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別紙
今後のパートタイム労働対策の方向について(報告)
パートタイム労働者は近年著しく増加し、平成13年には1,200万人を超え、
雇用者総数に占める短時間雇用者の割合は2割強となっている。このようにパートタ
イム労働が我が国の経済社会に欠くことのできないものとなる中で、パートタイム労
働を労働者の能力が有効に発揮できるような就業形態としていくことが一層重要とな
っている。
パートタイム労働者の増加の背景には、柔軟で多様な働き方を求める需給両面のニ
ーズがあり、少子高齢化の進展の中で、パートタイム労働等の働き方が拡大していく
のは不可逆的な流れといえる。ただ、こうした動きが進行している背景には企業の経
営環境の厳しさによる影響もあり、コスト要因でパートタイム労働者を雇用する企業
の割合は増加し、通常の労働者が減少する中で、通常の労働者が行っていた役割の一
部をパートタイム労働者が担うなど基幹的役割を果たすパートタイム労働者も増加し
ている。一方で、パートタイム労働者の平均所定内給与を通常の労働者と比較すると、
職種による違いがみられるものの、マクロの数字でみて職種や勤続年数を調整しても、
なお格差が残っており、その拡大傾向がみられる。
このような中で、通常の労働者とパートタイム労働者の処遇の違いについて、個別
企業において合理的な説明が困難な事例もみられ、通常の労働者と同じ仕事をしてい
るパートタイム労働者等について、処遇の改善の必要性を認識する事業所も約半数を
占めるとの調査結果もある。また、中長期的にみて多様な働き方が労働市場全体の著
しい不均衡をもたらすことのないよう、労使双方にとって「望ましい」形で広まって
いくことが重要である。そのための環境整備の観点からも、通常の労働者とパートタ
イム労働者との間の「働きに応じた公正な処遇」の実現に向けた取組が重要になって
きている。
このような考え方に基づき、労働政策審議会雇用均等分科会においては、通常の労
働者とパートタイム労働者との間の公正な処遇問題を中心に、今後のパートタイム労
働対策の方向について、平成14年9月17日から検討を行ってきたところである。
その検討結果は、下記のとおりであるので報告する。
この報告を受けて、厚生労働省において、必要な対策を講ずることが望まれる。
記
1 通常の労働者とパートタイム労働者との間の公正な処遇を実現するための方策に
ついて
平成5年に制定された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下
「パートタイム労働法」という。)は、事業主による雇用管理の自主的な改善を基
本的枠組みとしており、これに基づき「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理
の改善等のための措置に関する指針」(以下「指針」という。)が定められている
とともに、各種の施策の拡充・整備が行われてきた。例えば、平成10年の労働基
準法の一部改正による労働条件の明示に関する規定の改正や、平成12年の雇用保
険法の一部改正に伴う短時間労働者の適用基準の年収要件の廃止など、事業主に対
する雇用管理の改善を促すための基盤整備の意味を有するものも含まれている。
また、パートタイム労働法第3条第1項において、「事業主は、その雇用する短
時間労働者について、その就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して、適正
な労働条件の確保及び教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改を図
るために必要な措置を講ずることにより、当該短時間労働者がその有する能力を有
効に発揮することができるように努めるものとする。」とされている。この規定に
関し、行政は労使の取組を支援するため、平成10年2月の女性少年問題審議会の
建議を踏まえ、平成12年4月以降、労使がどのように「通常の労働者との均衡」
を考慮するかについての指標(モノサシ)や労使が取り組む際の参考になると思わ
れる事例について、情報提供を行ってきたところである。しかしながら、このモノ
サシは、十分浸透するに至っていない。このようなこともあり、これらの施策のも
とでも、パートタイム労働者と通常の労働者とを比べた処遇格差の中には合理的説
明が困難な事例が依然として存在し、雇用管理の改善は、必ずしも十分な状況には
ない。
一方、「働きに応じた公正な処遇」を実現するためには、パートタイム労働者の
処遇改善だけを切り離して考えるのではなく、通常の労働者も含めた総合的な働き
方や処遇のあり方も含めた見直しが課題である。これには、社会的機運の醸成が重
要であるとともに、個々の企業において、労使で議論を重ね共通の理解を得て、従
来の雇用慣行や制度の見直しに取り組むことが必要である。このような観点からも、
昨年12月の「多様な働き方とワークシェアリングに関する政労使合意」の中で、
短時間正社員に関する取組等が合意されたところである。
このようなことを踏まえると、パートタイム労働者の雇用管理の改善は、雇用シ
ステムの変化やさらには関連する法令の整備も含む社会制度の改革等とともに図ら
れていくものである。その中で、通常の労働者とパートタイム労働者との間の公正
な処遇を実現していくための社会的ルールが考えられるべきものであり、現状を考
えると、労使を含めた国民的合意形成を図りながら、段階を踏まえつつ、そのあり
方を改善していくことが求められる。
したがって、パートタイム労働法をはじめ、労働関係・社会保障関係法制の整備
が行われてきていることなども踏まえつつ、今後とも必要な法的整備が着実に行わ
れてゆくべきであるが、当面は、通常の労働者との均衡を考慮した処遇の考え方を
指針に示すことによって、その考え方の社会的な浸透・定着を図っていくことが必
要である。
(1)通常の労働者とパートタイム労働者との間の公正な処遇を実現するための
労使の取組の推進
通常の労働者かパートタイム労働者かに関わらず、「働きに応じた公正
な処遇」を実現していくためには、企業内における労使の取組が重要であ
る。このため、企業の雇用管理において、労使の自主的取組を促進する次
の措置を講ずることを指針に新たに規定することが必要である。
イ パートタイム労働者から、本人に係る処遇について説明を求められた
ときは、求めに応じ説明。
ロ 通常の労働者との均衡を考慮して、処遇を決定したり、雇用管理の改
善を行うに当たり、パートタイム労働者の意見を聴くため、関係労使の
話し合いその他の適当な方法を工夫。
ハ 通常の労働者との均衡に関し、パートタイム労働者から苦情の申出を
受けたときは、当該事業所における苦情処理の仕組みを活用する等自主
的な解決。
(2)職務の内容、意欲、能力、経験、成果等に応じて処遇するための措置の実
施
パートタイム労働者について、職務の内容、意欲、能力、経験、成果等
に応じて処遇することは、「働きに応じた公正な処遇」という観点からも、
また、パートタイム労働者の能力発揮、意欲・モラールの向上の観点から
も重要であることから、指針に規定することが適当である。
(3)通常の労働者への転換に関する条件の整備
パートタイム労働者から通常の労働者への転換については、パートタイ
ム労働者の意欲を高め、能力発揮に資するものと考えられ、また、企業に
とっては有能な人材を確保する有効策になると考えられる。したがって、
事業所の実情に即し、通常の労働者への転換を希望し、その能力を有する
パートタイム労働者と企業のニーズが合致する場合に、通常の労働者へ転
換することが可能となるような制度の導入その他条件の整備を行うことを
指針に規定することが適当である。
(4)職務が通常の労働者と同じパートタイム労働者の取扱い
通常の労働者と同じ職務を行うパートタイム労働者の処遇については、
「働きに応じた公正な処遇」の観点に立って行うことが不可欠であり、以
下のイ、ロの考え方を指針に規定し、事業主が所要の措置を講ずるに当た
って考慮しなければならないようにすることが適当である。
イ 異動の幅、頻度、役割の変化や育成のあり方その他の労働者の人材活
用の仕組みや運用等について、その事業所における通常の労働者との差
異が明らかでない同様の実態にあるといえるパートタイム労働者につい
ては、両者の処遇の決定方式を合わせる等をした上で意欲、能力、経験、
成果等に応じて処遇することにより、均衡を確保。(同一の処遇決定方
式)
ロ 労働者の人材活用の仕組みや運用等が通常の労働者とは異なるパート
タイム労働者については、意欲、能力、経験、成果等に応じて処遇する
ための措置等を講ずることにより、両者の間の均衡を考慮。(同一職務
均衡考慮方式)
職務が同じかどうか、労働者の人材活用の仕組みや運用等が同じかど
うか等については、職場の実態も考慮して判断するものであり、その際
に混乱をもたらさないよう十分な配慮が必要である。
なお、労働者の人材活用の仕組みや運用等の中には、育児・介護など
の家族的責任を考慮した運用が含まれることが望まれる。
(5)その他
通常の労働者とパートタイム労働者との間の公正な処遇を実現するため
には、各企業において、その実情を踏まえつつ、通常の労働者の働き方も
含めた雇用管理の改善等に向けて労使が自主的に取り組んでいくようにす
る必要がある。このため、国としては、通常の労働者とパートタイム労働
者との間の公正な処遇の実現に向けた取組に関する企業の好事例に関して
情報収集を行い、労使団体等に情報提供をし、通常の労働者とパートタイ
ム労働者との間の公正な処遇を実現するための環境整備が求められる。
2 関係行政機関等の役割
都道府県労働局では、法定労働条件の履行確保を図ることはもとより、健全なパ
ートタイム就労の促進を図るべく、パートタイム労働法及び指針に基づき、事業所
に対して、受入体制の改善、職場環境の整備等を進めるとともに、パートバンク、
パートサテライト等による的確な労働力需給調整、地域の労働市場のきめ細かな情
報提供等地域の労働市場の機能を高めることが重要である。また、企業におけるパ
ートタイム労働者の雇用管理改善を積極的に推進していくようパートタイム労働法
及び指針の一層の周知徹底を図ることが必要である。
都道府県等では、パートタイム就労の機会を増やし、労働市場への参入を容易に
するため、公共職業能力開発施設では、パートタイム就労を希望する労働者に対し
て、短期の職業訓練を実施しているところであり、訓練期間・時間等に配慮した職
業訓練を実施することが重要である。
短時間労働援助センターにおいては、パートタイム労働法に基づき、各種の情報
提供、相談援助を実施しているところである。上記「1」を踏まえつつ積極的にパ
ートタイム労働者の処遇の改善に取り組む企業に対し、好事例の情報提供等のアド
バイスを行う等、同センターの一層の活用が図られるべきである。あわせて、パー
トタイム労働者の雇用管理改善に関する企業の取組を促すためには、事業主団体等
の民間機関との連携も積極的に図られるべきである。
これらの対応に加え、相談者への行政サービスの観点から、パートタイム労働法
及び指針を施行する都道府県労働局、労働基準監督署、公共職業安定所等の担当業
務について周知徹底を図ることが重要である。また、短時間労働援助センターを含
む関係諸機関においては、企業における関係労使が通常の労働者も含めた処遇のあ
り方について全体的な見直しを十分に行うことも重要であることに配慮しつつ、連
携の強化を図ることにより、パートタイム労働法及び指針のより効果的な施行に努
める必要がある。
なお、個々のパートタイム労働者と事業主との間の紛争でパートタイム労働法及
び指針の指導等の対象とはならないものについて、紛争当事者から都道府県労働局
に申請がなされた場合には、紛争調整委員会におけるあっせん制度によって、その
迅速かつ適正な解決を図ることが重要である。
3 その他の雇用管理改善に係る事項等
(1)所定労働時間及び就業の実態が通常の労働者とほとんど同じであるにもかか
わらず、処遇又は労働条件等について通常の労働者と区別して取り扱われて
いるパートタイム労働者については、パートタイム労働法及び指針に基づき、
通常の労働者としてふさわしい処遇をするように努めるものとすることに留
意すべきものである。
(2)また、有期労働契約の果たす役割など有期労働契約のあり方については、
「今後の労働条件に係る制度の在り方について(労働政策審議会建議)(平
成14年12月26日)」中、記I2(3)に沿って、今後引き続き検討し
ていくことが期待される。
4 パートタイム労働の就業に影響を及ぼしている税、社会保険制度
パートタイム労働者の中には、収入が一定額を超えないように自ら就業を調整す
る者が見られるところであるが、事業主から就業調整を促されている場合もある。
このような就業調整行動は、パートタイム労働者の能力向上意欲にもマイナスとな
り、パートタイム労働者の賃金水準の改善が進まない構造となっている。
また、多様なライフスタイルが選択できるような社会制度や慣行が望まれている
ため、税制及び年金保険、医療保険などの社会保障制度に関し、就業調整が起こり
にくい、働き方に中立的な制度への見直しに向けた検討が求められる。男女共同参
画社会基本法第4条においても「男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影
響をできる限り中立なものとなるように配慮されなければならない」とされており、
このような観点からの検討にもなるものである。
今後の税制の見直しに当たっては、就業調整との関連も考慮しつつ、公正・活
力・簡素の原則を踏まえることが求められているところである。なお、就業調整を
しているパートタイム労働者の中には、課税されること自体に抵抗感を持っている
層も多いが、現行の税制に対する誤解から就業調整を行っていると考えられる者も
おり、手取りの逆転現象が解消されている現在の税制についての理解を促していく
ことが重要である。
年金保険及び医療保険の見直しについては、平成16年の年金改革に向けて、
「年金改革の骨格に関する方向性と論点」(平成14年12月)において、多様な
働き方への対応の観点から、短時間労働者等に対し厚生年金の適用を行う方向で検
討を進めるとともに、医療保険における取扱いについても検討を進めるとされたと
ころであり、国民的な議論の下に検討が行われることが期待される。
一部の使用者委員から、パートタイム労働者への適用拡大については、付随する
多くの検討課題も含め幅広い観点から議論すべきであり、特に煩雑な企業の事務手
続きも含め雇用コストの増大などが、重い負担になることを懸念するとの意見があ
った。
5 その他
パートタイム労働者の処遇改善に当たっては、既に述べたとおり、通常の労働者
も含めた総合的な働き方や処遇のあり方について、労使での議論が積み重ねられて
いくべきものである。したがって、今後のパートタイム労働対策をさらに効果的に
推進していくためには、企業の雇用管理、労使の取組、パートタイム労働者の就労
状況等、改正指針の社会的な浸透状況を含めた実態把握を指針改正の一定期間経過
後行うことが必要である。これらの状況を踏まえ、社会的制度等の影響も考慮しつ
つ問題点の分析を行い、パートタイム労働対策として求められる施策について、幅
広い検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずることが重要である。
なお、使用者委員から、上記の検討に当たっては、企業における雇用管理のあり
方については、企業労使が自主的に取り組むことが原則であり、企業活動に対する
諸規制の過度な強化とならぬようにすることが重要であるとの意見があった。
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