4.労働災害防止を推進する上での課題 労働災害防止を推進する上での主要な課題は、次のとおりである。 (2) 労働者の健康確保をめぐる課題 ア 職業性疾病の発生状況等 じん肺の新規有所見者は減少傾向にあるものの、アーク溶接作業を始めとし た粉じん作業により今なお年間250人近く発生している。 腰痛等の筋骨格系疾患は、年間5,000人近く発症し、職業性疾病全体の6割 以上を占めている。また、IT化に伴い、職場へのパソコン等のVDT機器の普 及が著しいが、適切な管理が行われないと、眼疲労や筋骨格系等への健康影響 が懸念される。 騒音障害及び振動障害については、建設業を中心として労災認定者数が、そ れぞれ年間500人、700人を上回っている。また、騒音障害に関連する健康診断 項目については、その有所見率も高い。 電離放射線障害については、核燃料加工施設において臨界事故が発生したこ ともあり、その社会的関心は高まっている。 熱中症については、過去10年間で145人の労働者が死亡している。 イ 化学物質による健康障害の発生状況等 現在、我が国の産業界で使われている化学物質は、約55,000種類を数え、毎 年新たに500以上の化学物質が労働の現場に導入されている。また、化学物質 の有害性も、発がん性、生殖毒性、神経毒性等、多岐にわたっており、新たな 知見により有毒性が明らかになるものもある。 さらに、製品寿命の短縮、多品種少量生産等が進む中、化学物質が取り扱わ れる職場環境、作業形態等は、固定的でなく変化している状況にある。 このような状況で化学物質による職業性疾病が年間300件程度引き続き発生 している。有機溶剤、一酸化炭素による中毒及び酸素欠乏症等も依然として後 を絶たないほか、様々な化学物質による健康障害が発生している。石綿による 肺がん及び中皮腫等の職業がんの労災認定件数も増加する傾向にある。また、 一部の職場において、化学物質に係る作業環境は依然として改善が必要な状況 にある。 さらに、廃棄物焼却施設におけるダイオキシン類、いわゆる「シックハウス 症候群」に関連した微量の化学物質による健康リスクなど、化学物質による健 康問題に対する社会的な関心が高まっている。 PCB廃棄物の無害化処理、化学物質に汚染した土壌の処理作業等、従来の 化学物質の製造、取扱い作業とは異なる作業において、有害化学物質にばく露 し健康障害が生じることも懸念されている。 また、国際機関等において、化学物質の危険有害性の分類、表示等について 様々な取組がなされており、これらの国際動向を踏まえた化学物質の管理も必 要である。 ウ 過重労働による健康障害、職場のストレスによる健康障害等の作業関連 疾患の発生状況等 一般健康診断結果によれば、有所見率は年々増加し、平成13年では約46%に も達しており、その中で脳血管疾患や虚血性心疾患等につながる高脂血症、高 血圧症等に関連する所見を有する者が大きな割合を占めている。 高脂血症、高血圧症等の基礎疾患を有した労働者に業務による明らかな過重 負荷が加わることによって、脳血管疾患や虚血性心疾患等の疾病が誘発される ことがあり、平成13年度の労災認定件数は140件を超えている。 また、職場生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者の割合が増 加し続け、63%にも上っており、さらに、業務による心理的負荷を原因として 精神障害を発症し、あるいは自殺に至る事案が近年急増する傾向にあり、平成 13年度の労災認定件数は70件に上っている。 エ 快適な職場環境を推進する必要性 作業場所が快適であるとした労働者の割合は約31%にとどまる一方、快適な 職場環境のために改善を希望する労働者の割合は約86%となっている。このう ち、今後改善を希望する項目として「機械等のレイアウトや作業空間の適正 化」、「休憩時間の快適化」、「作業の性質に関わりなく生じる劣悪環境の改 善」が比較的高い割合を占めている。 快適職場づくりを進める上での事業場側の問題点としては、資金及び改善の ための技術的ノウハウ等の不足を挙げるものが多い。 さらに、職場での喫煙対策を望む人の割合は、約77%に達している。