タイトル:「低所得者の新たな生活支援システム検討プロジェクト」報告書 発 表:平成14年1月7日(月) 担 当:厚生労働省政策統括官(社会保障担当)付社会保障担当参事官室 電 話 03-5253-1111(内線7705,7706) 03-3595-2159(夜間直通)
はじめに ○ 社会保障制度の全般にわたり、低所得者の生活支援システムについて今後のあり 方を総合的に検討するため、桝屋厚生労働副大臣を座長として省内プロジェクトチ ームでの検討を行ってきた。これまで、関係の制度について広く横断的に検証して きたので、その結果を以下の通り報告する。 1 基本的考え方 ○ 今後の高齢化の進展に伴い、社会保障の給付とそれに見合う負担の増大が避けら れない中、負担能力のある者には適正な負担を求めていく一方、負担能力の低い者 には必要な配慮を行っていくことが必要である。 ○ また、社会的に援護を要する多様な人々が、一人一人の能力を十分に発揮し、自 立して尊厳を持って生きることができるよう、広範な生活支援のあり方を考えるべ きである。 2 低所得者の現状 ○ 高齢単身者、障害者、母子家庭に低所得が多い。ホームレスなど新しい問題も生 じている。
国民生活 基礎調査 |
所得 200万円未満 |
・母子世帯の48%、高齢者世帯の41%が該当 (全体では15%) |
所得 第一四分位 (低所得者 世帯) 基礎的所得 |
・3分の1は高齢者世帯、半数は単身世帯(高齢 者世帯の消費支出は現役世代より低いことに注意) ・高齢者世帯は81%が年金収入 ・母子世帯は75%が雇用収入 |
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貯蓄 | ・高齢者世帯の37%が300万円以上
・母子家庭の73%が100万円未満 |
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福祉行政 報告例 被保護者 全国一斉 調査 |
生活保護の 受給者 |
・高齢者世帯45%(うち89%が単身)
・傷病・障害者世帯40% ・母子世帯8% |
保護 受給期間 |
・高齢者世帯の42%が10年以上
・母子世帯の52%が3年未満 |
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保護 開始理由 |
・高齢者世帯は傷病・老齢による収入の減少が 45% ・母子世帯は働いていた者の離別等が41% |
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身体障害者 実態調査 |
生活実態 | ・所得税非課税49%、市町村民税非課税39%
・年金受給68% ・就業者30% ・生活保護受給者3% |
知的障害児 (者) 基礎調査 |
生活実態 | ・仕事をしている者42%(うち作業所半数)
・年金・手当受給77% |
母子世帯等 調査 |
生活実態 | ・平均年収229万円(一般世帯658万円)
・離死別直前は無就業38%→離死別直後にはパ ート就業37%・正社員30%→その後パート 30%・正社員37% ・児童扶養手当受給61% |
ホームレス に関する 調査 |
東京都・ 大阪府・ 神奈川県 など |
・大半が独身男性 ・7割以上が求職活動をしている ・仕事を失うことがホームレスになる大きな要因 |
3 保険料や自己負担の減免 (1)現行制度においても、負担能力の低いものには必要な配慮を行ってきている。 これらの制度では、原則として「市町村民税非課税」程度の所得の者を「低所得 者」と定義して配慮を行っており、制度によってはそれ以下の所得の者を「特に 低所得の者」として一層の配慮を講じている。 ○ 医療保険制度においては、低所得者に対し患者一部負担の軽減と保険料の軽減 制度を設けている。
老人医療の 自己負担 |
入院時一部 負担金・高額 医療費制度の 自己負担 限度額 |
・低所得者(市町村民税非課税者等) 24600円 ・特に低所得の者(老齢福祉年金受給者等)は 15000円 ・一般は37200円 |
入院時 食事療養費の 標準負担額 |
・低所得者(市町村民税非課税者等)は3ヶ月 まで1日650円、4ヶ月以降500円 ・特に低所得の者(老齢福祉年金受給者等)は 1日300円 ・一般は1日780円 |
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国民 健康保険の 自己負担 |
高額 療養費制度の 自己負担限度額 |
・低所得者(市町村民税非課税者等)は 35400円 ・一般は63600+(医療費-318000)×1% |
入院時 食事療養費の 標準負担額 |
・低所得者(市町村民税非課税者等)は3ヶ月 まで1日650円、4ヶ月以降500円 ・一般は1日780円 |
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国民 健康保険の 保険料 |
保険料の軽減 | ・低所得者について、3区分に分けて 保険料(税)を軽減 (2割軽減・5割軽減・7割軽減) |
○ 介護保険制度においては、低所得者に対し介護保険料負担を軽減するほか、利 用者負担を軽減している。また、制度外の措置として、社会福祉法人が実施する 介護サービスについて、低所得者に対して利用料の軽減措置を行っている。
介護 保険料 |
負担能力に 応じて設定 |
・第1段階(老齢福祉年金受給者等)は基準額×0.5
・第2段階(市町村民税非課税)は基準額×0.75 |
高額介護 サービス 費 |
利用者負担 の上限額 |
・低所得者(市町村民税非課税)は月24600円
・特に低所得の者(老齢福祉年金受給者等)は月 15000円 ・一般は月37200円 |
介護保険 施設に入 所する場 合の食費 |
食費の標準 負担額 |
・低所得者(市町村民税非課税者)は1日500円
・特に低所得の者(老齢福祉年金受給者等)は1日 300円 ・一般は1日780円 |
制度外の 措置 |
社会福祉 法人の 利用者 負担軽減 |
・社会福祉法人が実施するサービスについて、低所 得者に対して利用料を軽減(公費による助成あり)。 対象者は第1号被保険者の1割程度にまで拡大 |
ホームヘル プサービス 利用者への 軽減措置 |
・介護保険制度施行前からホームヘルプサービスを 無料で利用していた低所得者の訪問介護の利用料を、 当面1割から3%に軽減 |
○ 国民年金制度においては、低所得者からの申請によって保険料の納付が免除さ れる。
国民年金 保険料の 免除制度 |
全額 免除 制度 |
・市町村民税非課税者等は申請に基づき全額免除 |
半額 免除 制度 |
・平成14年4月から、一定の所得以下(標準4人世帯で所 得ベース年間285万円以下)の場合、申請に基づき半額を 免除する制度を導入 |
(2)今後保険料や自己負担の増大が不可避の中、低所得者の負担軽減に関し適切な 対応をする必要がある。このため、特に低所得の者に対しての配慮を一層充実す る。 ○ 平成14年度医療制度改革において、特に低所得のため自己負担額を更に軽減 する高齢者の対象範囲を拡大する。具体的には、1月当たりの患者自己負担の限 度額が1万5千円に軽減される者の範囲について、現在の「現に老齢福祉年金を 受給している市町村民税非課税者等」とする基準では高齢者全体の約0.7%しか該 当しないが、これを高齢者の約15%(240万人:自己負担が軽減される低所得者の 約半数)が該当するよう大幅に拡大する。 ○ 介護保険料については、(1)全額免除しない、(2)収入のみによる一律の軽減を しない、(3)一般財源を繰り入れない、という制度の趣旨をふまえた上で特に低 所得の者への配慮を行っている市町村もあるが、国としてもこうした3原則を遵 守した地域の取組については尊重する。 ○ 個室・ユニットケアを特徴とする特別養護老人ホーム(新型特養)の積極的な 整備を進めることとし、新型特養の入居者はホテルコストにかかる費用を負担す ることを基本とする。この際、低所得者の個室利用が阻害されないよう、低所得 者についてはホテルコストの負担軽減を行うこととし、具体的には介護報酬によ る配慮を検討する。 (3)なお、今後保険料水準の上昇が避けられないならば、相対的に拠出が困難な人 が増えることなどから、社会保障制度全体の中での低所得者の負担と給付のあり 方について検討を行っていく必要がある。 4 多様な要援護者の生活支援 (1)低所得者には、高齢者・障害者・母子家庭・ホームレスなど多様な類型があり、 現行制度でも要援護者ごとに多様な生活支援が行われている。所得保障、福祉サ ービスが提供されるとともに、働く意欲と能力のある人の自立を支援するための サービスが提供されている。
生活保護 制度 |
・生活に困窮する国民に最低限度の生活を保障するとともに、そ の自立を助長することを目的とした所得保障制度 |
生活福祉 資金貸付 制度 |
・低所得者世帯等に資金を低利で貸し付けるとともに、民生委員 を通じ必要な援助指導を行う制度 |
母子家庭 対策 |
・母子福祉資金の貸付、自立促進事業、生活指導等、児童扶養手 当の支給、就業対策等を体系的に行っている |
障害者 対策 |
・在宅・施設福祉サービス、社会参加・雇用支援、保健医療対 策、障害年金、特別障害者手当等の支給などを体系的に行ってい る |
高齢者 対策 |
・介護保険サービス、老人保健、雇用就労対策、老齢年金の支給 などを体系的に行っている |
ホーム レス対策 |
・ホームレス自立支援センターにおいて、生活相談・指導、職業 相談・紹介等を行うほか、夜間の緊急一時的な宿泊場所(シェル ター)の設置を進めている |
雇用対策 | ・中高年齢者・障害者・母子家庭の母などの就職困難者に対し、 職業転換給付金を支給する制度や、これらの者を雇い入れた事業 主に対し助成金を支給する制度がある |
(2)今後、働く意欲と能力のある人に対しては、就労支援と福祉貸付といった自立 支援策を一層推進する必要がある。 ○ 当面、母子家庭の自立を支援するため、きめ細かな福祉サービスの展開と自立・ 就労の支援に主眼を置き、平成14年度から総合的な母子家庭対策の推進と児童 扶養手当制度の見直しを行う。 ・具体的には、児童扶養手当中心の施策体系を改め、児童扶養手当について所要 の見直しを行うとともに、住民に身近な市等における相談体制の強化を図り、(1) 子育てや生活支援策、(2)就労支援策、(3)養育費の確保、(4)経済的支援を総合 的に展開する。 ・特に就労支援については、単なる政策メニューにとどまらず、現実に母子家庭 に届き、効果が上がることが必要であるため、従来手当中心の施策を講じてきた 福祉施策サイドにおいて自立支援のための新たな枠組みを行うとともに、雇用施 策サイドにおいても、ハローワーク等の関係機関を通じた積極的支援を行う。 ・当面、平成14年度において、母子家庭等就労支援センター事業のモデル実施 や母子家庭介護人派遣等事業の拡充など、自立支援のための施策を充実するとと もに、児童扶養手当について、就労等の収入が増加するに伴い、その収入と手当 の合計額が必ず増加するよう、手当額をきめ細かく設定することとする。 ・また、母子家庭等の自立が一層促進されるよう、子育て、生活支援策、就労支 援策、養育費確保策、経済的支援策などについて、総合的に見直しを行い、次期 通常国会に向けて法改正を検討する。 ・これらの施策の展開を通じて、中央省庁改革による厚生・労働両省統合のメリ ットを目に見える形で提示する。 ○ また、低所得者が福祉貸付により生活ができるようにするため、生活福祉資金 貸付制度の充実を図る。 ・平成13年度の総合雇用対策の一環として、雇用保険制度の枠外にある自営業 者及びパート労働者の失業や、雇用保険の求職者給付期間切れにより生計の維持 が困難となった失業者の世帯に対し、一定の条件のもとに生活資金を貸し付ける 制度(離職者支援資金)を創設することとし、第1次補正予算において所要の措 置を講じたところである。 ・平成14年度において、一定の居住用不動産を有する低所得の高齢者世帯であ って、収入が少ないために生計の維持が困難なものに対し、当該不動産の状況や 連帯保証人の信用を総合的に評価し、毎月の生活費に充てるための長期の貸付制 度(長期生活支援資金)を創設するとともに、通常の生活資金貸付では対応が困 難な低所得者の緊急かつ一時的な小口資金の需要に対応するための貸付制度(緊 急小口資金)を創設することとし、これらについて、所要の予算措置を講じるこ ととする。 ○ 平成15年度から実施される障害者福祉サービスの支援費制度において、利用 者の負担額がその支給量に応じて著しく増大しないよう、負担能力に応じたもの にするほか、在宅サービス利用者の負担額の上限設定について検討する。 ○ そのほか、平成14年度において、職場適応援助者(ジョブコーチ)の派遣や 障害者就業・生活支援センターの設置による就業支援など障害者雇用の推進を図 るとともに、ホームレス自立支援センターの増設など、ホームレスの自立支援の ための事業を拡充することとし、所要の予算措置を講じることとする。 ○ まず就労で生活できるように支援し、それができない場合に社会保障給付が補 うという政策は、諸外国でも大きな流れになっている。 ・イギリスでは、「福祉から就労へ」政策が推進され、職業訓練や就労斡旋によ り働くことが可能な者には極力就労を促すとともに、手当給付を税額控除に改め るなど、受給者の就労促進に向けた社会保障給付制度の改革が行われた。 ・アメリカでは、「就労第一」政策が推進され、就労支援策の積極的推進と福祉 手当における就労要件の強化が行われた。 ・ドイツでは、現シュレーダー政権において、迅速かつ的確な職業紹介の早期実 施や、高齢者の就業継続に向けた職業訓練のための助成金の創設などを盛り込ん だ法律が成立し、平成14年1月から施行されている。 (3)公的な制度のほか、地域における社会的つながりを回復し、すべての人を社会 の構成員として包み支え合う(ソーシャル・インクルージョン)ための地域の多 様な主体による取り組みを重視していく必要がある。 ・「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書」 (平成12年12月8日)においては、現代の貧困問題は、リストラによる失業 や倒産、急激な経済社会の変化に伴う社会関係上の障害、ホームレスなど社会的 排除を伴う問題などと重複・複合化していることが指摘されている。 ・今後、公的制度の柔軟な対応と地域社会での自発的支援の再構築のため、平成 15年4月に施行になる社会福祉法に基づく地域福祉計画の策定、運用に向けて の作業を行うものとする。 (4)生活支援の担い手のあり方を考えるという観点から、人材の育成、要援護者が 総合的な相談を受けることができるシステム(ワンストップサービス)、社会福 祉法人が創設の趣旨に立ち返り自主性・自発性を確保・強化していく方策などを 検討していく必要がある。 5 当面の施策と中長期的課題 保険料や自己負担の増大が不可避の中、低所得者の負担軽減に関し適切な対応をす る必要があるほか、働く意欲と能力のある人に対しては、就労支援と福祉貸付の充実 を図る必要がある。 こうした観点から平成13年度に実施し、あるいは平成14年度において対応する 課題は上記に記したとおりであるが、そのほか社会保障の構造にかかわる問題につい ては、中長期的課題として引き続き検討をおこなっていくものとする。 (別紙)プロジェクトチームメンバー