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2 企業行動計画の策定例
次世代育成支援対策推進法案において、各企業は行動計画を策定し、その概要を都
道府県労働局へ届け出ることとしており、常時雇用する注)労働者が300人を超え
る大企業については義務付け、常時雇用する労働者が300人以下の中小企業につい
ては努力義務としている。
また、同法案では、各事業主は、企業行動計画において、
(1)計画期間
(2)次世代育成支援対策の実施により達成しようとする目標
(3)実施しようとする次世代育成支援対策の内容及びその実施時期
を定めることとしている。
そこで、各企業においては、その実情を踏まえつつ、具体的な方策及び目標を検討
し、働き方の見直しや仕事と子育ての両立支援等に関し実施可能な内容を幅広く記載
した行動計画を策定することが求められる。
その際には、様々な数値目標を盛り込むことが望ましいが、数値目標の設定のみを
重視することなく、働き方の見直しや仕事と子育ての両立支援等に関する対策を幅広
く盛り込むことが重要である。
本研究会においては、企業行動計画に盛り込むことが考えられる事項について検討
し、以下、そのメニューをとりまとめたところである。
なお、計画の内容の実施に当たり、就業規則の変更等を行わなければならない場合
もあることにも留意する必要がある。
注)「常時雇用する」とは、雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用さ
れている場合をいい、実体的に判断される。具体的には、次のような場合が、
「常時雇用される」に当たるものである。
(1) 期間の定めなく雇用されている場合
(2) 一定の期間(例えば、1ヶ月、6ヶ月等)を定めて雇用されている者であ
って、その雇用期間が反復更新されて事実上(1)と同等と認められている場
合(具体的には過去1年を超える期間について引き続き雇用されている場合
または採用のときから1年を超えて引き続き雇用されている場合をこれに当
たるものとして取り扱っている。)
(3) 日々雇用される場合であって、雇用契約が日々更新されて事実上(1)と同等
と認められる場合(具体的には(2)の場合と同じく、過去1年を超える期間
について引き続き雇用されている場合または採用のときから1年を超える期
間について引き続き雇用されると見込まれる場合をこれに当たるものとして
取り扱っている。)
○○株式会社行動計画
I 総論
○ 目的、企業の果たすべき役割
(目標記載例)
(1) 当社は、○○をコンセプトとして創業以来製品の開発、販売を行ってきた。社
員が育児責任を全うできるようにすることは、社員の勤労意欲を向上させ、会
社の生産性の向上にとってもプラスに働くと考えるので、社員の意見を聴きつつ、
計画を策定・実施し、目標の達成に向けて努力することとする。
(2) 当社は、個人を尊重して、個人の発想を大切 にすることを社訓とし、社員の発
想を発揮できる仕事の在り方とより働きやすい環境づくりに向けて全社で取り組
むこととした。そうした取組の一つとして、計画を策定・実施し、目標の達成に
向けて努力することとする。
(3) 当社では、専門的な知識・技能を有する社員が出産・育児を理由とする退職を
せず、当社で働き続けることができ、培った能力を十分に発揮できる環境を整備
することとしている。この当社の方針を明らかにするために、計画を策定・実施
し、目標の達成に向けて取り組むこととする。
○ 目標年限(計画期間)
(記載例)
・2年〜5年注1)
○ 計画の推進体制の整備
・推進委員会の設置
・管理者等への研修実施
(目標記載例)
(1) 経営トップの意思を体現するプロジェクトチームを立ち上げ、業務の各部門を
ユニットとして、現状把握、目標の設定を行うことを通じて計画の着実な推進を
図る。注2)
(2) 検討するテーマに応じてトップ、実務者レベル別の検討組織を設け、機動的な
体制を構築する。
(3) 本行動計画の円滑な推進を図るため、一部の「管理者」だけではなく、「社員
全員」を対象にした研修を定期的に開催する。
○ 国・地方公共団体の支援との連携
(目標記載例)
(1) 育児・介護休業法に基づく育児休業、時間外労働の制限、深夜業の制限や育児
のための勤務時間の短縮等の措置の実施注3)に当たっては、都道府県労働局等
関係機関の助言等も得ながら適切な実施に努める。
(2) 育児・介護休業法に基づ
く厚生労働大臣の指定法人である(財)21世紀職業財団の行う両立支援に関す
る事業主等に対する助成金等注4)や、労働者・事業主等に対する指導、相談、
援助、情報提供等を最大限に活用するように努める。
(3) 次世代育成支援対策推進センター注5)が行う雇用環境の整備に関する相談等を
最大限に活用するように努める。
(4) 当社のメインの事業所があり、創業以来つながりの深い○○市の次世代育成支
援対策について、○○市と連携策を検討し、実施することとする。
II 具体的方策のメニュー
◎ 主に企業内の労働者注6)に関するもの
○ 妊娠・出産期の配慮
・企業内における母性健康管理についての環境の整備
・子出生時の父親最低5日間休暇取得の促進注7)
(目標記載例)
(1) 労働者、管理職等に対する母性健康管理に関する情報の提供や研修の実施
(2) 企業内診療所における相談窓口の設置
(3) 母性健康管理電話相談窓口注8)の周知
(4) 「母性健康管理指導事項連絡カード」注9)の利用の呼びかけ
(5) 「子出生時の父親最低5日間の休暇」の取得を奨励する。
○ 子育てと仕事が両立できる環境の整備
(1)育児休業を取りやすく職場復帰しやすい環境の整備
・ 特に男性が取りやすくするための特段の工夫、奨励措置(例 勤務時間、勤務
地、担当業務等の限定制度等)
・ 育児休業後の原職(相当職)復帰
・ 再雇用制度の導入注10)
(目標記載例)
(1) 育児休業は、法律に基づく労働者の権利であることをあらゆる機会を利用して
周知する。
(2) 労働者の経済的な不安感を軽減するために「育児休業給付金」注11)や育児
休業期間中の社会保険料負担の免除注12)について周知する。
(3) 育児休業の前に労働者に対し、育児休業中の収入見込み、復帰後のポスト等の
待遇について、書面で分かりやすく示したデータを提供する。
(4) 育児休業をした労働者がスムーズに職場に復帰できるよう、育児・介護休業者
職場復帰プログラム実施奨励金注13)を活用しつつ、職場適応性や職業能力の
維持・回復を図る措置(職場復帰プログラム注14))を計画的に実施する。
(5) 希望者に対して勤務時間、勤務地、担当業務等の限定制度を導入し、特に子育
て期の社員の利用を図り、育児をしやすい環境を整える。
(6) 男性の育児休業取得に関する好事例の収集、紹介を行い、男性の育児休業取得
の促進を図る。
(7) 妻の産後8週間注15)は、妻が育児に専念できる場合でも、男性は必ず育児
休業を取得できることを周知徹底する。
(8) 出産や育児のために退職して、その後○年以内に再就職を希望したときは、優
先採用する。
(9) 出産や育児のために他社を退職した者について、その技術、能力等を評価しつ
つ、積極的な採用に努める。
(10) 出産や育児のために、やむなく退職した者に対して、国等が実施している再就
職支援策注16)等についての情報を提供する。
(11) 育児休業取得率を△△%から○○%(男性従業員については、▲▲% →◎◎
%、女性従業員については、▽▽% → ●●%)に引き上げる。
(2)子育て期間における子供と過ごす時間の拡大
・子育て期間における残業時間の縮減
・勤務時間短縮注17)、始業時間の繰り上げ・繰り下げ、フレックスタイム、裁量
労働制の活用
・ 子の看護のための休暇注18)
(目標記載例)
(1) 子育て期の労働者については、その希望に応じて労働時間を 週○○時間、年間
○○時間内にとどめる注19)。
(2) 勤務時間の短縮制度を導入する。(既に導入済みの企業は ○○の点について改
善を図る。)
(3) 始業時間の繰り上げ・繰り下げ制度を導入する(既に導入 済みの企業は○○の
点について改善を図る。)
(4) フレックスタイム制注20)を導入する(既に導入済みの企業は ○○の点につ
いて改善を図る。)。
(5) 裁量労働制注21)を導入する(既に導入済みの企業は○○の点 について改善
を図る。)。
(6) 年次有給休暇の計画的付与制度注22)を導入する。
(7) 子の看護のための休暇制度を導入する(既に導入済みの企業 は○○の点につい
て改善を図る。)。注23)
(8) 子供の検診、予防接種のための休暇制度を導入する。
(9) 子供の授業参観、保護者会、PTA、運動会等の学校行事のための休暇制度を
導入する。
(10) 子育て期の社員リストを作成した上で、管理職等が社員の希望に応じて早期帰
宅を可能とするための取組を行う。
(11) 年次有給休暇の取得率を△△%から○○%に引き上げる。
(12) 社員一人当たりの年間所定外労働時間を△△時間から○○時間未満とする。
(3)多様な働き方への支援
・いわゆる「短時間正社員制度」注24)、「多様就業型ワークシェアリング」の推進
・テレワークへの支援
(目標記載例)
(1) 社内に検討委員会を設け、「短時間正社員」制度を導入する。
(2) 定時間の勤務制度に加え「隔日勤務」制度を導入する。
(3) 「テレワーク」の導入を検討し、○年後を目途に導入を図る。注25)
(4)人事面、賃金面での配慮
・代替要員の確保
・本人の経済的負担感の軽減(育児費用の補助等)
・近くて広い社宅の優先割当
(目標記載例)
(1) 育児休業取得に際し、要員管理を適切に行い、育児休業代替要員確保等助成金
注26)を活用しつつ、代替要員の円滑な確保を図る。
(2) 育児・介護費用助成金注27)の活用の検討と併せて、○○年度までに労働者が
育児サービスの利用に要した費用の全部又は一部を補助する制度を設ける。
(3) 育児・介護費用助成金の活用の検討と併せて、ベビーシッター会社と契約し、
労働者が割安な費用で子供を預けられるように、○○年度までに制度を整備する。
(4) 社宅の社内基準を子育て期の社員に有利な形で見直す。
(5) 育児休業給付金の申請を会社が代行する。注28)
(5)相談窓口の設置、情報提供
・専任の担当者あるいは既存制度上の推進者等の活用
・地域における保育等の情報の提供
(目標記載例)
(1) 次世代育成支援対策が適切かつ有効に実施されるために専任の担当者(「次世
代育成支援対策推進者」注29))を配置する。注30)
(2) 子育て期の労働者に対し、地域における保育等の情報を提供する(冊子の作
成・配布、企業内ホームページ注31)に「フレーフレー・テレフォン」、「フ
レーフレーネット」注32)や「i子育てネット」注33)等へのリンクを作成
する等)。
(3) 社員の家族向けに会社の福利厚生制度に関する情報を提供する。
(6)事業所内託児施設等の整備注34)
・託児施設
・授乳室、育児用品の備置
(目標記載例)
(1) 事業所内託児施設を○○年度に新たに設置し、運営を開始する注35)。
(2) 事業所内の空きスペースを活用して、事業所内託児施設の運営を開始する。
(3) 既存の事業所内託児施設の定員を○○年度に○人以上増やし、○○平方メート
ル以上の増築(又は建替え)を行う。
(4) 事業所内託児施設の保育遊具等の購入を計画的に進める。
○働き方の見直し、職場優先の企業風土や固定的な性別役割分業の改善
(目標記載例)
(1) 啓発パンフレットを作成し、全社員に配布する。
(2) 管理職から担当レベルまで全社員を対象に年○回研修を実施する。
(3) L休暇(土・日曜日と年次有給休暇とを組み合わせた2週間程度の休暇)
注36)を職場に導入し、その利用を奨励する。
(4) 「職場に長時間いることが善である」という風潮を改め、「所定外労働は、臨
時・緊急のときにのみ行うもの」という原則を浸透させる。
○その他
(目標記載例)
(1) 若手社員等の希望に応じ、10年先、20年先の結婚、子育てを前提としたラ
イフプランを考える場を提供する(講習会、個別相談等)。
(2) 企業内の福利厚生のメニューに結婚情報サービスの提供を盛り込む。
◎企業内の労働者に限られないもの
○子育てバリアフリー化の推進注37)
(目標記載例)
(1) 当社のロビーは、ターミナルである○○駅の目の前にあり、親子連れも含め、
頻繁な往来がある。
このため、トイレを改修し、幼児のおむつがえのための利便に供する。また、当
該トイレ付近でその旨の周知を行う(掲示板、受付等)。
(2) 当社の利用層は親子連れが多く、授乳室や乳幼児と一緒に利用できるトイレの
設置の要望が多い。このため、空きスペースでの授乳室の設置、トイレの改修を
行うこととし、その旨の周知を行う。
(3) 当社の顧客は親子連れが多いことから、キッズスペース(子どもが安全に遊ぶ
ことができる場所)を設け、親子連れでも気兼ねなく来社できる環境を整備する
こととする。
(4) 当社の利用層は親子連れが多く、有料の託児ルームの設置の要望が多い。そこ
で、有料の託児ルームを設けることとし、親子連れでも安心し来社できる環境を
整備することとする。
○ 地域における取組、社会貢献活動
・地域協議会等を通じ住民、企業、NPO等の地域レベルでの参加
・自社従業員の地域のボランティア活動への参加に対する支援等
・事業所内託児施設の一般開放
(目標記載例)
(1) (都道府県、市町村の計画に位置づけがある)
○○地域協議会に参加し、その中で検討される開催行事に当社の社員を協力スタ
ッフとして派遣する。
(2) ボランティア休暇・休職制度、表彰制度を導入することを通じて、社員が地域
における子育て支援の活動に取り組みやすい環境を整備する。
(3) 事業所内託児施設を○○市の支援を得て○○年度より一般開放する。
注1) 企業の実情に応じて設定するのが望ましいが、2年未満では非現実的であり、
5年超だと育児・介護休業法等の関係制度の見直しが計画に反映できないと考
えられる。
注2) 企業行動計画の策定において、企業が留意すべき事項については、
「3 企業行動計画の策定の望ましいプロセス」を参照
注3) 育児・介護休業法に基づく諸制度
・育児休業
労働者は、子が1歳に達するまでの間、育児休業を取得できる。
・時間外労働の制限
事業主は、育児や家族の介護を行う労働者が請求した場合には、1ヶ月
24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせることはできない。
・深夜業の制限
事業主は、育児や家族の介護を行う労働者が請求した場合には、深夜
(午後10時から午前5時まで)において労働させることはできない。
・勤務時間の短縮等の措置
事業主は、3歳未満の子を養育し、または常時介護をを必要とする状態
にある対象家族の介護を行う労働者については、勤務時間の短縮等の措置
を講じなければならない。また、事業主は、3歳から小学校就学前の子を
養育し、または家族を介護する労働者については、育児・介護休業の制度
または勤務時間の短縮等の措置に準じた措置を講ずるよう努めなければな
らない。
注4) 事業主等に対する両立支援事業としては、
(1) 育児両立支援奨励金
(2) 看護休暇制度導入奨励金
(3) 事業所内託児施設助成金
(4) 育児・介護費用助成金
(5) 育児休業代替要員確保等助成金
(6) 育児・介護休業者職場復帰プログラム実施奨励金
(7) 育児休業取得促進奨励金
(平成15年4月から新設)
といったものがある。
注5) 「次世代育成支援対策推進センター」においては、次世代育成支援対策推進
法案に基づき普及啓発、個別相談指導、講習会の開催等を行うことを通じて、
事業主の行動計画の策定・実施を支援することとしている。
注6) 労働法などにおいては、適用対象となる労働者は各法令により異なるが、こ
こでは、「企業内の労働者」として、正社員、パート、アルバイト他呼称の如
何を問わず、当該企業が直接雇用する労働者及び派遣先としての責任を分担す
る範囲での派遣労働者までを念頭においている。
注7) 子どもの出生という親子にとっての最も大事な時期に、家庭において親子の
時間を大切にするとともに、出産後の妻をサポートすることが重要であること
から、「次世代育成に関する当面の取組方針」(平成15年3月14日少子化
対策推進関係閣僚会議決定)では、「子どもが生まれたら父親が休暇を取得
(例えば、5日間)」の促進を図ることとされている。
子出生時の父親最低5日間休暇取得へ向けた企業の具体的な取組としては以
下のようなものがある。
・妻の出産後の出産休暇の制度化
・妻の出産後の有給休暇取得の奨励
・産後8週間(妻が育児に専念できる場合でも男性が育児休業を取得できる期
間)は育児休業取得の制約がないことの周知徹底