タイトル:雇用慣行の変化への対応と雇用維持支援のバランスが重要 

     「平成11年版労働白書(骨子)」

発  表:平成11年7月2日(金)

担  当:労働省大臣官房政策調査部

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          03-3502-6727(夜間直通)






 我が国の雇用・失業情勢は、これまでにない厳しい状況を迎えている。こうした動

きは、我が国経済全体の景気の低迷によるところが大きいが、それだけではなく、

1990年代に入ってバブルが崩壊した後、労働市場が中長期的・構造的に変化している

ことの反映でもあると考えられる。

 すなわち、完全失業率はバブル期にいったん低下した後、1990年代にじりじりと上

昇を続けており、上昇のスピードは1970年代、1980年代と比較してもかなり速い。

この背景としては、サービス化、高齢化などの労働力需給両面の構造変化が急速に進

んだことが挙げられる。また、こうした構造変化の下で、雇用の安定をるため、新た

な雇用の創出が必要とされている。

 したがって、今後の雇用・失業情勢を展望し、雇用政策の在り方を検討するために

は、労働市場の中長期的・構造的変化を分析するとともに、雇用創出の状況について

把握することが重要である。そこで、「平成11年版労働経済の分析」(平成11年版労

働白書)では、第I部で平成10年を中心に労働経済の動向を分析し、第II部では急速に

変化する労働市場と新たな雇用の創出を扱った。




第I部 平成10年労働経済の推移と特徴





 第1章 雇用・失業の動向



 (1998年前半に労働力需給は急速に悪化)



  1998年(平成10年)の雇用・失業情勢の特徴は、年前半に求人の大幅な減少、求

 職者の大幅増加が続いたことから有効求人倍率が大きく低下した後、年後半には低

 下が緩んでいる。この結果、有効求人倍率は0.53倍と比較可能な1963年以降で最低

 の水準となった(第1図)。新規学卒労働市場においても、企業の採用意欲は一段

 と減退している。こうした需給の悪化を受けて、完全失業率は2〜4月にかけて急

 上昇し、4月には初めて4%を超えた。5月以降も緩やかに上昇を続け、1999年3

 月には 4.8%となった(前掲第1図第9図)。非自発的離職失業者の増加ととも

 に、雇用需要の減少、採用の抑制に伴い再就職の困難度が増したことから失業期間

 は長期化した。また、雇用者数は、建設業、製造業で大幅減少となり、年平均で初

 めて前年を下回った(第7図)。さらに、需要不足失業率が急激に上昇したことに

 加え、構造的・摩擦的失業が増加を続けていることが、失業率の水準を押し上げた

 (第13図)。







 第2〜4章 賃金、労働時間等の動向



 (調査開始以来初めて減少した現金給与総額と引き続き減少した総実労働時間)



  所定内給与の低い伸び、所定外給与や特別給与の大幅な減少を受け、現金給与総

 額は調査開始以来初めて減少した(第14図)。労働時間は、所定内労働時間の減少

 に加え所定外労働時間が減少に転じたことから、総実労働時間は引き続き減少した

 (第15図)。勤労者家計をみると、実収入の現行の調査開始以来最大の減少に加え、

 雇用不安や所得環境の悪化、先行き不透明感の高まりを背景に、平均消費性向が大

 幅に低下したことから、消費支出は大幅に減少した(第17図)。









第II部 急速に変化する労働市場と新たな雇用の創出





 第1章 労働市場の実態



 (失業の実態と社会的コスト)



  若年層は自発的離職失業の増加等により失業率が高い。45〜59歳の中年層や世帯

 主の失業率は低いが、再就職が困難であり失業期間が長期化しやすい。高年齢層は、

 雇用需要が不足しており、男性60〜64歳層の失業率は高水準となっている(第20図、

 第21図)。製造業、建設業からの離職者は離職期間が長くなる傾向がある。日米の

 失業率の逆転は景気動向の違いとアメリカの労働市場の効率性の改善による(第23図)。

 失業の増加は、生産、消費の減少、技能損失や心理的ショック等社会に様々な影響

 をもたらす(第26図)。失業世帯は配偶者の収入、資産の取り崩しで消費水準の低

 下を抑えている。





  (労働市場の構造的変化とその背景)



  失業は、景気動向で増減する需要不足失業と労働市場の構造で決まる構造的・摩

 擦的失業に分けられる。構造的・摩擦的失業率は中長期的な上昇がみられ、特に第

 1次石油危機後とバブル崩壊後に大きく上昇しているが(第27図)、バブル崩壊後

 の大幅上昇の背景には、産業間や年齢間のミスマッチの拡大(第28図第29図)、

 就業形態の多様化の進展等がある(第31図)。ミスマッチと関連の強い失業継続期

 間は第1次石油危機後とバブル崩壊後に上昇し、摩擦的失業と関連の強い失業頻度

 はバブル期以外は上昇傾向にある(第32図)。なお、女性の就業意欲の高まりを背

 景に、女性の労働力率の需給感応度が低下し、失業率が需給に感応的になっている

 (第33図)。





 (経済変動と雇用)



  今回の雇用者数の大幅減は建設業、製造業の減少によるが(第34図)、製造業の

 大幅減はバブルの精算終了前に再び生産が減少し、労働生産性が低下したためであ

 る(第36図)。先行き不透明感の高まり等から、雇用過剰感はかつてなく高まって

 おり(第37図)、バブル崩壊後、生産や企業収益の変動に対する企業の雇用調整行

 動はやや速まっている(第38図第39図)。企業の雇用量調整は、入職抑制中心で

 あるが(第40図)、今後の産業構造調整の中で、この方法が困難となる可能性があ

 る(第41図)。











 第2章 雇用創出の状況



 (雇用構造の変化)



  第3次産業では、バブル崩壊後も雇用者数は増加を続けており、特に情報分野、

 対事業所サービス、医療・福祉分野、余暇関連分野などのサービス業、スーパーや

 コンビニエンス・ストアなどの卸売・小売業,飲食店で雇用が創出されている(

 第42図)。規模別には、中堅規模の比率が緩やかに上昇しており(第43図)、今後

 も中堅規模の雇用創出が期待される。バブル期の雇用創出は大都市圏が中心だった

 が、バブル崩壊後は大都市圏の吸引力は低下した(第44図)。





  (雇用創出の実態)



  新設事業所の雇用創出は、新規企業と既存企業の事業拡大でほぼ同じとなってお

 り(第45図)、新規企業の4分の3は独立企業、4分の1は子会社の設立によるも

 のである。既存事業所の雇用の増減は、主に雇用創出率の変動によるが、事業所単

 位では一般労働者からパート労働者への代替は少ない(第46図)。企業の新規事業

 展開は、本業関連分野を中心に行われており、必要な労働力は内部調達によろうと

 しているが(第47図)、企業内に存在しない人材等を採り入れる姿勢も強めている。





 (雇用発展分野の特徴と課題)



  近年雇用の伸びが大きく、今後も雇用創出効果が高く見込まれる分野としては、

 「情報通信分野」、「医療・福祉分野」、「教育・余暇分野」及び「ビジネス支援分

 野」の4分野を取り上げることができるが、各分野とも、今後の課題としては、人

 材の確保とそのための労働条件整備、少子・高齢化が進む中での中高年齢層の活用、

 高度化・多様化するニーズや技術に対応した人材の育成等があげられる。(第48図、

 第49図第50図第51図第52図第53図第54図第55図第56図)





 



 第3章 雇用構造の転換



 (雇用構造の円滑な転換)



  就業構造は産業面、職業面ともに大きく変化しているが、これまでのところ転職

 の寄与は小さい(第57図第58図)。今後は、少子・高齢化が進むと、若年層の新

 規入職と高年齢層の退職のみでは十分な就業構造の変化が行われないため、転職が

 重要な役割を果たすことになる。職業能力開発については、OJTを中心としつつ

 も自己啓発の比重が高まっている(第61図)。





 (雇用政策の展開)



  雇用対策は、事後的施策から雇用維持やミスマッチ、雇用創出対策へと拡大し、

 労働市場におけるルールの整備と労働力需給調整機能の強化が図られ、職業能力開

 発もより重視されるようになってきた(第62図)。雇用保険の失業給付には、失業

 中の家計の下支え効果等がある(第63図)。公共職業訓練は、訓練内容が仕事への

 定着度等に影響を与えている(第64図)。近年は専門的・技術的・管理的職業従事

 者の公共職業安定所の利用も高まっている(第65図)。国際的にも雇用問題の解決

 が重要視される中で各国共同で取組が行われている。





 (雇用の構造変化と長期雇用慣行)



   長期雇用慣行には、学卒から定年まで1つの企業に勤めるという側面と、不況期

 にも安易に解雇を行わず、雇用維持に努めるという側面がある。また、社会的にも、

 企業、労働者双方にとっても、メリットとデメリットがある(第67表)。今後、雇

 用慣行は緩やかに変化すると考えられるが、企業、労働者とも現在でも支持が高く

 (第69図)、安易な雇用調整は企業に対する信頼の喪失を招き、人材確保に支障を

 きたすおそれがある。





  (今後の課題)



  緩やかな変化に対応して円滑な労働移動を支援するためには、エンプロイアビリ

 ティの向上、労働市場の整備、セイフティネットの整備、雇用の創出等が重要であ

 る。一方、雇用維持の支援も重要であり、特に、中年層の雇用不安の解消のために

 は、エンプロイアビリティの向上等だけでなく、これまで培ってきた能力をいかす

 方策が必要である。職業能力開発の課題としては、職業能力開発投資の確保・増強

 (第72図)、ニーズへの的確な対応、体系及び評価の整備、若年層の職業能力開発

 が重要である。









          まとめ



 我が国経済は第1次石油危機以来の激動の時代にあり、労働市場も大きく変化して

いる。こうした状況の中で、雇用の安定を図るために重要なことはバランスと多様性

の確保である。第1に、経済の構造調整と社会や生活の安定のバランスが重要である。

もちろん、構造調整による経済の活性化なしに社会や生活の安定はありえないが、そ

れが目的となって安定がなおざりになっては人々の生活が混乱するおそれがある。第

2は、活力と公平のバランスである。我が国経済の発展にとって企業家精神が重要で

あり、才能ある人が能力を発揮しそれに応じた報酬を得る機会を与えられることが求

められている。しかし、我が国の経済成長は多くの人がそれぞれの役割を真しに果た

すことによって支えられていることを無視すべきではない。第3に、短期的な視点と

長期的な視点のバランスも重要である。短期的な視点のみに重点がいって長期的な構

造調整を阻害してしまうことは適当ではないが、長期的な必要性のみを強調して現状

の厳しさを看過すべきでもない。逆に企業にとっては、短期的な収益の維持は重要で

あるが、併せて長期的な視点からの人材の育成や企業の成長に向けた取組が望まれる。

また、以上のようなバランスを確保する上でも、年齢、産業・職業、就業形態等によ

てっ様々な性格を持つ労働市場・雇用に対して、多様な状況に応じたきめ細かな対応

をとることが雇用の安定を図る上で重要である。











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