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3.今後の施策の方向

  

 (1) 障害者の職域等雇用の場の拡大



  我が国の障害者雇用施策においては、雇用率制度は最も重要な柱の1つであって、

 雇用率の達成が、企業、国、地方公共団体等が障害者雇用を進める上での目標とな

 り、これまでも障害者の雇用の場の確保、職域の拡大に大きく寄与してきた。

  こうした中で、各事業所において、バリアフリー化の進展により施設設備の整備

 等が図られ、様々な職場・職域で障害者雇用が進んでおり、障害者が障害のない者

 と一緒に働けるように働きやすい職場の環境整備を更に進めていくことが重要であ

 る。

  すなわち、雇用率制度によって障害者雇用をさらに促進することにより、制度の

 基本理念である雇用におけるノーマライゼーションの実現を図ることが求められて

 いる。



  

  (1) 特例子会社制度の活用等による環境整備



   従来障害者雇用を困難と考えていた企業においても、障害者雇用を進める方法

  として、特例子会社制度が活用されている。特例子会社については、ノーマライ

  ゼーションの観点からの議論も行われたが、これまでの障害者雇用における実績

  などから、以下のように評価されるようになっている。



   ア. 障害者本人にとってメリットの大きい制度である



    ・個々の障害者にとって、施設設備の改善、職場の人的支援、業務編成等の

     面で、より配慮された職場環境が設定されること。

    ・業務の再編成により、知的障害者が働く場が数多く創り出されている等障

     害者が有する能力を発揮する機会が増大すること。





   イ. 企業にとって障害者雇用に積極的に取り組む契機となる制度である



    ・雇用管理上のノウハウが蓄積され障害者雇用の拡大が可能となること。

    ・企業の社会的責任を果たしイメージアップにも貢献できること。

    ・単に実雇用率に算入できるだけでなく、企業の業務の見直しを図る契機に

     なること。



   また、これまでの実績を見ると、障害者雇用は困難としていた企業においても、

  特例子会社の設立を契機として障害者の特性に合った業務を創出することができ

  ており、また、特例子会社を有する企業の実雇用率は総じて高くなっており、全

  体としての障害者雇用の促進に対する寄与も大きくなっている。

   これらを踏まえると、障害者の職域及び雇用の場の拡大を図るため、特例子会

  社について、経営の安定及び発展を図るとともに、設立を促進するための施策展

  開が必要である。

   しかしながら、特例子会社制度については、昨今の経済経営環境の変化により、

  以下の点への対応が迫られている。





   ア.分社化による事業のスリム化等が進展する中で、親会社が特例子会社制度

     の活用によって障害者の雇用促進を図るという方策を変更せざるをえなく

     なったり、それぞれの会社で雇用率を達成するため、分社化した子会社へ

     特例子会社で雇用されていた障害者を配置転換することが必要となる等、

     障害者の雇用を前向きに進めていくことが困難な状況が生じている。



   イ.持株会社制度の導入による企業合併、企業グループの再編成が進展してお

     り、既に設立されている特例子会社の親会社が、持株会社等による企業グ

     ループに吸収された場合に特例子会社の経営及び障害者雇用が不安定化す

     る恐れがある。



   ウ.国際会計基準の導入により企業グループの連結決算が行われ、企業会計上

     の子会社の範囲は、従来の持株基準から支配力基準に拡大してきている。



   このような状況に対応し、特例子会社制度を活用して障害者の雇用の場の拡大

  が図れるようにするためには、特例子会社に関する雇用率算定方式について、次

  のような見直しを行い、親会社の責任の下で、企業グループ全体での障害者雇用

  の促進に取り組むことを促す仕組みを構築すべきである。





   ア.企業グループの中で、他の子会社と特例子会社との間に一定程度の出資、

     仕事発注等の関係があり、親会社が特例子会社及び他の子会社も含めて障

     害者雇用の促進に責任を有することができると認められる場合には、親会

     社が中心となって、特例子会社及び他の子会社を合わせてグループで雇用

     率の算定を行えるようにすること



   イ.特例子会社と親会社の関係においては、現在、持株基準をもとに保有する

     議決権が1/2を超えていることを要件としているところであるが、これ

     を支配力基準に拡大すること



   また、障害者雇用に大きな役割を果たしてきた重度障害者多数雇用事業所につ

  いては、中小企業が多く、経済経営情勢が厳しい中ではあるが、引き続き障害者

  雇用への先駆的な取組を行い、障害者雇用のノウハウを各方面に提供することが

  期待されるため、引き続き支援が必要である。

   国、地方公共団体については、出資関係などがないことから特例子会社のよう

  な仕組みを取ることはできないが、企業における特例子会社の取組事例等を踏ま

  えた障害者の雇用制度の在り方を検討する必要がある。また、障害者を雇用する

  企業に対し、優先的に業務を発注し、障害者の雇用の継続が図られるようにする

  ことも必要である。



  

  (2) 除外率制度の縮小



   現在、雇用率算定の基礎として企業については除外率、国及び地方公共団体に

  は除外職員が設けられている。この雇用率制度における除外率制度については、

  昭和51年の身体障害者雇用審議会の意見書において、できるだけ縮小する方向

  で全体的な見直しについて検討することとされ、また、納付金の額の算定におけ

  る除外率の適用については、法附則において定められた暫定措置であり、一定の

  条件を満たせば速やかに廃止することとされていた。



   こうした中で、平成9年の障害者雇用促進法の改正においては、技術革新、作

  業環境の改善等を踏まえ、事業主間の経済的負担の不公平の是正を図る観点から、

  調整金及び報奨金の支給の際の雇用率の算定には除外率を適用しないこととされ

  た。さらに、その後の障害者雇用を取り巻く状況を見ても、職場環境の整備等が

  進む中で、障害者が就業することが困難と考えられていた職種においても就業可

  能性が高まっており、数多くの雇用事例が生じている。企業が障害者雇用を進め

  る上でも、特例子会社制度、各種助成金の充実などの条件整備が図られてきてい

  る。



   また、障害者の社会経済活動への参加を促進する観点から、平成11年より各種

  施策に係る障害者の資格欠格条項の見直しが進められ、本年6月には「障害者等

  に係る欠格事由の適正化を図るための医師法等の一部を改正する法律」の制定に

  より、国民の健康及び安全に関する資格制度等において定められている障害者に

  係る欠格事由についても適正化が図られたところである。

   教育の現場においても、障害者である教員がいることは、児童・学生の障害者

  に対する理解が進むことになるということが指摘されている。



   一方で、除外率の設定による業種ごとの障害者雇用への取組状況を見ると、除

  外率が高い業種は、除外率が低い業種や非設定業種に比べて一般に障害者雇用へ

  の取組が不十分であり、除外率を設定していることにより業種間で不公平が生じ

  ている。

   以上のことから、現行の除外率・除外職員については、次のような不合理があ

  り、見直しが必要となっている。





   ア.障害者が障害のない者と同等に生活し活動する社会をめざすノーマライゼ

     ーションの理念から見て、一部の業種や職種においては障害者の雇用義務

     を課さないこととする仕組みには問題があること



   イ.技術革新、職場環境の整備等により、従来障害者が就業できないとされて

     いた職種にも就業が可能となっている等、実態に合わなくなってきている

     こと



   ウ.当該業種、職種における障害者の雇用機会を少なくし、障害者の職域を狭

     めることになること。特に、各種資格制度の門戸が障害者にも開かれつつ

     ある中で、就業の場が閉ざされているとの印象を与えかねないこと



   しかしながら、直ちに除外率・除外職員を廃止することについては、職場環境

  の整備、採用等の面から困難な点があるものと考えられる。

   したがって、企業の除外率については、職場環境の整備等を更に進めつつ、今

  後、周知・啓発を行いながら、準備期間を置いて、廃止の方向で一定の期間をか

  けて、段階的に除外率を引き下げ、縮小を進めていくべきである。

   この場合、除外率適用業種において、除外率縮小と併せて障害者雇用への取組

  が推進されるよう、該当業種に対する啓発の強化をはじめ環境の整備が必要であ

  る。



   また、国及び地方公共団体の除外職員についても、企業の除外率設定の基礎で

  あることから、企業との均衡を考慮して、同様に、廃止の方向に進めていくべき

  であり、この場合、現行の仕組みは当該職種に障害者が就業できないという印象

  を与えかねないこと、段階的に縮小を図る方法をとることができないことから、

  職員構成等の実態も踏まえ機関ごとの除外率に転換を図り、一定の期間をかけて、

  段階的に除外率を引き下げ、縮小を進めていくべきである。



  

  (3) 雇用率達成指導と助成措置の改善



   雇用率の低い事業主等に対しては、公共職業安定所等において障害者雇用率達

  成のための指導を行っており、特に雇用率の低い事業主には、雇入れ計画の作成

  命令、雇入れ計画の適正実施の勧告、特別指導、企業名の公表という段階を踏ん

  だ指導を行っている。こうした措置は、個々の事業主に対して障害者雇用を促す

  上で大きな役割を果たしており、障害者雇用率達成努力に大きな問題のある企業

  名の公表も含め、引き続き厳正な雇用率達成指導が必要である。



   一方、障害者を雇用する事業主に対する支援としては、障害者雇用納付金制度

  による事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整があるが、事業主からは調

  整金や報奨金の支給時期が年末であるために年度内に計画的に活用しづらいとの

  指摘もある。このため、調整金及び報奨金の支給時期の早期化について検討する

  ことが必要である。

   障害者雇用の環境整備を図る上で、納付金制度に基づく助成金も大きな役割を

  果たしている。しかしながら、助成金を利用する事業主からは、助成金の支給基

  準が明確に周知されていない点があること、申請から支給までの手続きの事務が

  複雑で相当の時間を要するといった問題が指摘されている。このため、助成金に

  ついては、OA機器により作成した申請書・請求書の提出を可とするなど手続きの

  簡素化を含め、確実、迅速な処理を進めるよう努めるとともに、支給基準の明確

  な周知を図り、事業主がより利用しやすい仕組みとすることが必要である。



   また、施設の新設などの際に少数の事業主に多額の助成金が支給されるよりも、

  障害者雇用に貢献している多数の事業主に助成措置が行われるようにすべきとの

  意見もある。このため、施設設置の助成金の支給対象とする範囲のあり方、障害

  者雇用を進める多数の事業主が利用できる助成金の充実等の見直しを行うことが

  必要である。

   さらに、都道府県障害者雇用促進協会、地域障害者職業センターにおいて、事

  業主に雇用管理のノウハウを提供する事業が実施されているが、その推進に当た

  っては相互の連携を図るとともに、助成金事業との一層の連携を図ることが必要

  である。

   この他、障害者雇用については、事業主をはじめ社会全体の理解の促進が重要

  である。このため、障害者雇用が進んでいない業種等における障害者雇用への取

  組、知的障害者、精神障害者の雇用の取組が推進されるよう、事業主のニーズを

  踏まえた好事例やマニュアルを活用し、より効果的な啓発、講習を行うとともに、

  障害者雇用促進月間などの機会を活用しつつ、広報・啓発活動についての積極的

  な展開が必要である。



   なお、現行では、従業員数56人以上の企業に雇用義務が課されているが、法定

  雇用率に達しない場合に納付金を支払う義務は暫定措置として従業員数301人以

  上の企業を対象としたことから、法定雇用率を超えて雇用した場合の調整金

  (1人当たり月2万5千円)は従業員数301人以上の企業を対象とし、従業員数

  300人以下の企業に対しては報奨金(1人当たり月1万7千円)が支給されてい

  る。これについては、小規模の障害者多数雇用事業所も障害者を雇用する際には

  大企業と同じ負担をしていることから、調整金と報奨金を一本化するとともに、

  併せて、納付金制度の対象となる範囲を従業員数301人以上の企業とする措置を

  見直し、対象企業を従業員数56人以上の企業に広げるべきとの意見もあり、今後、

  経済情勢も見つつ、その在り方について検討することが必要である。



  

  (4) 試行的雇用を活用した雇用機会の創出



   障害者雇用をめぐる状況が厳しい中で、事業主に障害者雇用への理解を深める

  きっかけ作りを行い、積極的に障害者の雇用機会を創出することが重要である。

   こうした観点から平成11年1月から「障害者緊急雇用安定プロジェクト」が実

  施され、多数の障害者が雇用に結びついたが、その要因として企業が、職場実習

  と試行的雇用(トライアル雇用)を通じて無理なく障害者雇用の経験ができたこ

  と、障害者の能力・適性を実際に4ヶ月にわたって見極めることができたこと、

  適性に応じた実習、訓練が可能になったこと等企業の実態を踏まえた施策の展開

  が行われたことがあげられている。特に、事業主団体が強力に事業を推進したこ

  とも要因として大きく、行政、企業、支援団体が一体となって事業を推進した地

  域で活発に利用され成果を上げている。



   障害者緊急雇用安定プロジェクトを受けて、平成13年度から開始された「障害

  者雇用機会創出事業」についても、この事業での経験を生かし、事業主団体の協

  力も得て、地域での関係機関との連携を図りながら、活用を進めるとともに、そ

  の成果を踏まえ、今後さらに事業を推進することが必要である。

   また、障害者雇用機会創出事業の前段階として、職場実習が必要な場合がある。

  これに対しては、「職場適応訓練」等の既存の事業を活用することが考えられる

  が、特に短期間の職場適応訓練である「職場実習」の活用を図ることが重要であ

  る。

   さらに、医療リハビリテーションの一環として実施されている「精神障害者社

  会適応訓練事業」から障害者雇用機会創出事業のトライアル雇用への円滑な移行

  が図られるようにすることが必要である。



  

  (5) 多様な雇用・就業形態への対応



   障害者の雇用形態については、事業所での常用雇用だけでなく、在宅勤務、短

  時間勤務、派遣労働等など多様な形態が生じているが、労働条件の面にも留意し

  つつ、障害者の特性を踏まえた対応が望まれる。

   特に、短時間勤務については、直ちにフルタイムで働くことが困難な障害者に

  とって必要な形態であるため、後述するようにこうした場合の支援方策の検討が

  必要である。また、通勤が困難な重度障害者の雇用・就労の一形態として期待さ

  れる在宅就労についても、IT技術の進展により一層の普及が期待されるようにな

  り、その推進のため、仕事の受発注や技能の向上に係る援助を行う支援機関の育

  成を検討することが必要である。さらに、派遣労働については、雇用責任は派遣

  元にあるものの、労働者が職務に従事する派遣先企業に対して、障害者を活用し

  やすくするという観点から、障害者の作業環境への適応等に係る助言等の支援を

  行うことが重要である。



   また、関係機関の支援を受けながら、障害者がグループで企業における就労を

  体験する形態も見られており、ここからさらに雇用へつなげていけるようにする

  ことが必要である。

   さらに、障害者による専門技術を生かした起業の例も見られており、関係団体

  等からの適切な情報提供などが行われるようにして、自営業も含めた職場の拡大

  の促進を図ることが必要である。

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