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3 がん及びその他の毒性影響に関する最近の知見
要旨
1999年以降に発表された、ダイオキシン類の低用量域における毒性影響に関する文
献をまとめた。
低用量域のTCDD(0, 0.01, 0.1, 1.0, 10 ng/kg/day に相当、腹腔内投与)のラッ
ト肝プロモーション作用を、DENをイニシエーターとした肝2段階発がん試験法を用
いて検討した結果、肝比重量はDEN処置の有無に関わらず1.0 ng/kg以上群で有意に増
加し、glutathione S-transferase placental form (GST-P) 陽性変異細胞巣の数及
び容積は、10 ng/kg群で有意に増加した。胎児期に低用量TCDD(0, 12.5, 50, 200,
800 ng/kg体重、1回強制経口投与)を暴露されたラットの免疫関連臓器への影響につ
いて検討した結果、脾細胞の数は生後49日の12.5 ng/kg以上群で用量相関性に減少し、
800 ng/kgでは有意差が認められた。また、胎児及び授乳期にPCB(0, 25 pg, 2.5 ng,
250 ng及び7.5 mg/kg、1日1回強制経口投与)を暴露された児動物の乳腺発癌に対
する影響を検討した結果では、腫瘍の発生頻度と平均発生個数は、2.5及び250 ng群
で増加したが(有意差はなし)、逆に7.5 mg群では有意に減少した。したがって、PCB
の胎児期及び授乳期暴露は児動物のDMBA乳腺発癌に対し低用量では促進的に作用し、
高用量では抑制することが示唆された。
本論
Teeguarden ら(1999)は、TCDDの低用量域におけるラット肝プロモーション作用の
用量相関性と経時変化を肝二段階発がん試験法を用いて検討した。実験は雌SDラット
(150〜200 g)に部分肝切除を行い、その24時間後N-diethylnitrosamine (DEN, 10
mg/kg bw; non-necrogenic, subcarcinogenic dose)を1回強制経口投与した。DEN投
与1週後から 0, 0.00014, 0.0014, 0.014 あるいは 0.14 mg/kg体重のTCDD(純度99
%以上)(0, 0.01, 0.1, 1.0, 10 ng/kg/day に相当)を2週間に1回、1, 3あるいは
6カ月間腹腔内投与した。DENを投与しない群も同様に設定した。なお、屠殺1週間前
に肝細胞の細胞増殖性を検討する目的でbromodeoxyuridine (BrdU)を充填した浸透圧
ポンプを皮下に埋植した。実験期間中各群の体重に有意な差は認められなかった。肝
比重量はDEN処置の有無に関わらず1.0 ng/kg以上のTCDDを1カ月投与した群で有意に
増加したが、3及び6カ月では増加傾向のみであった。BrdUによる非増殖性病変にお
ける細胞増殖率は、DEN非処置群の間では0.1 ng/kg群が最も低くU字形の用量曲線で
あった(対照群との間で有意差はなし)。DEN処置群でも同様の用量曲線がみられ、
1カ月投与の0.1, 1.0 ng/kg群及び3カ月投与の0.1 ng群で対照より有意に低値を示し
た。しかし6カ月投与では差は認められなかった。肝の前がん病変であるglutathine
S-transferase placental form (GST-P) 陽性変異細胞巣の数及び容積は、1, 3, 6カ
月投与の10 ng/kg群で有意に増加し、0.1 ng/kg以上群でも増加傾向を示した。また、
adenosine triphosphatase (ATPase) 陰性及びglutathione 6-phosphatase (G6Pase)
陰性の変異細胞巣の数は、1カ月投与のすべての群で有意に増加したが、6カ月では
1.0及び10.0 ng/kg群のATPase陽性細胞巣のみが増加していた。DEN非処置群での変異
細胞巣の数は0.1 ng/kg群が最も少なくU字形を呈していたが、標準誤差が大きく投与
の影響とは断定できなかった。
Noharaら(2000)は胎児期に低用量TCDDを暴露されたラットの免疫関連臓器への影響
について検討した。実験には妊娠15日の母動物(Holtzmanラット)を用い、0, 12.5,
50, 200, 800 ng/kg体重のTCDDを1回強制経口投与し、児動物(雄)を生後5, 21, 49,
120日に剖検した。児動物の体重、胸腺及び脾重量は実験期間中対照群と差はなかっ
た。生後5日の胸腺において用量相関性のCYP1A1 mRNAの誘導が50 ng/kg以上群で認め
られた(有意差は不明)が、誘導は経時的に減少した。一方、脾臓ではCYP1A1の誘導
は非常に弱かった。胸腺細胞の数及びCD4とCD8を指標とした胸腺細胞のpopulationは、
いずれの時期においても投与による影響は見られなかった。しかし、脾細胞の数は生
後49日の12.5 ng/kg以上群で用量相関性に減少し、800 ng/kgでは有意差が認められ
た。生後21及び120日では脾細胞の数及びpopulationに変化は見られなかった。生後
49日の800 ng/kg投与群で脾臓の各種サイトカイン(IL-1b, IL-1a, IL6, TGF-b,
GM-CSF m-RNA)の発現を測定したが、投与による変化は認められなかった。なお、同
群の脾臓におけるTCDDの濃度は22.4 pg/g tissueであった。以上より、周産期低用量
TCDD暴露はAhレセプター非依存性に児動物の免疫臓器に影響を与えることが示唆され
た。
Mutoら(2001)は胎児及び授乳期におけるPCB暴露の、児動物の乳腺発癌に対する影
響を検討した。実験には雌のSDラットを用い、0, 25 pg, 2.5 ng, 250 ng及び
7.5 mg/kgの3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (PCB126)を妊娠13から19日まで強制
経口投与し、生後50日経過した雌の児動物に20mgの7,12-dimethylbenz(a)anthracene
(DMBA)を単回強制経口投与した。生後50日の肝におけるPCB濃度はそれぞれ対照の約
1.2, 2.4, 21, 530倍であり、肝のCYP1A1発現の増加は2.5 ng以上群で認められた。
実験は170日あるいは腫瘍径が2 cmに達した時に終了した。体重は21日の250 ng/kg以
上群で有意に減少したが、50日には回復した。30及び50日の肝、子宮重量に差は見ら
れなかった。乳腺腫瘍の発生頻度と平均発生個数は、2.5及び250 ng群で増加したが
(有意差はなし)、逆に7.5 mg群では有意に減少した。以上の結果から、PCBの子宮
内及び授乳期暴露は児動物のDMBA乳腺発癌に対し低用量では促進的に作用し、高用量
では抑制することが示唆された。
IARCにおけるTCDDの評価は、ヒトに対する発癌性がlimited evidence、動物では
sufficient evidenceであることから、Group 1とされている。なお、他の
polychlorinated dibenzo-para-dioxins、dibenzo-para-dioxin、polychlorinated
dibenzofuransはgroup 3に分類されている(IARC, 1997)。また、EPAでは動物及び
ヒトに関するデータの「weight of evidence」に基づき、TCDDをhuman carcinogen、
その他のダイオキシン類をlikely human carcinogen と判断している。
参照文献
IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, (1997)
vol 69,polychlorinated dibenzo-para-dioxins and polychlorinated
dibenzofurans. pp. 34-343.
Muto, T., Wakui, S., Imano, N., Nakaaki, K., Hano, H., Furusato, M., Masaoka,
T. (2001)In-utero and lactational exposure of
3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl modulate
dimethylbenzanthracene-induced rat mammary carcinogenesis. J.
Toxicol. Pathol., 14,213-224, 2001.
Nohara, K., Fujimaki, H., Tsukumo, S., Ushio, H., Miyabara, Y., Kijima, M.,
Tohyama, C.,Yonemoto, J. (2000) The effects of perinatal exposure to
low doses of2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin on immune organs in
rats. Toxicology, 154, 123-133.
Teeguarden, J.G., Gragan, Y.P., Singh, J., Vaughan, J,, Xu, Y.-H.,
Goldsworthy, T., Pitot,H.C. (1999) Quantitative analysis of dose- and
time-dependent promotion of four phenotypesof altered hepatic foci
by 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin in female Sprague-Dawleyrats.
Toxicol. Sci. 51, 211-223.
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