考えられる。そのためには、雇用支援施策の積極的展開と拡充を図りつつ、そ
の実績を周知させることにより、当事者を含む関係者の十分な理解を得るとともに、
対象とする精神障害者の把握・確認方法の確立、採用後精神障害者を含む精神障害
者の実態把握等制度適用に必要な準備を的確に講じるべきであり、関係機関・組織
の十分な連携の下に、こうした課題を解決するための取組を図ることがまず必要で
ある。
このためにも、今後、こうした実態把握等の取組を行うため、関係者の参画する
調査研究の場を早期に設け、精神障害者の特性を踏まえた施策の在り方も含め、鋭
意検討を進めていくことが必要である。
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