第1部 我が国のものづくり基盤技術の現状と課題 第1章 経済のグローバル化と我が国の製造業 (4)ものづくりに係る中小製造業及び産業集積 グローバル化が大きな影響を及ぼしている中小製造業・産業集積についても、 経営革新、技術開発力の強化、地域におけ産学官連携の強化等の課題が存在。 大企業と比較して、中小企業や産業集積内企業は、資金・人材等の経営資源 が小規模であることが多いが、相対的に迅速意志決定が可能であり、また、外 部組織を利用したり企業組を結成するなどして、経営革新の成果を短期間に挙 げることが期待される。 (具体的事例) (1)<組合を結成し営業力の強化に成功した協同組合> 地方の県庁所在都市の印刷会社11社からなるA協同組合では、顧客の多い エリアで積極的に営業活動を展開しなければ生き残ることは困難と考え、東京 に営業所を開設し、共同受注事業の強化に着手した。同組合を構成する11社 がそれぞれ得意の印刷分野を持つため、様々な需要に対応できることをセール スポイントに、地道に営業活動を展開した結果、現在では受注の大半を東京エ リアで獲得することに成功した。 (2)<垂直統合型産業集積において生き残りを図る中小企業> 産業集積として低迷しつつある日立市においても、これまでの大手電機メー カーへの依存からの脱却に取り組み、成果を挙げている企業も現れている。例 えば、工業計器等の加工・組立を受注してきたA社では、これまで手がけてこ なかった設計能力の強化に取り組み、受注の拡大に成功している。またB社は、 大手電機メーカー1社への依存から脱却するために取引先の拡大に努力し、現 在では大手企業4社と安定的に取引を行っている。 中小製造業・集積内企業の中には、大企業に負けない技術志向を持ち、もの作 り志向を極めた結果、世界的に優れた技術持つに至った企業もある。 (具体的事例) (1)<高度な独自技術で高い競争力をもつ中小企業> 携帯電話で鮮明な音声・画像を送受信するためには、高周波の電波を発信す る極薄(近年は0.015mm)の水晶振動子が必要である。従業員数十名規模のA 社は、もともとは木型づくりを手がけていたが、それに不可欠な研磨の技術を、 水晶振動子を薄く加工する研削盤の開発に応用した。A社はこの研削盤に関す る独自技術について特許も取得しており、A社の研削盤は、国内シェア7割を 占めるとともに、製品の8割を海外に輸出している。 (2)<共同して優れた技術・製品開発を行う集積内企業> 産業集積内に工場を持つ中小加工業者10社は、先端表面加工技術研究会を 結成し、共同で製品・技術開発を開始した。メンバーとなる事業者は、いずれ も微細加工、樹脂形成、レーザー加工等の分野で優れた技術を持つが、分野を 越えて共同して研究開発を行うことで、より優れた技術・製品を開発できる可 能性に着目した。既に、医科大学の研究者と共同して医療用機械の開発に着手 しており、製品化の目途が付いているところ。 地域の企業、大学、公的研究機関等による産学官の広域的な人的ネットワーク を形成し、地域の特性を活かした技術開発推進するとともに、新事業の創出を促 進することが重要である。 (具体的事例) (1)<産業クラスター計画(地域再生・産業集積計画)> 産業クラスター計画は、政府が地方自治体と共同して、世界市場を目指す企 業を対象に、地域経済を支え、世界に通用する新事業が次々と展開され、産業 クラスターが形成されていくことを目標としている。そのため、産学官の広域 的な人的ネットワークの形成、地域の特性を活かした技術開発の推進起業家育 成施設の整備等を三位一体で進め、さらに、事業化段階において様な支援策を 総合的・効果的に投入する。 (用語) クラスターとは本来「ぶどうの房」の意。米国ハーバード大学ビジネススク ーのマイケル・ポーター教授が地域の競争優位を示す概念として提唱したこと で有名。産業クラスターは、特定分野の関連企業、大学等の関連機関等が地域 で競争しつつ協力して相乗効果を生み出す状態を言う。 (2)<知的クラスター> 我が国が産業競争力を維持し、持続的に経済の発展を遂げてゆくには、大学 等に蓄積された「知恵」と「人材」を最大限に活用し、独自の研究・技術開発 を促進してゆくことが必要。そのため、平成14年度より、全国10クラスタ ーにおいて、知的創造の拠点たる大学等公的研究機関を核とし、技術分野を特 化し産学官連携施策を集中的に展開し、研究機関や研究開発型企業が集積する 研究開発能力の拠点の創成を図る「知的クラスター創成事業」を実施する。