申告事件の概要の要約
1 統計から見た申告事件
【2万1千件と過去10年で最高の件数】
新規に受理した申告事件の件数は、景気低迷の影響等もあり最近6年連続して増加しており、平成8年には21,494件となってこの10年間で最も多くなった。
【申告事件の対象業種】
申告の対象となった業種は、建設業、商業、製造業に多いが、近年の成長産業であるソフトウェア業を含む教育研究業や労働者派遣業などの増加が著しい。
【監督を実施した約7割に違反】
申告事件については、その約4分の3について監督を実施し、そのうち約7割に法令違反を認めている。
【申告事件の内容】
申告の内容としては、賃金不払関係が全体の約4分の3となっている。
2 具体的事例から見た申告事件
具体的な申告事件の内容をみると、前近代的労働関係の典型的な権利侵害である強制労働や中間搾取などの事件はほとんどみられなくなっているが、遵法意識の低い使用者による賃金の不払や時間外労働等に対する割増賃金の不払、最低賃金に関する違反、年少者に係る深夜労働、事業場の安全意識が希薄なことによる無資格者による危険作業の実施など、旧態依然とした事案が絶えない。
そのほか、最近の特徴的傾向としては、いわゆるサービス残業に係る事案、外国人労働者に関する事案、労働者派遣のような近年の成長産業に係る事案やパートタイム労働者に関する事案などが見受けられ、社会経済の進展に伴い変化してきた就労を取り巻く状況のなかで、労働基準法等の関係法令による保護の必要な労働者が、新たな分野でも多くみられるようになってきている。
このような申告事件に対し、労働基準監督官が粘り強い説得と指導を行い、解決に努めた具体的事例を20例紹介している。
そのうちのいくつかの事例の概要は、以下のとおりである。
- 障害者の弱みにつけ込んで、賃金の支払を怠っていたリース会社を労働基
準法違反で書類送検した事例
- 不景気だからとの理由で予告もなく突然パチンコ店を解雇され、生活に困っている労働者について事業主を指導して解雇予告手当の支払を行わせた事例
- 1か月20時間を超える残業については、いわゆるサービス残業として時間外手当を支払っていなかった機械器具製造会社に対し、未払の時間外手当を支払わせた事例
- 不法残留で強制送還されることをいいことに賃金を踏み倒そうとしていた土木工事業者に対し、送還前に賃金を支払わせた事例
- 派遣労働者が勝手に派遣先で残業をしたという理由で時間外手当を支払わない派遣会社に対し、未払の時間外手当を支払わせた事例
- パートタイム労働者には最低賃金が適用されないとして最低賃金を支払っていなかった生花販売会社に対し、最低賃金との差額を支払わせた事例
- 18歳未満の年少者を深夜3時頃まで働かせていたハンバーガーショップに対し、年少者の深夜労働を行わせないよう改善させた事例
- クレーンの無資格運転を隠すため、クレーンの吊り上げ能力を低く虚偽表示していた建設会社に対し、クレーンの運転資格をとらせるなど安全管理を徹底させた事例
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