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3.今後の施策の方向

  

 (2) 障害者への総合的支援の充実



  障害者の職業リハビリテーションは、公共職業安定所における職業紹介相談、地

 域障害者職業センターにおける職業評価、職業準備訓練、障害者職業能力開発校に

 おける職業訓練などを中心に実施してきたが、保健福祉との連携強化を図る中で新

 たな施策の展開が可能となっており、障害者の特性に合わせたきめ細かな支援の充

 実も求められている。また、こうした中で関係機関の連携によって職業リハビリテ

 ーションの効果を高めることが必要となっている。



  (1) 就業・生活面からの支援の強化



   障害者の雇用を進める上で、就職や職場適応などの就業面の支援ばかりでなく、

  生活習慣の形成や日常生活の自己管理などへの生活支援も重要であり、身近な地

  域で、就業面及び生活面で一体的かつ総合的な支援が展開できる体制が必要であ

  る。

   このため、平成11年度から、試行的に実施してきた「障害者就業・生活総合支

  援事業」の成果を踏まえ、身近な地域において、雇用、保健福祉、教育等の関係

  機関が連携して、障害者の就業面及び生活面について一体的に支援を行うための

  ネットワークの拠点として、「障害者就業・生活支援センター」(仮称)による

  支援事業を全都道府県で実施し、全国に展開していくべきである。

   この場合、実施主体としては、社会福祉法人、民法法人、医療法人、市町村と

  いった幅広い主体が実施できるようにするとともに、保健福祉施策における障害

  者生活支援事業と合わせた事業の展開を図ることが必要である。



   事業内容については、これまでの試行事業の状況を踏まえ、障害者に対する就

  業に関する相談及びこれに伴う日常生活上の相談、障害者の求職活動についての

  助言・相談、職業準備訓練及び職場実習のあっせん、就職後の雇用管理に関する

  助言・相談、障害者の雇用支援をするボランティアに関する情報の収集・提供・

  研修等が考えられる。

   また、教育の分野においては、今後、養護学校生等の職業生活への個別移行プ

  ログラムを策定し、雇用、保健福祉等の関係機関と連携して就労支援を図ろうと

  しているところであるが、こうした動きも踏まえつつ、養護学校卒業生の在職者

  等のフォローアップについても、障害者就業・生活支援センターで実施すること

  が期待される。



   さらに、事業の推進に当たっては、都道府県、市町村においても地域の障害者

  への援助であることを踏まえ、必要な支援を行うことが重要である。

   こうした観点から、可能な地域においては、地域雇用開発促進法の制度を活用

  し、地域求職活動援助事業として地域求職活動援助計画に位置づけ、国、都道府

  県、市町村の協力の下、事業が推進されることが望まれる。

   なお、障害者就業・生活支援センターの事業が適切に推進されるよう、事業内

  容の評価を十分に行っていくことが必要である。



  

  (2) 職場適応のための人的支援の強化



   知的障害者、精神障害者等については、職場環境に慣れるまでに時間を要する

  傾向がある等の障害特性により、就職又は職場適応に課題を有する者も多い。こ

  のような障害者に対しては、事業所内において、就職前後を通じて、障害者の職

  場適応を援助する外部の専門家による障害特性を踏まえた直接的、専門的なきめ

  細かな人的支援を図ることが有効である。

   平成12年度から、「職場適応援助者(ジョブコーチ)による人的支援パイロッ

  ト事業」が実施されている。ジョブコーチの支援内容としては、障害者への取組

  として職場の人間関係の改善や職務内容の理解の向上等を図るとともに、事業主

  等への取組として障害者が抱えている課題への助言、作業指導の方策の助言等が

  あり、集中支援期を経て事業主の支援体制への円滑な移行を図ることとしている。



   今後、この試行事業の成果を踏まえ、地域障害者職業センターで就職前の支援

  に限定して実施してきた「職域開発援助事業」を就職前後の支援に改組発展させ

  て、ジョブコーチによる人的支援事業の全国展開を行うべきである。

   この際、地域障害者職業センターにおいては社会福祉法人など障害者の就労支

  援の経験のある機関を活用し、保健福祉機関との連携を図るようにすることが必

  要である。また、企業での障害者の雇用管理の経験を積んだ者をジョブコーチと

  して活用することも期待される。



  

  (3) 障害者の職業準備訓練、職業能力開発の促進



   障害者が雇用されるためには、基本的労働習慣の形成、職場のルールの理解等

  の職業準備性を高めるとともに、職業に必要な能力の開発及び向上を図ることが

  必要である。特に厳しい経済情勢や技術革新の進展の下、産業構造、職業構造の

  変化が著しい中で、企業のニーズを踏まえて、障害者の希望、適性に合った訓練

  を実施することが必要である。一方で、障害者自身においても自らの職業能力を

  高めていく取組も求められている。

   こうした中、地域障害者職業センターが実施する職業準備訓練や職業講習がよ

  り適切に行われるよう、障害者職業総合センターでは、職業リハビリテーション

  に関する調査・研究とそれに基づく職業リハビリテーション技法の開発を行って

  おり、引き続き効果的な技法の開発とそれによる職業リハビリテーションサービ

  スの充実に努めることが必要である。



   障害者職業能力開発校については、現在全国で19校、2,750人の定員となって

  いる。産業構造の変化に伴い、サービス業への就職拡大が図れるようにするなど、

  訓練内容を不断に見直し、障害の重度化・重複化、障害者の高齢化や訓練ニーズ

  の多様化等に対応した能力開発が行われるようにするとともに、知的障害者、精

  神障害者等の特に配慮を必要とする障害者の職業能力開発の在り方を検討し、こ

  れらの障害者のニーズに応えていくことが必要である。また、視覚障害者に配慮

  したIT技術の習得のための機器・プログラムの導入なども進めることが必要で

  ある。なお、近年養護学校等の卒業生の就職率が低下傾向にあるが、障害者職業

  能力開発校において、知的障害者養護学校の職業教育の分野で協力を図るなど教

  育機関との連携を強化することが期待される。



   また、事業所、社会福祉法人等を活用した「障害者能力開発施設」については、

  現在18施設となっており、これらの施設においては、様々な訓練科目が実施され

  ているが、企業のニーズに合った内容とするためには、地元の行政機関の指導及

  び十分な連携の下で、一層の改善を図っていくことが必要である。

   なお、就業した障害者については企業内で能力を高めていくことになるが、こ

  のための方策やこれに見合ったキャリアアップの方策についての検討を行うこと

  も必要である。

   さらに、障害者の職業能力について、その向上を図るためだけでなく、これを

  事業主をはじめとする国民一般に広く周知し、その理解を深めることが重要であ

  る。その観点からは、障害者技能競技大会の意義は大きく、その充実を図ること

  などにより、障害者の能力開発について積極的な啓発を進めていくことが必要で

  ある。



  

  (4) 福祉的就労から雇用への移行の推進



   障害者の雇用を進める上で、授産施設における福祉的就労から企業等における

  雇用につなげることは重要な経路であるが、現状では、授産施設においては施設

  での作業訓練から雇用につなげるという本来期待される機能が十分に果たされて

  おらず、障害者の社会福祉施設から雇用への移行は極めて限られたものとなって

  おり、雇用への移行の機能の強化が図られるべきである。

   また、福祉的就労の工賃は低額であり、障害年金等と併せても、経済的に自立

  した生活を営むことが困難な場合があるため、雇用への移行の機能の強化は、賃

  金収入による所得の確保を通じた障害者の経済的自立の促進にも資するものであ

  る。



   こうした観点から、授産施設等に対する雇用関係の情報提供等による施設側の

  意識改革、雇用への移行を意識した作業内容の改善が図られるようにするととも

  に、企業内で授産施設の利用者である障害者が作業訓練を行う「施設外授産」を

  適正な方法で実施し、施設利用者を企業における雇用につなげるきっかけ作りを

  行うことが必要である。

   一方で、就職はしたものの就業が継続できなくなった障害者について、離職後

  も十分フォローを行い、必要に応じて社会福祉施設等に一時的に受け入れる等

  「双方向性」の確保を含め、再度就職に向かうことができるような仕組みの充実

  を図ることが必要である。



  

  (5) 地域におけるネットワークの形成



   事業所での就業を支えるには、各支援機関が分断的に支援を行うのではなく、

  各支援機関の有する専門的な知識や技能を有効に活用し、相互に連携のとれた支

  援を行う必要がある。そのためには、様々なレベルで関係支援機関によるネット

  ワークを構築するとともに、各分野の専門支援機関がネットワークを支えていく

  ことが必要である。

   特に、障害者に対し、必要な就業・生活両面からの日常的支援を安定して行う

  には、障害者が職業生活を送っている身近な地域で障害者就業・生活支援センタ

  ーを拠点として、就業・生活支援に関し市町村等のレベルでの関係機関のネット

  ワークを構築することが効果的であるため、障害者就業・生活支援センターによ

  る支援を拡充していくことが必要である。この場合、同センターと職業紹介機能

  を有する公共職業安定所との連携も重要である。



   一方、この就業・生活両面での日常的な支援のネットワークが機能するために

  は、それだけでは十分な対応が困難であると認められる障害者に対して専門的な

  職業リハビリテーションサービスを実施することが必要である。また、専門的な

  知識・技術等に基づき、都道府県レベルで中心となって、就業・生活支援センタ

  ー等支援機関を育成・支援指導し、日常的な支援のネットワークの形成を促すよ

  うな機関が必要である。このためには、基本的に都道府県ごとに設立されており、

  専門的な職業リハビリテーションサービスを推進している地域障害者職業センタ

  ーがその役割を果たすものと考えられる。同時に、地域障害者職業センターを中

  心として、精神保健福祉センター等保健福祉機関などとの都道府県レベルでのネ

  ットワーク形成も必要である。

   また、地方労働局と都道府県の関係部局との連携強化を図る「障害者雇用連絡

  協議会」において、必要に応じて労使団体、障害者団体等との連絡・調整を行う

  等、引き続き地域の実情に応じて障害者雇用の取組の促進を図ることが重要であ

  る。



  

  (6) 雇用支援の人材の確保・育成



   関係機関による障害者の就業支援のネットワークを形成する上で、これを支え

  る人材の質量を確保していくことが重要である。このためには、今後、特に、障

  害者職業センターにおいて、ジョブコーチ事業を担う人材の専門性を高めるとと

  もに、障害者就業・生活支援センターの支援者の育成を図ることが重要である。

   また、障害者職業センターの職業カウンセラーと、学校教育や福祉部門の専門

  職との連携がとれるようにするとともに、福祉、保健、教育、医療等の各分野で

  就業支援を行う人材の育成を積極的に行い、各地域で活躍できるようにすること

  が必要である。



   公共職業安定所においては、地域での職業相談業務が円滑に実施されるよう、

  職業相談員の一層の活用を図ることが重要であり、適切な研修の実施により職業

  相談員の資質の向上を図るとともに、障害者団体、障害者雇用企業等における活

  動経験者など専門的知識を有する者を活用することも検討することが必要である。

   企業においては、職場での障害者の支援が十分に行われるよう、障害者雇用推

  進者及び障害者職業生活相談員による活動の活性化を図ることが必要がある。ま

  た、職場で医療面からも障害者を支えることが重要であり、このため、産業医の

  役割に着目し、産業医に対する障害者雇用支援に係る資質向上を図ることが必要

  である。



  

  (7) 職場での障害者の権利擁護



   職場において障害者の権利が擁護されるためには、労働関係機関等において障

  害者からの申し出等に対応できるようにすることが重要である。

   このため、公共職業安定所、労働基準監督署、福祉機関、人権擁護関係機関等

  から構成される「障害者雇用連絡会議」の活用等により、関係機関の連携の下、

  障害者が職業生活を送る上での問題が生じた場合に迅速な対応が図られるように

  することが必要である。



   また、労働条件その他労働関係に関する事項について、個々の労働者と事業主

  との間で紛争が生じた場合に解決を援助する仕組みとして、都道府県労働局毎に

  置かれた紛争調整委員会によるあっせん等の個別労働紛争解決制度が設けられて

  おり、障害を有することを理由とした労働関係の紛争についても、今後活用が図

  られるものと考えられる。

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