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II 多様な就業形態で働く労働者の意識と今後の課題



 近年、パートタイム労働者をはじめ派遣労働者、契約社員等の非正規雇用が拡大す

るとともに情報通信技術を活用して行うテレワーク雇用、在宅就業が広がるなど就業

形態の多様化が進んでいる。これらの働き方は今後も増加が見込まれるが、それぞれ

の就業形態において労働者が能力を十分に発揮できるような就業環境が整っているこ

とは経済活力の維持の観点から重要である。そこで、正社員も含めたさまざまな就業

形態における労働者の能力発揮の状況や働くことに関する意識に焦点を当てつつ実態

と問題点を探り、併せて近年活発化している女性の起業の動向にも注目しつつ、起業

をめざす女性の意識及び必要とされる支援等を把握した。



1 社会・経済環境の変化と女性の就業

  

 (1) 少子高齢化、サービス経済化・高度情報化の進展



 我が国において急速に進展している少子高齢化の影響は、増加しつつある要援護高

齢者に対する医療、福祉分野での雇用需要となって現れ、この分野におけるパートタ

イム労働等の就業形態による女性の就業の増加も見込まれている。一方、女性の就労

継続を困難にする要因として親の介護をあげる者も急速に増加している(第2−1図)。

 また、サービス経済化、高度情報化の進展も働き方に大きな影響を与えており、高

い専門性を要する仕事とそれ以外の仕事との分化の進展と就業形態の多様化、情報通

信手段を利用したテレワーク雇用や在宅就業という働き方の拡がり等にそれが現れて

いる。在宅就業という働き方は、育児等の家庭生活と仕事との両立を図りやすい働き

方としても注目されている。

  

 (2) 経済のグローバル化の進展



 企業の経済活動が国境を超えて行われるなど、グローバル化の進展も国内外で働く

労働者の状況に変化をもたらしている。海外で長期滞在して働く日本人は増加してお

り、そのうち女性の占める割合も上昇傾向にあり平成13年には11.7%(2万1,379人)

となっている(第2−2図)。一方、国内における外国企業の従業員数も増加傾向に

あり、そのうち女性についてみると昭和61年から平成13年にかけて100.6%増加し2万

7,235人、全体の41.1%を占めるに至っている。また、外資系企業では約5割が従業

員の増員予定があるとしており、外国企業や外資系企業で働く雇用者は女性も含めて

増加していくとみられる。





  

2 女性の働き方の変化



 (1) M字型カーブの形状・構成は大きく変化

 

 最近の女性の労働力率を年齢階級別にみると、長らく20〜24歳層と45〜49歳層を左

右のピークとし、30〜34歳層をボトムとするM字型カーブを描いてきた。平成14年に

は左のピークは25〜29歳層にシフトしたが、M字型カーブの基本構造には変わりがな

い。これを女性の当該年齢人口に占める就業者・雇用者の割合でみても同様にM字型

カーブとなる。

  

  (ア) 45歳以上層有配偶女性の労働力人口構成が著しく増加

 女性の年齢階級別労働力率の未既婚別構成の変化を昭和50年と平成13年とで比較す

ると、未婚者の労働力人口構成については20〜39歳層での増加が大きく、有配偶者の

労働力人口構成については45歳以上の層における増加が顕著である(第2−3図)。

  

  (イ) 高学歴女性の労働力率は国際的にみても低い

 年齢階級別労働力率の代替指標として有業率を用いて学歴別に比較すると、女性の

年齢計では大学・大学院卒の有業率が67.6%で最も高く、以下短大・高専卒の64.6%、

高校卒の57.2%、小学・中学卒の53.6%となっている。年齢階級別にみると短大卒、

大学・大学院卒の女性の有業率は34歳までは他の学歴よりも高いものの、M字型カー

ブの底となる35〜39歳層以降は他の学歴よりも有業率が低い。これは有配偶者の有業

率の影響を受けているもので、未婚者に限ってみれば男性とよく似た形状を示し、か

つ高学歴の者ほどいずれの年齢階級でも有業率は高い(第2−4図)。また、女性の

学歴別労働力率を国際比較すると、どの国も学歴が高まるにつれ労働力率が上昇して

いくが、日本の場合高卒以上の者の労働力率は各国より低水準にあり、特に大学・大

学院卒者では格差が大きい(第2−5図)。

  

  (ウ) 各年齢層とも雇用形態が主流に。M字型カーブの右肩を支える女性パ

    ートタイム労働者

 女性の年齢階級別就業者の割合の変化を従業上の地位別にみると、年代を追うにつ

れ、M字型の右肩部分に当たる中高年齢層を中心にほとんどの年齢層で雇用者割合が

上昇し、雇用者割合がM字型を形成するようになり、かつ、M字の底が上昇している

(第2−6図)。雇用者でみたM字型カー

ブの内容を雇用形態の内訳別にみると、M字型の右肩部分は主にパート・アルバイト

により支えられており、20〜24歳の若年層においても正規の職員・従業員比率が低下

し、パート・アルバイト、派遣社員等それ以外の雇用形態での比率が上昇している。

 男性でもこうした特徴はみられるが、女性のパート・アルバイト比率が各年齢層に

わたり2〜6割前後の比率でみられるのと比べて、男性については20〜24歳層と60歳

以上層で目立つ程度である(第2−7図)。

  

 (2) 進展する就業形態、雇用形態の多様化



 就業形態・雇用形態の多様化の進展の状況を平成6年と平成11年とで比較すると、

女性の方が男性よりも正社員割合の低下の度合いが大きく(女性8.4%、男性1.8%低

下)、その分パートタイム労働者等非正規社員の占める割合が上昇している。女性労

働者の全体の就業構造をみるために就業形態別構成比を推計してみると、現在のとこ

ろ就業形態の多様化は主に女性を中心に進展している。すなわち(ア)女性は男性に比

べ就業形態がより多様化していること(イ)特に、男性については81.7%が正社員であ

るのに対し、女性はその半分ほどの45.2%にとどまっていること(ウ)正社員以外の女

性の働き方をみると、パートタイム労働が中心である一方、家族従業者も多いこと

(エ)男性は相対的に出向社員が多いのに対し女性は派遣労働者が多いこと等が特徴と

してあげられる(第2−8図)。





  3 働く女性の意識と就業形態の多様化



 女性労働者がそれぞれの働き方において十分に能力を発揮しているか、そして、ど

のような意識で働いているかに焦点を当てつつ、その実態と問題点を把握した。



 (1) 女性の職業に対する意識

 

  (ア) 積極化する職業意識、男女とも両立志向へ

 女性の仕事に対する考え方は「子どもができてもずっと職業を続ける方がよい」が

増加しており、一生を仕事と向き合いながら送る生き方を支持する意見が大勢を占め

つつある(第2−9図)。しかし、子育て中の女性のうちには、子どもが小さい間は

短時間勤務や在宅就業で働くことを望む者も少なくない(第2−10図)。また、新入

社員の仕事・家庭観をみると男女とも約8割が「仕事と家庭の両立」を望むなど、男

女とも仕事と家庭の両立を図ることができるライフスタイルへのニーズが高まってい

る。



 (職業を意識した進路選択意識は男性以上、しかし実際の専門分野の専攻には

 なお偏り)

 女性の大学への進学理由をみると「希望する業種・職種に進みたい」など、職業を

意識して進学する姿勢が男性以上にみられる(第2−11図)。学部選択にも職業意識

が反映されているとみられるが、工学部系に進む女性は未だ少なく、諸外国との差が

大きい(第2−12図)。



  

 (2) 就業形態の多様化と女性労働者



  (ア) 正社員で働く女性の実情と意識



 (男性に比べて少ない女性正社員)

 正社員全体に占める女性の割合は30.3%となっている。年齢構成をみると男性に比

べて勤続年数が相対的に短いこと等から、若い年齢層の比率が高い。学歴構成をみる

と大学・大学院卒者の割合が16.5%と男性の32.7%に比べて低くなっている。



 (全体的には遅い女性の登用、外資系企業はややリード)

 管理職に占める女性の割合は係長相当職7.7%、課長相当職2.6%、部長相当職1.6

%と低水準にとどまっている。しかし、企業の種類によっては女性の登用は進んでお

り、外資系企業では国内大企業等に比べて役職に就いている女性の割合が高くなって

いる(第2−1表)。



 (仕事、業務の内容 〜習熟度が高い仕事に男女差〜 )

 業務の習熟度が高くなるほど「男女とも就いている」事業所の割合が少なくなり、

男性のみが就く事業所の割合が高まる傾向がみられる(第2−13図)。しかし女性の

登用が進んでいる外資系企業では仕事の配分も積極的で、判断力を要する仕事や専門

的知識・技術を要する仕事が女性に与えられている(第2−1表)。



 (仕事には概ね満足、でも男性との格差には不満。女性の意欲を高め、就業継

 続につながるのは男女均等な職場)

 女性正社員の職場への満足度をみると、配置・昇進や評価・処遇について不満を持

つ者の割合がともに約3割と、仕事の内容・やりがい(約2割)に比べて高く、男性

(約2割)と比べても高くなっている。総合職女性でも4割以上が仕事について不満

感を抱き、同期の総合職男性と比べて人事管理面で差があると感じている者が約6割

を占めており、就業継続のために必要なこととして「女性を一人前に取り扱ってくれ

る企業風土」、「職場の上司の女性を活用する姿勢」、「やりがいのある仕事である

こと」等が多くあげられている。また、男女が同じような仕事をし、均等に取り扱わ

れている職場であるほど、女性のキャリア意識が高いという関係がみられる。



 (職場の均等実現に努力する企業のパフォーマンスは良好)

 ポジティブ・アクション(注)への取組や女性社員の管理職への登用が進んでいる

企業ほど自社の経営業績を高く評価し、5年前と比較した売上高の増加率が高いとい

う関係がみられる(第2−2表)。



(注) ポジティブ・アクション:過去の取扱いなどが原因で生じている男女労働者

   間の事実上の格差を解消するための積極的かつ具体的な取組



  (イ) 正社員以外の就業形態で働く女性の実情と意識

 正社員以外の就業形態で働く女性のうちパートタイム労働者、派遣労働者及び在宅

就業者についての実情と意識を探った。

  

 (パートタイム労働者、派遣労働者、在宅就業者の女性割合はいずれも7割以

 上)

 それぞれの就業形態で女性が占める割合はパートタイム労働者69.0%、派遣労働者

77.8%、在宅就業者70.1%となっている。就業形態別の女性労働者の特徴をみると

(第2−3表)、派遣労働者では若年者が多く、パートタイム労働者では40、50歳代

の中高年齢者が多い。また、パートタイム労働者、在宅就業者では有配偶者の割合が

7割以上と高い。学歴構成をみると大卒以上の者の割合は派遣労働者、在宅就業者が

正社員よりも高く、また、いずれの就業形態についても男性の方が大卒以上の者の割

合は高くなっている。

  

 (男性に比べて専門性の高い分野での就業は少ない)

 女性労働者の就業分野をみると、いずれの就業形態でも相対的に高度な専門性を要

する分野に就く者の割合は男性に比べて低い。パートタイム労働者の職種構成をみる

と専門・技術、管理(課長相当職以上)の割合がそれぞれ7.1%、0.2%と男性(それ

ぞれ8.2%、0.5%)に比べて低い(第2−14図)。係長、班長クラスも含めた役職に

就くパートタイム労働者が増えているが、その割合は男性に比べて低く、役職に就い

ている場合でもより低位の役職が多い(第2−4表)。派遣労働者や在宅就業者につ

いては情報・技術分野の仕事に就く者の割合が男性に比べて低く、例えば在宅就業者

では「設計・製図・デザイン」や「システム設計・プログラミング」で男女の差が大

きくなっている(第2−15図)。



 (より積極的な理由で選択されている在宅就業)

 それぞれの就業形態の選択理由をみると、女性のパートタイム労働者では「都合の

良い時間(日)に働きたいから」(50.9%)、「勤務時間・日数が短いから」(34.2

%)と時間的要素を考慮する者が多いが、「正社員として働ける会社がないから」

(20.8%)も増加している。また、年齢階級別には育児期において正社員として働き

たくても働けない事情や、育児が一段落した中高年層が正社員を希望しても就職が難

しい等の事情も読みとれる(第2−17図)。

 女性の派遣労働者(登録型)でも「仕事内容が選べる」(29.3%)、「仕事の範囲

や責任が明確」(22.4%)と並び「就職先が見つからなかった」が30.5%と男性

(17.0%)に比べて高い。これに対し、女性の在宅就業者では消極的な選択理由は少

なく、「家庭と仕事を両立できる」(59.7%)、「自分のペースで働ける」(45.2%)

等の積極的理由で選択する者が多くなっている(第2−18図)。

  

 (いずれの就業形態でも全体的には満足度は高い。パートタイム労働者の不満

 の多くは賃金、仕事を任されている者により高い不満)

 女性のパートタイム労働者、派遣労働者は職業生活全体に対する評価は概ね満足度

が高いが、正社員も含め「教育訓練・能力開発のあり方」、「評価・処遇のあり方」、

「賃金」等では共通して低い満足度となっている。また、在宅就業者も自らの働き方

への満足度は高い。

 一方、仕事への不満についてみると、パートタイム労働者では「賃金が安い」

(49.3%)について最も多く、「雇用が不安定であること」、「有給休暇がとりにく

い」、「正社員になれない」が20%前後で並んでいる。また、男女とも「主に正社員

の指示に従って仕事を行っている」者より、仕事を任され、自主的な判断で仕事をし

ている者の方に不満・不安がある者の割合が高くなっている(第2−19図)。

  

 (継続希望が多い女性パートタイム労働者。若年層や高学歴者では仕事のレベ

 ルアップの希望が多い)

 一方、女性のパートタイム労働者の67.6%が今後ともパートタイム労働での継続就

業を希望する就業形態として選択している。仕事の内容としては「技術・技能・資格

を活かした仕事」又は「単純・補助的な仕事ではなく主要な仕事」を希望する者が

23.6%と、仕事のレベルアップを望む者も少なくない。若年層ほど、また高学歴の者

ほどこうした希望を持つ者が多くなっている(第2−20−12図)。



 (派遣労働者の不安・不満で多いのは雇用の不安定さ、教育訓練への高い要

 望)

 女性の派遣労働者では「身分・収入が不安定」(56.3%)、「将来の見通しが立た

ない」(47.0%)等で不満が多い。また、「補助的な仕事のため能力が向上しにく

い」が19.3%と男性(15.3%)に比べて高く、職業能力を高めたいと思っている者の

割合も男性に比べて高くなっている(第2−21図)。



 (男性に比べて正社員を希望する者が多い女性の派遣労働者)

 女性の派遣労働者の33.4%(男性32.3%)が「今後も派遣労働者として働き続けた

い」としているが、「早い時期に正社員として働きたい」とする者は25.2%(男性

14.0%)等、男性に比べて正社員を希望する者が多い。



 (在宅就業者が困っているのは仕事の確保、女性は能力や知識の不足をあげる

 者も多い)

 女性の在宅就業者が困っていることとしては「仕事の確保」が49.4%(男性62.7

%)と最も多く、これに「単価が安いこと」(女性29.7%、男性49.1%)が続いてい

るが、「能力・知識の不足」をあげるものが22.8%と男性(16.4%)に比べて多くな

っている。しかし、実際に能力向上のための取組を行っている女性は55.5%で男性の

80.9%に比べて少ない。



 (在宅就業者は就業継続の希望が強い) 

 女性の在宅就業者のうち継続就業を希望する者の割合は85.1%、男性が90.9%と極

めて高い。未婚女性では19.0%が「迷っている」としているが、その理由としては

「収入が少ない、不安定であること」とする者が91.7%となっており、収入面が大き

な要因となっている(第2−22図)。





  4 女性の起業の動向



 女性の働き方の選択肢の一つとして、起業への関心が高まっており、新規開業者に

占める女性割合は55.0%と起業(創業)希望者に占める女性割合(23.3%)に比し高

くなっている。

 日本では男女とも自営業主の数は減少傾向にあるが、諸外国では女性自営業主が男

性自営業主に比べ増加傾向にある。日本では起業が活発化している徴候もうかがえる

が自営業全体にはそう大きな影響を与えるには至っていない。



 (1) 女性起業家の状況



 女性起業家の有配偶率は65.2%と正社員や派遣労働者よりは高いが、パートタイム

労働者や在宅就業者に比べ低くなっている。また、大学・大学院卒の割合は正社員を

上回っており高学歴の者の割合が高い。

 開業した業種には男女で大きな差がみられ、女性は小売業や消費者向けサービス業

の占める割合が高いのに対し、男性は建設業、製造業の占める割合が高くなっている。

 女性起業家の開業前の職業は会社員が約4割と最も多く会社経営、会社役員がこれ

に続くが、それ以外にも主婦等を含め多岐にわたっている(第2−23図)。また、現

在の事業に関連した仕事をした経験のある女性経営者の割合は57.5%となっているが、

平均年間収入は経験しない者より経験した者の方が高く、また、キャリアの中断なく

起業した者の方が高い。

  

 (2) 起業をめざす女性の意識

 

  (ア) 起業理由は「好きな分野、興味のある分野」で「年齢に関係なく働き

    たい」

 起業希望女性の現在の就業状態をみると、就業形態の多様化を反映し多岐にわたっ

ており、パートタイム労働者、派遣労働者、契約社員といった非正規従業員が28.9%、

正規従業員が28.4%と同程度であり、無職の者も21.3%となっている。

 起業したい理由をみると、「年齢に関係なく働きたい」が67.1%と最も多く、これ

に「好きな分野・興味のある分野で仕事をしたい」(61.8%)、「自分の裁量で仕事

をしたい」(59.6%)が続いているが、「女性の昇進・昇格に限界がある」や「女性

に任される仕事の範囲に限界がある」もそれぞれ19.1%、15.6%となっている

(第2−24図)。



  (イ) 起業希望者に求められる支援は知識・ノウハウの修得と人的ネットワ

    ーク



 起業を希望する女性にとって、必要とされている支援で最も多いのは「起業準備、

事業計画、資金調達等のノウハウを修得するためのセミナー」、次いで「起業準備、

事業計画、資金調達に関する相談窓口」、「人材、市場、技術等に関する情報提供」

となっており、起業に必要な知識やノウハウの不足を補う機会が求められている。起

業前の職業経験において知識やノウハウを取得できる機会が少なかった場合、それら

を独力で行うことには大きな困難を伴うと考えられる。また、同業者等との交流や成

功者によるアドバイスなど、人的ネットワークの不足を補うためのサービスも求めら

れている。事業の発展段階に応じた専門家によるコンサルティングについては、既起

業者、起業希望者ともニーズが高くなっており、起業に至った後も継続的な支援が必

要とされている(第2−25図)。





  5 まとめ



 近年の経済環境の変化は著しい。急速な少子高齢化、企業活動のボーダーレス化、

グローバル化と企業間国際競争の激化、IT機器の普及と世界情報ネットの構築を含

めた情報革命、と数え上げれば枚挙にいとまがない。こうした環境の変化は女性の働

き方や働く女性に様々な影響を与えている。

 今回はその影響の中でも進展しつつある就業形態の多様化と女性の意識に焦点を当

てて分析を試みた。

 そこから浮かび上がってくるのは正社員として働く女性労働者の割合の低下と、同

時に進行している多様な形態で働く女性の姿である。そして、女性の就業意識は出産

や育児期の仕事と家庭の両立に苦慮する時期はあっても従前にもまして前向き、かつ

積極的になっていることである。また、男性についても仕事一辺倒ではなく仕事と家

庭の両立を図ることができる、バランスの取れたライフスタイルへのニーズが高まり

つつあることがうかがわれた。

 しかし、それぞれの就業形態で働く女性の実態を見ると、いくつか問題点も見えて

くる。今回浮かび上がってきた大きな問題としては、現状ではいずれの就業形態で働

く女性も男性に比べて相対的に高度な専門性を要する業務に就く者の割合が少なく、

女性労働者のうちにはより高度な業務に就くことや能力向上を希望する者が少なくな

いにもかかわらず、そうした希望が満たされていない点があげられる。今回は、対象

としてはデータが比較的揃っている正社員、パートタイム労働者、派遣労働者及び在

宅就業者を取り上げているが、パートタイム労働者では生産工程・労務職など比較的

定型的な仕事に就く者の割合が男性よりも多く、また、派遣労働者、在宅就業者では

情報・技術分野の高度な専門性を要する仕事に就く者の割合が男性に比べて少なくな

っている。そしてそのことは働く上での処遇にも反映され、男性との格差となって現

れてくる。しかし、こうした働き方をしている女性の中には、働く上での技能、技術

を高め、より高いレベルの仕事に従事したいとする者も少なくない。

 少子高齢化の進展の中、従来以上に女性も含め意欲と能力のある者がその持てる力

を存分に発揮していくことは、日本という国が活力のある社会であり続けるために重

要な課題である。人口の半分を構成する女性の能力が存分に発揮できるかどうかは今

後の日本の将来を大きく左右することになると思われる。

 一方、この観点からみて明るい動きもみてとれる。例えば企業において女性の能力

発揮を考え積極的な措置を取る動きは、今徐々に広がりを見せている。また、グロー

バル化の進展により外資系企業、あるいはトップが外国人となった企業が増え、そこ

で働く労働者が増えているが、これらの企業では概して国内の企業よりも男女の均等

度は高く、女性の活躍も目立っており、女性の能力に対する偏見をなくしていくこと

にもつながるのではと期待される。今回の分析を通じて男女が均等に働いている職場

では女性の意欲を高めることになり、就業継続にもつながっていることがうかがわれ

た。また、女性の能力発揮を推進している企業においては企業経営上もマイナスより

もむしろプラス面が多いことが調査結果からみてとれた。

 課題は、就業形態を問わず、どうやって女性労働者が職業能力を十分発揮し、これ

が高められるような状況を創り出していくかということである。このため、企業とし

て求められることとしては、ポジティブ・アクションを推進する等男女が均等に働け

る職場づくりに向けた努力を行うこと、職業生活と家庭生活の両立支援策を充実する

こと及び労働者の職業能力向上への要望を把握し、その実現に協力することがあげら

れる。女性労働者自身も自ら積極的に技能、知識を高めるための努力を行うことが望

まれる。もちろん、行政としても企業に対してポジティブ・アクションを円滑に推進

することができるよう各種施策の展開や、女性労働者に対してはどのようにすれば職

業能力を高められるかについての情報やキャリアプランの策定に役立つような情報を

提供することが期待されている。

 その一方、企業に頼るのではなく自ら企業を起こそうとする女性の動きにも注意を

払いたい。諸外国では近年、女性の起業はめざましく、一部ではあるが我が国でもそ

の萌芽がみられ始めている。女性が起業に向かう理由は様々であるが、少なくとも企

業内で昇進・昇格に限界があるとか女性に任される仕事の範囲に限界がある等の消極

的な理由からのものはなくしていくことが必要であろう。そして、今回明らかになっ

たように起業を志す者が極力円滑にその希望を実現できるよう、起業時に必要な知識

やノウハウの不足を補う機会の提供や人的ネットワークの不足を補うサービス等の支

援の強化が必要と考える。近年、自治体を含め、様々なところでこうした支援がなさ

れるようになっているが、どのようなサービス、支援メニューがあるのか、また、ど

こに行けばそれらのサービスや支援を受けることができるのかについての情報の集約

と提供体制も重要であろう。


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