トップページ


第2章 自殺予防対策



第3節 自殺予防対策



1.実態把握



 自殺予防に役立つかたちで、自殺の実態把握を正確に行うことが必要不可欠である。

自殺の背景は複雑であり、本人に属する要因(性格、年齢、疾患、職業等)、本人と

家族や周囲の者との関係、本人を取り巻く環境が複合的に関係していると考えられる。

しかし、既存の統計は、自殺の実態解明を目的とするものではなく、これらの統計か

らはこのような情報を得ることはできない。



 このため、自殺の実態を正確かつ継続的に把握するための調査研究が必要である。

たとえば、自殺の実態把握に特異的な方法として、自殺死亡者の「心理学的剖検」と

いう専門的な調査方法があるが、この方法については、得られる調査結果の質、プラ

イバシーの確保、調査対象者となる自殺死亡者の家族や周囲の者の負担等、多角的に

有用性や実施方法等の観点から検討を続ける必要がある。また、自殺未遂者のうち、

救命救急センターで診療を受けている者は、高度な医療によりようやく救命された者

が主であるため、その実態は自殺死亡者ときわめて類似しており、自殺の実態を把握

できる調査対象者となり得る。他に死体検案の情報を基にした法医学領域での調査や、

死亡票の活用等も考えられる。



 全国的な実態把握を効率良く行うには、国立の研究機関等が中心となって、精神保

健福祉センター、保健所、救命救急センターを含む医療機関、事業場、医師会等との

連携により多角的に進めていくことが必要であると考えられる。同時に、地域により

自殺の実態が異なることから、地域の実情に応じた自殺予防のための組織づくりも念

頭に置き、地域の把握を行うことも必要である。



  

2.普及・啓発や教育



(1)心の健康問題に関する正しい理解の普及・啓発



 (1)必要性



   うつ病等の心の健康問題やそれに起因する自殺の問題は、誰もが抱え得る身近

  な問題であり、こうした点を国民一人ひとりが認識することは、自殺予防にとっ

  て重要である。自殺問題は、どこの国でもタブーとされる傾向にあるが、タブー

  として蓋をせず、これを正面からとらえ、その正しい理解の普及・啓発に力を入

  れることが重要である。



   自殺の危険性が高い人々に対する対策(ハイリスクアプローチ)に加え、国民

  全体に働きかけること(ポピュレーションアプローチ)は、国民全体の自殺のリ

  スクを下げるという意味で効果的と考えられる。つまり、ハイリスクと考えられ

  ていない大多数の者にも全く自殺のリスクがないわけではなく、結果的に自殺を

  選んでしまう者も、この大多数の集団の中に多く存在するからである。



 (2)セルフケア



   国民一人ひとりが心の健康問題の重要性を認識するとともに、過剰なストレス

  等の心の健康問題を抱えた場合に、自ら気づき、適切に対応できることも、自殺

  予防にとって重要である。そのためには、自ら心の健康に関心を持ち、問題が生

  じた場合には、家族や周囲の者に相談したり、悪化する前に地域・職域の適切な

  機関(保健所、精神保健福祉センター、児童相談所、市町村、医療機関、学校、

  事業場、労災病院、産業保健推進センター、地域産業保健センター等)に相談し

  たりするように普及・啓発を行うことが必要である。



 (3)セルフケアの支援



   心の健康問題を抱えた場合に気軽に相談できるように、地域・職域の相談機関、

  相談方法等が周知されるような取組を、平素から各機関は心がける必要がある。

  特に、心の健康問題を抱えた際に、専門家である精神科を受診することに抵抗感

  のある者が多いことから、精神科プライマリケアを普及し、気軽に受診できるよ

  うな環境づくりが必要である。また、本人が相談し難い場合には、家族や周囲の

  者による適切な対応が必要である。さらに、地域におけるサポートグループの活

  動等身近な支援体制の活用も考えられる。



 (4)普及・啓発の実施



   心の健康問題に関する正しい理解の普及・啓発に当たっては、地域・職域にお

  ける健康診断や健康教育の機会、「いのちの日(12月1日)」、ポスター、パ

  ンフレット、インターネット等、あらゆる手段を活用することが必要である。



  

(2)児童・思春期における留意事項



 (1)心の形成を重視した教育と心の健康問題に関する正しい理解の普及・啓発



   自殺予防を発達や成長の観点から考えた場合、子どもの頃から、自分らしさを

  確立し、自らの困難や挫折、ストレス等を克服し適切に対処する力を養う必要が

  ある。その一方で、他の人を支援し、他の人と関わり合い、ともに助け合って生

  きる「共助の感覚」を培うことも大切である。また、生命の尊さや生きることの

  積極的な意味を考え、生きる誇りと自信を育てるなど心の形成を重視した教育や

  心の健康問題に関する正しい理解の普及・啓発も必要である。これらは、家庭環

  境や学校環境の中で培われるものであり、さまざまな機会や手段を通じて教育の

  充実を図ることが必要である。これらが、心の健康問題に対する偏見の解消にも

  つながることとなる。



 (2)自殺予防教育の可能性



   学校等児童生徒を取り巻く環境において、自殺予防を直接の目的とする教育に

  取り組む必要があるとの指摘がある。例えば、欧米では、自殺予防の教育が子ど

  もの段階から学校で行われている国もある。その主な内容は、(1)自殺の実態に

  ついて知る、(2)自殺につながるような危険な状態が、人生の中で起こり得るこ

  とを知る、(3)友人の自殺の危険に気づいた時の対処法をロールプレー等の手法

  を用いて考える、(4)地域にどのような関係機関があるかを知る、等(高橋祥友

  委員「青少年のための自殺予防マニュアル」)である。我が国における取組を検

  討する上で、このような海外の取組も参考としていくことが望まれる。

                        TOP

                      トップページ