4.労働災害防止を推進する上での課題 労働災害防止を推進する上での主要な課題は、次のとおりである。 (3) 転換期の産業社会における安全衛生面の課題 我が国産業社会は大きな転換期にあり、今後の労働安全衛生の展望を考える上 で、次の社会経済的要因が労働安全衛生問題に重大な影響を与えることが予想さ れる。 ア 高年齢労働者や女性労働者の増加 少子化・高齢化の進行が著しい中、労働力人口の高齢化も着実に進行し、今 後、高年齢労働者の占める割合が大きく増加することが予想される。このよう な中で、既存の施設設備や作業方法が高年齢労働者にとって適切でない場合も あり、その結果、労働災害の増加が懸念される。 また、雇用の場における男女の均等な取扱いの進展により、女性の就業比率 が増加していくとともに、従来女性があまり就かなかった分野も含め様々な職 場に女性労働者の進出が拡大している。 このような状況を踏まえ、高年齢労働者、女性労働者を含めすべての労働者 にとって安全で健康に働ける職場をどのように実現していくかが大きな課題と なっている。 イ 就業形態の多様化、雇用の流動化等 近年、派遣労働、パートタイム労働、アルバイト等の非正規労働者の比率は、 全産業、全企業規模で共通して増加し、平成13年には全労働者の4分の1以上 に達しており、就業形態の多様化が進んでいる。さらに、情報通信システムの 発達は、テレワーク等の新しい就業形態を実現しつつある。さらに、製造業の ライン作業における構内下請けの増加等外注化、分社化などのいわゆるアウト ソーシングが進んでいる。 このような就業形態の多様化とともに、短期間の契約労働者やリストラクチ ャリングに伴う早期退職者の増加等雇用の流動化も急速に進行してきており、 これらの労働者が全就業期間を通じて長期雇用の正規労働者と同等の安全と健 康を如何に確保していくかが課題となってきている。 また、分社化等の企業形態の変化に対応した効果的でかつ効率的な安全衛生 管理体制の在り方等が課題となっている。 ウ 規制改革への対応 規制改革は、透明性が高く、公正で信頼できる経済社会の実現、多様な選択 肢の確保された国民生活の実現、国際的に開かれた経済社会の実現等を目指し て推進されているが、規制の見直しに当たっては、国民の安全を確保する観点 から、企業における自己責任体制の確立、情報公開等の徹底、社会的に必要な 規制の実効性の確保等が求められている。 労働安全衛生関係法令は、労働者の安全と健康の確保を目的とした安全衛生 に関する規制であり、その実効性を確保する観点から、最低基準である労働災 害防止措置の履行確保に加えて、事業者による自主的なリスク低減の取組を評 価する仕組みを組み込むことについても配慮する必要がある。 エ 経済のグローバル化への対応 経済のグローバル化に伴い、物や人が従来にも増して国境を超え頻繁に行き 来するようになってきており、労働安全衛生の観点からも適切な対応が求めら れている。 物の交流については、安全衛生水準の確保に留意しつつ、WTO/TBT協定(貿 易の技術的障害に関する協定)の趣旨を踏まえ、国際規格・基準との整合性の 確保、認証の相互承認を進める必要がある。 人の交流については、海外赴任者の安全対策を推進すること、我が国で働く 外国人労働者がコミュニケーション・ギャップにより安全と健康の確保に支障 を生ずることのないようにすること、また、我が国の安全衛生分野のノウハウ、 経験等を開発途上国等へ移転することが求められている。 オ 安全衛生に関する人材の確保と必要な経費の確保 経済情勢が厳しく、市場競争の激化、コスト削減が進められる中で、安全衛 生管理部門の縮小、安全衛生教育の手控え等、安全衛生管理活動の減退、関係 者の安全衛生に対する意識の低下が懸念されるが、労働者の安全と健康を守る ことを企業における最優先事項の一つとして、経営の効率化を図りつつも安全 衛生管理活動に必要な人材と経費を確保することが重要である。