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3.今後の施策の方向

  

 (3) 精神障害者の雇用の促進



  精神障害者の雇用促進の在り方については、「精神障害者の雇用の促進等に関す

 る研究会」報告において課題の整理が行われたところである。本研究会においては、

 こうした課題の整理も踏まえて、検討を進め、今後の施策の方向を取りまとめた。



  (1) 雇用支援の対象とすべき精神障害者の範囲



   精神保健及び精神障害者福祉に関する法律においては、広く精神疾患を有する

  者を精神障害者と規定するとともに、日常生活や社会生活に相当の制限を受ける

  障害の状態にある精神障害者に対して各種の支援策を講ずるため、精神障害者保

  健福祉手帳を交付することとしている。

   一方、障害者雇用促進法には定義されてはいないが、一定の範囲の精神障害者

  については、職場適応訓練や各種助成金等の雇用支援施策の対象とすることとし

  ている。すなわち、@)長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業

  生活を営むことが著しく困難な障害者であって、A)精神分裂病、そううつ病又

  はてんかんにかかっている者及びこれら以外の者のうち手帳の交付を受けている

  者で、B)症状が安定し、就労が可能な状態にある者としている。



   障害者雇用促進法の支援対象の要件と障害者基本法の対象となる障害者の要件

  がほぼ同等であることから、雇用支援の対象となる精神障害者については、精神

  障害者保健福祉手帳の交付該当者に相当する障害を有する者(手帳所持者及び申

  請すれば交付される者)とすることが適当である。この場合、手帳取得の普及促

  進を図るとともに、手帳を所持していない精神障害者については、プライバシー

  に十分配慮した把握・確認方法を構築することが必要である。

   こうした点を踏まえて、精神障害者に対する雇用支援を進めることを明確にす

  ることが必要である。



  

  (2) 精神障害者の雇用支援施策



   ア.特性に応じた総合的な施策の推進



     精神障害者については、対人関係の形成が困難であったり、フルタイムの

    勤務が困難な者が多いといった障害特性から、就職を希望しても、雇用やそ

    の定着が円滑に行えない者が多い。このため、職場内での支援を受けたり、

    短時間労働やグループによる就労形態等により一定期間実際の企業で働く経

    験を経ることにより、一般雇用へ進めていくことが重要である。

     こうした観点から、働く職場において直接的な人的支援を行う職場適応援

    助者(ジョブコーチ)は、新しい環境に慣れるのに時間がかかり、雇用管理

    により配慮を要する者も多い等の特性がある精神障害者の職場適応支援策と

    して有効であるため、その活用が図られるべきである。



     障害者雇用機会創出事業についても、障害者を短期間雇用することで本格

    的な雇用のきっかけづくりの機会を提供するものであり、精神障害者につい

    てもさらに活用されるよう、ノウハウの蓄積、普及が図られることが必要で

    ある。

     また、精神障害者を雇い入れた事業主に対する支援については、特定求職

    者雇用開発助成金の支給期間の延長等の助成措置の拡充が必要である。

     さらに、現行の雇用支援施策となる労働時間の下限は週20時間であるが、

    就職を希望する精神障害者の中には、最初から週20時間以上働くことは困難

    な者も多いことから、今後は、精神障害者を対象とした雇用支援施策のうち、

    可能なものについては、労働時間が週20時間未満の者も対象にするか、ある

    いは少なくとも労働時間が週20時間になった時点で支援の対象にすることを

    検討することが必要である。

     このほか、平成13年度より「グループ就労を活用した精神障害者の雇用促

    進モデル事業」が実施されているが、その状況を踏まえ、今後、拡充を検討

    することが必要である。





   イ.ネットワークの構築



     精神障害者の雇用支援を行うには、関係機関によるネットワークを形成し、

    雇用と医療・福祉の間の双方向のシステムを円滑に機能させつつ、関係機関

    の総合的な支援を行うことが必要である。このためには、障害者就業・生活

    支援センターが有効であり、精神障害者社会復帰施設等における取組を促す

    ため、事業内容についての弾力的な対応を図るとともに、精神障害者の支援

    のノウハウを広めることが必要である。



     また、公共職業安定所等の労働行政関係機関と医療・福祉等の関係機関が

    連携して総合的支援を行うため、「地域雇用支援ネットワークによる精神障

    害者職業自立支援事業」や「医療機関等と連携した精神障害者のジョブガイ

    ダンス事業」等の拡充を図ることが必要である。

     さらに、こうした地域のネットワークを支える人材の育成・確保も必要で

    ある。





   ウ.採用後精神障害者施策の強化



     採用後に精神障害を有した者(採用後精神障害者)は、比較的規模の大き

    い企業等を中心に多数存在する中で、円滑な職場復帰や雇用の安定が大きな

    課題となっており、早急な対応が求められている。

     採用後精神障害者の支援については、これまで実施されてきた職場のメン

    タルヘルス対策としての健康管理施策での対応に加え、地域障害者職業セン

    ターをはじめとする労働機関のみならず、医療・保健機関や福祉機関も含め

    た関係機関の総合的な支援が必要であることから、関係機関の密接な連携の

    下に、企業や精神障害者本人に対する相談体制を確立することが必要である。



     また、採用後精神障害者の円滑な職場復帰には、復職前に一定期間ウォー

    ムアップをする場を確保することや、企業の対応だけでなく、ピアカウンセ

    リングや配偶者をはじめとする家族に対するカウンセリングも行われること

    等が重要であり、これを支援するための施策が必要である。この場合、特に

    職場のメンタルヘルス対策として実施されている健康管理施策との連携が重

    要である。

     さらに、現在身体障害者のみを対象としている障害者雇用継続助成金につ

    いても、採用後精神障害者をその対象とすることが必要である。また、納付

    金に基づく助成金についても同様の検討が必要である。





   エ.きめ細かな啓発・広報の展開



     精神障害者の雇用の促進と安定を図るためには、事業主のみならず、職場

    の同僚、精神障害者を支える医療・福祉関係者や家族、さらには精神障害者

    本人も含めた理解の促進ととともに、社会全体の理解の促進が重要である。

     このため、精神障害者の雇用の実態を直接目にする機会を提供していくと

    ともに、精神障害者の雇用事例集や雇用管理マニュアル等の作成・配付とと

    もに、障害者団体等とも連携したきめ細かな啓発・広報が必要である。



  

  (3) 雇用義務制度



   精神障害者を雇用義務制度の対象とするかどうかを検討するに当たっては、次

  のような整理ができる。

   すなわち、雇用義務制度を適用することの意義としては、



   ア.精神障害者に対する様々な支援制度の推進力となる



   イ.雇用義務制度の対象とすることが、社会的啓発や関係者の理解の促進に役

     立つ



   等のことが考えられる。

    一方、問題点としては、



   ア.採用後精神障害者を含む精神障害者の実態把握と雇用に関する問題の解決

     が優先されるべきである。現段階では、採用後精神障害者の雇用義務制度

     上の位置付けの検討等も不十分である



   イ.まず、企業の中に精神障害者の雇用管理のノウハウが蓄積されることが必

     要である



   ウ.プライバシーに配慮した把握・確認方法の確立や本人の意思に反して雇用

     義務制度の対象とされること(いわゆる「掘り起こし」)の防止が必要で

     ある



   等のことが考えられる。

    また、雇用義務制度の対象としなくとも、精神障害保健福祉手帳取得者であ

   って雇用された者についてのみ、平成9年の障害者雇用促進法の改正以前の知

   的障害者のように、各企業の実雇用率算定の対象とみなすべきとの考え方もあ

   るが、これについては、採用後精神障害者の掘り起こしが懸念されること、身

   体障害者及び知的障害者の雇用に与える影響が大きいと考えられること等の問

   題がある。



    以上のことから、いずれにしても、精神障害者も雇用義務制度の対象とする

   方向で取り組むことが適当と考えられるが、そのためには、雇用支援施策の積

   極的展開と拡充を図りつつ、その実績を周知することにより、当事者を含む関

   係者の十分な理解を得るとともに、対象とする精神障害者の把握方法及び確認

   方法の確立、採用後精神障害者を含む精神障害者の実態把握等制度適用に必要

   な準備を的確に講じるべきであり、関係機関・組織の十分な連携の下に、こう

   した課題を解決するための取組を図ることがまず必要である。

    このためにも、今後、こうした実態把握等の取組を行うため、関係者の参画

   する調査研究の場を早期に設け、継続的に検討を進めていくことが必要である。

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