財形年金貯蓄制度の再編による
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労働省は、公的年金制度や退職金制度等引退後の勤労者を取り巻く経済的環境が厳しくなっている中、(株)ニッセイ基礎研究所に委託して、「勤労者拠出型年金制度研究会」(座長:村上清
年金評論家)を開催し、勤労者拠出型年金のあり方の検討を行ってきたところである。今般、本研究会において、「勤労者が、税制上の優遇措置のもとに高齢期の所得ニーズに応じた任意の拠出を選択し、事業主の上乗せ拠出とあわせ、転職時においても携行し、高齢期においてまとめて積立額を受け取ることができるような、勤労者拠出型年金制度」を財形年金貯蓄制度の再編によって整備することを求める旨の報告書を取りまとめた。 労働省としては、本報告を踏まえ、今後更に具体的な検討を行うこととしている。 本報告書の概要は、次のとおり。 |
1 勤労者拠出型年金制度のあり方及びその必要性 (1)勤労者拠出型年金制度のあり方 「勤労者が、税制上の優遇措置のもとに高齢期の所得ニーズに応じた任意の拠出を選択し、事業主の上乗せ拠出とあわせ、転職時においても携行し、高齢期においてまとめて積立額を受け取ることができるような、勤労者拠出型年金制度」の整備が必要である。 (2)その必要性 1)公的年金制度の動向 公的年金については、平成6年度の制度見直しにより、支給開始年齢・保険料率の段階的引上げが予定されているところであるものの、税金と社会保障負担をあわせた負担率をピーク時に50%以下に抑制するため、今後更なる支給開始年齢の引上げ、給付水準の見直し等が課題となっている。(平成9年6月 政府・与党財政構造改革会議報告) 一方、経済団体等は、公的年金の役割見直し・限定と私的年金の拡充等を提言しているところである。 2)退職金(退職一時金、退職年金)制度の動向 退職金については、給付水準の抑制、在職中の実績等を反映させる方向での制度の見直しによる個人差の拡大に加え、労働移動の増加が見込まれる中、従来の給付水準を維持し、老後の所得保障にあてることは難しくなってきている。 また、厚生年金基金や適格退職年金といった確定給付型年金制度については、積立不足の深刻化等の課題も顕在化してきている。このような中で、経済団体等からは確定拠出型年金制度の導入の必要性が提言されているところである。 3)勤労者の生活設計のあり方の変化 勤労者のライフスタイルが多様化する中で、結婚・育児等の時期は個人により様々であり、高齢期の所得に対するニーズも個人差が大きくなっている。こうした中、退職金原資を給与に上乗せする企業もあるなど、退職金の支給のあり方も多様化が進んでいくことが予想される。 4)勤労者拠出型年金制度の必要性 前述した公的年金、退職金といった所得面での動向とも考えあわせると、高齢期の経済生活安定のための勤労者による自助努力は、従来以上に重要性を増してきているといえる。また、生活設計のあり方の変化により、高齢期における所得ニーズも個人差が拡大しており、これらにも応じられるよう、一律的に給付額が決められる年金制度だけでなく、自らの判断により資金を拠出する確定拠出型の自助努力型年金制度の整備の必要性も増している。 こうした中で、各年金制度における税制上の優遇措置をみると、自助努力型年金制度は(財形年金貯蓄制度は利子非課税限度が元本550万円)、公的年金や退職金(年金)といった制度と比較して限定的であり、自営業者等に係る国民年金基金制度に比べても不十分である。 2 財形年金貯蓄制度再編による勤労者拠出型年金制度の検討 (1) 勤労者拠出型年金制度案 上記1の勤労者拠出型年金制度を実現するためには、勤労者拠出への税制支援強化、事業主拠出の制限緩和、運用の制限緩和、ポータビリティの確保という点を中心に財形年金貯蓄制度を再編すべきと考えられる。具体的には、 1) 勤労者拠出への税制支援強化 勤労者の課税後の給与から積み立てる現行の仕組み(利子は非課税)から、課税前の給与から積み立てる仕組み(所得控除)へ改正する。なお、所得控除の上限については、財形年金貯蓄制度と同様の任意の制度で、所得控除が認められている厚生年金基金や国民年金基金の加入員掛金の水準を参考にして検討することが必要である。 2) 事業主拠出の制約緩和 事業主拠出についても、現行の制約(上限10万円/年、7年毎支給)を緩和し、上限を勤労者拠出額以内まで拡大し、勤労者への支給時期も現行の7年毎の支給から退職後の支給に改正する。 また、経済団体等の撤廃の提言等に見られるような特別法人税のあり方についての検討が必要である。 3) 運用の規制緩和 現行制度上、一旦契約した運用先は転職等以外では変更できないが、事由に関わらず運用先の変更ができるように改正する。契約の形態についても、現行の財形年金貯蓄制度は個人と金融機関等が契約する形態となっているが、運用のスケールメリットを目指す観点から、勤労者及び企業の拠出金を取りまとめて、企業(または財形基金)と金融機関等が契約する案も考えられる。 なお、勤労者に対する運用状況に関する情報開示や教育の徹底、事業主や金融機関等の受託者責任等について、検討することが必要である。 4) ポータビリティの確保 転職時等の取扱いについては、ポータビリティの確保策について、検討することが必要である。 尚、再編案は、アメリカの401(k)プラン(*)の特徴を参考にして、以下の点について検討したものである。 ・勤労者拠出が制度の基本であること ・拠出するかどうかを勤労者が任意に選択できること ・拠出額(率)を勤労者が弾力的に設定できること ・事業主の上乗せ拠出(任意)があること ・勤労者が選択した拠出に対して、税制上の支援があること ・拠出の元利合計を原資として、一定年齢時に給付されること(確定拠出型) ・運用等の取り扱い機関の範囲が広い等、運用の自由度が高いこと ・制度導入にあたって、加入者規模に制約がないこと (*)401(k)プランの概要 アメリカの内国歳入法401条(k)項に適合し、従業員の給与からの拠出分と事業主の任意の上乗せ拠出分に対して、課税繰延が認められる確定拠出型年金制度であり、近年急速に加入者数を伸ばしている。 (2)その他 勤労者の給与からの積立を基本とする勤労者拠出型年金以外に、退職金原資を給与に上乗せするなどの退職金の支給のあり方の多様化に着目し、勤労者がその上乗せ部分を税制上の優遇措置のもとに社外に積み立てることを選択できる制度も考えられる。 高齢期の経済生活を支える関係制度の概要 |
勤労者拠出型年金制度研究会メンバー
(座長)村上 清 年金評論家
高山 憲之 一橋大学経済研究所教授
陶野 哲雄 タワーズ ペリン プリンシパル
藤田 伍一 一橋大学社会学部教授
吉牟田 勲 東京経営短期大学経営税務学科教授